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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
二章 羽膳
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百七十九話 頑丈

これが最後の攻防となる……。

そうと覚悟して気が逸ったか、

今まで受けに徹していた岩童までも俺と同時に前に出る。


俺はこれまでと同じく両腕を胸の高さに上げたまま飛び込むように、

そして岩童は前に踏み出したと同時に旗を大きく振り上げる。

その後に来るのは大振りの振り下ろしだろうか……。

もう避ける余力すらないと見たか、まさかの大技を選んできた。


「いくぞ界武っ!」


そう言うや岩童は俺がまだその攻撃間合いに届かぬ内から旗を振り下ろした。


「何をっ……!?」


しようというのか……最後まで言う間もなく旗は地面に叩き付けられ

バキリという激しい音と共に真ん中からへし折れた。


折れた旗の上半分が縦回転しながら飛んで来る。


(折った旗を飛び道具として使うつもりだったのか……?)


そりゃあ当たれば痛いだろうがこんなものは強化してなくても

躱すのは難しくない。だからと構えを崩さずに横に跳んでそれを躱したが……


(いや……違う! 岩童、奴は……!)


短くなった旗を剣のように持ち替えて中段に構え直していた。

つまりは……もう片腕では扱いきれぬと判断して武器を短くしたんだ。


「これなら当てられるっ!」


岩童はさらに一歩踏み込む。

そして左手を大きく伸ばしてその木剣を縦一閃に振り下ろす……!


そう、あの短さになれば岩童の剛腕ならば片腕だけで軽々と振り回せるのだ。

この最後の最後まで温存し続けた岩童の奥の手は、

槍から剣への武器の切り替えだった。


(避けるのは……無理かっ!)


予想外のその攻撃がなかなかに鋭い。

早々に回避を諦めた俺は背中から二本の魔術の腕を生やしては頭上で十字に組む。


「上等だ岩童っ!」


受けるしかない……そう覚悟して木剣が振り下ろされる先へと思いっきり突っ込んだ。


背中にのしかかられるような重圧……たまらずに膝を付く。

このまま腰まで地に付いてしまえば、そこで俺の負けだろうか。

だけど大丈夫……覚悟はしてきた。こちらの奥の手を使うまでには、

多分一度はその攻撃を受ける事になるだろうと。


「うおおおおっ!」


これが最後だと自分の足に言い聞かせ、残った力を開放する。

そして無理矢理に膝を引き上げては更に自分の身体を前に押し出す。


木剣はその力で押し上げられ、岩童の懐へと続く小さな道が開けた。

その小さな活路に転がり込むように身体を押し入れて……

そして、遂に俺は岩童の懐深くへと潜り込んだ。


「界武ぅ!」


まさか最後の最後に力で押し切られるとは思ってなかったのか、

岩童は驚愕していた。

だがそれも一瞬……すぐに戦意を取り戻した岩童は

今度はもう鞭としてしか使い道のない右腕を振り回し俺を追い払おうとする。


「そっちの攻撃も分かってんだよっ!」


あの右腕による鞭打を二度受けた。

一度はまさか砕かれた腕を攻撃に使うと思わなかったが故の油断からで、

二度目は渾身の一撃を受けられた後の硬直を狙われたから。

そのどれにも該当しないこの状況……

加えてこの鞭打が来ると分かっているのならだ、それを避けるのも容易。


最後の強化魔術……それをこの一瞬の僅かな加速に使う。

それで俺は右手の一撃を潜り抜け……岩童の股の間を駆け抜けた。


「なっ!?」


岩童は俺が懐に潜り込んだのを攻撃を当てる為だと思ったんだろう。

まさか股を潜って背後に回るとは思ってなかったが故の動揺。


「岩童……お前は俺の攻撃を耐えきったっ!

