レヴィアタン と 二度目のデジャブ
本日も二話投稿します。
タナロアの死後、亡骸はボロボロと崩れ落ち、藻屑となって波に飲み込まれてしまった。
出来る事なら丁重に埋葬してやりたかったが、こうなってしまっては致し方ない。
なので、形だけとは言えタナロアの墓を作る事に決めた。
何もしないよりかはマシだろう。
例えそれが、自己満足にしか過ぎずとも……。
タナロアの墓を作り終えると、次はタナロアの拠点としていた海底洞窟へと向かう。
以前、人魚国の斥候隊が偵察に来た時は、魔物がうじゃうじゃ居て近寄れなかったらしいが、今となっては嘘のように静まり返っていた。
洞窟の一番奥まで行くと、後付けで人工的に作られたような広いホールに出る。
「レヴィアタン……」
そこには、とぐろを巻いて静かに瞑目しているレヴィアタンの姿があった。
触れてみると、しっかりとした温もりと鼓動が伝わってきて、俺は胸を撫で下ろす。
早速【解析】で視てみる事にした。
どうやら、レヴィアタンそのものに、【昏睡】の術式が組まれているようだった。
これなら、俺の【遡行魔法】で解除出来る。
「………………」
だが、俺はずっと何かが引っ掛かって仕方が無かった。
「……セツナ様?」
「…………いや、何でもない」
俺が思案に耽っていると、アヤメが心配そうに声を掛ける。
俺は一度頭を振る。
今優先すべきは、レヴィアタンの救出だ。
考えるのは後からでも出来る。
もしかしたら、レヴィアタンから何か情報を得られるかもしれないしな。
そう頭を切り替えて、俺は【遡行魔法】をレヴィアタンに掛けた。
すると、すぐに効果が発揮され、レヴィアタンの固く閉じた瞼が僅かに揺れる。
『う……ん……』
「レヴィ、気分はどう?」
これはレヴィアタンの愛称だ。
と言っても、勝手に俺が付けたので、俺以外は誰も呼ぶ事もないが……。
レヴィは、寝起きだったからか、暫くぼんやりとしていが、俺に焦点が合うと何とも間の抜けた挨拶をしてきた。
『あら?セツナじゃない。一年ぶり…………百年ぶりだったかしら?兎に角久し振りね』
俺はガックリと肩の力が抜ける。
一年と百年じゃ、かなり差がありすぎるだろ…………。
相変わらずの天然さに、俺は苦笑するしかなかった。
何はともあれ、レヴィアタンの無事を皆で喜ぶと、ミシディアとカルミアを迎えに行く為に、レヴィアタンに頼んですぐに港町に向かう。
人気の無い岩礁で一度レヴィアタンと別れ、宿屋に足を向けるが、途中の港に着くと何故か大歓声に包まれ、俺は後ずさりしてしまう事となった。
「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」」
「っ?!な、何だ?!」
アヤメ達も目を剥いて驚く。
そこには、港町の住人が全員集まっているのではないかと言う程、人だかりが出来ていた。
あ、あれ?また再びデジャブが…………。
でも何でだ?俺自分の事話したつもりないんだけど?
すると、その人垣を掻き退けるように、二人の影が前に進みでる。
「ミシディア、カルミア?」
何故かミシディアは気まずそうに俺を上目遣いで見てくると、突如勢い良く頭を下げた。
「すみません!!私がつい口を滑らしてしまって…………セツナ様の事が町の皆さんに知られてしまいまして……」
ああ……なるほど。
これで納得がいった。
まあ、確かに面倒い事この上ないが、バレてしまったのなら仕方が無い。
けれど、そんなミシディアに、アヤメがニコリと笑顔を向ける。
「…………ミシディア?」
「ひぃぃ!!」
笑ってはいたが、そこには確かに怒気が含んでいた。
その剣幕に、ミシディアが怯えたように情けない悲鳴を上げる。
これは暫くお説教タイムが続きそうだと思い、俺は放っておく事にした。
「カルミアは、特に変わった事は無かったか?」
「……ん。大丈夫」
「そうか、それは良かった」
俺はカルミアの頭を撫で一人和む。
周囲を見渡すと、そこに宿屋の主人を見つけ、俺は声を掛ける事にした。
「主人、二人が世話になった。宿賃はあれで足りたか?」
「は、はひ!!ももももももも勿論ですとも!!いえ!寧ろ宿賃など必要ありませんとも!!!!」
主人に酷く恐縮されてしまい、俺は苦笑する。
主人のすぐ隣では、ララがぽけーと俺を見上げてきていたが、気付かなかった事にした。
「そう言うわけには行かないだろ。でも、足りたならいいんだ」
それだけを言うと、俺は仲間達の元に戻る。
「おい。いつまでやってる?レヴィを待たせてるから、続きは後でやれ」
ミシディアを正座させて、未だに説教を続けている二人に呆れて声をかけると、アヤメは「はい!」と元気良く返事をしたが、反対にミシディアは「そんな~」と涙目で情けない声を出す。
多少予期せぬ出来事に戸惑いもしたが、当初の目的通り、ミシディアとカルミアにレヴィアタンの加護を与えてもらい、俺達は一度人魚国に帰還するのだった。
人魚国は明日立つ予定だ。
人魚国の転移魔法陣もやる必要はあるが、先に魔都のをやらなければ行けないので、申し訳ないが人魚国のは後回しにさせてもらう。
とは言うものの、今日一日のんびりしてもバチは当たらないだろう。
それに、今回の功労者は間違い無くセフィナだ。
なので、今日は目一杯セフィナを甘やかしてやりたいと思うのだった。




