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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
二章 羽膳
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八十二話 覚悟

今この時点で既に敵対しており、これから戦うしかない相手の事情を知った所で

どうするんだ、という考え方もあるにはあるだろう。

でも俺は岩童の話を聞いて、知っておいて良かったと思った。


彼等も多分俺と変わらない。大事な人の望みを叶えたいと思って戦っていた訳だ。

逆徒に関しては……まだよく分かりはしないが、

人間を弟子にしてるという話も聞けた。

もしかしたら、本当に人間の為にこの反乱を起こしているのかもしれない。


……でも、そうだとしたらどうしてその守るべき人間を

使い捨ての武器みたいに扱っているのか。


(逆徒か……コイツは何を考えてるのかまるで分らねぇなぁ)


目的と手段に乖離がありすぎる。

更にその手段が齎す結果は凄惨の一言、誰も幸せになんかなりはしないのだ。

こんな事を好き好んでやる奴の気なんて知れるものかと俺は思う。


だけど……もしかしたら、この岩童と同じように、

一度話を聞いてみた方がいいのかもしれない。

そんな機会は訪れない気もするが……どうなんだろうか。







「しかしねぇ……話を聞くにさ、あなた達深い考えも無しに

 反乱に参加しちゃった訳ね」


春夜さんの口調は呆れ気味だ。


(……まあ確かに、いくら敬愛する『山嶽王』の為とはいえ、

 反乱に参加する際の決断が軽かった気はするなぁ)


事の深刻さ、本当に分かってるのかと俺ですら思うのだ。

だからと春夜さんに確認をしてみる。


「えっと……反乱に参加するとさ、

 鎮圧された後はやっぱり殺されたりするのか?」


「まず間違いなくね。『三大罪人』みたいに生かされる、

 なんてのはこのご時世まず無いと思っていい。

 それどころか、当人だけの処刑で済むとも考えにくい。

 一族郎党皆殺し、なんてのも当然有り得るわ」


春夜さんはそう断言する。


「だ、そうだけど……」


「……分かってる。俺達だってそれくらい当然分かってるよ。

 だからなぁ、ここに来る前に村の皆は散ってもらったんだ」


別に覚悟が無かった訳ではないと、弁明のように岩童は言う。

だが……その視線が遠鬼の顔を捕らえると、

申し訳なさそうに言葉を付け足した。


「だがなぁ……正直、俺は自分が殺されるなんてな、

 ついさっきまで全く思っちゃあいなかった。

 喧嘩なんて数え切れねぇぐらいした事があるけどな、

 『山嶽王』様以外にはな……負ける気がしてなかったんだ」


「だろうな、お前は弱くはない」


「……ありがとよ」


皮肉にも聞こえる遠鬼の言葉に、岩童は簡単に礼を言う。


(……遠鬼は皮肉を言うような男じゃないからな。

 喧嘩を売るにしろもっと率直に言うだろうし)