 だからなぁ……俺は普通の攻撃を通すのは諦めたっ!」


足指や脛も急所といっていい……。

それらへの執拗な連撃すらも耐えきった岩童だ。

多分、股座に拳を打ち込もうが耐えきるだろうと確信していた。


「だからこれから使うは搦め手……

 お前がどんなに頑丈だろうと通用する一撃だっ!」


魔術の腕を岩童の背中に張り付けて跳び上がる。

後は岩童の尻に足をかけては一気にその背を駆け上った。

俺が最後の一撃を当てる場所に選んだのは……岩童の後ろ首。

そこに暗く輝く……鹿野戸さんの服従印だ。


砕けた左手は拳を作るのは無理だけど……親指と人差し指を僅かに動かして

何かをつまむぐらいは出来るんだ。

そうして懐からつまみ出したのは石英さんから預かった破壊印。


「岩童っ……どんだけ痛くても死ぬなよっ!」

「まさかっ……!?」


自分の後ろ首に麻布が張り付いたその触感で俺の狙いが分かったのか、

岩童は慌てて木剣で自分の背中もろとも俺を叩き潰そうとする。


だが……その剣は俺の右手が破壊印に添えられるより僅かに遅かった。


「食らえっ!」


動かせない右手ではあるが、魔力を放つ事ぐらいはそれでも出来る。

俺はその右手から破壊印へと、最後に残った魔力を一気に流し込んだ。







頑丈さにかけては今まで俺が戦った中でも随一であろう岩童、

そんな強敵への最後の一撃に俺が選んだのは、

奇しくも岩童の姉である石英が託してくれた破壊印を使った

服従印の破壊だった。


「ぐああががああっ!」


言葉にならぬ悲鳴を上げて、岩童が跪く。

服従印が破壊される事による衝撃は、

鍛え上げた魔族だろうと三割でその命を奪う程に苛烈なものであるらしい。

実際に、魔力量では俺のずっと上を行っていた厳容ですら

この一撃に昏倒している。


岩童の後ろ首から溢れるは、やはり赤黒く禍々しい光。

服従印が破壊されている証。


(勝った……!)


その光景に勝利を信じたか力が緩み、俺は暴れる岩童の背から振り落とされた。


「おっと……!」


地に足を付く。そのまま尻餅を付きそうになったが

何かに寄り掛かる事が出来たんでどうにか立ったままでいられた。


(なんだ……これ?)


無意識に体重を預けたそれが何かと見れば、半透明の三角柱……。


(ああ、魔力のおむすび……)


鹿野戸さんからの魔力の流れを屈折させる為にと

ずっと維持してきた原始魔術の物体がそこにはあった。


(そりゃあそうだよな、コイツがあったから俺はこうやって動けてたんだ)


「ありがとよ……」


自分で作ったものとはいえ、この戦いの間ずっと俺を守ってくれていた

この三角柱に小さく感謝する。


そうして未だ苦しみ足掻いている岩童の方を見た。


「か……界武ぅ……!」


驚いた事に、まだ岩童は意識を失ってはいない。

服従印が破壊された衝撃に泡を吐き転がりながらも、

それでも俺の名前を口にしていた。


「ま……さか……」


驚いた。その痛みは死をも招きかねない壮絶なものだと聞く。

醜態を晒しながらもそれに耐えて耐えて、耐え抜いている岩童……その眼からは。


「まだ……戦意が……あるのか」


戦意が完全に消えてはいなかった。

いっそ昏倒した方がずっと楽だろうに、岩童は堪えているんだ。

戦いを……諦めちゃあいないんだ。


そうやって何度のたうち回ったのか……岩童の瞳に理性の火が再度灯る。


……耐えきったんだ。


「まだ……まだだ、界武……」


そして立ち上がろうとする岩童。

勿論これで立ち上がられたら俺の負けだ。

何故なら俺はさっきからずっと酷い頭痛と吐き気に苦しめられていた。

今まで何度も感じてきたこれは、魔力が欠乏した際によくある症状だ。

つまりは……今の俺は魔力のおむすびを維持するだけで精一杯。

とてもじゃないが戦いを続けられる状態にない。


「どんだけ……頑丈なんだよ……」


岩童への怖れと敬意をこめて、俺はそう呟く。


そうしている間にも岩童は上体を起こし、

そして膝立ちに……一呼吸入れてからはゆらゆらと立ち上がる。


(不味い……駄目か、駄目なのか……!?)


