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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
一章 界武
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十四話 少女

あれからすぐ廃村を離れた。別に野盗が来るまで待っても良かったが、

折角この鬱蒼とした森を抜け出す道を見つけたんだ。

わざわざここで待つよりは、ここから出たいという気持ちがずっと勝ってた。


そうして廃村から続く林道を進みながら、

俺達は根城を離れて行方知れずの野盗について話していた。


「野盗と決めつけてたけど、結局一度も会わなかったな。

 ……まあ、別に会いたいわけじゃないけど」


「もう移動したか、それとも既に討伐されたか。

 その辺りかもしれん」


「討伐されることもあるのか?」


「この辺は王都が近い。暴れすぎると王都から討伐隊が出る。

 そうなると野盗の手に負えん」


「なんだ、やっぱり王都には強い奴が多いのか?」


朝廷がある程度の事しか知らないが、魔王がいる都だけあって、

護衛とかで強い魔族がいそうな気はする。


「間違いなく世界で一番強い奴が多い都だ。

 何しろ世界中から強い者が集められてる」


「それは……あんまり行きたくねぇなぁ……」


ちょっと行って魔王を殴って来る、なんてのは分かってたけど無理そうだ。

少なくとももうちょっと強くなるなり、仲間を募るなりしてからでないと。


(でも……そうなるといつになる?

 そしてどうなれば人間が食べられない世界になる?)


いくら悩んだって解決案が出るもんでもない。

適当なところで思索を打ち切ろう。まだ俺の力はあまりにもちっぽけだ。

思わず頭を抱えた左手が頭に巻かれた額当てに当たる。

その角を模した牙飾りを撫でながら、俺は何気なく遠鬼の方を見た。


(何となく受け取っちまったけど……感謝も何も出来てない)


一応施しを受けた訳ではない、という理屈を立てようと思えば立てられる。

この牙飾りはそもそも俺のもの、らしいからだ。

でも……一度はいらぬと突っぱねた物。今更そんな理屈を立てるのも

非常に情けなく感じる。でも……それでもだ、これ以上遠鬼に恩を受けたくない。

今は仕方なく同行してるだけで、本来は敵同士なんだ。


「……どうした?」


俺の視線に気づいた遠鬼からの問いかけ。その呑気な声が意味もなく腹立たしい。


(そうだ。恩を受けっぱなしだから負い目を感じるんだ。

 何かして恩を返すんだ。それで後腐れ無くしてさよならだ!)


そう決めて恩を返す方法を探るべく問いを返す。


「遠鬼、お前が出来なくて俺に出来る事って何だ?」


「何の話だ?」


「何でもいいだろ。これから先何かあったとして、

 俺がやった方がいい事って何かないか?」


よく分かってないようだが、考え込んではみる遠鬼。


「そもそも……お前は何が出来る?」


なるほど。遠鬼にしてはいい着眼点だ。

確かにそれが分からないと答えようがないな。


「そうだな……。野盗程度ならぶん殴れる程度には強い筈だ」


そう言って原始魔術を発動。作った太い腕を勢い付けて地に叩きつけた。

軽い衝撃音と共に砂煙が舞い上がる。

思わずせき込む俺を見て遠鬼は言った。


「ならそれでいい。俺は野盗などに勝負を挑めん。

 お前が代わりに殴り倒してくれ」

 

「えっと……なんでだ? お前の方が弱い事はないだろ?」


「だからだ」


「……何故?」


「掟だ」


「ああ、あの……」


初めて遠鬼にあった時の事を思い出す。俺の絶体絶命の危機に、

この男はふらりと現れた。何の関係も無いのに、

ただ強者が弱者を二人がかりで痛めつける、

その行為が掟に違反していると咎めるためだけに。


『「一つ。魔族は力こそを求めよ」


 「二つ。勝負から決して逃げるな」


 「そして三つ。弱き者に勝負を挑むな……以上だ」』


あの時、この三つこそが魔族の掟なのだと遠鬼は言った。


「遠鬼、魔族の掟ってそもそも何なんだ? 鋼牙は確か、

 もう魔王様の法があるから無くなったって言ってたけど」


「掟は魔王が世界を制する前の魔族の法のようなものだ……。

 で、掟は無くなってないが、魔王が掟の代わりに法を敷いたのも正しい」


「えっと……つまり?」


「初代魔王は掟が嫌いだったそうだ。これがあるから魔族が団結しないと」


「まあ……そうかもなぁ」


最初からして力こそを求めよ、次に勝負から逃げるな、だ。

愚直に守ってれば強い奴等が只管喧嘩し続ける事になりそうだ。


「それで人間が使ってた……何とか式目だったか?

