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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
一章 界武
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二十一話 六衛府

正直、あの少女に深入りはしたくないし、

延老さんともあまり関わりは持ちたくない。

少女については……これ以上情が移ると、もし生存の道が断たれたとなった時、

それを看過できなくなるかもしれないからだ。


そりゃあ悔しくもある。怒りも沸く。だけど普通に考えれば分かる。

今の俺にあの少女を助けるのは無理だ。

護衛が延老さんで取り寄せたのはこの国で一番偉い守護様だ。

この状況が既に詰んでる。治療役としての道を残しただけでも上出来だ。


延老さんは話しやすくはあるがそれは俺を魔族だと勘違いしてるからだ。

人間、しかも服従印が破れてると知られれば真っ先に殺されると思う。

そんな人と一緒にいても気が休まる筈もない。


そんな訳で本当ならこの二人と一緒に旅なんてしたくなかった。

だけど……あの村で魔族の子供を含めた善良そうな魔族って奴を見た後、

俺は魔族の事も人間の事ももっと知りたくなった。


多分、俺が何も知らないからあんな恐ろしい考えに至ったんだと。

魔族と人間の事をもっとよく知る事が出来たら、

きっと別の解決案に辿りつけると……そう信じたかったんだ。







「へえ……それじゃあ、延老さんの若い頃は人間の反乱があったんだ」


今年、齢七十九という延老さんの昔話は尽きる事が無く、

話はとうとう延老さんが俺と同じぐらいの歳まで遡ってしまった。

揺れる馬車の御者台で二人、傍目には祖父と孫の間で心温まる会話が

交わされているかにみえるが……。


「そうです。今も長門国で反乱が起きているそうですが、

 昔はあんなものではありませんでしたな。三国に跨り、

 至る所で人間共が暴れていたものです」


「えっと……その頃の人間は強かったのか?」


「人間の中にも戦いに長けた者達がいまして、何と言いましたか……

 とにかく、戦士とは違った呼び方をされてました。

 で、奴等は我々魔族とは強さの質が違いまして、

 集団で戦うのを得意としており、またどんな卑怯な手も厭わない相手でした」


「卑怯ねぇ……。例えば、どんな事をしてきたんだ?」


「色々ありますよ。後方の輸送隊を狙う、糧食を焼く、井戸に毒を投げ込む……

 負けたふりまでしてこちらをおびき寄せ、騙し討ちにしてきた事もありました。

 四方八方から矢を打ちかけられた時は、流石に死ぬかと思いました」


「へ、へえ……」


良くは知らないが、魔族と言えど祖父と孫との間に交わされるのは

こんな不穏当なもんじゃないだろうと思う。


(もうちょっと……何か微笑ましい感じの話題……)


そこで思い出せたのは、延老さんが気に入ってるという通り名の事だ。


「ああ、そういや延老さんの通り名って『閃刃』以外にもあったよな、確か……」


「『四代魔王の懐刀』ですな。ずっと前線で戦い続けてましたから、

 いつの間にやら左近衛中将まで官位が上がってしまったのです。

 それでこれ以上功を立てられてはたまらぬと、前線から外され

 魔王様の護衛を任されたのです。確か私が四十を過ぎた辺りでしょうか……」


「えっと……その官位って何だ?

 前に遠鬼に言ってたサエモンノスケ、とかいう奴か?」

 

「そう、それですよ。朝廷から任じられる役職と、

 その役職に比した位階の事です。遠鬼殿は従五位上左衛門佐の筈ですね。

 従五位上が位階で、左衛門佐が官職です。

 そうですね……位階が、どれくらい偉いか、という指標で、

 官職はそのまま仕事の事ですね。

 ちなみに、官位を持つ者は官位で呼び合う習わしなのですよ。

 だから遠鬼殿も本来は左衛門佐殿、と呼ばねばならないのですが……

 当人が望んでないみたいですね」


延老さんが苦笑している。

でもそうなると遠鬼はもしかしてそれなりに偉い人、なんだろうか?


「ちなみにさ、その左衛門佐ってどれくらい偉いの?」


「どれくらい……ですか?

 そういえば界武君は、六衛府、というのをご存知ですか?」


知らない、と俺が答えると、ならばそこから話しましょうと延老さん。


「朝廷には六衛府というものがあります。

 それが魔王様が束ねるこの世界の軍隊を司どっています。

 左右近衛府、左右兵衛府、そして左右の衛門府ですね」


「えっと……どうしてそれぞれ左右の府があるんだ?

