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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
二章 羽膳
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百六十七話 連携

「一つ……聞きたい事がある」


強かに蹴られた頬を撫でつつ羽膳は速やかに立ち上がり言った。


鋼牙は勿論手加減などしてはいない。

だから先の飛び蹴りの威力は凄まじく、

羽膳は折角入った路地から追い出されんばかりに蹴り飛ばされたのだ。


とっさに使った強化魔術が戦闘不能に追い込まれるのは防いだものの、

不意打ち気味に入った一撃は意識を失いかねない危険なものだった。


(回復する時間を……稼がないと)


かろうじて残った意識にはただそれだけが強く刻まれていた。

だから羽膳は痛みを隠してそう聞かざるを得なかったのだ。


「何だよ? わりぃけどテメェが聞きたそうな話はしてやれねぇぞ。

 許可されてねぇ……」


その羽膳の試みは成功した。

思ったよりも今の蹴りが効いていないと見た鋼牙は

追撃を諦めて話に付き合う事としたのだ。


(助かった……のか? しかし……許可ときたか)


咄嗟の事であったから何を話すかまでは決めてはいなかった。

だから鋼牙の言葉を頼りに会話を続ける。


「……俺は勿論服従印を刻まれた事など無いから分からないが、

 それを刻まれると何をするにも許可が必要になるのか?」


それぐらいなら、と思ったか鋼牙は下顎に生える毛を撫でながら答えた。


「許可っていうかなぁ……命令だよ、命令。

 アイツに余計な事は喋るなと命令されてんだ。

 そしてこれが刻まれたらもうその命令に逆らう事なんて出来ねぇ」


服従印が刻まれた後ろ首に撫でる手を移して、

鋼牙は更に言葉を続ける。


「今のもそうだ。俺自身の意識はある。刻まれる前の記憶も残ってる。

 だから……本当はテメェを蹴り飛ばすなんてする気はねぇんだけどな。

 だけどやっちまった」


「そう、命令されたからか?」


「そうだよ」


「……厄介だな」


「違いねぇわ。牧場の人間達にちょっとだけ同情したよ」


牧場の管理をしていた鋼牙なりに今の境遇に思う所があったのだろうか、

普段はまず聞けぬであろう言葉が飛び出てきた。


(同情……か)


羽膳はあの子供達にそのような感情を持った事は無かった。

だが……確かに同情に値する悲惨な境遇ではあるのかもしれない。


(まあ……その辺りの話は後だな。そして……)


そんな事を考えられる程度には意識も回復してきた。

つまりは、今の自分の置かれた状況もしっかり認識出来たのだ。


(……もう敵地と呼んでいい新坂の町で、

 右翼を封じられ、拘束魔術のせいでただ動くにも体力魔力が削り取られる。

 そしてここにいない界武も、同じような状況だと考えていいだろうな)


……酷いものだと思う。戦況は最悪の一言であり、援軍も期待できない。

だが羽膳にとってはこの窮地が逆にありがたかった。


(幸いな事に活路が一つしか残されていない。

 つまりは……難しい事を考える必要はない。ただ一つに集中すればいい……)


「俺も……お前に同情する訳ではないがな……鋼牙」


「何だ?」


「手加減は出来ない……お前を倒して先に進む。悪く思うな」


そう言うと羽膳はゆっくりと鋼牙の方へと歩を進める。

その眼差しにはもう一分の油断も無い。

敵に操られているだけの哀れな同僚ではあるが、

それでもそれを倒さねば先に進めないのなら、そのようにするまでだと……

そう視線で鋼牙に伝えていた。


「ハッ……笑えねぇなぁ。まさかテメェ……

 この期に及んで勝つ気でいんのかよ?」


鋼牙の言葉にも一理ある。

普段ならばともかく、ここまで不利な状況でも勝ちを宣言できるほど

鋼牙は容易い相手ではない。


「……試してみればいい。侍所所司代というのはな、

 この程度でお前に膝を付くほど惰弱な者には務まらんのだ」


だが……こう返せるだけの矜持が羽膳にはあるのだ。

当然、鋼牙の方へと進む歩みが止まる事は無い。


「……あの衛蒼の奴ならともかくなぁ!

 今のテメェ程度なら俺でもどうとでもなるんだよっ!」


羽膳の挑発に素直にのった鋼牙はそう叫ぶと深く屈みこんだ。


「まず……一歩目!」


その掛け声と共に、先の不意打ちよりも更に速く羽膳へと跳びかかる。


(……速い!)


その速さには確かに驚愕した。

なるほど鋼牙はただのならず者ではないのだろう。

脚力を極端に強化して機動力と攻撃力を跳ね上げる強化魔術の妙技、

使える者はそう多くはない。


(だが……虎鎧の突進程じゃない)


この手の突進は相手の攻め気を逸らしてしまえばどうという事は無いと、

虎鎧との模擬戦で嫌というほど学んだ羽膳だった。


だから鋼牙の突進に勝るとも劣らない速度で羽膳も鋼牙の懐に飛び込む。


「なっ……!」


その反応は予想してなかったか、

鋼牙は慌てて身体を逸らし羽膳の体当たりを避けた。

当然そんな突進が攻撃に繋がる筈もなく、

羽膳と鋼牙は互いに立ち位置を取り換えただけに終わる。


「くっ……二歩目ェ!」


魔術を再発動して無理矢理の切り返し。

鋼牙は行き違うだけに終わった羽膳の背後を再度襲う。


「分かりやすいなぁ鋼牙!」


落葉ならばこういう時にこんなに読みやすい切り返しなどはしない。

こうやって機先を制されてもあの手この手で翻弄してきたものだ。


鋼牙が羽膳の背を貫かんと放った手刀は空中で止まる。

青い魔力の壁がその攻撃を通さなかったからだ。


「防壁の魔術だ!」


その空中で止まった鋼牙の右腕を右後ろ回し蹴りで払う。

そして振り向いたと同時の左回し蹴りで鋼牙の胴を蹴り抜く。


鈍い音が響く……だが、拘束魔術で力を制限された蹴りでは

鋼牙の巨体を蹴り飛ばすまでは行かなかった。


「があっ……さ、三歩目ェ!」


蹴りの衝撃にふらつきながらも、鋼牙はその三歩目で地を踏み鳴らし

無理矢理に体勢を立て直す。


「うらああああああっ!」


そして足を止めての右、左、右と続く三連爪撃で羽膳の胴を切り裂こうとした。


(花南の連撃は、三回ぽっちで終わった事などないぞ!)