心根の真っ直ぐな所はこの二人、似ていたりするのか。

ちょっと親近感が沸く。


「……そう思うとなぁ、姉貴はともかく、俺には覚悟って奴が

 足りなかったんだろう。姉貴が俺を連れて行くのを

 ああも渋った理由が分かった気がするなぁ……」


命乞いまでしてしまった自分の醜態を思い返しているのだろうか。

死ぬ覚悟を持って戦っていた筈が、実際に死を目の当たりにして

ああも命を惜しんでしまったのは、恐らくはこの岩童自身にとっても

意外だったのだろう。

だからだろうか……岩童はばつが悪そうに左手で顎を掻いていた。


「その姉貴だが……何処にいる?」


その岩童の自嘲など気にも留めず、遠鬼は自分の知りたい事を聞く。


「それは……この近くに仮の寝床を建ててある。

 そこに『山嶽王』様と十人程度の人間と共に休んでいる」


言い淀みかけた岩童だが、全てを正直に話すと言ったその言葉に違わず、

林の向こう側を指差しながらそう言った。


「……人間?」


「ああ、そうだ。人間達の世話を任されている。

 それで……あの男の指示に沿ってだな、

 何人か襲撃の度に使う事になっている」


「使う……」


その言葉に俺はゾッとする。

俺の歪んだ表情を見て察したか、岩童は軽く首肯してからこう言った。


「想像の通りだ。『山嶽王』様の残り少ない命数を浪費する訳には

 いかないという事でな、あの男から使うようにと人間達を押し付けられた」


「……それじゃあ、一昨日の夜ここで起きたっていう襲撃は……」


そうだ、今の話の流れだと……その襲撃の主犯として浮かび上がるのは、

岩童の姉、石英という巨人族の女の可能性が高い。


「ああ、それは姉貴がやったんだ。俺は留守番でな、その場にはいなかった。

 だが勘違いはすんなよ、姉貴がしたくてした訳じゃねぇ。あの男の指示だよ。

 でもよぉ……」


「でも……何だよ?」


「俺が一人でやった方が良かったんじゃねぇかなぁと今は思ってんだよ。

 姉貴じゃなきゃやれねぇって話だから大人しく引っ込みはしたがな、

 それを今は後悔してんだ」


先程の話からも察する事が出来るが、この岩童、姉を強く慕っているようだ。

そういう所にも親近感を持ってしまい、先程まで殺されかけたというのに

まるで怒りを感じない。


「襲撃自体は成功したらしくてな、傷も作らず帰っては来たんだけど、

 その時の姉貴の狼狽えようといったらよぉ……。

 世話焼きだからな、使った人間達に情が湧いたんだろうさ。

 今日だってそうだ。襲撃場所の確認は二人でやる筈だったんだけどな、

 姉貴が塞ぎ込んじまったから俺一人で来たんだよ」


「……この場所の、確認?」


「そうだよ。役人達が調査に来るかもしれねぇって話でな。

 もし来たら何の情報も与えない為に殺せっていうあの男の指示だ。」


(……情報?)


だとしたら抜けている、としか言いようがない。

一昨日の襲撃、生存者がいたおかげで俺達は『山嶽王』の存在を知り、

昨日とて墓を作る過程で襲撃に関する十分な情報を得たのだ。


「えっと……だとしたらなんでお前、昨日はここにいなかったんだ?

 俺達が墓作っている間はずっと邪魔が入らなかったけど」


「……昨日!? お前達、昨日からここにいたのか!」


何となく、そのあまりに杜撰な計画に沸いた疑問を口に出せば、

岩童は予想以上に驚いていた。


「え!? あ、ああ……そうだけど」


「あの男は新坂から役人が来るとしても三日後からだろうと言っていた。

 だからなぁ、実は今日も念の為に見に来ただけだ。

 ……変だな、あの男の予想が間違う事もあるのか……」


嫌いだと言っておきながら、岩童は逆徒の予想については

かなりの信頼を置いているらしい。


「……あの男はな、姉貴よりも更に頭がいい。

 俺が聞いて答えられぬ事など何一つとして無かった。

 そしてあの男が立てた予想はな、

 俺が知る限りその通りに動かなかった事がねぇ」


そうまで言うのだから、実際にかなりの精度で当たるのだろう。

確かに言われてみれば、俺が延老さんを助けようとか言いださなければ

昨日も今日も、新坂からここに誰かが来る事はなかっただろう……。


(ん? つまりなんだ……逆徒は、俺と遠鬼がここにいる事を

 予想出来ていないのか。それで、その想定のまま企みを進めていると……)


そういう事になる。

思い返してみれば、俺の今までの行動なんて殆ど無軌道に近かった。

あんなものを読み切れる奴なんている訳がないだろうし、

勿論読めなかったとしても、子供一人の行動が大きな影響力を持つなんて

普通は有り得ない事だ。


(だけど……何故かその無軌道に、逆徒の企みに大きな影響を

 与えかねない程の力を持ったならず者が付き合っている……。

 なるほど、こんなのどれだけ頭が良くても予想は出来ないよなぁ)


「なぁ岩童。その……『偏愛逆徒』の奴はさ、

 遠鬼……『同族殺し』についてはなんて言ってたんだ?

 コイツだってそれなりに強い筈なんだけど、

 『山嶽王』に戦ってくれって言われなかったのか?」


一応確認をしてみる。

もし俺の予想が正しければ……。


「……それがな、『同族殺し』はもう西の方に行ってて

 今はこの国にいねぇって話だった。

 だからな、俺もちょいと不思議に思ったのよ。

 鬼人族がいたもんだからてっきり『楼京の守護者』かと思ったらな、

 そうじゃないとか言いやがった。

 で、聞いてみるとどうやら『同族殺し』だってんだからなぁ」


(……当たり、か)


