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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
一章 界武
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二十三話 鋼牙 その二

野盗共が狙っていたのは人間を運ぶ旅人のようだった。

御者は老人と子供、荷台にはなんか白い小娘。遠目に分かるのはその程度だ。

荷台にいる人間を奪うための襲撃だろうか?


(まあ……その辺りの事情はどうでもいいな)


まだ鋼牙は野盗の遥か後方から様子を窺っているに留まるが、

事が起こる前に野盗の前に躍り出ておきたい。

そう、待ちに待った舞台がようやく整ったのだ。

この期に及んで鋼牙が力を振るうのを躊躇う理由はない。


「さあ急げ! あの老人が殺される前に!」


身体強化魔術にて瞬発力を劇的に強化する。

次の三歩を神速とする鋼牙の得意魔術だ。

まず一歩、野盗との距離が一気に詰まる。

二歩、最後尾にいた雑魚の背中に飛び乗って、それを踏み潰す。

三歩目で大きく飛び跳ね、期待通りの位置に着地した。


野盗に狙われた老人の方はあまり驚いていない。

それがちょっと不満だったが、野盗の親玉の方は期待通りの反応をしてくれた。


「な……だ、だ、誰だお前!?」


獰猛な笑みを浮かべ野盗を睨みつける。


「俺の事よりお前の事だよ、牧場荒らしサン」


「な、何だと?」


「お前、あの全牙を殺したっていう牧場荒らしなんだろ?」


「そ、それがどうしたって……」


今の返答で十分だとばかりにもう一度魔術を発動する。

一歩目で親玉の懐に飛び込む。間髪容れずにその両手首を掴んで腕を拘束する。

鎌鼬族にあの長い爪を使われると厄介だからだ。

二歩目は地面を蹴り上げ、飛び膝蹴りを腹に叩き込む。

勢いが付きすぎたか、そのまま二人暫し宙を舞い野盗の群れの中心に突っ込んだ。

数人の野盗がのしかかる重さに耐えかね倒れ込む。


「三歩目ェ!」


倒れていた野盗の首に足を乗せて最後の魔術を発動する。

その衝撃で足の下の首がへし折れた音がする。

鋼牙自身はその反動で元居た場所まで吹き飛ぶが、危なげなく着地した。

あまりに唐突な出来事だったからか、

野盗が自分達の親玉が殺されている事に気付くのは、

魔術の発動にて疲弊した鋼牙が荒い息を整え終えた後だった。


「俺の名は鋼牙! そいつが殺した全牙の弟だ!

 兄の仇、討たせてもらったぞ!」


鋼牙の一喝で残りの野盗はたちまち恐慌状態に陥った。

各々悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすかのように逃げていく。


(よし、これでいい。これで奴等がこの俺、

 鋼牙の武勇を広めてくれるに違いねぇ)


鋼牙は喜色を浮かべつつ逃げ惑う野盗達を見つめる。

すると、まず逃げ遅れた数人の首が跳ね飛んだ。


(あ……あれ?)