模擬戦では七、八回は拳が飛んできたものだ。

それを受け続けた羽膳にとってはこの三連撃はさながら児戯だ。

軽々と回避しては隙だらけの腹に狙いを定める。


「はあっ!」


強かに膝蹴りを打ち込む。

いくら頑丈な狼人族であってもこの一撃に悶絶せぬ訳にはいかない。

たまらず腹を押さえてしゃがみ込む鋼牙、

その頭が蹴るのに丁度いい高さに来た。


「許せよっ!」


頭を大きく揺らす回し蹴り、その一閃で鋼牙の意識を刈り取る。

そのつもりで蹴り足を振り上げようとしたその時、

鋼牙の頭の更にその後ろ……

路地の隅の方に巨大な弓を引き絞る人影が見えた気がした。


(あれはっ!)


射貫かれた右翼がじくりと痛む。

あれと同じ攻撃が来るのだと羽膳に告げたのだ。


「ぐうっ!」


鋼牙の頭を蹴るつもりで上げた右足を、大きく真上へと振り上げる。

その反動で上体を無理矢理に逸らし、どうにか頭を狙って放たれた矢を躱す。

大きく上体を逸らせたその視界を凶悪な形をした矢尻を持つ矢が

風切り音響かせながら通り過ぎるのを羽膳は見た。


その迫力に肝を冷やしながらもそのまま後方宙返りで距離を稼ぐ。

そして羽膳が見たのは……人間の青年らしき何者かだ。

それが鋼牙の遥か後ろでその身丈ほどの大弓を構えている。


(あの距離からこの精度で矢を射れるのか……!)


その技量に驚愕しつつその男を睨みつける。


「ぐっ……凪のダンナ、助太刀すまねぇ」


膝蹴りの衝撃からどうにか立ち直った鋼牙のその言葉に、

羽膳はその人間の名前を知った。


「ナギ……お前が俺の翼を射抜いたのだな!?」


凪と呼ばれた男はそんな羽膳の言葉を無視し、

蔑むような視線を鋼牙に送る。


「あれだけの怪我を負った後なら一人でどうにかなる、

 そういった筈だがな、鋼牙!?」


それは仲間に掛けるような言葉には聞こえなかった。

服従印で操る魔族なぞしつけのなってない猟犬程度にしか考えていない。

羽膳にそんな風に聞こえてしまう程に冷たい声だった。


「そう……思ってたんだがなぁ。

 コイツは……強ぇわ、俺一人じゃ勝てねぇ。

 手を貸してくれよ……頼む!」


本来の鋼牙であれば人間からあのような声をかけられたら

激高しようものだろうが、

今回はそういう事にはならずに素直に助力を頼んでいる。

……そこには、絶対的な上下関係が垣間見えた。


(なるほどこれが服従印か……確かに、厄介だな)


これでは仲違いも期待出来ないだろう。

つまりは、今からこの二人がちゃんと連携して羽膳を襲う……

そういう展開が続くという事なのだ。


「鋼牙、お前は攪乱に徹しろ!

 そして勿論その毛人を私の側へと近づけるなよ!」


次の矢を番えつつも凪が命令する。


「了解了解ィ!」


鋼牙は四つん這いになるまで体勢を低く構えて羽膳を睨む。

恐らくは凪の射線を塞がぬようにとの心配りからだろう。

急造の二人組だろうが、意思疎通はしっかりと取れているのが分かる。


二人相手にどう戦うか、その作戦を練る間もなく

鋼牙が羽膳の足元目掛けて四つん這いのまま突っ込んでくる。


(先と同じ手は当然警戒されているだろう……ならば、跳んで躱す!)


軽やかに跳んでその突撃を躱すが、その羽膳を狙って弓を引く男がいるのだ。


(左翼だけになるが……それでも、あの矢なら風で逸らせて回避出来る……!)


そう考えて左翼を広げた羽膳、

その目に映る凪の放った矢は……矢尻が青く輝いていた。


「武装強化っ……!」


魔術で強化された矢を逸らせるのは無理だという直感に従い、

飛行魔術に使う筈だった魔力を目の前に作った防壁に流し込む。

防壁は破壊寸前と思わしき大きな亀裂を作りはしたが、

どうにかその一撃を耐えきった。


だがそれでもここで安堵は出来ない。

跳んだからには降りねばならず、その降り立つ先には鋼牙が待ち受けている。


咄嗟に使える魔力は使い切っている。

だから羽膳はその爪撃を格闘術でいなそうと試みた。

だが……。


着地したばかりの不安定な体勢に、相変わらず動きを縛り続ける拘束魔術。

その二つが重なったからか爪撃を蹴り返そうと上げた足は

鋼牙の腕には届かなかった。


「うぅっ……!」


羽膳の左翼……その前腕部分に四本の裂傷が刻まれる。

……傷は深く、流れ出す血がたちまちに羽膳の左翼を濡らす。


両翼が、封じられた。

その事実に湧き上がる敗北の予感に、羽膳は顔を歪めるしかなかった。

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