百四十三話 荊
「そうまで傷付いておきながら……何が、興醒めだっ!」
遠鬼の挑発に乗ったのか、『山嶽王』は駆けるように二歩、
それだけで遠鬼の手前まで近づいたと同時に右拳を振り下ろす。
迎え撃つ遠鬼は……構えを取っていた。
俺が延老さんから学んだ拳を引き絞るような攻撃的な構えじゃなく、
右手と左手、両方を開いて前に出す防御的な構え。
(あんな馬鹿でかい拳、格闘術で捌こうっていうのか……!?)
出来る筈がない。普通に考えれば分かるがあの巨体だ……
『山嶽王』の拳は相当の重さであると容易に推測できる。
その重さの拳が、あの速さで叩きつけられるとなるともう、
それは技で対抗できる領域には無いんだ。
無い……筈だけど……それを遠鬼は捌ききった。
打ち下ろされる拳を軽やかにいなし、
標的を逃した巨大な拳だけが地に叩きつけられた。
「え……!?」
驚愕ゆえにそんな間抜けな声が思わず漏れてしまう。
だが次に眼前で起きた事は更に想像を絶していた。
「躱すか……!」
『山嶽王』とて必殺の一撃が逸らされるとは思ってなかったようで、
そう驚きの声をあげる……が、次の瞬間には左拳を振り下ろす。
今度の一撃は傍目からもさっきよりも力がこもっている……
そんな一撃を、遠鬼はまたしても軽く捌く。
それどころか拳を捌く刹那の間に、
巨大な左拳の端にある丸太のような小指を掴み取り、
捻じ曲げ、背負い込み、引き下ろし、『山嶽王』の巨体を……ぶん投げた。
いやそれは無理だ。どう考えても無理だ。
体格差を考えろ遠鬼……そんな言葉は投げ飛ばされて宙を舞う
『山嶽王』を見てしまえば……飲み込まざるを得なかった。
木々を薙ぎ倒し、地響きを轟かせて倒れ込む『山嶽王』の身体。
その光景を見て思い浮かぶものがあった。
「あのさ、姉さん……質量って何だ?」
「急に難しい事聞くね……どうしたの?」
「……よく質量がどうこうって口に出すじゃないか。
だからちょっと気になったんだけど」
「う~ん……質量、ねぇ……」
魔術の腕には質量が無いに等しい……
そんな風な事を魔術研究中の姉さんがぽろっと口に出した。
それが気になっての質問なんだけど、
姉さんは思いの外回答に苦慮してるように見えた。
「今は重さと同じようなものだっていう認識でいいと思うよ」
「今はっていう事は……本当は違うんだね」
「まぁ……そうなんだけど、
厳密な話をしないのなら本当に変わらないの」
姉さんは俺の出した魔術の掌を両手で弄びながらそう言った。
その掌は姉さんがいくらこねようとも俺に触られた感触を与えてくれない。
それを少し寂しいと感じた俺は、
もっと姉さんに近づきたいと思い会話を続けた。
「じゃあもう重さと同じでいいよ。質量は重さって覚えておくから。
でもさ、その質量が魔術の腕に無かったら何が問題なんだよ?」
「……教えたでしょ、運動エネルギーの公式。
質量の無いものは衝突しても何の仕事も出来ない。
つまりね……これはこのままだと牧場を出る手段として、使えない」
姉さんの表情が少しだけ険しくなる。
……牧場を出る手段。姉さんの言うそれが何かは分からないけど、
多分、あまり良くない事だからだろう。
「それでもさ、これだけ大きい手を作れるようになってきたんだ。
この調子で練習を続けたら、その質量を生み出すのも出来るように……!」
姉さんの役に立ちたい、その一心で出てきた言葉だったと思う。
