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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
二章 羽膳
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百五十六話 操り人形

十余名の子供達に石英さん、それに俺と月陽に遠鬼……

それと、何故かここから動こうとしない羽膳の奴。

隠れ家も全て壊れてしまっている事もあり、

この人数が落ち着ける場所がもうこの近隣には存在しないので

俺達は遠鬼と『山嶽王』の戦ったこの場所で一夜を明かす事となった。


晩夏に差し掛かろうかという時期ではあるからか

別に屋外だからと凍えるという事は無いのだがそれでも少し肌寒い。

それで子供達などはすでに火の消えた焚き木を囲み

肌を寄せ合って眠っている。

殆ど巻き込まれただけとはいえ、

今日はこの子達にとっても大変な一日だったからか

皆ぐっすりといった塩梅だった。


そこから少し離れてまた別の焚き木の側には遠鬼がいる。

かなり前から座ったまま微動だにしていないが、

あれは多分深く眠りこけているんだと思う。

そして月陽はその隣で遠鬼の膝……というか腿を枕に寝息を立てている。

……月陽はよくああして遠鬼の膝枕を使って眠っているけども、

正直あの足は殆ど筋肉で構成されてて岩と変わらずの固さの筈だ。

よくもあれを枕に眠っていられるものだと思ったりもする。


(……まだ俺の足の方が柔らかいと思うんだけど)


そう思って自分の腿を撫でてみたが確かに柔らかい。

勿論自分では試せないが、こっちの膝枕の方が寝心地がいいと……。


(……いや、そんな事はどうでもいいよな。

 月陽があれでいいってんなら、あれでいいんだろう)


どうしようもなくくだらない事で遠鬼と張り合おうとしていた。

それと気付いて慌ててそのくだらない考えを振り捨てた。


……遠鬼は戦いで、そして月陽は治癒魔術で、

それぞれ相当疲れてるだろうから今夜はこのままゆっくり休んでもらおう。

そうしよう。


とにかく、そんな感じで今夜は皆疲れ切っている訳だから、

俺と石英さん……それに羽膳の奴は

その二つの焚き木から少し離れた場所にもう一つ火を熾し、

今後の相談を小声で交わしているというわけだ。







「もう一度言っておくけどな……

 石英さんとあの子供達を捕まえる云々の話は無しだぞ」


この相談が始まってもう何度目かの言葉だろうか。

時折羽膳の言葉に含まれる刺々しさを感じる度に

俺はこうやって念押ししている。


「……それを決めるのは俺ではない。

 衛蒼様か、もしくはここ丹波国守護である厳容様がお決めになられる」


この場に限っては自分一人が異物であるのだと頑なに認めようとしない羽膳が、

こうして石英さん達をひっ捕らえる気満々だったからだ。


「やっぱりそれか……!

 だから、もう皆鹿野戸さんの手を離れたんだ。

 これ以上揉め事を起こす事は……!」


「あの……界武さん、羽膳さん」


「……何だよ、石英さん?」


済まなそうな表情で俺に少し頭を下げた後、石英さんは言葉を続けた。


「私はそもそも先生の企てに加担すると決めた時に

 命を捨てる覚悟はしております。

 ですから……私に関してはどんな処罰も受けます」


「いやあのさ、石英さん……」


「いいのですよ、界武さん。

 ただ……それでも、あの子供達には何の咎もありません。

 そして先生の魔術の対象にされている以上は食べる事も出来ません。

 ですから……せめて、あの子達は天寿を全うさせて欲しいのです」


「……それも同じだ。衛蒼様か厳容様が判断なされる」


取り付く島もない。その頑固さに苛立ちは募るが、少し気になる事はあった。


(……コイツ、石英さん達を許す気は無いという態度だけども、

 処刑にするとかは言わねぇんだよなぁ)


自分には権限が無いから偉い人の判断を仰ぐ……

話が石英さん達の罪に及ぶと、羽膳の奴は常にこう言って自分の考えを

明言するのは避けている。


最大限好意的に解釈すれば、

羽膳も『山嶽王』の為にと頑張ってきた石英さん達に重い罪を科すのは

心情的によく思っていないのかもしれない。

だが羽膳の立場的にはそんな事は言えないのも確かだ。


(……その辺りを突けば、もうちょっと態度を軟化出来ないか?)


まあ、それも無理ならもう一度力に訴えるまでだ。


(どの道、コイツとはいつか決着付けなきゃいけないんだしな)


この場で羽膳を説得する必要が無い。

そう思えれば少しは気が楽になるってものだ。


「そう言うなら羽膳、ちょっと聞いてみるけど……」


「何だ?」


「その偉い人達が石英さん達を許してくれる事があるとすれば、

 それはいったい何が起きた時だ?

 もっと言うなら……石英さん達が何をすればお咎めなしになる?」


「それは……」


考え込む羽膳。

ここでちゃんと考える辺り、

羽膳にも説得の余地があるという事なのだろう。


「お咎めなしなど有り得ると思うか?

 反逆に加担し、あろうことか守護様を襲撃までしているのだ。

 言いたくはないがどう考えても極刑は免れん」


「そこだよ、羽膳」


「……そこ? 何の事だ」


「お前はどうして極刑が免れないと言いたくないんだ?」


分かりやすい。

それを聞いた羽膳はしまったという表情の下半分を

その黒い翼で慌てて隠していた。


「お前も心情的には極刑を科す必要はないと考えてるんじゃないか?

 だけどまぁ……そりゃあそうだよな。

 お前の立場じゃあそうは口外出来ないよなぁ」


少し挑発するように言った。

俺はそうやって羽膳の感情を引き出そうと考えたんだ。


「もしそうだとしてもだ!

