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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
一章 界武
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三十五話 仲間

「と、と、と……遠鬼! あなた野盗の手下にまで落ちぶれたの!?」


春夜さんが俺の気持ちを代弁してくれた。ありがとう。


「野盗を斬って回ってるという話だから、この辺にいれば会えるかと」


「再会の約束取り付けてるのに早く会いたいからってこんなとこまで来たの!?

 あなた何!? 乙女か何かなの!?」


「男だ」


「知ってる!」


(ああ、同じ鬼人族の春夜さんでも、遠鬼のずれた回答には手を焼くのか)


「まず最初の質問に答えて! 何故、野盗の用心棒をしているの!?」


「ここで会って『閃刃』を探してると言ったら良くしてくれてな」


「だからって野盗について行くな! そんなのさっさとぶち殺しなさい!」


「掟があるから無理だ」


「ああそうね、あなた強いもんね! 掟があるから勝負挑めないね……

 ってもう、いい加減にして!」


「いつも怒ってるな」


「誰の! せいだと! 思ってる!」


「今回は……俺か?」


「いつも! いつもあなた!」


その一向に殺し合いに移行しそうにない口喧嘩に不安を感じたか、

親分が心配そうに遠鬼に声を掛ける。


「あの~先生? 『閃刃』と戦わないので?」


「戦う。だが今じゃない。『閃刃』が荷を届けてから新坂でだ」


「……は?」


呆気にとられる親分。そりゃそうだ。遠鬼の武勇に頼っての襲撃なんだから。


「えっと……じゃあ、今はそこの女を倒してくれるんで?」


妥協案を示す親分。だが……。


「春夜、俺に挑むか?」


「い、ど、ま、な、い!」


「だそうだ」


絶句する親分が少し可哀想だ。

だが、そんな男を頼ったのがそもそもの間違いだったんだ。

そいつ、ただの強面の大男じゃないからな。

何考えてるのか全く分からない上に天然入ってるんだぞ。


「え、え~っと……じゃあ……」


親分の視線が宙をさまよった後、俺の下に止まる。


「界武か……しばらくずっと暑かったが、調子はどうだ?」


(時候の挨拶かよ……相変わらず何考えてんだ、この天然鬼は)