逆徒がどうやってそこまで色んな情報を仕入れているのかは分からない。

だけど俺達はその情報網に引っかからぬままに、

ここ半月近くも野盗の根城でのんびりしていたんだ。

逆徒の視点から考えてみれば、遠鬼はとっくに西の方に

行ってしまっていると考えるしかなかったんだろう。


「……そういった逆徒の企み、お前はどこまで知ってるんだ?」


遠鬼は結論を急ぐようにそんな事を聞く。

逆徒の視点に立ってどうこう……なんて事まで考える気はないんだろう。

『山嶽王』と戦って、逆徒の企みを潰してから西へ行く。

多分そんな単純な思考で動いている。この直截さが偶に羨ましくもなる。


「姉貴はかなり深い所まで知ってるが、俺はここ数日の指示を受けただけだ。

 つまりよく分かっちゃいない」


「ならここ数日でいい。今逆徒は何処にいる?」


「……確か、『閃刃』を仲間にするとかでもう少し東の方に行った筈だ。

 そんな事が出来るかのかと俺も聞いたんだけどな、

 あの男は出来ると言ったよ。

 まあ、十人近く人間を連れて行ったからな。

 あれを使い切れば『閃刃』を仲間には出来なくても、

 殺す事なら出来るかもなぁ」


「……何だって!?」


知りたかった情報ではある。だからそれを聞けたのは喜ばしい。

だがそれは、最悪に位置する情報だった。


逆徒は守護を襲撃して組織的な行動を封じた後、

よりにもよって延老さんを標的に選んだ訳だ。

……ちょっと考え難くはあるが、延老さんに勝てるだけの手段が

もし本当に逆徒にあるのだとすれば、それは確かに有効な一手と思える。


「詳しい場所を教えろ! 何処だ!? 何処に逆徒は行ったんだ!?」


「な、何だよ急に……」


「いいから、さっさと、教えろ!」


急に声を荒らげた俺に戸惑いつつも、

岩童は言われるままに大まかな位置を俺達に教えてはくれた。


「遠鬼、今から急いで行ったとして、その場所には何時着くもんだ?」


「今から? だが、これから『山嶽王』の所に……」


「延老さんが先だろ!? そっちをどうにかしたら、

 後からゆっくり『山嶽王』と戦えばいいだろうが!」


「……そうか」


ちょっと残念そうにも見える遠鬼はこの際放っておいて、

視線を春夜さんの方に向ける。


「……今からだと、多分明日の昼ぐらいになると思う」


それだけで意図を汲んでくれる春夜さんは流石だと思う。


「よし、じゃあ今から出よう! 急いで!」


「え!? えっと……じゃあ、この岩童はどうするの?」


春夜さんの疑問は尤もだが、

こんな図体の怪我人を連れて歩くのはまず無理だ。


「帰ってもらうしかない。えっと……それなら岩童、

 次に会う時にはその姉さんも連れて来てくれよ!」


「え!? お、俺を逃がすのか!?」


「逃がすんじゃない。お互い用事があるから一時別れるだけだ。

 またすぐに会いに来る。その時にはお前の姉さんから、

 逆徒の企みの深い部分までを教えてもらうからな!」


「……お、おう」


「じゃあ月陽、遠鬼、春夜さん……行こう!

 延老さんを助けに行かないとだ!」


「……待て、界武」


「どうした遠鬼。延老さんに危険が迫ってるって知れた以上、

 もう悠長にしてる暇はねぇぞ!」


「この巨人族と再会する段取りはどうするんだ?」


「ん? ああ……そうか。っていうか、ちゃんと岩童って言ってやれよ」


確かにそうだ。段取りをつけていないと岩童の方も困るだろう。


今からここを発って、明日の昼に延老さんに会えたとしても、

戻って来れるのは早くて三日後ぐらいになるだろうか。


「岩童。お前……三日後ってまだここにいるのか?」


「分からん。その頃には次の指示が来ることになっているから、

 その内容次第だ」


「俺達がここに戻って来れるとしても多分三日後以降になる。

 となると……何か伝言を残す方法ってあるか?」


「……姉貴が読み書きが出来る」


「じゃあそれでいいや。俺達は早くて三日後、遅いともうちょっとかかるけど、

 それでもここに戻ってくるよ。その時にお前がいれば会いに来てくれ。

 もし他の場所に行くようなら……そうだな、あの墓の隅にでも

 伝言を残しておいてくれ。紙に書いて埋めるなり……

 なんかやり方はあるだろ?」


「そりゃあ……姉貴なら何か知ってると思うが……」


「じゃあそれで、頼む」


「……本当に、いいのか?」


何が不服なのか、岩童は重ねて聞いてくる。

だがその問いに洒落た答えを返す余裕は今の俺には無かったから……。


「いいよ。それじゃあな」


と、それだけ言って俺は馬車に走った。


「怪我、大事にしてね!」


月陽もそう言うと俺を追ってくる。

二言三言、春夜さんと遠鬼も岩童に何か伝えたようだが、

それは俺の耳には届かなかった。


(……延老さんを助けないと!)


その強い思いが気を急かせた。

とにかく俺は、服従印を刻まれて逆徒の駒になっている延老さんなんて、

見たくはなかったんだ。

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