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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
二章 羽膳
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六十一話 現地協力者

「えっと……ごめんね……」


「いえ……まあ……別に……」


あれから時間を置いて酔いを醒ましてもらった後の会話だが、

そんな謝罪の言葉から始まった。

あの酒乱に同情の余地が無い訳ではなく、

どうも一緒に飲んでいた三人組に是非にと酒を勧められ、

そこから『同族殺し』の話を聞かれてしまったのだそうだ。


そして今はその三人組には帰ってもらっている。

先程の絡み酒で随分と憔悴していたようだし、聞ける話も無いと思われたからだ。


「アイツ……遠……ああ、『同族殺し』の話になるとね、

 どうも愚痴が止まらなくなって……それでお酒がね、

 ちょっと……進み過ぎちゃったというか……」


「愚痴が止まらなくなるような男だって事だろう。

 詳しくは知りようがないが、何となくは分かる気はする」


以前ちょっと見たきりだが、それでもまだ覚えている。

それぐらいに強烈な印象の持ち主だった。


「……そうなの、そうなのよ!」


一度杯をあおってからしみじみとそう語る。

今、春夜の杯に注がれているのは勿論ただの水だ。


「まあ……『同族殺し』の為人についてももちろんなのだが、

 今はそれよりも聞きたい事があるのだ」


「なぁに? アイツの罪をちゃんと裁いてくれるってんなら、

 何だって教えてあげるけど……」


それは保証しかねるが、春夜は協力的で何を聞いても話してくれそうだった。


「まずは今の『同族殺し』の所在。

 それに……『同族殺し』の仲間に、

 右目を前髪で隠した優男などは居なかったか知りたいのだ」


「優男……?」


「ああ、その辺りは特に重要なのだが……」


「優男は居なかったかなぁ。熟達の老剣士に可愛い男の子。

 その二人とちょっと旅をしてたみたいだけど、

 優男っていうのは知らない」


「老剣士に……可愛い、男の子?」


「そう! 可愛くてね……とっても強い子なのよ!

 遠鬼の側に置いておくのは嫌なんだけどさ、

 ちょっと恥ずかしがり屋さんでねぇ……でもそこが……」


羽膳が特に知りたくもない方へ話がズレていきそうなので、

その辺で言葉を遮った。


「男の子の事はまた後で。それよりも……老剣士というのはまさか……」


「『閃刃』様。後から知ったんだけど、

 この丹波国の野盗退治をしていたみたいで、

 その途中に遠鬼と知り合ったみたいね」


まさかここで『閃刃』が出てくるとは思わなかった。

故に羽膳は情報を整理する必要に迫られる。


(逆徒と『同族殺し』に関わりがあるとする。

 そして『同族殺し』と『閃刃』様にも接点が出来た。

 つまり……最悪の場合は、『閃刃』様も敵に回りかねない……のか?)


そうなったらいかに衛蒼と言えど、勝つ事は出来るのだろうか……?

その恐ろしい想像に羽を震わせる。


(まだ……そこまで悲観的に考える事は無い。

 『閃刃』様も魔族の伝説的英雄だ。逆徒に唆される事も、

 『同族殺し』に屈服する事もあり得ない筈だ)


そう、今はまだ結論を急ぐ段階じゃない。

そう思い直し、羽膳は春夜に次の話を促した。


「その……『閃刃』様と同族……いや、遠鬼が一緒に旅をしていたのか。

 だがそれは妙な話だな。遠鬼は『閃刃』様に勝負を挑まなかったのか?」


春夜が『同族殺し』と言いづらそうにしていたので、

それに合わせて遠鬼と呼ぶ。


「ああ……それそれ! 遠鬼の奴は勝負を挑んだらしいの。

 それでこの新坂で『閃刃』様が殺してくれる筈だったんだけどね……」


春夜のもううんざりだ、とでも言いたげな表情。

どうやら、彼女の思うように事は運ばなかったらしい。


そう思っていたのだが、次の春夜の言葉は喜色を帯びていた。


「それがなんとね……界武君が『閃刃』様に勝っちゃって、

 その遠鬼と『閃刃』様の勝負が流れちゃったらしいの!」


友人が成し遂げた偉業を祝福するかのような、

無邪気な微笑みを浮かべて嬉しそうに春夜が話す。


「『閃刃』様が……負けた!? それに……なんだその、カイムクン、とは?」


「ああ、さっき言った可愛い鬼人族の男の子。

 野盗相手の立ち回りは見た事あるけれど、

 あの歳にしては信じられないくらい場慣れしてるっていうか……

 とにかく、かっこいいの! 何しろね……」


「ちょっと……ちょっと待ってくれ!」


理解が追い付いていない。

『閃刃』様が負けた、そこからもう理解が及んでいない。

だというのに勝った相手というのが可愛くてかっこいい男の子だという。

馬鹿げている。嘘だとしてももうちょっと信憑性のあるものを聞きたかった。


「……嘘では、ないのか?」


だがこの春夜という女性。どう見ても嘘を付いているとは思えない。

だからそのように聞き返してしまう。


「気持ちは分かる。私も最初聞いた時は同じような反応だったなぁ……」


ケラケラと笑う春夜。そこから何故か勝ち誇ったような表情で話を続ける。


「でもね! 私は『閃刃』様から直々に聞いたの!