 とにかくそれを参考に魔族の法を作った」


「あ、それはそのまま流用しなかったのか」


「人間と価値観が全然違ったからな。

 価値観を基とするものは流用出来なかったんだろ」


「……確かに、価値観全然違うな。それはよく分かる」


実感がある、ありすぎる。俺は思わず何度も頷く。


「つまりだ、流用してないとはいえ、

 今の法は実は人間の価値観が色濃く反映されてる。

 それを気に入らない懐古主義の魔族が反乱を起こす原因にもなった」


魔族の反乱。以前遠鬼からチラッと聞いた事がある。


「そういう訳だ。老人や懐古主義者は法を軽視し掟を重んじる。

 若者や権力に近い者は法を重視し掟を忘れた」


「……遠鬼は懐古主義者か」


「そうなる」


何だろう。遠鬼の言葉の節々から何か湿っぽいものを感じる。

感傷に浸っているような……なんとなく、それが遠鬼らしくないと思った。

俺もつられて感傷的になりかけたが、よく考えれば肝心な事を聞いていない。


「結局、そうなると遠鬼は野盗と鉢合わせても、

 あっちから挑まれなきゃ相手をしないんだな」


「そうだ」


「それなら了解だ。野盗を見つけたら俺が全員殴り倒す。

 それで貸し借りなしだ……いいな?」


「貸し借り……何の事だ?」


やっぱりこの天然鬼、俺に施しをしているという意識自体が無かった。


(ああ嫌だ嫌だ! 空回りするばっかりだ!

 もうどうでもいいから借りを返してさっさと別れよう!)


「どうでもいいだろ! 俺は借りを返したいだけだ! それだけだ!」


それで会話を打ち切って足早に林道を進んだ。

野盗を見つけたら、この苛立ちも全部ぶつけてすっきりしてやろう。







そう思っていた。思っていたから……野盗が馬車を襲うあの場面、

俺は喜び勇んで戦いに赴こうと思った。馬車の存在はどうでもよくて、

ただ野盗をぶん殴って力を示したかった。







林道が繋がる広めの街道を少し進んだ先に、馬車を取り囲む男達が見えた。

馬車の手綱を握るは髪の白い男。

以前見た蜥蜴男をより人間に近づけたような容貌で、

長い髪と髭を持ち複雑な形状の角がその額に見える。四肢は見るからに細く、

かなり年老いているようで、とてもじゃないが取り囲む十人近くの獣人に

襲われて無事で済むとは思えない。そして、その荷台には肌はおろか、

髪まで真っ白な少女。銀糸と見紛うその髪が肩までかかり、

薄手の生地で仕立てた真白の着物を紅い帯でまとめた、儚げな印象の娘だった。


あの白い少女を見つけた時、その少女が人間ではないのかと感じた時、

俺の目的は瞬時に切り替わった。


「あれ……荷台の! 人間じゃないのか!?」


「人間だな。もう一人は恐らく竜人族だ」


そっちは正直どうでも良かった。

俺の目の前で、人間が食べられるなんてのはどうしたって許せなかった。


跳ねるように駆けだす。馬車に届くまでまだ距離がある。

あと一歩で手遅れでした……なんて事にはなって欲しくない。

だからまだ少し痛みの残る左足も地に叩きつけ、出来る限り速く走った。


馬車に近づくにつれ状況が見えてくる。最早あの場は一触即発だ。

今すぐにでも野盗の群れが襲い掛からんとしている。

助けたい、助かって欲しいと祈る気持ちで見た少女は……

何故か、笑ってるようだった。


肌は冬の新雪のように白く、銀色の髪はその雪上で輝く氷片のように目映かった。

人間の美醜なんて気にしたこともなく、そもそもその基準が無い俺が、

その少女を見て美しいと思った。少女は儚げな笑みを湛えて、

襲い掛からんとする野盗を座して見つめていた。

まるで敵意を好意と勘違いしてるかのように、

抵抗しようという意思が微塵も感じられない。

少女の不吉なほど紅い眼に宿るのは悲しさでも寂しさでもなく、諦めだ。

あれは生きようとしていない。食べられる為だけに育てられた、

ただ死んでいないだけの空虚な人形だ。

それが……その事が、俺にはどうしても許せなかった。

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