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【転生】と【転移】の二足の草鞋  作者: 千羽 鶴
第五章 荒廃した魔都を保護する為の奇策
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反省 と 変化

俺は机に突っ伏していた。

机の上には、書面が山積みとなっていた。

だが、俺が今頭を抱えていたのは、この山積みの紙束などではない。


「…………やっぱり、ちょっと言い過ぎたかな?」


先程の、皆に対しての言動に自己嫌悪に陥っていたのだ。

後悔するなら言うなよ…………と思わずにはいられないが、俺が皆にしてあげられる事は限られている。

ずっと傍で守る事が出来ないなら、せめて今のこの状況を利用して、皆に更なる力を与えてあげたかった。


「だからってあれは無いよなー?はあ~」


俺は大きな溜め息を吐く。

そんな俺に、ベリアルが書面から目を離して、呆れた眼差しを向ける。


「……たく、お前は別に間違った事は言ってないだろ?アイツらが甘すぎるんだ」

「そうは言ってもな、皆はまだ若いんだぞ?何か俺の考えを押し付けてるようで……」

「……忘れてるようだから言っとくが、お前も充分若いんだがな……」

「………………あ」


そんな俺の発言に、アルテミスがすかさずツッコミを入れる。


俺自身も忘れがちだが、俺も実年齢は十七歳だっけ?

