ひつまぶしで書く怖い話
あれはまだ、鰻の高騰の前の話。あの日は、祖母が家に来たことから始まった。
祖母は、「そろそろ、夏になるし鰻でも食べようか」と、鰻を食べさせてくれることになった。
いつもならここで、うな丼の店に行くところだったが、母が「神社の近くにひつまぶしのおいしいところがある」とのことで、私は生まれて初めてのひつまぶしを食べることになった。
皆さんはひつまぶしをご存じだろうか?名古屋発祥とも呼ばれ、お櫃にいれたご飯の上に、かば焼きの鰻をまぶし(乗せる)、茶碗によそっていただく料理。食べ方は、そのまま食べるもよし、薬味で付く、わさび・刻み乗り・刻み葱などの薬味をかけ食べるもよし、出汁でお茶漬けにしてもよしの変化を楽しむことができる。
私は、初めてだからこそ、全部の方法を楽しみたいと思っていた。だが、私が味わったのは、ひつまぶしの恐ろしさだった。
自分たちの前に料理が運ばれてきた、お櫃には蓋がかかっており、そこから蒲焼の香ばしい匂いがあふれだす。自分のつばを飲み込む音が聞こえ、全員に運ばれるのを今か今かと待つ。そして「いただきます」をして、いきなりお櫃の蓋を外す。すると、先ほどよりも強い匂いが、自分のお腹を刺激する。しゃもじで茶碗によそおい、一口いただく。口の中で広がるのは、鰻のうま味とその触感。油はしつこすぎずさっぱりとしており、きっと炭火で焼いたのだろう、外の皮はサクッと、中はふんわりとして、そこに蒲焼のタレの甘めの味付けと、ご飯がマッチして、気が付いたらもうお櫃の中には4分の1ほどのご飯と1×3㎝ほどの鰻が4切れしか入っていなかった。薬味やお茶漬けが残っているのに、そう思ったが食べたものは帰ってこない。仕方なしに薬味で3切れ、お茶漬けで1切れを使うことにした。
その貴重な鰻の上に、薬味3種を乗せ、大事に一口ずつ運ぶ。薬味で食べると風味がまた変わり、鰻のさっぱり差に加え、海苔の海の香り、ワサビの山の幸独特の香り、そして葱によるそれぞれと調和する、香りがまた何とも言えず、食べ終わった後のお茶が、至福であった。
そしてお茶漬けだが、確かにうまかったのだが、鰻が一切れだけのせいか、出汁のうま味に負けてしまいややさもしい感じになってしまった。
そして食べ終わりお茶で一服しているときに、ひつまぶしの食べ方について考えていた。そして気づいてしまった。今日の食べ方以外にもあったことを。
それ以来、私はひつまぶしを食べれていない。
「って、これ怖いどころか、食レポになっているんだが、ほんとに何なのこの話」
いやー、お前が執筆中にいろいろ書いておこうかなーと思って、ついテヘペロ
「テヘペロじゃないよ、お前がやっても気持ち悪いだけだよ」
なにおう、俺のどこにダメなところが⋯。
「むしろ、全部じゃないかな。そんなことより、こんな短編を書いたことを謝って」
えっ、そんなにひどいかな?結構自信作なんだが、目指せ食レポ小説家!!
「食レポ言ってるんだが、てか怖い話なのでは?」
ふっ、よく見てみろよ。この小説、今回のキーワードはホラーじゃないんだぜ。
「ほんとだ私小説になってる!」
それに今回は、前回の暇つぶしで書く怖くない話に、かけた話にしたんだ。
「いやいや、かけた言うても暇つぶしとひつまぶしが似ているだけなのでは」
細かいこと気にしたらはげるよ。⋯⋯⋯⋯⋯⋯ぷっ。
「いま頭見て笑ったでしょ、皆さん私禿げてませんからね」
今はな⋯、時期に禿げる。いやもうおでこが徐々に⋯。ぶふぁっ。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
うん、どうしたの何黙ってるの。
「⋯⋯⋯」
おーい、禿げるだけじゃなくて、耳まで悪くなったの?
「皆さんの貴重な時間取らせてしまい大変申し訳ありません。これからも寒くなりますので風邪などをお引きにならないようご注意してくださいね」
おーい、何締めてるの?
「そうですね、例えば、足首をロープで括り付け、そのまま川の中までバンジージャンプをした後、死なないように水面ギリギリのところで口呼吸ができるようにつるし、1時間ほど放置など絶対にしないでくださいね」
いや誰もしないからそんなこと。
「ちょうどここに、いい実験対象がいるのでそれをしたらどうなるのか、観察を⋯」
それでは皆さん、
さようなら。
「うふふ逃げちゃった。腕が鳴るなー、むしろゼロの腕をメキョメキョなるまで鳴らしてみたいなー。皆さんお付き合いくださり、ありがとうございました。それでは私はこの辺で失礼します。待っててね、ゼーーーロォーーーー」