しかし……いつもながらなんて傍若無人な奴だろうか。

ついさっきまで、仲間と呼べる誰かがいない事や、

魔族を敵視するべきなのかどうかとか……とにかく、

色々悩んでいた俺が馬鹿みたいだ。


「悪くは無いけどさ……遠鬼、一つ聞いていいか?」


だから、俺は決めた。苛立ちに任せて、遠鬼を問い質そうと。


「何だ?」


「後ろにいるそいつら……野盗共だけどさ、お前の仲間なのか?」


「仲間……?」


遠鬼は要領を得てないようだが、とりあえず後ろに視線を向け

野盗達を確認する。野盗の視線は遠鬼に集中していて、

誰もが及び腰……機会さえあれば脱兎の如く逃げていきそうだ。


「仲間か……良くしてくれたからな、俺はそう呼んでいいと思うが」


「で……ですよね先生!」


その言葉に野盗の親玉が安堵し、あちこちからため息も聞こえる。


「だったら先生、何とか今、『閃刃』をぶっ殺して……って、何だこりゃ!?」


親分が慌てだす。腰に刺していた斧がひとりでに腰紐を抜け、

宙を浮きながら離れていくからだ。


怪奇現象でも何でもない。

さっき遠鬼に質問を投げてる間に原始魔術の腕を忍ばせておいて、

今親分の腰から武器を拝借したんだ。この明るい日中だと魔術の腕はほぼ透明で、

注意深く見ないとそこにあるかすら分からない。親分から見れば、

自分の斧が勝手に宙を飛んで行ってるようにしか見えないだろう。


「じゃあ遠鬼、今から俺がお前の仲間をぶっ殺すから……邪魔だけはするなよ」


親分が宙に浮く斧に気を取られている隙に、その懐に潜り込む。

この辺りの動作も、馬車との並走を続けた成果か、以前よりか様になってる筈だ。

鎧に包まれた胴を打っても急所に打撃が届かないのは前回学習済み、

防具に守られていない顎先を狙い、左の掌打を打ち上げた。


「ぐがっ……!」


流石に名うての野盗だけあって肉体は鍛えられている。

掌打一発では昏倒させる事なんて出来ない。だから次は頬に右拳を叩きつける。


バシン、と重く響くいい音がする。だが……まだ駄目だ。

むしろ中途半端に痛めつけた事で、親分の敵意が完全にこっちに向いた。


「……このガキッ!」


この親分だが、延老さん相手なら分が悪いと逃げ腰だったが、

自分より一回りも二回りも若い子供にいいように殴られては

反撃せずにはいられなかったんだろう。

斧を追うのを止めて俺を捕まえようとする。だが……。


(延老さんの体捌きに比べれば、どうしようもなく遅い……)


左右から迫る腕を後ろに飛んで容易く躱し、

その間に魔術の腕で奪っておいた斧を左手で受け取る。


「ガキ……その斧を返せっ!」


「ん? ああ……ちょっと待ってくれ」


(これが斧……。片手で振るには、ちょっと重すぎるなぁ)


軽く振ってみての感想だ。俺の腕では荷が勝っている。

腕を太くするために、もっと猪を食べようと決心する。まあそれは後の話で、

今の俺にはこの斧は無用の長物だ。


「分かった。使えねぇし返すよ」


そう言って俺は、斧を親分の顔を狙って緩く放り投げた。

親分はゆっくりと眼前に迫る斧の柄を取ろうと反射的に手をあげる。


「何もせずに、返す訳がないだろうが!」


親分が柄を握りかけるその瞬間を狙い、原始魔術の腕を斧に叩きつける。

空中で急加速した斧は親分の手をすり抜け、そのまま額に突き刺さった。


その一撃が致命傷だったか、親分はそのまま前のめりに倒れ込む。

野盗の手下達は今の一連の攻防を見ても俺がした事が分からなかったのか、

ただ呆気に取られている。親分が斧を取り損ねて自滅した、

ぐらいに思ってるんじゃないだろうか?


(そんなだから、俺が近づいても反応が遅れる……!)


近くにいた鎧をまとってない野盗を狙い、一気に近づく。

後は簡単だ。自身の両腕に二本の魔術の腕を加え、

四つの拳打で急所を狙い連撃を叩きこむ。


拍子抜けだった。延老さんなら八つの拳も軽くいなしてのけたのに、

この野盗ときたら、隙を突かれたとはいえ四本の腕が繰り出す

二十を超える連撃、その全てを見事に食らい倒れ伏した。


(これが……名うての盗賊達か。何ていうか……弱すぎる)


たった二回、時間にして二刻に満たない延老さんとの模擬戦。

あれだけで俺がそんなに強くなれるとも思えない。

それなのに……今回の野盗は、苦戦だって想定してた筈がこうも脆かった。


そしてここからは消化試合。同じ要領で俺が五人目までを叩き伏せた辺りで、

漸く野盗共は眼前の鬼人族の少年が自分達より強い事に気付いたか、

慌てて逃げ出そうとした。


「野盗としてもう十分暴虐の限りを楽しんだのでしょう?

 もうここいらで精算していってはいかがですか?」


だが後ろには刀を抜いた延老さんが回り込んでいた。







「さて……遠鬼」


「何だ?」


遠鬼が仲間と呼んだ野盗共、その全てが殺された。

その一部始終を見せられて、遠鬼ははたしてどう思うのか。


「お前の仲間が今、俺に殺されたんだけどさ。

 ……どうなんだ? 俺が憎いか? 仇を討ちたくなったか?」


(……そうだ遠鬼。今、お前の仲間の魔族が人間に殺された。

 お前ならどうするんだ? 少なくとも、

 多少は怒ってたりするんじゃねぇのか!?)


