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【転生】と【転移】の二足の草鞋  作者: 千羽 鶴
第五章 荒廃した魔都を保護する為の奇策
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王都 と 人選

俺達は、凡そ二週間で転移魔方陣を完成させる。


「それじゃ、俺達はもう行くから、後は任せたよ?」

「うむ。心配するな」

「はい!任せて下さい!」

「うん!大丈夫だよ!」

「お気を付けて!」

「……ん」


皆はそれぞれ頼もしく返事をしてくれた。

その言葉を聞いて俺は一つ頷き、早速ベリアルと共に王都へと転移したのだった。



王都に着くやいなや、足早にアレク王が居る執務室へと向かう。

その途中、廊下でアリアと遭遇した。


「あ!セツナ様!帰っていらしたのですか?」

「アリア……ちょうど良かった。お前も来てくれ」

「…………え?」


アリアが俺達を見つけると、嬉々として近寄ってくる。

俺は説明も惜しくそれだけを言うと、近くに居たメイドを呼び寄せる。


「悪いけど、これから言う人物を至急執務室に集めてくれる?」

「え?あ、はい。畏まりました」


アリアもメイドも訳が分からないと言った感じだったが、素直に俺に従ってくれた。


俺達が執務室に着くと、程なくしてジークが顔を出す。


「よ!セツナ。早速約束果たしてくれるのか?」

「悪い、ジーク。今日は急ぎだから、約束はまた今度にしてくれるか?」


俺は手を合わせてジークに謝る。

ジークは少し拗ねた素振りを見せるが、それでも何だかんだで許してくれた。


「ちぇ。まあ、お前も忙しそうだしな。今回は見送ってやるよ」

「ありがとな」


ジークにしては珍しく、あっさりと身を引いてくれる。


何故か後が怖いんだが…………。


「で?俺を呼んだと言う事は、俺にも手伝って欲しい事があるんだろ?」

「ああ、勿論。その事については、皆が揃ってからまとめて話すよ」


それから少し経つと、今度はここに残ってくれていた魔族十人とエルフ五人が現れる。

魔族達はベリアルの顔を見ると驚きに目を見開き、一斉に膝をついた。


「ご無沙汰しております。ベリアル様」

「ん?ああ、お前達も元気そうで何よりだ。だが、そう言うのは止めろ。俺はもう、コイツのただの従魔なんだからな」


そう言ってベリアルは俺を指差す。


「ですが……」


魔族達は困惑気味に、皆で顔を見合わせる。


「分かったな?」

「わ、分かりました……」


ベリアルが少し強い口調で言うと、魔族達は渋々それに承諾する。

もう少し優しく言ってやっても良いのでは?と思わずにはいられなかったが、まあ、ベリアルだから仕方がない。

俺は苦笑するだけだ。


それから、次に執務室に現れたのは、善文・龍二・七鈴菜さん・佐々木さん・楠木・東雲先輩・野田先輩だった。


「あれ?善文も来たの?」

「……何だよ。俺が来ちゃ行けないのか?」


俺がそんな事を言うと、善文が唇を尖らせて拗ねたように文句を言う。


「悪い悪い。そんな事は無いよ」


不貞腐れてしまった善文を何とか宥め、俺は改めて集まった面々を見渡す。


「それにしても…………」

「…………狭いな」


アレク王も俺と同じ事を考えていたらしく、ボソリと呟く。


「あ、あはは。こんな事なら、謁見の間の方が良かったかな?」


とは言うものの、既に集まってもらったので、今更移動するのも億劫だ。

俺は一つ咳払いをする。


「あー……んじゃまあ、取り敢えずは集まってくれて皆ありがとう。一応これから話す事は極秘で頼むよ?皆に要らぬ混乱を与えたくないから」


俺はそう前置きをしてから、魔都で考えた方策を皆にも伝えた。

俺が話し終わるまで、皆はただ黙って聞いていてくれた。


「ふむ。魔都の現状については、それなりに聞き及んでおったが、そこまで深刻だったとわな」


最初に口を開いたのはアレク王だった。


「うん。俺も目の当たりにしてもまだ信じられないんだけどね。で?王都は援助出来そう?」

「うむ。食料や物資などの援助は可能だろう。だが、浄化と結界はどうするのだ?その様子なら、それも考えておるのだろ?」