 間違いなく自分が負けたって仰ったのよ! 後はもう凄い褒めようでね! 

 界武君は必ずこの世界に名を轟かせるでしょう……って!

 凄いよねぇ……私もその勝負、見たかったなぁ……!」


(褒めた……!? 『閃刃』様が自分を負かした相手を褒めた、だって!?)


英雄ではなかったのか? 鬼教官ではなかったのか?

それが勝負に負けたのみならず、勝った相手を褒めているという……。


急に怒りが湧く。

何故ならそんな事はあってはならないからだ。

誇り高き魔族の英雄が、そのような事をしてはならないからだ……!


「……どうしたの? 随分と表情が険しいけど」


「あ、いや……すまん。ちょっと別の事を考えていて……」


怒りの感情が顔に表れてしまっていたようだった。


(……良くない。今は情報収集だ。それ以外の事は考えるな)


頬を叩く。火照った頬に冷たい手が気持ち良かった。


(……よし、気持ちは切り替わった。次は話の流れを元に戻そう)


そして先程までの話を思い返してみたが、よく考えればおかしな点があった。


春夜の話が正しいとすればなのだが、

その『閃刃』と界武の勝負とやらのせいで『同族殺し』の寿命が延びた筈だ。

だというのにこの嬉しそうな春夜の姿。

そこから放たれる壮絶な違和感に思い至ったのだ。


「そういえば春夜さん、ちょっと先程の話で気になった事がある。

 その勝負とやらのせいで、遠鬼が殺されずに済んでいるように聞こえたのだが、

 それは残念ではないのか?」


「ああ……それは残念。だけどね、この調子で界武君が強くなってくれれば、

 凄く近い未来に遠鬼を討ってくれるかもしれないじゃない?

 約束もしてるの! 私の仇を討ってくれるってね……」


「……すまん、更に分からなくなった。

 その界武君とやらは、遠鬼の……仲間ではないのか?

 それとも敵なのに一緒に旅をしているのか?」


「その辺は私もよく分からないけど、

 見た感じ遠鬼を嫌っているようにも、懐いているようにも見えるのがね……

 ま、気になるなら会いに行けばいいんじゃない?

 『閃刃』様に聞いた話だと、戦いの傷を癒すために遠鬼と一緒に

 野盗の根城で休んでるそうだから」


「野盗の……根城?」


「そう、ここからちょっと南東に行った所に大きな丘があるんだけどね、

 そこに結構有名な野盗が住み着いてたのよ。

 『閃刃』様と界武君が退治しちゃったから今は無人なんだけど、

 その野盗達が使ってた根城が結構いい所らしくてさ、

 今はそこで傷を癒しているそうなの」


「つまり、そこに遠鬼……『同族殺し』も居るというのか」


「『閃刃』様が言うにはね」


『同族殺し』の仲間とその所在。聞きたい情報はこれで聞けたはずなのに、

どうにも素直に喜べない羽膳だった。


春夜の話す事柄全てがどうにも信じ難い。

だから同じ事を別の誰かからも確認する必要があると思われた。


「……ところでさ、羽膳君はどうしてそこまで遠鬼の事を調べてるの?

 差し支えなければさ、その辺私に教えてくれないかな?

 もしかしたらさ、それで私に思い当たる所があるかもしれないじゃない?」


(……羽膳君か)


誰かから君付けで呼ばれるのは久々だった。

その懐かしい響きに羽膳は狼狽気味の心が和らぐのを感じた。


(……話してみよう。確かに今は少しでも情報が欲しい)


その響きが警戒感すら和らげたのかもしれない。

とにかく、羽膳はここ数日の出来事を思い返していた。







それから羽膳は簡単に楼京で起きていた事を伝えた。

右目を失った拘束魔術師が人間達を使って何やら良からぬ事を企んでいる事。

そして……その企みに、『同族殺し』が加担しているかもしれない事も。


「へえ……アイツがねぇ」


事の概要を知った春夜は、何やら意地の悪そうな笑みを浮かべ羽膳に告げた。


「あのねぇ……羽膳君。確かにアイツはもうどうしようもない馬鹿。

 それは間違いない。でもだからこそ、誰かの思い通りに動く男じゃないの。

 たとえ服従印を刻まれたってね、誰の言う事も聞かないから」


「……つまり、逆徒の企みには加担してないと?」


「まず無い。有り得ない!