転生ばかり繰り返してきたせいか、どうも考えがジジ臭いのかもしれいな。


そう思うと、人知れず更なるダメージを負うのだった。

兎にも角にも、今は最優先にやるべき事がある為、今は無理矢理でも頭を切り替える事にする。

一人反省会は後にしよう。


俺は再び書面に目を通すと、頭を働かせた。


「まずは、それぞれの地区への自警団の編成からだな」

「ああ……どちらかに偏らず、均等に割り振りながら、力の配分も考える必要がある」

「だな……魔族に関してはベリアルの方が詳しいから、ベリアルに一任して構わないか?」


俺の言葉を聞いて、ベリアルは頷く。


「ドワーフから派遣される人員も自警団に回す。それもベリアルが上手くやってくれ。それから、エルフや浄化魔法を使える者達は、アルテミスに任せるよ」

「了解した」

「後は……俺は生徒達の特訓かな?それからの細かい事は…………状況に応じて決めて行けばいいか」


俺達はそうやって、大まかな方針を決めていった。

俺は書面から目を離すと、大きく伸びをする。

その時、何処からともなく何かが割れる音が聞こえた。


ガチャンーー。


「…………何だ?」


俺は眉間に皺を寄せる。


「……ガラスが割れる音のようだったな」


アルテミスが耳を済まし、音のする方を指差す。


「あっちからか……」

「取り敢えず行ってみますか」


あまり良い予感はしなかったが、俺は重たい腰を上げると部屋を出たのだった。



俺達が外に出てみると、そこには既にジークが居た。


「よ!セツナ。あいつらどうする?殺っていいのか?」

「殺るってお前な…………」


ジークの物言いに半ば呆れながらも、俺はジークが顎で示した方を見遣る。

そこには、魔族の団体さんが居た。


「イヒ、イヒヒヒヒ」

「殺す殺す殺す殺す殺す…………ブツブツ」

「ああん!私の大切なブラウス汚したの誰よ!!アンタ達ね?!」

「ねえ!お兄ちゃん達、僕と遊ぼうよ!!」


目は血走り、言葉に一貫性がない。

皆が、ただ欲望を剥き出しにした獣と化していた。


「セツナ様?!」


そこに、アヤメ達も合流する。

この現実を目の当たりにして、皆が若干引き気味になる。


「セーレ、鎮静くん今どれくらいある?」


俺は近くに居たセーレに聞いた。


「ごめん。それがさっき、自警団に全部渡したばかりなんだ…………まさか、ここに乗り込んで来るなんて予想外で…………」


セーレは申し訳なさそうに肩を落とす。


「気にしなくていいよ。俺も予想してなかった事だから」


俺はそんなセーレを慰めるように、頭をひと撫でした。


「さて……と。ジーク、殺るのは無しだ。多少の傷は多めに見るが、皆ちゃんと無事に確保する事!出来るよな?」


俺は不敵に笑って、ジークを挑発するように言った。

ジークも、いつもの軽薄な笑みを浮かべ、それに応じる。


「当然だろ?」


その言葉を皮切りに、俺とジークは瞬時に動く。

そして、瞬く間に二十名程居た暴走魔族が、気を失いその場に倒れていった。


「アルテミス、ベリアル、皆を研究所内に運ぶから手伝ってくれ。それから、七鈴菜さんと野田先輩と楠木くんも一緒に来てくれる?実際に浄化魔法を見た方が早いだろうから。俺が魔法を、アルテミスが精霊魔法で実演してみせるよ」

「え?あ、分かった!」

「う、うん」

「は?……まあ、別にいいけど……」


俺のいきなりなご指名に、三人は戸惑いながらも返事をする。


「アヤメ、悪いけど割れた硝子の後片付けお願い出来るかな?」

「はい!任せて下さい!」

「あ、私も手伝います!」

「んじゃ、ボクはまたこんな事にならないように、すぐに鎮静くんの製作に取り掛かるよ」

「うん。頼むよ?セーレ」

「まっかせてよ!その代わり、後でご褒美として…………チュウして?」


セーレが体をくねらせて、上目遣いでお強請りをしてくる。

俺はそんなセーレから視線を外して、曖昧に答える。


「……あー、ベリアルの許可が降りたらな?」

「おい……俺に振るな。迷惑だ」

「ちょ!何さ!!二人して!」


セーレがプリプリと頬を膨らませてイジける。


「あはは。ごめんごめん」


俺はセーレの頬をつつきながら謝ると、〈風魔法〉で気絶している魔族を持ち上げ、恰も操り人形のように慎重に研究所に運び入れた。


魔族全員を一室に運び終えると、俺は早速浄化魔法を施そうとしたが、七鈴菜さんが躊躇いながら俺に声を掛けてきた。


「あ、あの…………刹那くん?」

「ん?何?」


俺が七鈴菜さんの方に振り返ると、七鈴菜さんは真摯な瞳を向けてきたかと思うと、いきなりがばりと頭を下げた。

俺はその突然の行動に、目をぱちくりさせて七鈴菜さんを凝視する。


「さっきは御免なさい!!私、全然何も分かってなかった。今皆がどれだけ大変で、どれだけの思いを抱えてるのかなんて……なのに、私は自分の事ばかりで、我侭ばかり…………こんな私なんて、刹那くんも呆れるよね……?」


そこまで言うと、七鈴菜さんは見る見る落ち込んでしまった。

そんな七鈴菜さんに、俺は大慌てで言葉を掛ける。


「いやいや!謝るのは俺の方だし!俺も、流石にちょっと言い過ぎたと思ってた所だから……そんなに謝らないで?」

「ううん……刹那くんは正しいよ。私の考えが甘すぎただけ…………だから!今度はちゃんとする!修行も頑張るから、宜しくお願いします!!」


そう言って、七鈴菜さんは再び勢い良く頭を下げた。

この数分の間に何があったか知らないが、少なくとも、その僅かな時間で彼女に何かしらの心境の変化が起こった事は間違いないだろう。

俺は、そんな彼女に笑顔を向けて答えた。


「……うん。こちらこそ宜しく」


俺の言葉を聞くと、七鈴菜さんは漸くいつもの花も咲き誇る笑顔に戻るのだった。

そんな俺達を見て、他の皆も口々に言い出した。


「わ、私も……何処まで出来るか分からないけど、頑張ってみるつもり!」

「俺も…………まあ、頑張ってみてもいいとは思ってる」

「……お前って本当素直じゃないのな?ま!俺は元々頑張るつもりだったけどさ!!」


そんなこんなで、俺達に新たな絆が生まれたのだった。

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