長刀を持った老人が視界の中を跳ね回る。老人が一跳ねする度に野盗の数が減り、

しばらくして血の海が出来上がった。動くものはもう何も無い……

その、老人を除いては。


「危ない所を助けて頂き、ありがとうございます」


 血濡れた刀を拭き取りつつ、老人は頭を下げた。


「お、おう……」


老人が笑っていたので、鋼牙もどうにか笑みを浮かべる。

若干引きつっていたのはこの際しょうがないが、

舐められるような真似は絶対に避けねばならない。

何故ならこの老人は、鋼牙の敵討ちのほぼ唯一の生き証人なのだ……

なってしまったのだ。

ここに至っては、この老人に敵討ちの武勇伝を広めてもらわなければ、

鋼牙の企みが全てご破算となってしまう。







「延老さんさぁ……つまりさ、今言った感じでお願いしたいわけよ……」


延老と名乗った老人に、こちらの事情を伝える。

鋼牙としては慎重に交渉しようと思っていたが、

この老人、凄まじき剣技の持ち主ではあるが、

語り口は穏やかで意外と話しやすかった。


「鋼牙殿が兄の仇を討ったことを広めて欲しい、ですか。

 とはいえ、あのような愚物が全牙殿程の剛の者を討つこと叶うと思いますか?」


当然の疑問だ。だが、今回の野盗討伐、本質はそこじゃない。


「そりゃ無理だろうけどさ。けどな、今の俺にとっちゃ敵討ちをした、

 という評判こそが必要でさ……分かる?」


「ああ、そういう事ですか」


どうやら納得がいったようだ。


「それならば、私はこれより新坂に向かいますので、

 そこで先程の鋼牙殿の大立ち回りを出来る限り広めてまいりましょう。

 それで大丈夫ですかな?」


「そうよ、それよ! いやぁ延老さん、それスゲェ助かるわ!」


「それは何よりですな」


二人は笑い合った。野盗が殺し尽くされてしまった時はどうなる事かと

思っていたが、意外とすんなり目的は達成できそうで鋼牙は気を良くした。

後は適当な社交辞令を交わしてこの場を後にしようと思ったが、

ふと見た荷台の上に、野盗の襲撃前にはいた白い少女がいない事に気が付いた。


「延老さんさぁ、荷台に乗ってた筈の奴、いなくなってるぜ」


「おや、そうですね……。界武君が念のため避難させたのでしょうか?」


「界武……?」


「一緒にいた鬼人族の少年ですよ」


「げ、鬼人族かよ……」


鬼人族は鋼牙にとって災厄だ。こちらから進んで関わり合いになりたくない。

元々ちょっと気になった程度の事なので、延老が特に気にしてないのであれば、

深く尋ねる理由もなかった。


ならばここから立ち去ろうとした鋼牙だが、不意に出てきた鬼人族の話題が、

『同族殺し』の事を思い出させた。


「鬼人族といやぁさ……最近、この辺りに『同族殺し』が現れたって話、

 知ってる?」


鋼牙的には自然に話題に出せたと思うが、延老にとってはこの話題転換、

やや唐突だったようだ。胡乱な視線を感じる。


「……はい。聞いてますけどそれが何か?」


「それなら気を付けておいた方がいいぜ。あの男、どうにも胡散くせぇ。

 もし会う事があったら気を付けるこった」


「はて、それはどうしてでしょう?」


後は簡潔に、本当の牧場荒らしは『同族殺し』ではないか、

という自分の疑念を伝えておいた。何せ鋼牙が知る全牙の強さを考慮すれば、

それぐらいしか候補がいないのだ。


「なるほど……では、もし会う事があれば、それとなく確認してみましょう」


「ありがとよ。それでさ、もし『同族殺し』が俺の牧場を荒らした

 張本人ならさ……」


「斬って捨てましょう。法に照らせばそうなりますからな」


その延老の答えに鋼牙は心中大喜びだ。


(このじいさんも、見た目にそぐわぬ武勇の持ち主だ。

 もしかしたら『同族殺し』を殺してくれるかもしれねぇ……)


そこで鋼牙は気付いた。そうだ、何も自分が手を下す必要はない。

あの鬼人族を殺せるだけの強者を探して、今の話を吹き込めばいい。


そこで思い浮かんだのは過去、兄弟二人を叩き伏せたあの役人。

あの底知れぬ強さを持つ鬼人族であれば、きっと『同族殺し』も

裁いてくれるのではないだろうか……?


「じゃあ俺は行くよ。延老さん、くれぐれもよろしく頼むよ!」


はい、という返事が後ろから聞こえるが、

鋼牙は振り向きもせずそこから立ち去る。

ここから楼京までは大急ぎで駆けたとして七日程度。

『同族殺し』が姿を隠す前に何とかして連れてこなければならない。


(鬼人族同士を殺し合わせる。どちらが死んでも俺の恨みが晴れる。

 こりゃ最高だ! ぜひとも実現させねぇとな……)

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