「勿論!その為に皆に集まってもらったんだから!その前にアレク王にも許可を貰おうと思って」

「……許可?」

「うん!アリア暫く貸してくれない?」

「なぬ?!」

「っ?!」


俺がしれっとそんな事を言うと、二人は面食らった顔で目を丸くする。

だが、アリアの方はすぐに持ち直すと、アレク王に向き直り、息せき切って懇願した。


「お父様!私行きます!いえ、行かせて下さい!!」

「……アリア」


アレク王は、そんなアリアに渋い顔をする。


「勿論、アレク王が無理だと言うなら諦めるから」

「そんな?!お父様!!」


俺の言葉に、アリアが悲痛な叫びを上げ、再度アレク王に詰め寄った。


「はあ~……取り敢えずは、他の人選を聞きたい」


アレク王がそう言い、俺は頷いてから改めて人選を発表する。


「他には、ジーク・七鈴菜さん・龍・楠木くん・野田先輩……この五人が、俺は最も最適だと考えてるんだ」

「む?」

「!!」

「へ?」

「……は?」

「……え?」


俺が名前を上げると、それぞれが違った反応を見せた。

七鈴菜さんは喜色満面になり、ジークは話の流れから何となく予想はついてたのか、それ以上は何も言ってこなかった。

だが、他の三人は自分達が何故選ばれたのか分からず、俺に問いただしてきた。


「ちょ!ちょっと待ってくれよ!何で俺なんだ?!」

「お、俺もそうだ!てか、勝手に決めんなよ!!」

「私も……何で私が選ばれたのか聞いてもいいかな?」


三人が最もな質問をしてくるので、俺は出来るだけ分かりやすく説明する事にした。


「まず、生徒達のデータを見た所、三人が一番適任だと判断したから」

「待てよ……もしかしてお前、生徒達全員のデータ覚えてるのか?」


善文がそんな事を聞いてくるもんだから、俺はさも当然のように言う。


「ん?当たり前だろ?」


俺がそう答えると、生徒陣は何故か呆れた顔をする。

俺は何故そんな顔をするか分からず首を傾げるが、そのまま話を続けた。


「まず、楠木くんと野田先輩は〈光属性〉の適切が高い。だけど、今の段階では浄化は出来ないだろう」

「な、なら!」

「だから俺が教える」

「はあ?!」


楠木が目を剥く。


「一日で覚えてもらう」

「なっ?!」

「っ?!そ、そんな事出来るの?」


野田先輩が不安そうに聞いてきた。


「普通なら厳しいですね。ですが、本人がやる気さえ出してくれるなら、俺が無理にでも引き出させて見せますよ」


二人はポカンと口を開けていた。

けれど、楠木はまだ納得出来ないのか、あまりいい顔はしなかった。


「そ、そんな事…………いきなりで納得出来るわけないだろ?お、俺は行かないからな?」

「そうか。分かった」

「…………へ?」


俺は無理強いしたいわけではない。

本人がやりたくないと言う以上、俺がこれ以上何かを言うつもりはなかった。

なので、あっさりと身を引くが、楠木は俺のこの態度に困惑するばかりだった。


「野田先輩はどうしますか?」

「…………私達が選ばれた理由は分かったけど、何故態々生徒の中から選んだの?聖騎士さん達の方が……」

「ああ、それは簡単ですよ。一つは…………皆さんが弱いからです」

「…………え?」


俺が悪びれもなくそう言うと、執務室に集まった半数以上が驚きに目を見開く。


「おい……弱いっていくらなんでも……」


そんな俺に、流石に黙ってるのが忍びなかったのか、善文が俺に咎めるような視線を向けてくる。


「ん?だって本当の事だろ?けど、勘違いしないでほしいんだけど、別に弱い事が悪いわけじゃない」


俺は楠木と野田先輩の目を見据え、出来る限り噛み砕いて話す。


「弱いと言う事は、まだ伸びしろがあると言う事だ。これが二つ目の理由……今回の件は、皆のレベルアップに繋がるからだ。けれど、そのまま弱いままで終わるか、更に高みを目指すかは本人の自由意志だから俺は強制するつもりはない」

「「………………」」

「魔都を救いたいと思うのは俺の勝手な思いだ。皆にとっては、ぶっちゃけ王都以外は円も縁も無い場所なんだから、元々断るようなら諦めるつもりだったし、別に拘りは無い。だから、自分で考えて自分の意思で決めて欲しいと思ってる」


