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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
一章 界武
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四十九話 少女の追憶 その二

あれからしばらくして、お兄さん鬼……

その頃には、とーきって名前だって分かってたんだけど、

そのとーきとは別れる事になっちゃった。

凄い寂しい、って思ったんだけどね、その時は。

でも、弟鬼くん……かいむくんは一緒にいてくれるって分かって、

すぐ寂しくなくなった!


私はかいむくんの事を知りたかったし、かいむくんに私の事を知って欲しかった。

そうして友達になりたかった。でも……どうすればいいんだろう?

私は喋っちゃいけないから、何も伝える事が出来ない。

だからなのかな、かいむくんはいつもおじいちゃんとばかり話しをしてる。

私にも話しかけて欲しかった。

言葉がなくたって、私がどれだけかいむくんの事を気にしてるかは

伝えられると思ったから。


だからずっと思ってた。もし次話しかけてくれたなら、

その時は絶対に、どんな事があっても私から返事をするんだ。

嬉しければ笑えばいいし、そうじゃなければ首を振ればいい。

とにかく……どうにかして伝えるんだ、友達になって欲しいって。


その機会は意外とすぐに訪れた。しかもとびっきりの驚きと共に。

何と……かいむくんは私を連れてとーきのいる町へ逃げようって言ってくれた!

そんな素敵な事は無かった。私は食べられるまでのわずかな間でも

この鬼の兄弟と一緒に居られるんだって。また友達みたいにいられるんだって!

もしかして、かいむくんはもう私を友達と思ってくれてるのかも!

だから私を誘ってくれたんだ! そんな気持ちで……凄い、嬉しかった!


手を繋いでの逃避行。あんなに心躍る時間は今までなかった。

誰かに手を引いてもらえるのなんて初めてで、本当に楽しかった。

いつも何をしてても寂しいって気持ちが無くならなかった私の心が、

初めて解放された感じがした。

ずっとこんな気持ちでいたいと思った。ずっとこの手を握っていたいと思った。

だけど……すぐに私の体は苦しくて、痛くて、動かなくなった。







気付けば私はまた荷台の上。

いつもと同じようにかいむくんとおじいちゃんが前で話をしてた。

……夢だったのかな? 幸せな夢。

でも、多分そうじゃない。私は聞いた。かいむくんが言っていた。

私の体はこの馬車から離れられないみたい。

よく分からないけど、そんな風になってるんだって。


……かいむくんは私を連れてここに戻ってきたんだ。

なんて、足手まとい。謝らなきゃって気持ちが心の中で大暴れして、

涙だって滲んできた。


だから私はすぐにでも謝りたかったのに、

それからはかいむくんが私に話しかけてくれなくなった。

こんなんじゃ、かいむくんに見捨てられてしまう……。

嫌だ! それだけは……食べられるよりもずっとずっと嫌だった。







……かいむくんが凄い怪我をした。

荷台で倒れ込むかいむくんに私は何度もおまじないを使った。

疲れ果ててくたくたになるまでおまじないをして、

それでやっと目を覚ましてくれた。

あの時のかいむくん……私を見るのだって辛いとでも言うかのように、

すぐに目を逸らした。


(……嫌だ! かいむくんに嫌われるのだけは絶対にイヤ!)


そうしようと思った訳じゃない。逃げようとしたかいむくんを見たら

勝手に体が動いた。思い切り掴みかかる。

私はどうなっても良かったから、何をしてでも謝りたかった。


……でもね、かいむくんは全然怒ってなんかないって、そう言ってくれた。

私の考えすぎだって……本当にそうなのかな?

本当の事は分からないけど、それでも絶対に言えるのは、

かいむくんは凄い優しい子だっていう事。


私より年下だと思うのに、どうしてこんなに優しいんだろう?

どんな風に成長すればこんなにしっかり者になれるんだろう?

そう思ったら……ちょっと恥ずかしくなった。

私の方がお姉さんなんだから、しっかりしないといけないのにね。







いつも何かを考え込んでる大人しい子、それがかいむくん。

だけどいざ怖い人が来たら、小さい体で大人達をやっつけてくれる。

頼もしくて……そしてとっても優しい。でもどうしてなんだろう?

あの頃からかな? かいむくんが実は凄い無理をしてるんじゃないかって

思うようになった。だって時々私に向けてくれる目が、

助けて欲しいって泣きそうにしてるように見えたりする。

力になってあげたい。でもどうしていいか分からない。

だって私は喋っちゃいけないから……何をしてあげられるか分からない。


ただ一つできるのが、痛くなくなるおまじない。

あの後、毎晩のようにおまじないをするようになった。

それくらいに、いつもどこかを怪我してる。

おまじないをしてあげるとありがとうって言ってくれる、それは嬉しい。

だけど……怖い気持ちも強くなるんだ。

私が食べられた後のかいむくんは、痛いのをどうするんだろう?

ずっと我慢して……我慢して……そしてどうなるんだろう?


その時私は、食べられたくないって強く思った。

だって私がいなくなったら、かいむくんがずっと痛いままだ。

そんなのは……可哀想だ。私なんかよりずっと……つらい筈だ。







そしてあの日、かいむくんはおじいちゃんに会いに来た鬼の女の人と、

凄い仲良さそうにしてた。私がこんなに心配してるのに、

こっちを気にもせずに女の人と楽しそうに話してた。信じられない。

あれだけは許せない。絶対に許せない。


あの時は本当に嫌な気持ちで一杯だったけど、

その後……お兄さん鬼のとーきがまた会いに来てくれた! 凄い嬉しかった!