 それぞれ役目が違ったりするのか?」


「役目は違いませんが、同じ作業を分担してると思って頂ければ。

 まあ左の方が若干偉いらしいですが、現場の者はあまり気にしてません。

 それにそもそも、左右があるのはどうも

 人間がそうしていた頃の名残だそうで……」


「あ、ああ……遠鬼から聞いたな。

 朝廷も幕府も全部人間の使ってた奴の流用だって」


「全部という訳ではありません。少しだけ違うのですよ」


「……そうなのか?」


「はい。人間の治世では朝廷は形骸化し、権威のみを持っていました。

 そして、幕府が統治権と兵権の両方を持っていたのです。

 ただ、このせいで人間の足並みが乱れ魔族に負けたのだと

 初代魔王様は判断なされました。そこで兵権を朝廷に取り戻し、

 形骸化していた朝廷内の六衛府という組織に軍勢を任せる事としたのです」


それからその六衛府の解説が始まった。


まず近衛府。数は少ないが質的には最高とされる、近衛軍があるそうだ。

この近衛府に勤めるのは魔族の戦士にとって最高の栄誉らしい。

ちなみに延老さんはかつて左近衛中将だったから、左近衛府で二番目に偉かった、

という事らしい。そりゃあ魔王の護衛を任されもするだろう。


次に兵衛府。ここは主に王都の守備を任される王都軍を監督する府らしい。

近衛軍よりは質的に劣るものの、数は多いらしい。

ちなみに王都軍とは言っても王都から一歩も出ないという訳ではなく、

必要に応じて遠征を行い、賊や反乱を討ち取ったりもするそうだ。


最後に衛門府。これがこの世界全土を守護する名目の魔王軍がある府だ。

ここは王都軍より更に質は劣るが、兵数は最も多いとの事。

遠鬼が所属してる所の筈だが……。


「そして、左衛門佐は左衛門府で二番目に偉い方の事ですね。

 だから王都に戻れば百を超える部下がいる筈なんですよ。

 つまり、それぐらいは遠鬼殿は偉いお方なのですね」

 

やっと俺が軽はずみに投げた質問の答えに辿り着いた。長かった……。

しかし……あの天然鬼が宮仕え? しかも部下が百人?

やっぱり信じられない。部下なんて三人程度でも持て余しそうなものだが。


だが、そこでちょっと疑問が湧いた。魔族の軍勢では、

はたして偉さはそのまま強さに直結するものなのだろうか?


「遠鬼の偉さは……何となくだけど分かったよ。

 でもさ、偉いって事がそのまま強いって事に繋がるもんなのか?」


「強さの質にもよりますな。個の武勇ではなく将として兵を率いた際の

 強さを求められる事もあります。ただまあ……個の武勇だけで

 偉くなった者もおります。遠鬼殿などは正にそれですな」


つまり、個の武勇に限るならば、遠鬼はその官位以上の強さという事なのか。

迫る勝負の行方にも興味があったので、ちょっと聞いてみる。


「それじゃあさ……遠鬼と延老さん、今はどっちが強いんだ?

 今の話を聞くに、遠鬼がいくら強くたって、

 左近衛中将までやった延老さんの方が強そうには聞こえるけど」


「う~ん……そうですな……」


戦いの事を考える時、延老さんは表情が鋭くなる。

過去の、特に厳しかった戦乱を語る延老さんの表情はかなり怖かった。

今の眼光も、その時の鋭さに勝るとも劣らない。


「先程説明した六衛府、その中の右兵衛府というのがあったでしょう。

 王都軍のある府です。その右兵衛府の長である右兵衛督殿という方がいまして、

 これが兵を率いらせても優れておりましたが、

 個の武勇でも右兵衛府で並ぶ者のない傑物であったのです」


「へえ……」


何というか、聞くだけでも魔王の軍勢というのは層が厚い。

魔王が本気になったら、やっぱり人間の反乱などあっという間に

鎮圧されてしまうのだろうかと、少し暗い気分になる。


「遠鬼殿はですね。三ヶ月ほど前でしょうか、

 王都にてその右兵衛督殿に勝負を挑み、

 自身も深手を負いつつも勝利しているのです」


「……本当に?」


「本当です」


何だそれは。延老さんが妙に遠鬼の事を褒めるのが変だと思ってたけど、

あの天然鬼、実はそんなに強かったのか。


「えっと……ちょっと待ってくれ。そんな事したら普通官位剥奪されたり、

 殺されたりしないもんなのか?」


「噂によるとその時の勝負を魔王様が観戦なされて……

 随分と遠鬼殿を気に入って官位を下賜なされたそうです。

 何分噂ですので、本当のところは新坂に着いてから遠鬼殿に

 直接聞いてみるといいでしょう」


「……分かった、そうするよ」


「そういう事なのですよ。遠鬼殿は個の武勇に限って言えば、

 兵衛府の長よりも優れているのです。私といえど遠鬼殿と戦うとなると、

 どう賽の目が転ぶか分かりません」

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