でもそれを姉さんは、悲しそうに微笑んでからはっきりと否定した。
「無理。このままの魔力だとそれは無理だよ」
「どうして……!」
「……この魔力って奴も仕組みはよく分からないけど、
私の知る物理法則をそこまで逸脱しないと思う。
となるとね、質量保存の法則は大枠で適用されてる。
だから……質量を新たに生み出すような事は無い」
「質量……保存?」
「ああ……簡単に言うと、魔力はそれ単体で新たに質量を生んだりしない。
いや、ちょっとは生むのかもしれないけど……それでも、多分、
自重の何倍にもなるような質量は生み出せない。
新たに質量を作るって言うのは、それぐらい大変な作業だから」
久々に思い出せた姉さんとの会話。
あの時は姉さんの言った言葉の殆どをぼんやりとしか理解出来ていなかった。
だけど今こうして思い返してみれば、目の前で起きてる巨人と小人の格闘戦、
それが成立している理由も推察される。
新たに質量を生み出すというのが
本当に姉さんの言うように大変な作業であるのなら……。
「『山嶽王』は……質量がそれほど大きくないのか?」
そう……今の俺にとっては簡単な計算問題だ。
『山嶽王』の身長が十倍になったとして、
単純計算でその表面積は百倍に、そして体積は千倍にもなる。
自重の千倍もの質量を巨人化の魔術が生み出せていないのならば、
『山嶽王』の今の身体の密度は元のそれよりはるかに小さい。
つまりは、見たままの重さじゃあないという事になる。
そんな事を考えていた俺の横を傷だらけの遠鬼が横切る。
俺の事など気にも留めずに
投げ飛ばした『山嶽王』の下へと向かっているんだ。
「と……遠鬼っ!」
そう口に出したはいいものの、次の言葉は続かない。
ただそのまま素通りされるのを良く思わなかったから出た言葉だからだ。
「月陽を守っていろ。このままだとすぐに終わる」
遠鬼の返事はこれだけ。こっちを振り向きもしない。
だけどその言葉で自分の迂闊さに気付いたのも確かで、
さっきまでの俺は遠鬼を心配し過ぎて月陽への注意を疎かにしていた。
「遠鬼……! 今、魔術使うね!」
「それは戦いが終わってからでいい。今は界武の傍を離れるな」
その素っ気ない態度は泣き顔で心配している月陽に対しても変わらない。
その視線を『山嶽王』に貼り付けたまま、ただ歩を進める。
「遠鬼!」
それでも遠鬼を追おうとした月陽の肩を俺は包み込むように抱く。
次は絶対離さないように、しっかりと。
「界武君!? は……離して!」
「大丈夫だ、月陽。俺は何となく分かった」
なおも暴れる月陽を宥めるようにそう言った。
「分かったって……何が!?」
「『山嶽王』の攻撃は……多分、見た目ほどの威力がない。
だから遠鬼を見てみろって。
そりゃあ傷は多いけど、骨が折れてる感じじゃない」
「まさか……投げられるとはなぁ」
俺の眼から見れば隙だらけだとも思える程に鷹揚に『山嶽王』が立ち上がる。
投げられたとはいえその身体には傷一つなく、
投げられる際に痛めたと思わしき左手の小指すらもまるで変っていない。
延老さんが言うには、腕を斬り落としても次の日には回復していたらしいし、
恐らくあの身体には尋常じゃない回復力があるんだ。
その回復力一つとっても脅威に違いない筈なのに、
自身の勝利を疑いもしない遠鬼の態度は変わらない。
「このままだと勝負にならんから教えておく」
「なんだと……!?」