とーきとまた会えたのもそうだけど、

それよりもかいむくんがつらそうじゃ無くなったのが嬉しかった。

やっぱり、ずっと無理をしてたんだと思う。

お兄さんと離れ離れになって寂しかったのかな?

でも……ちょっと悔しかった。私だってお姉さんの筈なのに、

全然力になれなかったから。


そして、鬼の女の人はかいむくんに手を振り払われて逃げて行った。

……ざまあみろ。







その日の晩御飯は、多分今までで一番素敵な食事だった。

私がまだ女の人の事を許せなくて怒っていたら、

一緒に食事をしようって手を引いてご馳走の前まで連れてきてくれた。

信じられなかった。あんなに沢山の人と一緒にご飯を食べる事が出来るなんて

考えた事だってなかった。

しかもあの時、かいむくんは私の事を仲間だって言ってくれた。

仲間。確か……友達と同じみたいな言葉だったと思う。

そう……友達だから私達は一緒にご飯を食べていいんだ!

とーきもやっぱり私に優しくて、料理を私の前に持ってきてくれる。

多分……とーきも私の友達なんだ!


……こんなに嬉しいのに、料理もとっても美味しくて、

今までで一番楽しかったのに……。その夜、私は泣きながら寝た。


嫌だ……折角二人も友達が出来たのに……食べられたく、ない。

喋りたい。二人と話がしたい。一緒に笑いたい。寂しい。嫌だ……。

叫びたい程の気持ちの昂りが声を出せない喉を震わせて、一人で泣いていた。







かいむくんは、実は人間だった。

鬼の角は頭にくっつけていただけで、本当は人間だったんだ。

何でそんな事をしてたのかは分からないんだけど、

多分そのせいで、かいむくんがおじいちゃんと喧嘩した。

それも私が知ってるような喧嘩じゃなくって、

本当にボロボロになるまで殴り合って……見ててつらかった。

凄く強い筈のかいむくんは、それでもおじいちゃんには敵わなくて、

どんどん怪我が酷くなっていった。心の底から怖かった。

あのままかいむくんが死んじゃうんじゃないかって……!


止めてって何度も叫んだ。

でも叫べなくて……とーきにもお願いした。

あの二人を止めてくださいって。


「……心配するな、あいつは勝つよ。お前は信じて見てればいい」


それがとーきの返事。


そんな風には全然見えない。

今もかいむくんが傷だらけになっていく。

なのに……何故か、少し心が落ち着いた。

兄弟の絆って奴なのかな。かいむくんの事を信じてるのが伝わってきた。

あれ……? でも人間と魔族って、兄弟になれたんだっけ?







喧嘩が終わった。最後は皆仲良くなって終わったから、

多分とーきの言うように、かいむくんが勝ったんだと思う。

でもそんなのはどうだっていい。あんなに怪我をしてるんだ。

かいむくんはとっても痛い筈なんだ。

必死に駆け寄って、全力でおまじないをした。


「ありがとう」


かいむくんがいつも言ってくれる言葉。

その言葉がいつもと違って聞こえた。おまじないだけじゃなくて、

他の色々な事へのありがとうだっていう風に聞こえた。







かいむくんが、私を喋れるようにしてくれるって。

牧場や荷台だけじゃなくって、好きな場所に行けるようにしてくれるって。


そう言った時のかいむくんのちょっと誇らしげな顔。

それを見て私は気付いた。

多分……かいむくんはその為にこんなに傷だらけになったんだ。

ずっと無理をしてたんだって。


嬉しくて……嬉しくて涙が止まらなかった。

信じられなくて、でもかいむくんが嘘を言う筈なんてなくて……

じゃあ喋れるようになったら何を喋ろう? 多分……ありがとう、かな?

次に行きたい場所……分からない。でも絶対に、かいむくんと一緒が良かった。

ああ……どうしよう、どうすればいいんだろう!?


私の背中から重たい何かが消えた後、本当に私は喋ってよくなった。

かいむくんに抱きつく。こんなに小さい体で、本当に頑張り屋さんだ。

だからかいむくんに言おう、ありがとうって。

かいむくんと一緒にいられるなら……どこにでも行くって。


でも……私はずっとかいむくんの名前だけを繰り返した。

だって心の中で数え切れないぐらいに繰り返したその名前だから。

それを繰り返す度、嬉しいとも楽しいとも違う、

それ以外の何か……凄い暖かい気持ちが心を占領して溢れ出して、

私はどうしようもなくなった。


この気持ちは幸せって名前なんだと、後から知った。







月陽。それがこれからの私の名前。界武くんが付けてくれた私だけの名前。


私はもう誰かに食べられたいなんて思わない。

界武くんは頑張り屋さんでいっつも怪我ばかりしてるから、

私が見てあげないといけない。怪我を治してあげないといけない。

その為にも、食べられる訳にはいかない!

界武くんを守ってあげられるのは、お姉さんの私だけなんだから!


……?

そういえば、界武くんが『俺の方が年上だから、

どっちかというと俺がお兄さんで、月陽が妹の筈なんだけど……』なんて言ってた。


うるさい。

私はお姉さんなの! どうしてもっていうなら偶には妹もやってあげるけど、

基本お姉さんなの! そういう風にしか考えられないの!

やっと第一章が終わりました。

序章の筈だったのに、四十九話もかかってしまいました。

書き直しがあったり、最後の方は難産も多くて間が空いたりもしましたが、

どうにか書ききれました。

これからもマイペースに書き続けていくつもりなので、

もしよろしければ感想や評価、ブックマークなどをよろしくお願いします。

やる気が出ますので。

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