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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
一章 界武
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十一話 訓練

「何だそれ……」


「猪」


三日目の事だ。山菜取りから返ってきた遠鬼が変な何かを持ってきた。

それは俺が知る猪とは似ても似つかない薄紅色の何か。

聞くと猪の痕跡を見つけたんで探して取ってきたんだそうだ。

で、今ぶら下げてるそれは、頭を切り落とし腹を割って内臓を取り出し、

皮を剥いた猪のなれの果て、らしい。


「ひょっとして、それを干すと干し肉になるのか……?」


「干し肉? いや、干し肉は確かまず塩漬けにする」


「塩につける? それしないと駄目なのか?」


「そうしないと干上がる前に腐るんだそうだ」


「へえ……いや、昔紐みたいな干し肉を見た事があるからさ」


「紐……? ああ、薄く切って干上がったら紐のようになるかもな」


なるほど。猪から紐になる過程が遂に解明された。

もし機会があれば実際にやってみたい。だが、今回は焼いて食うんだそうだ。


「食べた事は……?」


「無い。だけど畑を荒らされた恨みもある。食べてやりたい」


「そうか」


ちなみに焼き方はいくつかあって、足の部分を骨付きのまま焼いて

そのまま食ったりもするらしい。遠鬼はその焼き方で食べるそうだが、

俺の分は細かく切ってから鉄鍋に張り付けて焼くんだそうだ。


「歯ごたえがかなりある。最初はこっちの方がいい」


との事だ。食べてみると確かに歯ごたえが凄い。

更に初めて食べた味で……なんかヌメヌメして美味しくなかった。


「なあ……これ、あんまり美味しくないんだけど」


姉さんは美味しいと言っていたが……料理人の腕の問題だろうか?


「塩があれば掛けて食えばいいかもしれんが……」


「無いのか?」


「少ない」


と言いつつも、鉄鍋の上からパラパラと塩を振ってくれた。

これだけでかなり食べられる味になったんでかなりの量を食べてしまった。

別に美味しいから沢山食べた、という訳ではなく、

遠鬼が言うには、肉を食べると大きく成長できるんだそうだ。

そう言われたからには、食べない訳にはいかなかった。







四日目は体の調子が良くなかった。

俺の体は猪の肉を取り込む力が弱かったらしく、

その上で食べ過ぎた事も祟ったか、ちょっとお腹の調子が悪い。

とはいえ体を動かす事が出来る五日目はすぐそこで、

その前に出来る事はやっておきたかった。


「……何をやってる?」


俺が原始魔術を使って色々やってるのを見て、遠鬼が聞いてきた。


「訓練」


先日杯を作った際に平らな形の腕を作る事が出来た。

ならいっそのこともうちょっと平らで大きな……布のようなものが

作れないかと試している。

単に太くて平らな腕を作ろうとすると限界があったんで、

大きな掌を思い描いて、それを平らにする作業に挑戦していた。


「……布が作れると、何かあるのか?」


訓練の概要を聞いてもその意図を読めなかったか、

遠鬼が更に聞いてくる。


「防御手段だよ、防御手段」


「防御……布で? 破れて役に立たんだろう」


姉さんの教えを知らない遠鬼には実際に見せてみないと分からないか。

そう思った俺は試作品のお披露目をする事にした。


「遠鬼、お前の武器って背中に背負ってた金棒だよな?」


「そうだ」


「ちょっと振ってみてくれ」


そう言われて遠鬼は金棒を手に取る。

改めてよく見ると、この金棒……作りが凄い雑だ。

三尺は超えるが四尺程はない長さで、先端がやや太そうな気もするが、

遠目にはただの棒にしか見えず、飾りらしきものは持ち手に巻かれた布、

それ以外には所々波型の溝が掘られている程度。

そりゃあ……鉄だからあれで殴られると痛いだろうが、

もうちょっとどうにかならなかったのか。


その雑な金棒を、遠鬼はやっぱり雑に振り回す。

しかしその速さは凄まじく、あの重そうな棒が目視も難しいくらいの速さで

宙を舞う様に冷や汗が流れた。


「もういい、もういいよ……」


金棒が巻き起こす風圧から目を庇いつつ、俺はそれを止めた。

なら今度は……試作品の出番だ。


「よし、もう一度金棒を振ってみてくれ」


言われるままに再度飛び回る金棒。その軌道の先に試作品をぶん投げた。


「むっ……」


遠鬼が前との違いに気付く。金棒が試作品を絡み取った直後から、

目に見えて金棒の速度が落ちた。今度はしっかり目視できる。

これなら見てから回避も……出来るかは分からないけど、

しやすくなったのは確かだ。


「空気抵抗だ。とにかくその布は相手の武器を絡み取ると、

 空気を囲い込むような形に変わる。そうすると今やったみたいに、

 動きが遅くなるんだよ」


「なるほど。よく分からんが動きを遅くして、避けやすくするという事か」


「他にも何だったかな……ああ、そうだ。

 運動えねるぎーは速度の二乗とやらに比例する……らしい。

 とにかく、攻撃から速さが無くなると、威力が全然無くなるんだ」


「……確かに。遅い攻撃は痛くはないだろう」


「だろ? そうやって攻撃から身を守るんだ。

 もうちょっと改良すれば実戦で使えそうだな……」


お披露目が終わった後も、色々と改良を加えている俺を見て、

遠鬼が楽しそうに笑った。


「お前の戦い方は……面白いな」


「そうか?」


「ああ、次に戦う時が楽しみだ」


そうなる前に遠鬼から離れようと俺は心に決めた。







そして五日が経った。

崩していた体調もどうにか回復し、朝食も美味しく食べられた。

食後の運動も兼ねて、立ち上がって両膝を曲げてみる。

無視できる程度の痛みしか感じない。今度は上半身をと思ったが、

まだ右肩を動かすなときつく言われていたため、

今回は左腕のみブンブンと縦回転させてみる。


(……うん、大丈夫。動くな……良かった)


全快とはいかないが、これでも十分先に進むことはできるだろう。


(そう、先だ。しかし俺は、どこに行くべきか……)


東に行って王都とやらにいる魔王をぶん殴ってやりたくもあるが、

流石にそれは簡単にはいかないだろう。

となると……やっぱり西。長門国で起きているっていう反乱に参加して、

人間の治世とやらを取り戻すため戦うべきか……。


そう考え込む俺の事をまるで気にも留めず、遠鬼は俺の使っていた毛布を回収し、

荷物袋の中に他の野営道具とまとめて詰め込んでいた。


「おい遠鬼」


「何だ?」


「お前はこれからどうする気だ?

 というかさ、そもそもお前はここに何しに来たんだ?」


そう、何か用事があってこの黒樹林とやらに来た筈なんだが……

一体何をしにやってきたのか。


「ここに来たのは単なる通り道だからだ。

 元々俺はずっと西へ旅をしている途中だった」


「そりゃあ長い道草食わせちまったな……。

 で、どこまで西に行くつもりだったんだ?」


今後の方針を決める参考にと、聞いてみることにした。

遠鬼は荷物をまとめ終わったようで、膨らんだ袋と巨大な鉄棒を担いで

森の奥に進もうとしていた。遠ざかりつつあるその背中から、

遠鬼の返事が聞こえた。


「西の果て、長門国だ。言ったろ、強い人間がいると。

 ……『勇者』、人間達の間じゃそう呼ばれてるらしい。

 そいつの討伐が俺の仕事だ」

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