「『山嶽王』、お前は確かに速く動ける。
だが……お前がこの世界で最速、という事もない。
実際、俺はちょっと前にお前よりもずっと速く動く敵と戦っている」
「それがどうしたあっ!」
『山嶽王』は遠鬼の言葉も意に介さない。
そして再度叩きつけられる右拳。
だが……俺は遠鬼の言いたい事が分かった。
アイツは既に羽膳の奴の神速の一撃すらも捌き切っている。
「だからこうなる」
その一撃を尻目に涼しい顔で『山嶽王』の股下近くに遠鬼は立っていた。
(羽膳の速さをその目にした後の遠鬼だから……
『山嶽王』の攻撃を躱して懐に潜り込むのも容易いのか)
反撃が始まる。
といってもそのままでは遠鬼の拳は『山嶽王』に届かない。
だから遠鬼は跳び上がる。空へと跳び立つその速さは確かに羽膳のそれを思わせる。
そしてその勢いのままに突き上げた右拳が『山嶽王』の鳩尾に深々と突き刺さった。
「ぐっ」
その一撃にあのうるさかった『山嶽王』が言葉を遮られる。
あの右拳とそれが齎す衝撃に、胸骨の奥の肺を潰されてても不思議じゃない。
それを確認する間もなく遠鬼は空いた左拳を『山嶽王』の胸骨に叩きつける。
胸骨が叩き割られる痛々しい音と共に、『山嶽王』はまたも倒れ込んだ。
「分かるか、お前は速さで俺に勝てない。
そのままだと一撃も当てられずに負けるぞ、『山嶽王』」
「先程までいいようにやられていたガキが、よくも偉そうに!」
跳ね起きた『山嶽王』の胸骨は健在だ。
故にその怒声は勿論、その連撃も弱くなったりはしていない。
いやむしろ、更に勢いを増している。
右、左……と『山嶽王』の拳と蹴りが飛ぶ。
だがそのどれも遠鬼に掠る事すらなく、
ただ砂埃を上げ周りの木々を揺らすのみだ。
(……あ、拳が当たった)
『山嶽王』が少し屈んだ瞬間を狙っての、遠鬼の突き上げが顎に炸裂した。
首ごと持っていかれそうなぐらいに顎が跳ね上がったが、
『山嶽王』は今度は倒れない。
そのまま足元を軽やかに逃げ回る遠鬼を狙って足を踏み均し、平手を叩きつける。
勿論そのどちらも当たらないどころか、逆に遠鬼に脛を蹴り上げられていた。
……飛び回る羽虫を潰さんと手足を振り回していると、
羽虫側からはこうも滑稽に見えるのか。
そう思ってしまうぐらいに遠鬼と『山嶽王』の戦いはその様相を一変していた。
開始当初は一方的に打ちのめされていたと思わしき遠鬼が、
今度はその機動力で『山嶽王』を翻弄し、一方的に攻撃を加えている。
そして……その戦場もかつての隠れ家付近から、
こうして俺達のすぐそこにまで近づいてしまっているのだから
その迫力も恐ろしいものがある。
「……月陽、怖くないか?」
だから俺の横にいる月陽に聞いてみたが……。
「あんまり。でもそれより界武君! 遠鬼! 強いね、本当に強いね!」
「あ、ああ……そうだな」
何故かちょっと興奮気味だ。さっきまで泣き叫んでいた筈なのに、
一度戦況がひっくり返るとむしろ楽しく観戦出来てしまうあたり、
感情の起伏が激しいというか、肝が据わって来たというか……。
「でも、これ以上は近づかないようにな。
遠鬼も気を付けてるみたいだけど、危ないからな」
「分かった!」
その返事をしてる間にも月陽の視線は遠鬼を追ってあちこちを移動してる。
俺ですら速すぎて追えない遠鬼の動きだけど、
月陽は俺よりも見えているらしい。
(でも……これ、どうなるんだ?)
