ベリアル と セーレ
俺達が東地区に到着するも、そこは南地区と差程変わらない現状が目の前で繰り広げられていた。
ベリアルの眉間に、更に皺が寄り不機嫌になる。
「……まあ、取り敢えず家に行ってみようか?」
俺がベリアルを落ち着かせながらもそう言うと、どこか聞き覚えのある声が耳に届く。
「だーーーー!!あんたら!いい加減にしなよ?!!」
俺達がその声のする方を振り向くと、瞬間、ボフッと言う破裂音みたいな音がしたと思えば、その一帯を煙が覆い、争いあっていた魔族が次々と倒れていった。
「……はあ~、全く!こんなのがいつまで続くんだか……」
そこには、見覚えのある懐かしい少女の後ろ姿があった。
少女は頭を抱えながら独りごちる。
俺はそんな少女に背後から声を掛ける。
「大変そうだな?セーレ」
「…………え?」
セーレが俺達の方を振り向くが、一瞬呆けた顔をする。
きっと転生した俺が分からないのだろう。
そう思ったが、隣のベリアルの姿を捉えると、俺に漸く気付いたのか、口を手で覆い目を見開く。
「っ?!セ、ツナさん……?」
「うん。久し振り」
セーレはそれでもまだ半信半疑だったのか、俺に恐る恐る聞いてきたので、俺は笑顔でそれを肯定する。
すると、次の瞬間、セーレが脱兎の勢いで俺に向かって突進してきた。
「セツナさん!!」
俺はそんなセーレを………………ヒラリと避けて躱す。
ズザァァーー……。
「……………………」
セーレは、その勢いのまま顔面から地面にスライディングする。
「あ……ごめん。つい」
俺は悪びれもせず、セーレに謝罪した。
セーレはむくりと起き上がると、女の子座りの態勢で、腰をくねらせて俺を見上げてきた。
「もう!相変わらず照れ屋さんなんだから!」
「………………」
鼻血を流しながら頬を染める姿は、まさにホラーである。
そんな変わらない彼女に、俺は苦笑するしかなかった。
セーレは起き上がると、膝を叩いて砂を払い、ツカツカと俺の前までくると、満面の笑みで言った。
「結婚して下さい!!」
「御免なさい」
「はやっ!!」
いや…………まずは鼻血拭けよ。
と言うツッコミはしない。
何せセーレだし……。
彼女に対して存外な態度に見えるかもしれないが、俺は別にセーレが嫌いなわけではない。
寧ろ好きだ。
けどな…………やっぱりどうしてもな…………
「何で?!ボクの何処がダメなの?!」
セーレはそんな俺に、尚も食い下がってくる。
「別にセーレが悪いんじゃなくて、前にも言ったと思うけど、身内の妹って何かやっぱ気が引けるっつーか……」
俺が頭を掻きながら困った顔をすると、セーレがピタリと体を停止させた。
「?」
俺が不審に思っていると、セーレの目が据わり、徐に片手を上げて、照準をベリアルにあわせて叫んで言った。
「……そう…………やっぱり死ねや!バカ兄貴!!」
「おい?!」
そのまま、本当にセーレはベリアルに火球を連発しだした。
ベリアルは、それらを全て難無く回避するも、いつものクールビューティさが掻き消えて慌てふためく姿は、見てる分には実に面白い。
そんな二人のやり取りを、他人事のように眺めながら和む俺達。
セーレはベリアルの実の妹だ。
髪色はベリアル程濃くはないが、綺麗なチェリーレッドをしている。
少々思い込みが激しく、猪突猛進型ではあるが、俺は嫌いじゃない。
二人の両親は既に居ないので、兄妹でずっと二人三脚でやってきたせいか、流石のベリアルもセーレには頭が上がらないのだった。
だが、このままではいつまでたっても埒が明かないと思った俺は、未だにベリアルを亡きものとしようとしているセーレに声を掛けた。
「セーレ、そろそろその辺にして家に行かないか?色々話もしたいし」
「はい!」
俺のその一言だけで、セーレは満面の笑顔で元気良く返事をする。
そうして、漸く俺達はベリアル達の実家に向かうのであった。
ベリアルが恨めしい目で睨んできたが、俺は素知らぬ顔で歩を進めるのだった。