二人は無言だった。


「あまり時間は無いから、今日中には決めて欲しいとは思うけどね」


俺はそこまで言うと、次に龍に向き直る。


「でだ。俺が何故龍を選んだかだけど……」

「お、おう」


龍は少し緊張した面持ちで、俺の話の続きを待つ。


「まず一つはクー自体が空間能力に長けている事。だから、クーにも働いてもらう事にはなるけど……」

「じゃ、じゃあ、クーさんだけが必要って事か?」


龍は気持ちが急いて、俺の言葉を最後まで聞かずにそんな事を聞いてきた。

そんな龍に俺は頭を振る。


「そうじゃない。元々【従魔召喚】ってのは〈空間属性〉に適したものなんだよ。つまりは、龍にも空間魔法を使える要素があると言う事だ」

「?!」

「ま!勿論、他二人同様に、龍も今のままじゃ駄目だから、一日で覚えてもらうわけだけど…………どうする?」

「やる!」


龍は間髪入れずに即答する。

俺は龍ならきっとそう言ってくれるだろうと思ったが、それでも意地悪くニヤリと笑って言った。


「……いいのか?言っとくが、優しく教えてやるつもりはないぞ?たった一日で覚えてもらうわけだから、それなりにスパルタで行くからな?」

「うっ!……が、頑張る」


若干顔を引き攣らせながらも、それでも龍の意思は固かった。

俺はそんな龍に笑みを浮かべるのだった。


「それから、七鈴菜さんにも浄化魔法を覚えてもらうから覚悟しててね?」

「う、うん!私も頑張るよ!!」


俺の言葉に、七鈴菜さんも意気込んでグッと拳を作る。


「あ~あ。じゃあ、本当に俺達が来ても意味なかったな」


俺達がそんなやり取りをしていると、善文が頭の上に組んだ手を乗せて、本当に残念そうな声を出す。


「う、うん……そうですね……」


すると、佐々木さんもガックリと肩を落としてしまった。

東雲先輩も、少し残念そうに見える。

俺はそんな三人に苦笑しつつも、ある事を告げる。


「そんな事は無いよ?三人にもレベルアップしてもらいたいから、ちゃんとそれに見合った修行も考えてきたし……」

「ほ、本当か?!」

「っ?!」

「へえ~……」


善文が食い気味に聞いてくる。


「まずは佐々木さんだけど……」


俺が佐々木さんの耳に口を近付けて耳打ちしようとすると、佐々木さんの肩が一瞬ビクりと大きく跳ねた。


「あ、ゴメン。嫌だった?」

「い!いへ!!らいじょうぶでふ?!」


何故か佐々木さんは顔を真っ赤にして、呂律が回らない状態になってしまう。

周りからも、何故か冷めた視線が突き刺さったが、俺は気のせいだと思う事にして、そのまま佐々木さんにあるアドバイスをした。


「………………てな事なんだけど、出来そう?」


俺がそう聞くと、佐々木さんは真っ赤な顔で首が取れんばかりに大きく頭を縦に振る。


「お前ってさ……本当…………」

「ん?何?」


善文がどう言うわけか、呆れた声で何かを言いかけるが、俺が聞き返すと「何でもない」と言ったので、最後まで聞く事はなかった。


「?まあ、いいや。次に善文だけど……」

「おう!何でも来いや!」


善文は胸をドンと叩いて胸を張る。

そんな善文に俺は……………………ニヤリと笑う。


「改めて彼女の紹介してくれる約束だったよな?」


俺は善文の隣に立つ東雲先輩をチラリと見遣る。


「………………へ?」

「……え?」


善文は、俺のこの突然の言葉に間抜けな声を出すが、次の瞬間、真っ赤な顔で動揺しまくって…………面白い。


「な!ななななななな何を?!今はそんな事を言う場面じゃないだろ?!!!」


東雲先輩も、顔を赤くして俯く。


「あはははははは。さて!善文もからかった事だし……」

「おいっ!!!!」

「まあまあ。ちゃんと二人にもアドバイスはあるから」


俺は何とか善文を宥める。

善文は未だに納得出来ない様子だったが、それでも俺の話を聞いてくれた。


「んじゃ、最後に王都に残ってくれた魔族とエルフの皆にも、この後母国に戻ってもらうから」

「「……え?」」


それまで黙っていた魔族とエルフの内二人だけが、何故か驚いた声を出す。


「さっきも言ったけど、暫くは魔都は隔離状態になる。それに、今は一人でも多く人員が欲しいんだよ。君達十人には、俺達の結界が完成するまで自警団で魔都の治安を守ってもらいたい」


俺がそう説明を付け足すと、魔族とエルフの二人が顔を見合わせる。

それだけで、俺はピンと来てしまった。


「ああ……なるほど。それじゃ、君だけ魔都に来る?」

「っ?!い、良いんですか?!」


俺の提案に、エルフの女性は嬉しそうに顔を輝かせる。


「勿論。ただし、君にも働いてもらうかもしれないよ?」

「は、はい!頑張らせていただきます!」


俺の言葉を聞き、二人が幸せそうに笑っているのを見て、俺も自然と顔が綻ぶのを感じた。


「……お前って、本当に他人の事になると勘が働くよな?」


善文が、まるで先程の仕返しと言わんばかりに、すかさずそんなツッコミを入れてきた。

それには、他の面々も頷いて同意する。


「あ、あはは……」


俺は事実なので反論出来ず、皆の視線から逃れるように明後日の方を向いた。

そこで一つ咳払いをすると、無理矢理話を戻す。


「そ、それじゃ、アリア達はどうするか決めたら、そのまま魔都に行ってくれるかな?さっきも言ったけど、これは強制じゃないからね?」


俺は念を押す。

三人はそれに頷いてくれた。


「てなわけで、話は以上!俺達はこの後エルフ国に行くから……」

「ちょっと待て」


ここまでずっと無言を貫いていたベリアルが、唐突に口を開く。

俺がベリアルに、俺の話が終わるまで黙っているように言ったのだ。

口数が少なくて、何を考えてるか分からなく誤解されやすいベリアルは、慣れていない初対面の者達に説明するなど不向きだと判断したからだった。


ベリアルは一度集まってくれた面々を見渡すと、徐に頭を下げた。

このベリアルの突然の行動に、ベリアルの正体を知ってる者達は一様に驚きの顔をする。


「アレク王……並びに、今回魔都の為に助力してくれる者達に、心からの感謝をする」


言葉は少ないなれど、その言葉には万感の思いが込められているのが伝わってきた。

俺はそんなベリアルの姿に、優しい眼差しを向けるのであった。

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