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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
二章 羽膳
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百二十二話 約束

俺が寝かされていた家。この集落にある役人達が使っていたものだが……

そこに今は俺、月陽、遠鬼、春夜さんに延老さんと勢揃いしている。


「……一体、何を言っているの?」


その皆を集めて俺が次にしたい事を伝えた時の春夜さんの反応がこれだ。

勿論俺の発した言葉の意味が分からないという訳ではないだろう。

単に、背中に穴まであけられた男をそれでも救いたいという

俺の意志が理解し難い……そんな感じだ。


「……あの人は俺が今言ったような感じでな。

 本当に愛しく思ってる子供達の命を使い捨ての武器にする、

 そんな馬鹿げた戦い方をしているんだ。

 ……あんなのは駄目だ。戦うにしてもやり方ってもんがあるだろ?」


「そんな事は聞いちゃいないの。

 界武君。今の話を聞く分にはね、

 逆徒って奴はやっぱりとんでもなく危険な奴だって事しか私は分からない!

 そんな奴を助けたい、なんてのは馬鹿げてるとしか思えないの!」


「……春夜さんはそう思うのか。

 えっと……延老さんもやっぱり同じ感じか?」


「そう……ですねぇ……」


その表情は春夜さんよりは分かりにくい。

俺の言う事に理解を示しているようにも見えるし、その逆であるようにも思える。


「近衛軍は私の古巣ですからなぁ……。

 その近衛軍が守る朝廷と幕府を相争わせる、というのは流石に看過し難い。

 脇差一本での戦い方を形にしてから動こうかと思っていましたが、

 どうやらそう悠長にしていられぬ、という事ですかな」


「するってぇと……」


「逆徒……名を鹿野戸というのでしたか。

 救おうなどとは微塵も考えておりません。むしろすぐにでも殺すべきかと」


「……そっか」


延老さんにも振られてしまった。

……これは立場を考えれば仕方がないか。


「月陽……」


「嫌。絶対嫌」


こちらはもう考える事自体を拒否されている。

俺の背中の傷を治療した月陽としては、

その傷を作った男を救う、なんて考えは拒否の一択なんだろう。


「……じゃあ、遠鬼は、どうなんだ?」


お前ならどう思うんだろう……お前でも、俺を馬鹿だと笑うんだろうか。

もしそうなら俺はどんな顔をすればいいのか……そう思うと、少し怖かった。


「そんな事はどうでもいい」


だがそんな俺の不安な気持ちは一蹴される。

……これが遠鬼の答えか。ある意味らしい。


「そんな事って……アンタねぇ!」


春夜さんの抗議を気にも留めずに遠鬼は俺に言う。


「結果として誰が助かろうとどうでもいい。

 だが過程としてはその鹿野戸、という男と戦うしかないんだろう」


遠鬼のその言葉に、何故か俺はビクッと震えた。

何故だろう……鹿野戸さんと戦うなんて、既に覚悟を決めた事なのに。


「……だと、思う」


「なら次は勝てるのか?」


「勝て……るか、だって?」


そこで俺は、鹿野戸さんを救いたいという気持ちに急かされていたのか、

鹿野戸さんとどう戦うか、まで思考が至っていない自分に気が付いた。


(鹿野戸さんと再戦か……。拘束魔術は魔術のおむすびで無力化出来た。

 延老さんが言うには、そうなると鹿野戸さんは強化魔術に任せて槌を振るう

 ぐらいしか戦い方を知らないらしいし、それぐらいなら銀の腕で十分……)


