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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
一章 界武
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二十話 また新坂で

これまで見てきたのが廃屋が目立つ集落や廃村だったからだろうか、

村と呼ばれるその場所は凄く栄えているように見えた。まず廃屋が無い。

そして新しそうな家がちらほらある。さらに何と言っても魔族が多い。

というか魔族の子供、なんてのはここで初めて見た。

子供なら正直人間と何ら変わらない。むしろ可愛げすらある。


だが、荷台の上の少女を物欲しそうに眺めている魔族の子供は一応

追い払っておいた。あの視線はそういう事じゃないかもしれないが、

あんまりいい気になれない。


(子供とはいえ、人食いには違いねぇしな)


だが……あの子供も人食いとして忌み嫌っていいものなのか。

遠鬼が言うには人間の肉は高価で、今俺達がいるような貧しい村では

あまり食べられてないそうだ。ならあの子供だって今の所は多分人食いじゃない。

もしかしたら少女の可憐な見た目に惹かれて寄って来ただけかもしれない。


「なぜあの子供を追い払った?」


荷台に寄りかかって魔族の子供を眺めていた俺に届く遠鬼の声。

視線を向ければ、村をうろついていた遠鬼が戻ってきていた。

しかし……心を読めでもするんだろうか。複雑な心境の俺を問い質すかのようだ。

気味が悪かったし、どう答えようと墓穴を掘る様な気もしたんで敢えて流す。


「この額当て、通用してるな」


そう、これだけ魔族がいるなら一人ぐらいは俺が人間だと気づくかもと思ったが、

全くそんな気配はない。村に入る前まで緊張していたのが馬鹿みたいだ。


「言ったろ、鬼人族の大人が側にいる。誰も疑わん」


「つまりはだ、お前達はそんな自分達と殆ど変わらん生き物を食べて平気な訳だ」


「……そうなるな」


「やっぱそれがおかしいとか、思わないもんか」


自分でも不思議な程、この言葉に憎しみがこもらなかった。

魔族とは敵、魔族とは人食いの化け物……そう理解してる筈なのに、

今追い払った子供を含め、村にいる善良そうな魔族を憎く思えていなかった。


「そうなってもう百年近く経つ。今更な話だ」


「……そっか」


一度それが常識になってしまえば、それが傍目にはどんなに奇怪であっても

疑問には思われないという事か。

もうこうなったら、たとえ魔王を倒せたとしても、

魔族は人を食うのを止めようなんて思わないだろう。


(なら、人が食べられない世界にするには……

 魔族を殺し尽くすしかないのか? ……あの子供も含めてだ)


ゾッとする。そうなってしまえば、人間は今俺が敵視する魔族とどう違うのか。

いや、もしかして……長門国で起きているという反乱では、今俺が思ったように、

人間が魔族を殺し尽くしているっていうのか。


(違う! 俺が望んでる人間が食べられない世界ってのは、そんなんじゃ……)


たまらなくなって荷台の上にいる少女を見た。

共感か……それとも救いを求めてか、それは分からない。

だけど無性に誰かに笑いかけて欲しかった。

するとすぐに少女と目が合う。

どうやら思い悩む俺を後ろでずっと見守っていたようだ。

急に向けられた視線に驚いたような顔をするが、少女はすぐに笑いかけてくれた。

やっぱり喋る事が出来ないんだろうが、それでもその目を見れば

思ってる事は大体分かる……気がする。


(こんな優しい子を……場合によっちゃ本当に殺して食べてしまうのか)


「なあ……遠鬼」


「どうした?」


念のために辺りを見渡すが、延老さんはまだ帰ってきていない。

情報と糧食を仕入れてくるといって出掛けてそのままだ。


「お前がいるから俺が鬼人族の子供だと思われるって言ってたよな」


「言った」


「なら延老さん……竜人族の大人の側にいてもそう思われるもんか?」


「まあ……問題ないだろう」


「そっか……ならそっちの方がいいな」


どうやら種族問わず、魔族の大人が側にいれば疑われにくいとの事だ。

それなら……もうちょっとあの少女を見守ってもいいだろう。


「何がそっちの方がいいんだ?」


俺の考えてる事が分からないのか遠鬼が聞いてくる。

どうやら心を読まれてる訳ではなかったらしい。

少し安堵しつつ俺は答えた。


「お前といると調子が狂うからな。そろそろ離れようと思ってたんだよ」







「新坂の繁華街にあざみ屋という宿があります。

 大きな風呂がありましてね、お勧めですよ。

 延老からの紹介と言えば部屋を用意してくれると思います」


「助かる」


「ではまた新坂で」


「ああ」


延老と遠鬼が別れの挨拶を交わす。

次に会ったら殺し合うやもしれないというのに、今の挨拶など友人とのそれだ。


(呑気なもんだ……)


俺が呆れていると、遠鬼が何を考えてるのかよく分からない表情で

俺の方を見てきた。


「何だよ……」


遠鬼は何も言わない。ただ、何となく困ったような、呆れたような……

そんな表情に変わって、それから背を向けて歩いて行った。

俺は遠鬼の背負っている金棒を何となく見つめていた。

延老さんの使っている長刀とは好対照と言えばいいのか。

長刀は繊細で美しく、匠の拵えた業物のように見えるのに対し、

金棒は雑で粗野、材料さえあれば誰でも作れそうだ。


(……結局どっちが勝つんだか、あの二人)


そう思いながら遠鬼を見送った。







俺は延老さんと一緒に新坂に行くことにした。

少女をもう少し見守っていたい、という思いの他にも、

延老さんが斬る予定の野盗の中に、本当にあの牧場を襲った犯人がいた場合、

事件の詳細を聞く機会を逃す懸念もあったし、

伝えた通りに遠鬼から少し離れたいという気持ちもあった。


ただ、本来の目的は隠した方がいいかと思った俺は、

延老さんにはこう言ってみた。


「もうちょっと強くなりたいんで野盗討伐手伝わせてくれ」


その言葉を聞いた延老さんは思わず吹き出していた。

……一体何が面白かったのか。分からない。


それはともかく、延老さんは笑いながら同行を許してくれた。

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