月陽のように無邪気に喜べない俺は、憂いを込めた視線をその戦いへと向ける。
今のところ遠鬼が押している……ように見える。
だが、遠鬼の攻撃が『山嶽王』に効いていないのもまた事実なのだ。
『山嶽王』のは傷を負った矢先から回復し、すぐに反撃へと転じている。
遠鬼の方も攻撃を全て躱してはいるが、あれだけの速度で動き続ける、
その魔力消費はいかほどか。
(このままだと、遠鬼の魔力が先に尽きてしまうんじゃ……)
それとも『山嶽王』の回復が追い付かなくなるのが先か。
膠着状態に陥っただけにも見えるその戦いに、俺は背筋が寒くなるのを感じた。
「……埒が明かんなぁ」
いつまでも攻撃が当たらない状況に痺れを切らしたか、
『山嶽王』は苛立ち混じりにそう吐き捨てると、攻撃の手を止めた。
「ガキ……『同族殺し』と言ったか?」
「……何だ?」
「気づいていよう。なるほど確かにお前は多少は素早く動けるかもしれん。
だが攻撃はどれも効いてはいない」
「だろうな」
そりゃ傍から見ていただけの俺ですら分かっていたような事だ。
当人達の認識は一致している。
今行われてるのは双方決定打に欠けたままの消耗戦だ。
……だけど、それを打開するであろう要素についても多分、
あの二人は気付いている筈だ。
「……何故殺傷魔術を使わん?」
その『山嶽王』の言葉に俺は心の中で頷いてしまう。
遠鬼は最初に大木を斬り飛ばしてからは強化魔術以外を全く使っていない。
得意の殺傷魔術でも使えば打開できるかもしれないというのに……。
「必要がない」
そうこれだ。遠鬼自身にまるでその気がない。
「……必要がないだと!?
あれならばこの身に痛みを与えうるかもしれぬのに、なぜそう言える!」
「ああ……当たったら今のお前でも痛いかもしれんな。だから何だ?」
「……勝つ気がないのか?」
ここで是と答えてしまえば、
これまでの戦い全てが茶番と化してしまうかもしれない。
そんな危機感に俺の方がハラハラとしていたというのに、遠鬼は言い切った。
「今のお前と戦ってもつまらんのだ。だから俺は待っている」
「何をだ?」
「お前が本気になるのをだ。
だが、その前に戦意を失われてはたまらんからな……だから使わない」
挑発とも取れるその言葉だが、『山嶽王』は今更激昂したりはしないようだ。
「……その挑発に乗るのももう飽きたわ」
話に集中したいのか、『山嶽王』はその場に胡坐をかいた。
その動作一つでも地響きがする辺り、流石の巨体である。
「確かに私にはまだ奥の手が幾つかある。
『同族殺し』よ、お前がそれを望むなら使ってもいい。
だが察するに……そういう事ではないのだろう?」
「……そうだな」
遠鬼は何かを考えるような仕草をしたが、
結局何も思い浮かばなかったらしい。
「『山嶽王』よ。お前の戦い方は二つあると聞いている。
今やってるのがまず一つ。もう一つ何かあるらしい。
俺はそれと戦いたい」
だからか、探りを入れる事もせずそのままに要望を伝えた。
「……もう一つ?」
「そうだ。今のそれは勝ち方が分かってる。張り合いがない」
遠鬼がこうまで言うのだから、
もしかしたら本当に勝てるのかもしれない。
少なくとも今はそんな兆しが全く見えないけども。
「……心当たりは無いな。
いや、もしあったとしてもこの巨人化こそが至高の魔術よ」
『山嶽王』としては聞きたい事は全て聞き終えたらしい。
すっくと立ちあがると遠鬼を殺さんばかりの形相で睨みつけた。
「少し動くな、『同族殺し』よ」
遠鬼は言われて素直に従う男じゃない。
だというのに、その言葉の後に振り下ろされた拳を、
遠鬼は躱しもせずに受け止めた。
「なっ……!」
正直、見ているこっちも油断していた。
いつの間にか『山嶽王』が攻撃も当てられない間抜けな男だと
思い込んでしまっていた……そんな筈はないのに。
「気迫で動きを縛った。
……やはりまだガキだな、こんな陳腐な手をそのまま受けるか」
