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【転生】と【転移】の二足の草鞋  作者: 千羽 鶴
第四章 王都と人魚姫をストーカーから守り抜け!!
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タナロア と 新技

正門前に俺達が近付くと、皆が既に殺気立っており、一触即発の雰囲気だった。

そんな中で、偉そうな甲高い声が辺りに響き渡る。


「貴様らでは話にならん!俺は自分の嫁に会いに来ただけだ!セフィナを出すが良い!」

「ふざけるな!!姫は貴様の嫁ではないわっ!!」


大臣の一人が、勇敢にも男に食ってかかる。

全くその通りだと内心頷きながら、俺は人垣を掻き分けて前に進む。

先程の声から察するに、昨日の八首大蛇が発していた声と同一だったので、おそらくそいつがタナロアとか言う奴なのだろう。


さて……どんな奴かな?


俺が皆の最前列に躍り出ると、視界いっぱいに数多な海の魔物達が集まっていた。

もしかしたら、昨日よりも倍以上は居るかもしれない。

そして、その魔物達の一番前には、仁王立ちで明らかに尊大な態度をした魚人の姿があった。

体色は茶褐色で、少し離れ目のギョロ目に、腫れぼったい唇が特徴的な……フサギンポのような魚人が、大臣達に睨みを利かせていた。

間違いなく、あれがタナロアだろう。

俺が男を観察していると、タナロアが不意に俺の後ろに居るセフィナに目を止めて、醜悪な顔に笑みを浮かべる。


「ッ?!」


セフィナがそれを見て息を飲む。


「やあやあ!我が姫よ!迎えに来たぞ!」

「タナロア……」


タナロアが恍惚とした表情で、大仰に両手を広げる。


「君がいつまでも焦らすからこんな所まで来るハメになったじゃないか。もう祝言の準備も整っている。さあ、俺と一緒に行こう」


そう言って、タナロアはセフィナに手を差し出す。


何言ってるんだ?コイツ…………。


勘違いも甚だしい。

最早、セフィナ以外眼中に無いと言った感じで、タナロアはうっとりとした目をセフィナに向けてくる。

セフィナがそれに怯えたように一歩後ずさる。

俺は、そんな勘違い男とセフィナの間に割り込むように、セフィナの前に体を滑らせた。

そんな俺に、タナロアが分かりやすくも不機嫌な顔になる。


「む?何だ?貴様は」

「俺?俺はセフィナの彼氏だけど?」


俺は、タナロアを挑発するように口角を上げ、不遜な態度で言い放つ。

横を見ると、セフィナが顔を赤くして体をもじもじさせていた。


「は?何言ってるんだ貴様は……」

「それはこっちの台詞なんだけど?何人の留守中に勝手に人の女口説こうとしてんの?」


俺は、タナロアに僅かに威圧を放ちながら睥睨する。

タナロアは一瞬たじろぐが、すぐに持ち直して俺に睨み返してきた。


へぇー……意外と根性あるな。


俺が感心していると、タナロアの服の隙間の胸元当たりが、何やら光っているのに俺は気付いた。


何だあれは?石…………?


「なあ、セフィナ。アイツの胸元に琥珀色の石みたいのがあるが、あれは元からあるものか?」


俺は気になって、タナロアに聞こえないようセフィナに耳元で聞いてみた。

セフィナも、俺の言葉にタナロアの胸元をジッと凝視すると、少し思案してから首を振った。


「ううん。あたしの記憶通りなら、あんなのはなかった筈だけど?」

「……そうか」


俺は何故か、あの胸元の石が気になって仕方がなかったのだ。

そんな俺達のやり取りを、どうやら勘違いしたタナロアが、顔を朱に染め肩を震わせて、凄い形相で俺達に怒鳴り散らす。


「何をこそこそしている!!俺の誘いは断っておいて、またもや貴様は人族の男を選ぶと言うのかっ!!!!」


タナロアは、フゥーフゥーと鼻息を荒くして喚いたかと思うと、今度は顔に笑みを浮かべてセフィナを愛でるように見詰める。


「……もう良い。これが最終通告だったんだがな。本当はこんな事はしたくないんだよ?でもセフィナが悪いんだ……僕の物にならないから……だからこれが俺の愛の形なんだよ……」


