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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
一章 界武
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十二話 魔術

あの崖から落ちた下に広がる森、これがちょっと歩いたら街道に出れる程度の

広さでは決して無かった。遠鬼の後ろをついて歩いてもう三日だ。

代わり映えしない景色に方向感覚が怪しくなり、

どっちに進んでいるかすら怪しい。


「西は日が沈む方角だ」


「そんな事は分かってるよ。この森の中だ。時々どっちに日があるかすら

 分かんなくなるじゃねぇか……」


「夕方には大体わかるだろ」


「日中は東に進んでたらどうするんだよ!……ああ、磁石でもあればなぁ」


「磁石……? そんなものが何の役に立つ?」


「姉さんが言ってたんだよ……磁力線がどうとか……

 とにかく、磁石を木の上に置いて水に浮かべると、南北を示すんだそうだ」


「初耳だな。それなら今度町で磁石でも探すか」


まあ、こんな男の後ろについて行ったから三日もかかったのかもしれない。


ちなみに食事については遠鬼が道行く途中に摘んでいた野草を俺も真似して

取っておいた。大抵はこれに遠鬼の持ってる雑穀を少し分けてもらい、

一緒に煮て食べてた。美味しくはない。ないが……今もちゃんと生きているから

問題は無いんだろう。


とはいえこんな山奥でもご馳走にありつく機会は偶にある。


「猪だ」


俺が見てもよく分からないが、猪が土を掘り起こした跡や足跡を遠鬼が見つけた。


「こういう所の近くに猪がいる場合がある。探すぞ」


唐突に始まった狩猟。正直まだ肉の味は分からないけど、

食べれば強くなるっていうからまだまだ食べたりなかった。

ちなみに、勿論魔力が強くなったりはしない。体が成長しやすいだけだ。


とにかく遠鬼は勘と経験で、俺は原始魔術を駆使しての狩猟勝負が始まった。

……男が二人いると何事も勝負になるんだ。これはしょうがない。

俺は原始魔術で体を引っ張り上げればいいだけなんで、木登りは得意だった。

そうして高所から木々の間を伝い猪を探してる時だ。


「いたぞ!」


よく響く声が後ろの方から聞こえた。

どうやら遠鬼がその狩猟感から猪を探し出したようだ。

その猪だが、巣穴に隠れていたらしい。……それは卑怯だ。


だが俺が現場に着いた時には猪は巣穴から逃げ出していた。


「よく来た、そっちから追い立ててくれ」


「……いや、どうして逃がしてんだ?」


「さっきの大声でな」


「捕まえてから呼べ!」


しかし改めてみると結構大きな猪だった。

腕力勝負だとまだ分が悪い気がした俺は、大人気ない……?

とにかく大げさだとは思ったが原始魔術で応戦した。

難しい事は何もなく、二本の魔術の腕で逃げ道を塞ぎ、

残りの二本で尻を叩いて追い立てた。

たまらず遠鬼の方に突進した猪だが、金棒の一振りで絶命した。

……恐ろしい。


その日の夕食は猪鍋だった。これがまだ肉に慣れない俺でも

とても美味しく感じた。茹でた事であの苦手なヌメヌメした食感が消え、

旨みだけが残ったような……とにかく、これから肉は茹でて食べる事に決めた。


「持っておけ」


鍋を食べた後、遠鬼が何か白いものを手渡してきた。

受け取ってみれば二本の尖って細長い……あれ、これもしかして……。


「これ、あの猪の牙?」


「そうだ、最初の狩りでの獲物の牙は御守になると聞いている。持っていけ」


「いやでも、仕留めたのは遠鬼だろ」


「誰が仕留めたかは関係ない。お前の初めての獲物だ」


「……あのさ、この森から出るまでは不本意ながら馴れ合ってるけどな、

 そもそも俺達は敵同士だ、分かるな? 必要以上に世話を焼く必要はねぇよ」


俺は人間で、遠鬼は魔族だ。俺のひとまずの目標は西での人間の反乱に合流して、

魔族の統治を転覆することだ。対して遠鬼はその人間達を討伐しに行く旅中だ。

俺達が共有出来るのは目的地ぐらいで、立場も目的も真逆と言っていい。


「そもそも俺はそんなの持ち歩く為の荷物袋を持ってねぇ。邪魔になるだけだ」


だからそう言って断った。一体この鬼は何を考えて……。


「なら一時預かっておく。袋を手に入れたらお前が持て」


「……お前さ、本当に俺の話聞いてる?」


「狩猟の御守に敵も味方も関係あるか。お前のものはお前のものだ」


……やっぱり、この鬼と一緒にいるのは駄目だ。調子が狂う。







次の日の夜。まだ猪の肉は十分残っているんで、その日も肉料理だった。

遠鬼は豪快な焼肉で、俺は勿論茹でた。


「なあ遠鬼」


「何だ?」


食後、ちょっと気になったことを聞いてみることにした。


「狩りの時に俺が使ったみたいにだ、原始魔術も使い方次第で

 十分役に立つと思うんだが……殆ど誰も使わないんだろ?