そうして叩き潰した遠鬼の身体を握りしめ、
そのまま逆さ吊りに持ち上げた。
吊り下げられた遠鬼の頭から搾り取られるように血が滴り落ちる。
その様が先の一撃の威力と、
今遠鬼を握りしめるその握力の強さを雄弁に語る。
俺の耳元で上がる悲鳴は月陽のものだ。そのあまりの鋭さに耳が痛むが、
ああして今握り潰されようとしている遠鬼の痛みはこんなものじゃないだろう。
……だというのに、その遠鬼からは苦悶のうめき声も上がらない。
それどころか……。
「それが、全力か?」
今にも圧死しかねない状況でもその態度は変わらない。
「何を……むっ!?」
『山嶽王』も異常に気付く。
しっかりと握りしめていた筈の拳が……開きつつある。
恐らくは、遠鬼が無理矢理こじ開けようとしているんだ。
「ぬうんっ!」
片手では抗しきれないと感じたか、
『山嶽王』は両手を使って遠鬼を握りつぶそうと試みだした。
だが……それでも拳が開くのを止められない。
じわり、じわりと遠鬼が力でもあの巨人を超えつつあるのだ。
「お前は確かに力も強い。だがあの巨人族の男、
岩童の渾身の一撃もこれに劣るものじゃなかった」
そう言葉で伝えると、遠鬼はそれを実力で示した。
まず両手……『山嶽王』の人差し指と親指、
それを限界以上に押し開いた。
次は両足……遠鬼を拘束せんとする『山嶽王』の小指を
根元からへし折らんばかりの勢いで足を伸ばす。
そして遠鬼は遂に四肢を完全に広げ『山嶽王』の手をすり抜けると、
軽やかに地へと降り立った。
「岩童だと? そんな名前は聞いた事もないがな」
負ける筈が無いと思っていた力ですらも上を行かれた動揺か、
『山嶽王』はそうやって話を逸らす事しか出来ていない。
「お前の孫……いや、玄孫だったかと聞いているが」
「知らんわ。そもそも私に玄孫なんぞおらん!」
……やはり覚えていない。
『山嶽王』は自分の為に全てを賭けて尽くしてくれている
玄孫達の事を認識出来てすらいないんだ。
石英さんと岩童、共に知己とはいえ所詮部外者でしかない俺でも
その言葉を聞いて心がざわつくのを感じる。
あまりの報われなさに同情や憐憫とは違う、憤りに近い感情が沸き上がる。
そしてそれは、あの遠鬼ですらも同じだったらしい。
「そんな事まで忘れているから! お前は弱いと言っている!」
それは俺が初めて聞く、遠鬼が怒りのままに上げた声。
そしてその叫びと同時に遠鬼の足元、その地が大きく割れた。
「なっ……!?」
割れた地からまるで生き物か何かのように巨大な木の根のようなものが
何本も何本も湧き上がってきている。
それらの一本一本に触れるのを拒むかのような大きな棘が……。
「……荊? 巨大な荊……だと?」
この『山嶽王』の言葉でそれが何かを知った。
いばら、という聞いた事のない……植物なのだろうか?
そんな巨大な棘持ちの蔦が何本も遠鬼の足元から生えてきていた。
それは自然に起こりうる現象ではない。
だとしたらこれは異変の中心にいるあの男の仕業なんだ。
その遠鬼が作り出した魔術の荊が、術者の怒りに呼応するかのように
『山嶽王』と背丈を競わんばかりに伸び上がった。
「『山嶽王』! お前の巨人化魔術は萌黄色の魔力が源……
それは種族愛の魔力だ! 巨人族こそが最強と信じて疑わぬその強い意志が、
この世界の理を塗り替えて巨大な体を作り出した!」
「……今更何だ! 私の魔術を知っていたとして、それが何になる!?」
魔術に関しては不思議な程に博識な遠鬼だ。
初めて見る筈の『山嶽王』の魔術ですらも、その知識だけは持っていた。
いや……遠鬼はただ知っているだけじゃない。
知っているという事は、つまり……。
「あの男が! その魔術の存在を知っていて対策を練らぬ筈が無いだろう!」
「……悪鬼の奴か! なるほど、ではそれが……!」
「お前が俺に負ける所以だ! この魔術の荊に絡み取られ……
そして干からびろ、『山嶽王』!」