 アイツは強い奴と戦う事しか考えてない。

 もしその逆徒って奴が強いのならね、

 言う事なんて聞かずに真っ先に殴り倒してるから!」


その言葉に込められた理屈を超えた説得力に、思わず羽膳は唸る。

……だとしたら、『同族殺し』は逆徒とは無関係に

ただ無軌道に暴れまわっていただけ、という事になるのか……?


(そっちの方が有り得そうなのが困るなぁ。

 でも俺がそれを推測するのはどう考えても無理だ)


羽膳は自分がまだ世間知らずだと自覚している。

そうなると、こういう時にちょっと困るのだ。

他者がどう動くか、その想像出来る範囲がどうしても小さくなるために、

その辺りの判断力で虎鎧や花南に大きく劣る。


今回も勿論『同族殺し』が何を考えてどう動こうとしているのか、

全く想像する事が出来ていない。


だが丁度いい事に、目の前にそれが出来そうな女性がいた。


「春夜さんはどう思うんだ?

 遠鬼が逆徒に操られていなかったとしたら、

 これから奴はどう動くつもりなんだろう?」


「ああ……多分界武君の傷が癒えたら西に行くんじゃない?

 『勇者』討伐を頼まれたって言ってたから」


「『勇者』……そんな話になってるのか」


今幕府が最も頭を悩ませているのが長門国の人間の反乱だ。

伝え聞くところでは、周辺国の魔王軍をかき集めてどうにか

拮抗状態を作り出せたそうだが、それとていつまで持つのか

知れたものではないらしい。


反乱討伐は本来朝廷の仕事だ。だが朝廷の動きが妙に遅いため、

幕府としても任せっぱなしにしておけないと

衛蒼が討伐に向かう話まで出て来ているそうだが……

その矢先でのこの大事件であった。


「だからね、放っておけば遠鬼は勝手にここから出ていくと思う。

 アイツがいると不安だって言うなら、そうなってからその……逆徒って奴を

 探して捕まえればいいんじゃないの?」


「なる……ほどなぁ……」


春夜に話を聞くまでは思ってもみなかった。

だが確かに、『同族殺し』が敵側に回らずに

そのままここ丹波国を素通りしてくれるのであれば、事態はかなり好転する筈だ。


(……勿論、その前に『同族殺し』をしっかり調査する必要はあるが、だ。

 身体検査も必要だろうけど、応じてくれるかな……不安だ)


そんな不安が残りはするが、これで『同族殺し』に関する情報は

十分すぎるほど得られたと思う。

だとすれば、次は……この情報の確度を上げる。


「春夜さん、貴方を信じていない訳ではないけど、

 ちょっと俺には俄かに信じがたい話が多かったんだ。

 そこは理解してくれると思う」


「それは……そうね」


それには異論は無いらしい。


「だから、今春夜さんが言ってくれた事を別の人からも確認しておきたい。

 そんな人を知っていれば教えて欲しいのだが……」


「別の人……ねぇ。そうなると遠鬼と界武君から直接聞くか、

 もしくは『閃刃』様から伺うしかないんじゃない?」


「『閃刃』様……そうか、そうだな」


確か『閃刃』は守護の厳容と共に東に向かっている筈だ。

他の者なら無理だろうが、羽膳であれば十分に追いつけるだろう。


ならば次は『閃刃』に会いに行こう。

先程の関の責任者から守護の大まかな予定を確認すれば、

道すがら見逃す事もないだろう。


「情報感謝する。ならば俺は『閃刃』様に会いに行こうと思う」


「そっか。頑張ってね」


笑顔で応援する春夜。それに応えようと手を挙げて席を立った。


「……あ、ちょっと待って!」


「……ん? 他に何か?」


「もしかしたらだけど、羽膳君がここにいない間に遠鬼が来て、

 そのまま何処かに行っちゃうかもしれないって思ってね」


「ああ……それは確かに困る。

 まだ遠鬼の疑いは晴れていないんだ」


『同族殺し』をここで逃がしてしまえば折角の情報も台無しだ。

ではどうするか……。


「それじゃあさ、遠鬼の奴は私が捕まえてこの新坂に連れて来ようか?

 いい加減待ってるのにも飽きてきたところでね」


だがそこに助け船が来てくれた。

思いがけずの出会いだったが、

この女性は非常に有能な現地協力者に違いなかった。


「それは有り難い。もし良ければ、是非にお願いしたい」


「勿論アイツの事だからさ、私の言う事聞かないかもしれないけどね……。

 でももしそうなったとしても、この酒場に言伝ぐらいは残しておくから」


「ありがとう。でも……もし春夜さんに危険が迫った場合は、

 絶対に無理をしないようにしてくれ」


「ご心配、ありがと。でも私だって遠鬼ほどじゃないけど十分強いから、

 安心しなさい」


そう言って笑う春夜を見て、

羽膳は今更ながらこの女性が綺麗だと知った。

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