などと、何やらブツブツ独り言を言い出した。

焦点も合っておらず、最早支離滅裂だ。

そんなタナロアの様子に、俺は眉を顰める。


明らかに様子がおかしすぎる。

正気の沙汰とは思えない。


俺がそんなタナロアに違和感を覚えてると、タナロアが徐に右手をあげて一言告げる。


「…………やれ」


その言葉を皮切りに、海の魔物達が一斉にこちらに向かって攻撃を仕掛けてきた。

そして混戦……………………には至らず、アヤメとベリアルと〈人化〉していたアルテミスが俺達の前に進み出る。


「まあ、これしきなら俺達で充分だな」

「うむ。問題はなかろう」

「はい!私もお二人の足を引っ張らないように頑張ります!」


人魚国の衛兵達は、魔物達の進攻を迎え撃つ為構えるも、そんな三人の行動に目を丸くする。


「え?え?」


セフィナもどうすれば良いか分からず、オロオロと戸惑うばかりだ。

俺は、この行動に別に驚く事もないんだが……


「えっと……俺は……?」


出番がなさそうで、別の意味で心配だったのだ。


「ん?お前は、あの海の大王とか言う奴が相手じゃないのか?」

「あー……なるほど」


それならば特に問題は無い。

そんな俺達のやり取りに、セフィナだけでなく、他の衛兵達からも呆れたような視線が向けられた。


そうして、ベリアル達も一斉に動き出した。


ベリアルは水球を幾つも作り上げ、それを魔物達に弾丸のように撃ち抜く。

本来、海の魔物達は〈水属性〉である為、水の攻撃など大して効かない筈なのだ。

けれど、ベリアルの水球はいとも簡単に海の魔物達を貫通する。

理由は明白だ。

そもそもの魔力量が違いすぎる。

ベリアルの水球は、極限まで圧縮され、尚且つスピードも段違いなのだ。

まさしく、【弾丸】と呼んでも相違ないのである。

更に万が一に備えて、ベリアルは水球の回りに薄く闇を纏わせていた。

相変わらずの抜け目の無さだ。


そして、アルテミスも周囲に何十本も水の矢を形作る。

それを、恰も弓を射る動作をしたかと思うと、一斉に水の矢が魔物達目掛けて飛び放たれた。

これも、ベリアル同様に精霊力量の違いで、簡単に魔物達を射抜いていく。


そして、俺が何よりも驚いたのが、アヤメの戦い方だった。

最初アヤメは、五本の短剣を地面に投げ出したかと思うと、一度瞑目して大きく息を吸いこみ、徐に両手を挙げた。

すると、短剣がまるでその動作に合わせるようにゆっくりと宙に浮く。

それには、俺も少なからず目を剥く。

魔力眼で見てみると、短剣の柄から細長い糸状の物が伸びて、それがアヤメの指に結びついていたのだった。


なるほどな……。


俺は一人納得する。

アヤメは、それらをまるで傀儡でも操るように自由自在に動かし魔物達に攻撃を仕掛ける。

ベリアル達のように差程威力は無いが、それを補うかのように、的確に魔物達の急所を狙っていく。


程なくして、たった三人の手によって、数百いた筈の海の魔物達は全滅したのだった。


そんな光景を見て、タナロアはギョロ目を更に見開き瞠目している。

後ろに控えていたセフィナや衛兵達も、同様の反応であった。


そんな者達を尻目に、三人は悠々とこちらに歩いてくる。

言うまでもないが、勿論無傷でだ。

俺はそんな中、真っ先にアヤメに声を掛けた。


「アヤメ、あんな技いつの間に習得したんだ?あれは、風魔法で糸のように短剣と繋げる事で操ってただろ?」

「あ、はい!本当は、アルテミス様のように、ただ風で操りたかったのですが、どうやら私には向いてないみたいでして……あの方法を思いついたのですが……」


アヤメは少し落ち込んだように肩を落とす。


「それでも凄いよ!アヤメが頑張って身に付けた事なら、もっと自信を持っていいと思うぞ?」


俺が素直に褒めると、アヤメが少し頬を染めて照れる。


「で、でも!まだ五本しか操れませんし、もっと練習が必要なんですけどね」


それでもアヤメはまだ納得していないらしく、妥協は出来ないらしい。

そんなアヤメの成長に、俺は心の底から嬉しくなってアヤメの頭を撫でる。

アヤメは「えへへ」と言って、照れながら笑った。


俺達がそんな風にこの場には相応しくない程和んでいると、漸く我に返ったタナロアが、ワナワナと体を震わせ、またもやブツブツと独り言を言い出した。


「なんで……何でたよ!何で僕の思い通りにならないんだ!」

「タナロア……」

「こんなに想ってるのに!力だって手に入れたのに!何で俺を選ばない?!」


力…………?


俺は、タナロアの漏らした一言に引っ掛かりを覚えた。

セフィナは、そんなタナロアに説得を試みようと言葉を紡ぐ。


「タナロア……もうこんな事止めよ?君は本当はこんな事をする子じゃない。君はもっと優しくて思いやりがあって「うるさいっ!!」ッ?!」


そんなセフィナの言葉にも、タナロアは聞く耳を持たない。

すると、虚ろな瞳をしながら、タナロアがフラフラとした足取りで、俺達の方に歩いてくる。

俺はセフィナを庇うように一歩前に出た。


「もういいよ……そうだね……もうこれしかないよね…………うん……俺は間違ってない…………キヒ、キヒヒヒ」


相変わらず訳の分からない独り言を言ったかと思うと、今度は不気味に笑い出す。

俺達は、そんなタナロアの様子に不快感を隠せないでいた。


すると、タナロアが唐突に進めていた足をピタリと止める。

俺が訝しんでいると、次の瞬間、俺が気に止めていた胸元にある石が突如眩い光を放つ。


「なっ?!」


俺は咄嗟に、アヤメとセフィナを胸に抱くと、後方に飛び退く。

俺は眩い光に目を細めながらもタナロアを凝視する。

その光はタナロアを包むように覆うと、徐々にその光が収束されていった。

けれど、今や俺の視線の先は前方ではなく、遥か上空を見上げる形となっていた。


「おいおい……何だ?これは」


俺はその光景に絶句する。

タナロアが居た場所には、数十倍にも巨大化したタナロアだったらしき者が、異様な変貌を遂げて突っ立っていたのだった。


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