今の俺は祈る事しか出来ない。

もうこれ以上は無いんだ、俺は全てを出し切ったんだ。

だからこれを放置すれば負けると分かってはいたけれど、

俺はその岩童の姿を眺めるしかなかった。


「俺の……勝ち……みてぇだな……」


立ち上がる事を阻止出来ない俺を見て、岩童は自分の勝利を確信した。

だが……その時だ。


岩童の様子が急変する。


「え……ぐ、あああっ……いてぇ、いてぇええああああ!」


折角立ち上がったというのに、

岩童はそう叫んでは再度膝を付き右肩を押さえて絶叫する。


服従印を破壊された際のにも勝るとも劣らない痛みが再度岩童を襲っているんだ。

その痛みの正体は……。


(破壊された……右腕か……)


そういえば岩童自身が言っていた。

再度遠鬼と戦う為、右手の痛みを誤魔化す為にあの服従印はあったんだと。

そしてその服従印が壊された今……

ついさっき動かなくなるまで酷使したその右腕が発する痛みは相当なものだろう。


「ち……畜生、こんな痛み……!」


それでも岩童は耐えようとする。歯が砕けんばかりに食いしばり、

血走った目で俺を睨みながらまだ腰を上げようとする。


そしてそこで……更なる違和感に気付く。


「か、体が……動かねぇ……」


膝立ちの状態から、凍り付いたように身体が動かない岩童。

それを見た俺はまだ俺に勝ちの目が残っていた事に気付く。


「岩童っ……今お前を縛ってるのが鹿野戸さんの拘束魔術だ!

 今まではなぁ、鹿野戸さんの服従印があったから普通に動けてたんだよ!

 それが壊れた今……動きたいんなら魔力の霧で体を包むしかねぇぞ!」


鹿野戸さんの拘束魔術は対象を選んで効果を発動する事が出来ない。

これは延老さんが鹿野戸さんとの戦いで気付いた事だ。

一度その魔術の対象となってしまえば、

鹿野戸さんの魔力が届く範囲の誰もがその影響を受けてしまう。


鹿野戸さんに従う仲間や子供達は服従印のお陰でそれを回避出来るらしいけど、

その加護が剝がれてしまった岩童は、

今や小指を動かすのにすら魔力を必要とする。


「霧か……畜生……あの先生サマもひでぇ魔術を使いやがる!」


悪態をつきながらも魔力の霧を発動したか、

凍り付いたかのようだった岩童の身体はじわじわと動き出す。


そうしてどうにか立ち上がりはした岩童ではあったが……

ここまで来ると流石の岩童も自身の状況を理解したからか

その眼からは戦意が無くなっていた。


「……魔力の霧を維持するだけで手一杯か?」


「どうやら……そうらしい……」


お互いに、これ以上戦うのは無理という所まで追い込まれてしまっていた。

岩童は悔しそうに眼を逸らし、鹿野戸さんが立ち去った先の屋敷の門を見た。


「服従印……もう一度刻んでもらわねぇとな」


そう呟くとボロボロの身体を引きずるように門の方へと歩く。


「界武……勝負、預けとくぞ」


「……おう」


俺も岩童に負けず劣らずのボロボロの身体を魔力のおむすびに預けながら、

岩童の去り行く姿をただ眺めていた。







「羽膳の奴……今何処で何やってんだ……!」


結局羽膳は守護屋敷に姿を見せなかった。

だからとそんな愚痴を吐きながらも俺は何となく気付いていた。


(羽膳は羽膳で……誰かと戦ってんだろうな)


それが誰かは分からないが、

そうであるなら次に俺のやるべき事は決まっている。


「協力するって……事だったしなぁ」


そうしてため息一つついてから、

俺は岩童を真似るかのように屋敷の門へと向かって行った。

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