人魚 と 魚人
少し前話が短い気がしたので、二話目も続けて投稿しました。
その日の夜に、少し回復したセフィナが再び目を覚ます。
そこで、改めて今回の経緯を聞いてみたが、大体は宿屋で聞いた話通りであった。
「だけど、あたしは今でも彼がこんな事をするとは思えないんだよ」
「ん?もしかして、海の大王ってのと知り合いなのか?」
「うん……と言っても、数回話しただけだけど。彼は魚人族の【タナロア】って言って、良く人魚国に遊びに来てくれたんだ。とても大人しい子だったんだけど……」
そう言うと、セフィナは少し視線を落とす。
人魚と魚人は違う。
人魚は下半身が魚で上半身が人間だが、魚人はほぼ魚だ。
二足歩行するし人語も喋るが、見た目は魚である。
そして魚人は、特定の場所に長くは留まらない。
海を放浪してはフラリと帰ってくる……その繰り返しだ。
それは独身の男魚人に顕著に見られ、家庭を持ったりすれば、人魚国に永住したりもする。
「そいつは、魔物を操ったり、レヴィアタンを捕らえたりするだけの魔力があったりするのか?」
「どうだろう?多分他の子達と同じだったと思うよ?」
「……そうか」
人魚や魚人には魔力も精霊力も無い。
海に生きる彼女達には、生まれた時から海の恩恵があり、水を操る事が出来るが、それは魔力とかとはまた別物なのだ。
「取り敢えず、そのタナロアとか言う奴に会ってみないと何とも言えないな」
「…………うん」
「最初に言っておく……話し合いに応じなければ……」
「それは分かってる。大丈夫だよ」
セフィナは、迷いなく真っ直ぐに俺の目を見る。
そんなセフィナが眩しくて、俺は目を細めた。
「……本当に強くなったな」
俺が頭を撫でると、セフィナがはにかんで僅かに頬を染めた。
すると、今度は少し上目遣いで俺を見てきた。
「あ、あのね!こんな時にこんな事言うのもアレなんだけど……」
「ん?何?」
「そ、その……あの…………」
何か言いにくい事なのか、指をもじもじさせながら言い淀むセフィナ。
俺が訝しんでいると、漸く決心が付いたかのように躊躇いながら口を開く。
「………………キ、キス」
「……は?」
「だ、だから!キスして……その……久しぶりだから…………」
顔を真っ赤にしながら、それだけを言うとセフィナは俯く。
「え~……あー…………」
今度は俺が言い淀む番だった。
別に嫌とかではなく、実は寝てる間に口付けしちゃいましたなんて、何か後ろめたくて言いづらい。
俺が逡巡していると、セフィナが何を勘違いしたのか、慌てて取り繕うように言った。
「あ!いや!やっぱりいい!!こんな時に言う事じゃなかったよね?!ゴメン忘れて!!」
そう言うと、横髪で顔を隠そうとする。
俺はそんなセフィナの行動に苦笑する。
こう言う所は変わらないよな。
これはセフィナの癖だ。
都合が悪くなったり誤魔化したりする時は、いつもこうやって長い髪で顔を隠そうとするのだ。
俺はそんなセフィナが可愛くて仕方がなかった。
「……セフィナ」
「え……?」
セフィナが顔を上げる。
ちゅーー。
俺はセフィナの横髪を掻き分けて口付けをした。
「本当は、セフィナが寝てる間にしたから二回目なんだけどね」
俺は、舌を出して悪戯っぽく見せながら、素直に白状する。
変な誤解でセフィナを傷つけたくなかったからだ。
それを聞いたセフィナは、嬉しいやら恥ずかしいやらで、微妙な顔をする。
「そ、そうだったんだ……」
そして、俺達はお互いの顔を見て笑って、どちらからともなく再び唇を重ねるのだった。
そんな事をしていると、不意に扉がノックされベリアルが顔を出す。
「敵襲だ」
「ッ?!」
静かにたった一言を告げる。
それを聞いたセフィナがベッドから出ようとするのを、俺が手で制した。
「セフィナはもう少し休んでるといいよ。後は俺達が何とかするから」
「で、でも……」
セフィナが申し訳なさそうな顔をしていると、ベリアルがもう一つの情報を齎す。
「因みに、海の大王と名乗る者が来ている」
「ッ?!やっぱりあたしも行く!!」
それを聞いたセフィナが、鬼気迫る勢いで即決する。
余計な事を…………。
俺がベリアルを睨むと、当の元凶は素知らぬ顔をしている。
セフィナが懇願するように俺を見てきていた。
俺は頭を抱えて苦笑するしかなかった。
「はぁ~……仕方ないな。ただし、セフィナは大人しくしてる事!分かった?」
俺は少し強めに言った。
その言葉を聞いて、セフィナも力強く頷く。
そうして俺達は全員で、海の大王ことタナロアに対顔する事となったのだった。