「勝てると……思う。

 鹿野戸さんの拘束魔術は俺には効かないし、

 強化魔術だっていくらでも対応方法はある。

 少なくとも……羽膳なんかよりはずっと弱い相手だと……」


「だがお前は負けた」


「いや、だからそれは後ろから不意打ち……」


「その鉄という子供を使った不意打ちも立派な戦術だ。

 そしてお前はそれに負けた。界武、分かっていないのか?」


「俺が……分かってない?」


「そうだ。お前の敵である鹿野戸という男は一人で戦う類の者じゃない。

 部下でも集落の民でも、使えるものは何でも使う男だ。

 そしてお前は『閃刃』から得た知識でそれも知っていた筈だ。

 それなのに、負けた」


「そ、それは……」


遠鬼の言いたい事をここで察した。

……俺は、鹿野戸さんの強さを過小評価し、

鹿野戸さんと戦う事も軽く考えている。

次やれば大した対策も無しに絶対に勝てるとすら思っているのだと。


「戦いにとっての勝ち負けはただの結果だ。重視する事でもない。

 だがな、界武。少なくとも戦いに対しては真摯でいろ。

 でなければまたやってもお前の負けだ」


「このまま何の対策もしないと、また俺が負けるって言うのか」


「そうだ」


……こと戦いにおいては、遠鬼は妙に賢いのだ。

ならば俺はやっぱり鹿野戸さんを甘く見過ぎているのか。


「……ちょっと、遠鬼」


「何だ?」


「あなた一人だけ話がズレているの、分かる?」


春夜さんの険しい眼。俺なんかはあんな視線で睨まれると

びくびくしそうなものだけど、遠鬼にとってはどこ吹く風だ。


「分からん」


「じゃあ聞くけど、界武君は逆徒に同情してるのか知らないけど、

 助けてあげようと思ってるそうなの。

 これまでもう何人も殺している大罪人を! 分かる!?」


「殺した数なら俺も大して変わらんが、今は朝廷の戦士だ」


「あああ……そうだった……何でこんな奴が……」


思わぬ反撃に頭を抱える春夜さん。


「と……とにかく、悪人を助けようっていうのが界武君の考え!

 あなたはそれを良しとするの!?

 今言ったでしょうが、朝廷の戦士なんでしょ!?」


掴みかからん勢いで春夜さんが吠える。

対する遠鬼は……それを何とも思ってなさそうだ。


「春夜、お前は相手の善悪を見て戦うかどうか決めるのか?

 ……あの男の教えを忘れたか? 魔族の掟を捨てたのか?」


そう言う遠鬼の表情は別段いつもと変わらない。

だがその言葉には穏やかならぬ思いが込められていた。

特に……遠鬼が『あの男』、と言った時には殺意すら感じられた。


「えっと……そういう事じゃ……」


春夜さんは思わずたじろぐ。

反論はしたいのかもしれないが、遠鬼の雰囲気がそれを許さない。


「そういう事だ。魔族は力のみを求めよ……それが掟の筈だ。

 俺達にとって善悪なぞどうでもいい。

 悪人を助け善人を殺そうと構わない筈だ。

 積み重ねるべきは善行ではなく鍛錬で、求めるべきは平和ではなく力」


「……もういい、分かった」


押し切られた春夜さんが黙る。

今にも泣きそうなその顔に思わず同情する。


「……なるほど、流石は遠鬼殿ですな!」


「えっと……延老さん?」


沈みかけた雰囲気を、延老さんの明るい声が和ませる。

しかし……今の言葉のどこに感心出来る要素があるのか。


「遠鬼殿の言う事もまた然り。

 我々魔族は結局のところ……力に訴えるしかないのです。

 ならば私もそう動きましょう」


「動く?」


「はい、界武君。私はこれから鹿野戸を討つ為に動きましょう。

 その男、朝廷と幕府相手に喧嘩を売っているそうですが、

 そも誰よりも先に私が喧嘩を売られたのです。

 ただ、そうは言っても既に老いた身、

 若い界武君になら喧嘩相手を譲ってもいいと思って待ってみましたが……」


そこで延老さんがチラリと遠鬼を見る。


「遠鬼殿の言葉を聞いて考えを改めました。

 やはり私の喧嘩なのです。私がその鹿野戸を斬るのが筋でしょう」


延老さんがすっくと立ちあがり、傍らに置いてあった脇差一本を腰に下げる。

見れば俺が昏睡している間に延老さんの受けた傷は癒えてしまったようで、

その所作に怪我の影響は微塵も感じない。


「えっと……延老さん!」


不味い……と思った。

鹿野戸さんを助けたいと思い、その仲間を募ろうと皆を集めた筈が、

逆に鹿野戸さんにとって最悪に近い敵を作ってしまったらしい。


(な……何とかして、止めねぇと……!)


とは思うが、言葉は続かない。

ああ……延老さんが戦鬼の顔をしている。

この人がああなると……俺なんかじゃ止めようがない。


「この集落の護衛はお任せします。

 私はここを見張る何者かを逆に見張り、鹿野戸への道標としたく思います。

 あの者達も報告の為に鹿野戸の下へ行く事があるでしょう……。

 それを尾ければあるいは、簡単にその首を斬り落とすことも叶うかと」







それだけ言い残してあっという間に延老さんが家から出て行った。


(……あれ? これもしかして状況悪くなってないか?)