 ということは、他の魔術はそんなに便利なのか?」


「まず、お前の原始魔術を操る技量を他の誰も持ってないと思っておけ」


そう言って遠鬼は虚空に手をかざす。その手から金色の柱が伸び、

パンと軽い音がして木の幹にぶつかった。


「今のが俺の原始魔術だ」


「へえ……ってもしかして、あの崖からお前が落ちて来た時の金色の……」


「あれも俺の原始魔術だ。とにかく俺は今見たように伸ばす事しか出来ん。

 曲げたり、何本も操ったり、ましてや物を掴むなんて出来ん。

 更に言えば、お前のようにこれを見えにくくすることも出来ん」


何気なく透明の手を作っていたが、それすらも本来は難しいとのことだ。


「後は……普通は魔術は戦いで使う。お前のように普通の暮らしの中で

 魔術を使うなんてまずやらん。そういう発想が無い。

 でだ、原始魔術は肝心の戦いの中で使うには大きな弱点がある」


「え? いや俺はこれで何人も倒してるぜ」


鋼牙に蜥蜴男。最初の追手の二人に次の狼人族に爪長男……六人もだ。


「原始魔術で作られた手には重さが殆ど無い。

 だからこれをぶつけても大した痛手にならん」


遠鬼は小さな木の実を木に向かって投げた。カツンと軽い音が鳴った。


「戦いで使うには重さが必要だ。こんな風にな」


今度は大きめな石ころを拾って同じように投げた。

ゴンと重い音がして、幹に傷がついた。


「なるほど……運動えねるぎーだな。質量に比例するんだったか」


意外なほど分かりやすい解説だった。

姉さんの教えを受けた訳ではないだろうが、

攻撃に重さが必要、なんてのは戦士の常識なんだろう。


「逆に言えば、重さを補う事が出来れば役に立つかもしれん」


「例えば?」


「相手の重さを利用する。下から突き上げるように打てばいい。

 お前自身の重さを乗せて打つのもいい。高所から飛び降りて打つ、

 もしくはお前が集落で狼人族に打ったようにだ。

 他には……何か重たいものを握って殴りつけるのもいいかもしれん」


「最後のは試したことないな……」


先ほど遠鬼が投げた石を魔術の手で掴む。

先端が重くなると途端に操作が難しくなったが、

なんとかそれを振り回し勢いをつけ、遠鬼が傷を付けた木の幹に打ちつけた。


バァン、と大きな音がして幹がゆらりと揺れた後、

ざわざわと葉がぶつかり合う音が辺り中に響いた。

今までにない重い手応えに気分が高揚した。


「意外と使えるかもしれんな。じゃあ最初の質問に戻る。

 今やったことを魔術を使うとこういう風になる」


再度遠鬼が手をかざす。すると急に辺りに禍々しい気配が漂う。

側にいるだけで皮膚が火傷を負ってしまうような、

その危険な兆候に思わず後ずさりする。

間違いない、遠鬼は今、何かの魔術を使っている。


シュン、と何かが高速で飛ぶような音が聞こえた。

間を置かず傷をつけてあった幹から耳をつんざく怪音と共に

激しい火花が散った。それは一瞬で終わり、音が止み、

幹に燻ぶる残り火もしばらく待てば消えていった。

俺は恐る恐る火花の元を見に行った。焦げ臭い匂いが漂う幹の中央に、

決して細くはない筈のそれを貫通する小さな穴が開いていた。


「ということだ」


「……分かった」


(なるほど。これじゃあ魔術の方が使われるか)


多分、遠鬼が使う魔術だからこそ、ここまで強いのだと思うが、

俺の原始魔術はまだこの域に達していない。


(魔術、使えるようになっておくべきか……)


これだけの強さがあれば、この魔族が支配する世界であっても、

何にも怯えることなく生きていけるのではないか。


「……俺も、こんな魔術が使えるようになるのか?」


「今やったのは難しい。他の魔術ならそのうち使えるようになる」


「え!? 使えるようになるのか!?」


「なる。お前の意志は十分に強い」


「そ……そっかぁ……」


まさか褒められるとは思わなかったので、少し……いや、かなり照れた。


ただ、今はそのうち、なんて悠長に言っていられる状況でもないと思う。

魔術が使えるようになるというのなら、

出来る限り早くそうなっておかなければいけない。


「遠鬼、俺に魔術を教える事は出来るか?

 無理ならコツだけでもいいんだが……お前も俺が強くなった方がだ、

 戦う時に楽しい筈だろ?」


遠鬼の闘争本能を刺激して、魔術を教わろうという算段だ。


「魔術を……教える?」


「駄目か?」


遠鬼は魔術を教えることに難色を示しているように見えた。

基本いいも悪いもスパッと言ってのける男なだけに、

こうして言い淀んでいるところを見ると、

あまり人に教えるようなものではないのかもしれない。


「以前、魔力とは意志の力とも呼ぶ、という話はしたな?」


「え? あ、ああ……」


駄目だ、という返答を予想してたんで、急に始まった別の話にやや戸惑う。


「つまりは魔術も意志を源とする力だ。そして人の意思など千差万別だ」


「それはつまり……俺と遠鬼が同じ魔術を使おうとしても、

 同じようにはならないって事か?」


「同じように出来なくはない。だがそれは、

 他人の意志で自分を塗りつぶすようなものだ。当然自分の意志は犠牲となる」


「何かそれ……怖いな」


「魔術を教わるというのはそういう事だ。だからこそ拘束魔術のような、

 世の中にどうしても必要な魔術以外は誰かに教わるような事はしない」


(拘束魔術……? ああ、服従印を刻む魔術か。牧場が世界各地に

 あるっていうなら、確かに誰かが学ばないといけないよな……)


「じゃあ……魔術ってどうすれば使えるようになるんだ?」


魔術自体を教えてもらうのが無理なら、せめてそれぐらいは教えて欲しい。


「意志が十分に育てば勝手に使えるようになる」


「いやだからその、意志を育てる方法を教えろって事だよ……」


「人に聞くだけで意志が育つものか。自分で悩み考えろ」


(何だそれ……答えになってるようでなってないぞ)


とにかく、魔術に関してはこれ以上聞けることは無さそうだ。


そしてその日は結局、意志の育て方について思い悩んでる内に終わった。


勿論、成果は無かった。

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