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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
二章 羽膳
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七十二話 役人とならず者

「だ~か~ら~! 俺は関係者だって言ってるだろ!

 羽膳の奴に聞いてみりゃ分かるから、さっさと呼んでくれよ!」


「黙れ小僧! 所司代様を呼び捨てにするとはこの礼儀知らずが……!」


正直、完全に盲点だった。

守護屋敷に着いたはいいものの、門番の魔族二人は俺の事など知らないらしく、

容赦の無い門前払いを受けていた。


「呼び方なんてどうでもいいだろうが!

 とにかく聞きたい事があるんだ! 羽膳の奴を呼ばねぇなら

 俺から行くからさっさと入れてくれ!」


「何者も屋敷に入れるなとのお達しだ。いいからあっちに行ってろ!」


門番の一人が槍を振り上げ、その石突で俺の腹を突いてくる。

子供を多少手荒に追い払うつもりでの行動だ。

力が入っていないからか別にそこまで痛くはない。

だが……だからこそ余計に怒りが湧いた。


そりゃあ俺は延老さんのように名声がある訳じゃない。

遠鬼のように門番を威圧するだけの悪名もなければ、

羽膳のように地位が高いという事もない。

つまりは……俺一人だけじゃ、本当にただの子供でしかないんだ。


そう思って自分の幼さを呪ったが……。


(いや……よく考えてみりゃあ、昨日は羽膳が我が物顔で

 この屋敷を動き回ってなかったか……?)


羽膳だって地位は高いかもしれないが子供の筈だ。

正確な年齢は分からないけど、

背格好から見て俺とそこまで変わりはしないだろうに……。


(地位や生まれの違いだけで、

 これだけ扱いが変わっちまう訳か……!)


まだ仕返しが済んでいないからか、羽膳の事を考えただけで

湯水の如く怒りが湧いてくる。こうなってしまうとしょうがない。


「そうかい、分かったよ。

 お前達に何を言っても無駄ってのがな……!」


そう吐き捨てて、門番達から少し距離をとる。

多少手荒になるかもしれないが、この門、押し入らせてもらう。

ただ、力を込めるべきは拳ではなく……腹。


「おい羽膳! 聞いてるかぁ! ちゃあんと聞いとけよぉ!

 さっさとこの屋敷に俺を入れろぉ! それが嫌ならテメェから出てこい!

 もし返事が無かったら、門番ふっ飛ばしてでも押し入ってやるからなぁ!

 そしたらテメェのせいだからなぁ! ちゃんと後で門番達に謝んだぞ!」


ありったけの大声で屋敷に向かって叫ぶ。

慌てて俺を取り押さえようとする門番達の手を掻い潜り、

なおも悪態をつき続ける。


「聞こえてるのかこの馬鹿野郎!

 大体なぁ、この非常時に体裁とか気にしてどうすんだよ!

 何度も言わねぇぞ! 聞きたい事があるからさっさと俺を屋敷に入れろぉ!」


残念なのは、俺に言葉を教えた姉さんが基本的には上品だったことだ。

そのせいか俺の罵倒の語彙は非常に貧弱で、

馬鹿とか阿呆とかを繰り返すしかなかった。


「うるさいぞ界武っ!

