新技 と 相談
初日の一層目の研究所を中心とした結界は、比較的にスムーズに事が運んだ。
けれど、二層目からはそうは行かない。
本来、魔素が一気に増える事はまず有り得ない。
例えて言うなら、ダンジョンでは階層事に魔素が異なる。
最下層では、当然魔素が一番濃いが、上層に向かうにつれ、魔素が薄くなり魔物の質も違ってくる。
今回の事もそれと同様だ。
代わる代わる交代で浄化を行うが、少し間を置いてもすぐにまた魔素が増大するわけではない。
だからと言って、気を抜くわけには行かないので、皆が休憩している間は、俺とベリアルとアルテミスが魔素の変化などを過敏に見て回ったりして、僅かな変化を見逃さないように気を配る。
そして、その間も当然魔族達の暴走は絶えない。
鎮静くんが追いつかない時などは、浄化隊が出張る事もある。
結界にしても、広範囲であればある程、簡単に結界で覆えるものではない。
なので、何度も魔素量を見ながら結界を張る…………その繰り返しになるのだ。
それでも、時間の合間を縫っては、龍達の修行を見る事も忘れていない。
「治癒魔法以外の何か……ですか?」
「うん。治癒が如何に大事かは私も分かってはいるんだけど、やっぱり他でも何か出来る事無いかな?と思って……」
野田先輩から相談された事は、自分に合った他の魔法は無いのかと言う話だった。
「うーん……そうですね。精霊や妖精と魔物は、厳密に言えば同じ自然エネルギーの一種だと言う事は知っていますか?」
「え?そうなの?」
これには七鈴菜さんが驚く。
「うん。精霊達には形があり自我もあるけど、そもそもは自然から出来た存在なんだよ。で、実はエルフ国には魔物は居ない。何故か分かる?」
「さ、さあ……?」
「精霊達や魔素はこの世界の何処にでも存在する。自然そのものだからね。けど、対象的な存在なんだよ。実は魔素が異常に多い場所には精霊達は近付かない」
「「「「………………」」」」
皆が俺の話に耳を傾けていた。
「理由は簡単だ。魔素が多い所では、精霊達の力が半減されるから。でも、精霊魔法師と契約している精霊はその限りではない。精霊魔法師の力量にもよるけどね。そして逆も然り、精霊達の多い場所は魔素が弱い。故に、魔物の発生率も激減する。だから、エルフ国は【聖域】とも呼ばれてるんだ」
「…………つまり?」
野田先輩が食い気味に聞いてくる。
「今回野田先輩が覚えたのは浄化魔素…………しかも上級ですよね?そして俺達が使ってるのは空間魔法の結界です。でも、そもそも結界と言うのはどの属性でも該当します。それぞれ用途は違うので、一括りには出来ませんが……そして、浄化魔法は〈光属性〉の魔法です。つまり、それを以て結界を張る事により、魔物を近付けなくする事が可能です」
「っ?!」
野田先輩が目から鱗が落ちたように目を見開く。
「ただし、これは簡単ではありません。しかも、もし治癒魔法と両立するとなると、並大抵に出来る事でもありません。…………どうしますか?」
「……………………」
野田先輩は少しの間逡巡する。
けれど、意を決したように顔を上げて俺を見詰めてきた。
「……もし、私にもそれが出来る可能性が少しでもあるなら…………やってみたい」
「分かりました。今この場所を離れるわけには行かないので、俺が出来るのはやり方を教えるだけです。後は…………実際に魔物が居る所で実戦訓練をする必要があります」
「う、うん」
俺の言葉を聞いて、野田先輩が緊張しながらも頷く。
「あ!その時は私も一緒に行きますね?サポートが居た方が愛華先輩も安心でしょ?」
七鈴菜さんがそんな事を言ってくれる。
「ありがとう、七鈴菜ちゃん。でも、出来ればギリギリまで待ってね?じゃないと、修行にならないから」
「はい!!」
俺はこの光景に目を細める。
皆がやる気が出て、手と手を取り合ってお互いを助け合うのは、とても良い傾向だと思う。
野田先輩は特に、特定の人物以外とは深く関わろうとしない所があった。
それが今は、多少なりとも心に余裕が出来たのか、周りにも目を向けようとしている。
俺はそれに、自然と笑みが零れるのだった。
《『セツナ、そろそろ準備を頼む』》
アルテミスから念話が届く。
「それじゃ行こうか?」
俺達は腰を上げ、再び仕事に取り掛かる事にした。