……俺は戦いを躊躇う気なんてなかった。

戦わなきゃ殺されるんだから、それは当たり前だとは思う。

だが……そうやって魔族と戦い続けて、その先に何があるのか知りたかった。

人間と魔族はひたすら殺し合うしかないのか、それとも……。


(どうなんだ、遠鬼。お前ならどう考えるんだ……?)


立場としては俺に近くなった筈だ。

俺の苦悩の一端でも味わってる筈だ。

だが遠鬼の返事は、俺の想定の遥か外にあった。


「何故だ? 弱い奴が戦って死ぬ。別にお前を憎む理由は無いだろう」


「……え? い、いやだって、仲間が殺されたんだぞ!?」


「そうだな」


「春夜さんだって、仲間を殺されたからお前を追ってんだぞ!」


「それは話が違う。春夜は俺に家族や友人まとめて殺されている。

 仇と付け狙う気持ちは分かる。だがこいつら、俺は仲間とは言ったが、

 昨日今日会った相手だ。仇を取る程の付き合いじゃない」


「い……いや、それでも仲間が殺されたんだぞ!?

 付き合いの長さで対応が変わるってのか!」


「変わるな」


それを聞いて絶句はしたが……こうも自信を持って断言されると、

俺が深刻に考えすぎてたように思えてきた。


「大体だ……それを言ったら界武、俺はお前の事も仲間と呼べる筈だ」


「は……!?」


「付き合いの長さで言えば、この野盗達よりも長い。

 だから俺はお前が勝ち残った事を喜びこそすれ、

 やはり憎む理由は無いだろ」


(な……仲間!? 人間の俺と……魔族の遠鬼が!?)


延老さんが前に言っていた。俺は遠鬼の事を語る時赤くなるというが……

今は自覚がある。この遠鬼の不意打ちに、間違いなく紅潮してる筈だ。


「ば……馬鹿言うな! 俺が……お前等と仲間になれる訳ねぇだろうが!」


その動揺を隠そうと言葉を荒らげたが……

今のは俺でも分かる。失敗だ。逆に俺の心中が伝わってしまっただろう。


「ああ……何となく、お前の考えてる事が分かってきたぞ」


仕方のない奴だ、そんな風に思われてるに違いない。


「界武、お前は俺よりも頭がいい。だから色々考えすぎてるだけだ。

 会って数日と経ってない奴や、会った事すらない奴……

 そんな奴等の事までお前がどうにかしようと気を揉んでどうする」


「……そんなのは分かってんだよ。だから俺だってな……」


諦めようとした。割り切ろうとした。

だが……心の中から怒りや苛立ちが消えないんだよ!


「難しく考えるな。守りたい奴を守って、戦いたい奴と戦えばいい。

 主義主張、信念理念、愛や正義に夢と希望、法と権威も含めてだ……

 それ以外の全ては、ただの雑音だ」


「雑音……」


人が食べられない世界も、魔族が皆殺しにされない世界も……

俺が望んだ世界の形は全て雑音か。


遠鬼らしい乱暴に過ぎる意見。だが……不思議な事に、

そう思った時、燻ぶり続けていた苛立ちが心から消えていた。


「……落ち着いたか。じゃあ俺はする事がある。

 後は春夜にでも話に付き合ってもらえばいい」


「する事? 一体何だ?」


「……あれだ」


遠鬼の視線が振られた先には……野盗達の死体があった。


「仇を取る程の付き合いじゃ無いが……

 死体を野晒しにしておくのも気が引ける。墓ぐらいは作っておきたい」


「いや、お前が戦いさえすれば死ななかった奴等だと思うんだけど」


「俺はこいつらの命にまで責任を持ってない。

 生きるも死ぬもこいつらの命で、こいつらの責任だ」


「……酷い用心棒もあったもんだ」


思わず笑ってしまった。

この天然鬼は本当に酷い奴だ。それはもう笑ってしまうくらいに。

……だけど。


「俺もさ、自分でやっておいてなんだけど……墓掘り、手伝うよ」


遠鬼流に言うならこいつらの死に俺の責任は無いんだ。

なら……墓の世話ぐらいしてもいいだろう。

死体を野晒しにしておくのは確かに気が引けるんだから。

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