 怪我人が休んでる屋敷の前でがなり立てる……

 それが戦士のする事かっ!」


一日当たりの消費量は分かってないが、

この先半月ほどの馬鹿の在庫を放出した辺りで

ようやく怒りに震える羽膳が屋敷から出てきた。


その顔を見ただけで不思議と湧いてくる怒り。そのせいだろうか、

最早、空になっていると思われた馬鹿の在庫があっという間に再充填された。


「テメェがさっさと出てくれば俺だってこんな恥をかく事は無かったんだ。

 まず俺に謝れこの馬鹿野郎……!」


「よし分かった。その口が上手く回らなくなるまで痛めつけてやる……!」


……いや違う。勿論羽膳の野郎を殴ってやりたいのは今も変わらないが、

今はそんな事をしてる場合じゃない筈だ。

一触即発の雰囲気の中、俺はかろうじて当初の目的を思い出せた。


「……それは俺も望むところだけどな、今はまず聞きたい事がある。

 延老さんは今何処にいる?」


「延老……『閃刃』様の事か」


「そうそうそれだ。その『閃刃』様は昨日の襲撃の時、

 守護様と一緒にいたんじゃなかったのか?」


「それは……」


そこで羽膳は周りの状況に気が付く。

先程まで俺ががなり立てていたからか、

野次馬が守護屋敷の門を取り囲んでいた。


「……仕方ない。入って来い、中で話す」


「よし分かった。じゃあ入らせてもらうぜ」


これまで俺の侵入を防いでいた門番達を一瞥し、堂々と門を潜る。


「所司代様、それは……」


「良いのだ。私が責任を持つ」


……どうやら、俺が守護様の屋敷に入るには

誰かが責任を持たねばならないらしい。

そんな事実が、俺は只々気に入らなかった。







「……こうしてお前と面と向かって話をする事すら不快だ。

 だから手短に言うぞ」


羽膳は部屋に案内するでもなく、門を潜ってすぐの玄関先でそう切り出した。

ただ、こちらとて立ち話上等である。


「気が合うな。さっさと教えろ、延老さんは無事なのか?」


「……分かっていない」


「何だそりゃ!? ここまで引っ張っておいてそれだけかよ!」


「そう急かすな。『閃刃』様がご無事かどうかは分からない。

 ただ……少なくとも、厳容様が襲撃された際にはその場にいなかった」


「……どうして分かる?」


「簡単だ。厳容様が新坂を発つ際には六人の護衛を連れていた。

 襲撃された際にその場にいた護衛も六人だ。数が合っている」


「ああ……そういう事か」


延老さんがもしその場に護衛としていたのであれば、

守護は七人の護衛、と言うだろうからだ。


「他にも……俺がこの耳で聞いている。

 『閃刃』様が護衛を申し出た際に、厳容様はそれを断っておられた。

 お手を煩わせる訳にはいかぬとな」


「……なるほど。それならその場にはいなかったんだろうな。

 ただ……じゃあ何処にいたかは分からないと」


「ああ。今『閃刃』様がどこで何をしているか、

 それは俺達もまだ分かっていない。そして『閃刃』様を探そうにもだ、

 指揮を執る筈だった厳容様がまだ面会すら叶わない。

 これでは俺達は衛蒼様が来られるまでは、この新坂を守る事しかできん」


「なんだ、さっきみたいにお前の責任で色々やりゃあいいじゃねぇか」


「……侍所の所司代にそこまでの権限はない」


悔しそうに舌打ちをしてから、羽膳はそう言った。


愚痴のようにも聞こえたその言葉に、悔しそうな羽膳の顔。

それをいい気味だとまでは流石に思わない。

だけど……馬鹿らしいとは思った。


(したい事も出来ず、守りたい人も守れないで……

 何が権限だ、なぁにが責任だ……!)


だから俺は宣言する。

この後もずっと敵対し続けるかもしれないこの男には、

俺の生き方を伝えておかなきゃいけない気がしたからだ。


「じゃあテメェ等はここで縮こまってろ。

 俺達は延老さんを助けに行く。ついでに逆徒に『山嶽王』、

 全員とっ捕まえてここに引っ張って来てやるよ」


「ば……馬鹿を言うな!

 お前が勝てる相手じゃ……!」


「ああ……その辺は気にするな。

 俺で無理なら遠鬼にやってもらうからな。

 どの道、『山嶽王』とやらが出てきたと知れば、

 アイツなら勝手にここを飛び出していくだろうしな」


遠鬼、その名前を聞くと流石に慌てだしたか、

羽膳は途端に落ち着きを失ってしまう。


「待て……あと一……いや、二日もすれば衛蒼様が来られるのだ!

 それまでは……」


「その間に延老さんが襲われでもしたらどうするんだよ!

 大体だな……考えてみやがれ!

 どうして逆徒って奴はまず守護を襲ったんだ!?」


昨日話を聞いてから思っていた事だ。

最初にこの国の守護を襲ったのは、

偶々そこにいたから、なんて理由じゃあ決してないだろう。


「……組織だっての行動を阻害するため」


苦々しげに羽膳が呟く。

いい気はしないが羽膳も同じ結論に達してはいたんだ。

だが……その立場故に自由に動く事が出来ない。

その翼で空すら飛び回れるというのに難儀な事だ。


「だったら奴等のやって欲しくない事をするのが一番だろうが!

 それはなぁ、こっちから打って出て奴等をぶちのめす事だろ!」


「ぶちのめす……!?

 そんな、ならず者同士の諍いじゃあるまいし……」


「悪いなお役人様、

 俺も遠鬼もどっちかと言うとならず者だよ。

 あぁそうだ……羽膳、テメェ等お役人が役に立たねぇっていうのならなぁ、

 後は俺達ならず者に任せとけ!」


言いたい事は全て言ったと、俺は踵を返して屋敷を出ていく。


「ちょ……待て!」


「待たねぇ」


「な……ならせめて一つ聞かせろ!

 界武、この件お前には何の関係も無い筈だ!

 なのに何故……お前自身が戦う事も厭わずに止めようとする!?」


……変な事を聞く奴だ。

そう思って振り返れば、羽膳の表情がいつもと違っている。

常に自信たっぷりで余裕に満ち満ちていた、いけ好かない男。

そんな男が何故か、何かに怯え追い詰められているかのようだ。


「言わなきゃ分からないのか?

 俺が好きな人達を守るためだよ」


「好きな人を……守る?」


どうやらまだ羽膳は納得出来ていないようだ。

……ならば、こう付け加えれば伝わるだろうか?


「それ以外にもな、これ以上魔族も人間も死んで欲しくないからだ。

 逆徒って奴は生かしておいても屍作る事しかしそうにねぇだろ。

 そんな奴はさっさとぶっ倒しておいた方が皆幸せになるって話だ」


(こんな分かりやすい理由も無いだろうに……

 羽膳は頭は悪くなさそうだけど、

 逆に簡単すぎる事が分からなかったりするのかね……)


まだ納得がいってなさそうな羽膳に若干呆れながら、

俺は再度踵を返す。


(まずは延老さんを探し出す。

 それから逆徒も『山嶽王』も……

 月陽を悲しませた奴は全員ぶっ倒してやる……!)


あの野盗の根城で延老さんに勝負を挑んだ時と同じだ。

勝てる勝てないは関係ない。

守りたいから守る。そして……戦いたいから、戦う。

俺が拳を振るう理由なんぞ、結局のところそれだけで十分だった。

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