 極刑を免れないのは確かだ!

 この者が何もしていないというのならまだしも、

 実際に守護様を襲撃しているではないか……!」


それだけ言って羽膳はそっぽを向いてしまった。本当に分かりやすい奴だ。

そして羽膳の中では、石英さんが守護を襲撃した事実がどうしても

引っかかってしまっているらしい。


その辺は適当に『山嶽王』に全ての罪を擦り付けてしまえないものか。

そんな風にも考えたがこれは流石に石英さんも首を縦に振るまい。


(じゃあそうなると、守護襲撃の罪を軽くするような何かがあれば、

 石英さんを庇う事が出来るんだろうか)


……そういえば、その守護襲撃事件。

俺達もその現場に遭遇して犠牲者の墓を作っている訳だから、

全くの無関係、という訳じゃあない。


そして、何より……。


(あの時、どうしても気になる事があったんだよなぁ)


丁度いい機会かもしれない。

あの事件の全ての真相を知っている石英さんがここにいて、

俺の聞いた事なら全て答えてくれると言っているんだ。

あの時疑問に思った事を聞いてしまおうと思った。


ただ羽膳にも聞かせてしまうのはいいのか悪いのか、これが分からない。

それでも今更コイツの耳を塞ぐのも難しいのは確かだけど。


(軽く聞いた分には、

 コイツの上司がここに来るまでは動く気は無いっぽいからなぁ)


『山嶽王』を討伐する為に羽膳の上司がここに来る予定となっているそうだ。

その『山嶽王』も遠鬼が倒してしまったから無駄足には違いないが、

それでも羽膳はその報告を上司である衛蒼って人にいち早く届ける事よりも

俺達から目を離さない事を重要視しているらしい。迷惑な話だ。


「……そういえばさ、石英さん」


そっぽを向いてしまった羽膳を放っておいて、

俺は石英さんの方を向いて聞く。


「何ですか、界武さん」


「羽膳が言ってる守護を襲撃した件なんだけど……

 ちょっと気になった事があったんで教えて欲しいんだ」


「……はい。何なりと」


神妙にそう答えて、石英さんは少し長く目を閉じた。

そして何を聞かれてもしっかり答えますと態度で示したかったのか、

真剣な面持ちで俺を見つめる。


「ありがとう。じゃあさ、

 いきなり一番聞きたい事を聞いちゃうんだけど……」


「はい、何でしょうか?」


「どうしてさ、守護をわざと逃がしたりしたんだ?」







何でも答える気だった石英さんも、こう聞かれるとは思ってなかったか。

答えがすぐに返ってこない……。

普段は細めのその瞳が大きく見開いたまま、俺をじっと見つめている。


「わざと……!? おい、どういう事だ界武!」


逆にうるさくなったのが羽膳だ。

今は俺と石英さんが話しているというのに、

空気も読まずに耳元で騒いでくる。


「うるっせぇなぁ……。その襲撃の現場をな、

 俺達は見てきてるんだよ」


黙りそうにないんでしょうがなく、

あの時気になった事について羽膳にかいつまんで説明しておく。


遺体の状態から二通りの殺され方をしたと推測されたあの襲撃の犠牲者。

『山嶽王』の攻撃に子供の爆発と、やり過ぎなぐらいに手段を尽くされていた。

だというのに肝心の守護を逃がすというのはだ、

わざとでなければあまりに雑な襲撃ではなかったかと。

それが俺と遠鬼の考えだった。


「お前もあの戦いの一部始終を見てただろ?

 『山嶽王』はもう滅茶苦茶に強い……強かった。

 だというのに守護の襲撃を失敗したっていうのはさ、

 考えにくいと思わねぇのか?」


「いや……確かに。でも、それは……そうなると……」


その俺達の予想は羽膳にとっても説得力があるらしかった。

言われてみれば、という感じでぶつぶつと独り言を繰り返している。


「でさ……どうなのさ、石英さん?」


そこでようやく石英さんが返事をする。


「界武さんの仰る通りです。

 私達は守護様をわざと見逃しました。

 というか……そもそもあの襲撃は、

 守護様を殺めるためのものではなかったのです」


好き好んで反逆に参加した石英さんじゃない。

それにあの襲撃では石英さんの下にいた子供達も犠牲になっている。

あの襲撃の惨状を思ってか、

罪悪感に目を伏せながらも石英さんは澱まずに答える。


「殺めるためのものじゃないってなると、

 怪我をさせるのが目的だったって……いうのか?」


「……それも、違います」


じゃあ何だというのか。

一体どういう目的であんな中途半端な襲撃をしたというのか。


「私はあの襲撃にて、負傷させた守護様に服従印を刻みました。

 そしてそうと気付かせぬように護衛の一人に逃がさせました。

 ……分かりますか?

 今現在の丹波国守護、厳容様は先生の操り人形も同然なのです」


「な……!?」


絶句したのは今の言葉を聞いた羽膳だ。


(そういえば……石英さんは、鹿野戸さんの弟子……だった)


という事は、石英さんもまた拘束魔術師なのだ。

それも恐らくは……鹿野戸さんに近しい程の技量を持つ。

その事は岩童からも聞いていた筈なのに、

俺も遠鬼もこの可能性は完全に失念していた。


「恐らくは……厳容様を必死で逃がした護衛の方も、

 最後はその厳容様自身に殺されたものだと思います。

 そしてあれからずっと……厳容様は先生に操られるままに

 新坂にて幕府と朝廷の同士討ちを引き起こす為に暗躍しておられます」


急に背筋に悪寒が走り、凍えるように震える身体。

それは勿論、この夏の夜が震えるほどに寒いからではなかった。

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