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【転生】と【転移】の二足の草鞋  作者: 千羽 鶴
第五章 荒廃した魔都を保護する為の奇策
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刹那が王都を発ってからの三人は?

アリアの場合



「お父様!!何故行っては駄目なのですか?!」


執務室を皆が退室してからも、アリアはまだアレク王に食ってかかっていた。


「……駄目とは言っとらんだろう」


だが、アレク王の顔は晴れない。


「では何故先程は渋っていらしたのですか?」

「うーむ……」


アレク王は唸る。

前回の王都襲撃の時は、渋々とは言え了承したが、それでも苦渋の決断だったのだ。

共に前線で戦った者達からは、アリアがどれだけ頑張っていたかを聞かされた。

けれど、かなり危うい状態だったとも聞く。

今回の魔都の件は、前回に比べればマシと言えばマシかもしれないが、刹那の話を聞く限り、現在の魔都の治安はあまり芳しくないように思われる。

それ故に、アレク王としてはあまり簡単に容認出来るものではなかったのだ。


アレク王がいつまでも煮え切らないのに業を煮やしたアリアは、強硬手段に出る。


「私は行きますからね?例えお父様がお止めになったとしても!」

「…………セツナ殿に嫌われるぞ?」

「ぐっ!ひ、卑怯ですわよ!!」


アリアは言葉に詰まる。

刹那は言ったのだ。

アレク王が許可してから来いと……。

アレク王は暗にその事を提起しており、それを出されればアリアはぐうの音も出ない。

アレク王は、アリアにとって刹那の名が弱点だと分かった上で、敢えて口にしたのだ。


アリアは最早半泣きに近く、涙目でアレク王を睨んでいた。


(さて、どうしたものやら…………)


アレク王は更に逡巡する。

アレク王とて、意地悪でこんな事を言っているわけではない。

出来る事なら行かせてやりたいとも思っている。

だが、一人の親として、愛娘を態々危険な地に赴かせたくは無かった。

顎に手を当てて、アレク王が考えに耽っていると、扉の方から声が掛かる。


「……行かせてあげてはどうですか?父上」

「…………クルトか」


いつの間に入ってきたのか、そこにはクルトが立っていた。

クルトのその言葉を聞いて、それまで黙って傍に控えていたトマルスが口を開く。


「私もクルト王子と同意見です。今回は、セツナ殿がちゃんと付いておられるのですから、何も心配ないのでは?」

「クルト!トマルス!」


二人が自分に加勢してくれた事にアリアは歓喜し、そしてアレク王に哀願の眼差しを向ける。

アレク王はそれを見て、長い溜め息を吐き苦笑しながらも言った。


「……決して無理はせず、セツナ殿の言う事をちゃんと聞くのだぞ?」

「っ?!はい!!」


それは許諾の言葉だった。

それを聞いたアリアは、大喜びで元気良く返事をするのだった。


・-・-・-・-・-・-・-・-・-


楠木の場合



楠木は自室でベッドに横になっていた。

天井を仰ぎながら思案に耽る。

楠木は刹那の言葉を何度も思い返す。

確かに、更なる力を求めるなら、これは又と無い機会かもしれない。

何故なら、あの刹那が直に教えると言ってきたのだ。

刹那は、身内とそうじゃない者との落差が激しい。

それは前回の事で嫌という程分かっていた。

その刹那が、態々自分を指名してくれたのだ。

先程はああ言ったが、楠木は実の所素直に嬉しかったのだった。


(だけど…………)


そう、楠木のプライドがそれを邪魔する。

そして何より、自分のこんな気持ちの変化に、楠木自身が未だに追い付いて行けてなかった。

先日まで、あれ程刹那を目の敵にしていたのだ。

今更ホイホイとついていくなど気が引けた。


(アイツも俺が自分を嫌っていたのは知ってた筈だ。いや……それとも気付いてなかったのか?)


そんな筈はないと、楠木は頭を振る。

いくら刹那が鈍いと言っても、あれ程分かりやすい態度をしていたのだから気付かない筈はない、と……。

もし分かっていた上で、それでも尚刹那は自分の力を認め、今回の提案をしてくれたとするなら…………。


そこまで考えて、楠木は勢い良くベッドから起き上がる。

そしてそのまま、足早に執務室へと戻るのであった。


・-・-・-・-・-・-・-・-・-


愛華の場合



「で?どうすんの?愛華は」


世梨香は愛華に問う。


「……せりちゃんはどう思う?」


愛華は迷っていた。

愛華が選ばれた理由は刹那から聞いた。

けれど、愛華はやはり、何故自分なんかが選ばれたのか分からない。

正直、刹那とちゃんと話をしたのは今回が初めてだった。

刹那は、生徒達の全データを見て、愛華と楠木が一番適してると判断したと言った。

果たしてそれは本当なのだろうか?


「どう思うって…………愛華が決める事だと思うよ?」

「………………」


最もだと愛華は思う。

それでも、まだ判然としないのだ。


「刹那も言ってたけど、嫌なら別に無理しなくていいと思いますよ?」


見るに見かねて、善文が助け舟を出す。


「別に嫌とかじゃ……善文くんはどう思う?」

「どうとは?」

「彼が私を選んだ理由…………」

「えーと…………弱いから?」

「あ…………」


そう言えば、と愛華は思い出す。

刹那はハッキリと言っていたのだ。

自分達は弱いのだと……。


「アイツは、たまにこっちが焦る事を平気で言うけど、基本間違った事は言わないんすよね。そのせいで、変な誤解とかされたりもしますけど」


善文は頬を掻きながら、苦笑交じりに言う。

けれど、その顔は優しかった。


「ただ、刹那は誰にでもそんな事を言ったりしません。ちゃんと相手を見て言います」

「……じゃあ、何で私達に?」

「んー……それに意味があるからじゃないですか?」

「意味?」

「はい。今回の事で言うなら、刹那は魔都を救いたい。その為の最善策を考えた。けど、刹那って男は、そこでは終わらないんです」

「………………」

「それと並行して、他に何が出来るのかも考える奴なんです。そこで思いついたのが、俺達のレベルの底上げだったんじゃないでしょうか?」


善文は親友と言うだけあって、刹那の事を良く分かっていた。


「勿論、それには誰でも良かったわけじゃないけど、逆に誰でも良かったんだと思います」

「んん?どう言う事かな?」


これには、世梨香も意味が分からず首を傾げる。


「えっと……説明がちょっと難しいんだけど、生徒達の底上げ目的だけなら、生徒の中からなら誰でも良かったんだよ。でも、それだけじゃ駄目で……その中でも特に目的に見合った者を更に選別したんじゃないかなーって……」


善文も少し自信が無いのか、最後の方は消え入りそうな声だった。


「…………つまり、私がその目的に合ってたって事?」

「た、多分?」


善文は曖昧に答える。

愛華はそこまで聞いて、僅かではあったが、刹那に興味が湧いた。

どうして自分を選んだのか……もしかしたら、その答えが魔都に行けば分かるのかもしれないと思った。


愛華はそこで足を止める。


「……愛華?」


世梨香が不審に思って声を掛ける。


「…………うん、決めた。私魔都に行ってみようと思う」

「そっか……愛華が決めた事なら、私も陰ながら応援するよ」

「うん!ありがと、せりちゃん」


こうして、愛華もまた魔都に行く事を決断したのであった。

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