もしかしなくてもそうだった。

延老さんは鹿野戸さんを斬りに出て行ってしまい、

残った皆も俺の意見には否定的だ。

唯一遠鬼だけが味方……でもないな、中立的か。

ただそうなると、積極的に俺に同調はしてくれないだろう。


(どう……すりゃいいんだ?)


辺りを見渡す。

春夜さんは失意に俯いており、月陽はそっぽを向いている。

遠鬼は一応俺の方を見てくれてはいるが、

まだ表情からその意図を読めない。それなりに長く一緒にいるのにだ。


「えっと……じゃあ、皆はこの後どうすればいいと思う?」


困り果てた俺はついつい聞く側に回ってしまった。


「……『閃刃』様が逆徒を斬るまで、ここを守っていましょ」


投げやりな春夜さんの返事。


「……界武君の傷が治ったら、あの山に帰ろ」


月陽はそっぽを向いたまま、そう呟いた。

あの山っていうのは、俺達が暫く潜伏していたあの元山賊の根城の事だ。

月陽にとってはあの場所での幸せな暮らしこそが全てなんだろう。

あそこを出てからは……月陽にとって嫌な事ばかりだっただろうからな。


「……『山嶽王』を見つけ倒す」


遠鬼はブレない。清々しい程にブレない。


しかし……見事にバラバラ。これでは何にも纏まらない。

聞くだけ聞いたはいいが、このままじゃあ何の解決にも……。


(ん? でも遠鬼の言葉に何かひっかかる……ものが……)


「あああああっ!」


「ひやっ!」

「なっ……何!?」


いきなりの俺の大声に、驚く月陽と春夜さん。


「忘れてた……! 色々有り過ぎて、肝心な事を忘れてた……!」


「か……肝心な事って、何?」


「岩童だよ。ここに来る前に会った巨人族!

 あいつとまた会う約束してたのに……すっかり忘れたままだ!」


「あっ……」

「そういえば……」

「……」


その言葉に遠鬼を除く皆がしまった、という表情になる。

そして、遠鬼も表情に出さないだけできっと忘れてる。

……どうやらここにはうっかりさんしかいないらしい。


「そ……それならさ、とにかくまずは岩童に会いに行くっていうのはどうだ?」


「あいつに? どうして……」


「いやだってさ春夜さん。一応俺達約束したじゃないか。

 もう一度あの場所で会おうって。会いに行くから待ってろって!」


「そりゃあ……そうだけど……」


ちゃんとした良識を持っていると思われる春夜さんだ。

約束を守らなければならない、そう言われると反対はしづらいだろう。


「それならさ、やっぱり約束は守らねぇと! で……だ、遠鬼!」


「何だ?」


「お前にとってもいい話だろう?

 だってあの岩童は、間違いなく『山嶽王』の居場所を知ってる筈だ!」


「……そうだな」


これで遠鬼も問題ない。

最後は……月陽か。これも多分大丈夫だ。


「月陽。ここにいるより岩童と会った場所の方があの山に近いぞ。

 あそこに帰るついで、ぐらいの気持ちで付き合ってくれないか?」


「帰るの? それならいいよ!」


おお……効果は絶大だ。

さっきまでは拗ねて会話すらままならなかったのに、

帰ると聞くとこの笑顔。


(そして俺は……岩童からその姉っていう石英って奴に会って、

 そこから鹿野戸さんと再会する段取りをつける……!)


咄嗟に思い付いたにしては、見事な案じゃないかと自画自賛。

纏まりようがなかった筈のこの会議、あっという間に決着した。


「よし! じゃあ急いで準備をして、あの森まで急ごうぜ!」


急ぎ立ち上がろうとして……止めた。動こうとすればまだ背中が痛い。

荷台に乗せてもらえればまだ動けるかも、程度の回復具合だ。


誰に手伝ってもらって荷台に乗せてもらおうか、

そう考えていると遠鬼が声をかけてくる。


「そうすると界武、ここの護衛はどうする?」


「護衛? ああ……そういえば、延老さんに押し付けられたっけか」


押し付けられたとはいえ蔑ろにする訳にもいかない。


だが……俺と遠鬼は岩童に会いに行くのに外せない。

月陽だって帰ると言った手前、置いていくのは無理だ。

と、すると……。


俺、月陽、遠鬼の三名の視線が、自然と残る一人に集中する。


「え!? わ……私!?」


狼狽える春夜さん。でも救いの手は当然誰も差し伸べなかった。

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