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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
一章 界武
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二十八話 痛み

俺は思う。原始魔術は確かに便利だ。遠くから一方的に、

こちらの身を危険に晒さずに敵を攻撃する事が出来る。

でも……実感が無い。己が身を敵の攻撃に晒しながらも

武器をぶつけ合い、互いの武勇を競う。それこそが戦いって奴じゃないだろうか。


恐怖を克服し敵に近づき、その心理を読み攻撃を躱す。

そして急所を狙い、正確に必殺の一撃を打ち放つ。

そうやって初めて、戦闘で強くなれる。そんな気がしてる。


今さっき野盗に叩きつけた左拳から響く痛みが、俺に戦いの実感を覚えさせる。

そう、これは勝つ為の戦いじゃなく、強くなるための戦いだった。


「こいつ……! 気を付けろ! ただのガキじゃねぇ!」


狼人族を多少大人しくしたような容貌の野盗の親玉が周りへ注意を促す。

だが相手が多少警戒したからといって俺が攻撃を止める筈もない。

すぐに近くにいた二人目の野盗に飛びかかる。

太い枝を粗く削った程度の棍棒を振り上げる野盗だが、その動きが思いの外遅い。

密かに絡ませた魔術の布が空気を捕まえ棍棒を重くしており、

だからそれが振り下ろされるよりも先に俺は懐に飛び込める。


「グハッ!」


野盗がうめく。包帯できつく締めあげて作った俺の右拳が、

野盗の横腹に突き刺さった。だが、腹に一撃食らった程度で

野盗も戦意を失わない。むしろ怒りに任せて振り下ろされた棍棒は、

絡んだ布のせいで速度を落としてる筈が、俺の予想を超えて速く、鋭かった。


「ぐうっ!」


左肩から生やした魔術の腕で受け止めはしたものの、肩に伝わる衝撃に、

今度は俺がうめき声を漏らす。だが俺は止まらない。一発で駄目なら二発、

二発で駄目なら十発撃てばいい!


「ああああああっ!」


左右の拳を合計七発野盗の腹に打ち込むと、流石に我慢しきれなくなったか、

野盗は痛みに耐えかね膝をつく。そうして蹴りやすい位置に下りてきた

野盗の顎を、右膝で思いっきり跳ね上げた。


(二人目……!)


その戦果に沸いた喜びが、三人目の野盗の襲撃への反応を鈍らせた。

右から迫る長い棒にすんでの所で気付いたが、躱しきれずに右肩を掠める。

多少肉を削ったか、肩から流れ出す血。

その俺に四人目の野盗が左から迫ってきていた。







「格闘術?」


「はい、今後どんな武器を使うにしろ、

 格闘術は習っておいて腐る事はありません」


夕食後、戦う術を指導してもらおうと延老さんに話を向けると、

まずは徒手空拳での戦い方を指導してくれる、との事だった。


だが、刀や金棒を振るう相手に拳で立ち向かうっていうのも心許ない。


(というか、そんなもんで敵を倒せるもんか?

 棍棒でぶん殴った方がずっと強そうだけど……)


「えっと……腐らないって事は、延老さんも偶には使うのか?」


時間が無いって言ってるのにまず格闘術から学ぶ、なんていう遠回りな指導に、

その効果を確認したくてそんな質問を投げてみた。


「私ですか……? 今はこの通りの細腕ですので格闘はあまりしませんが、

 昔はよく使いました。実力が拮抗してくると、

 刀だけでは仕留めきれない事もありましたしな」


「へえ……でもさ、今の説明だとやっぱり最初は刀を使うんだろ?

 という事は武器使った方が強いって事じゃないのか?

 それなのに拳や蹴りを使う必要ってあるのか?」


格闘術の効果を疑問視する俺に、延老さんは笑いながら答える。


「武器の方が強い……? それは誤解ですよ。

 そりゃあ百人相手にするとなれば武器が必要でしょう。

 ですが、ただ一人を相手にするというのであれば、

 拳でも十分過ぎるのです」


そう言うと延老さんは立ち上がり、焚き火の近くの細い木に向かい、

何やら構えを取った。


「強化魔術というものがあります。主に自身の四肢を強化し、

 攻撃、耐久、速さなど、戦闘に必要な能力を向上させる、

 戦士にとって基本ともいえる魔術です」


繰り出されたのは高速の縦拳。

甲高い破裂音に近い怪音と共に打ちつけたその拳は木の幹を粉砕し、

その後漸く砕かれた事に気付いたかのようにそれまで直立していた木は

ゆっくりと斜めに傾く。それが他の木々に紛れ見えなくなってから

すぐに地響きが鳴った。

 

「こういう事です。それが鍛えられた戦士の一撃であるならば、

 武器だろうと拳だろうと関係なく……相手の命を奪います」







勿論、あの時の延老さんの縦拳にはまだ及ばない。

そもそも強化魔術とやらも俺は使えてないんだ。

それでもあれから二日間、格闘術の基礎中の基礎を指導してもらえた。


その成果を試さんとする、野盗の襲撃が予想される日の朝、

俺の右手は延老さんの手により白い帯をぐるぐると巻かれていた。


「この白いの……何だ?」


その見覚えの無い細長い布の事を聞く。


「包帯といいます。傷からの出血を止める際にきつく締めあげるのに使います。

 その用途から丈夫ですし、こうやって拳を固める為にも使えます。

 ……はい、出来ました」


延老さんが手を離せば、そこに残った俺の右手は固い拳を形作っていた。

今までただ頼りなく垂れ下がっていただけのそれが、立派な武器のように見えた。

試しに左の掌に打ちつけてみれば、バン、と少しこもった軽い音が鳴る。

思わず笑みを浮かべた俺に……。


「これで野盗をぶん殴ってやりなさい」


延老さんも嬉しそうにそう言った。


「……延老さん」


「何ですか?」


試してみたい事があった。

少なくとも、今後倒さなくてはならない敵の強さを考えれば、

それまでには絶対に達成しておきたい事が。


「次の野盗共さ……出来る限り俺一人でやる。

 俺が倒されるまでは、黙って見ててくれ」

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