人魚国 と 姫救出
俺達は深く海に潜る。
深く……深く…………更に深く………………。
俺達の目には今、人魚国の行路が淡い光となって示されていた。
俺はその事に安堵する。
レヴィアタンの加護が未だ生きていると言う事は、少なくとも、最悪の事態は免れていると言う事だった。
とは言え、まだ安心は出来ない。
どんな理由にせよ、何らかの形で自由を奪われているのだけは間違いないだろう。
程なくすると、シャボン玉のような薄い膜に覆われた巨大なオオジャコガイが見えてきた。
人魚国を視界に捉える。
そして、その人魚国を取り囲むように、多種多様な海の魔物達が群がっていた。
強力な魔物も何匹かいたが、俺はある……八首の大蛇に目が止まる。
その巨大な魔物の足元には………………
ザワリッーー。
「「『ッ?!』」」
それを見た時、俺の中に何かが這い上がってくる感覚に襲われる。
「…………俺はあの、八首大蛇を仕留める。他は適当に任せてもいいか?」
「……問題ない」
ベリアルが返答し、他の二人もそれに頷く。
俺はそれを確認すると、真っ直ぐにあの八首大蛇目掛けて突き進む。
「そろそろ良い返事を貰えぬか?セフィナよ」
八首大蛇がそんな事を言う。
あれはおそらく、スキル【憑依】によるものだ。
と言う事は、今喋っているのが海の大王なるものかもしれなかった。
「ふざけるな……誰があんたの嫁になんかなるものか……!」
セフィナは気丈に振舞ってはいるが、所々傷だらけで、服もあちこち引き裂かれ、どれだけの責め苦を負わされたのか想像に難くない。
俺は唇を噛む。
後僅かな距離であったが、それでも俺にはあまりにも遠く感じられた。
俺は雷切を取り出し構える。
「ははははは。やっぱいいな~、その強気な態度!ますますオレの嫁にしたくなったぞ!」
「……くっ」
セフィナが、さも悔しそうな顔をする。
そんな時、セフィナが大きく目を見開く。
八首大蛇はまだ気付かない。
「〈水刃裂破〉」
俺は雷切に〈水〉を纏わせ、居合斬りのように雷切を抜き放った。
すると、八首大蛇の首が二つ落とされ、六首となった。
「な!何だ?!何が起こった?!」
八首大蛇……いや、六首大蛇が状況に着いてこれず混乱している所を、俺は続け様に居合斬りの要領で〈水刃裂破〉を放ち、瞬時に全ての首を切り落とした。
首を失った大蛇は、轟音とともに地面に倒れ込んだ。
何とも呆気ない幕切れであった。
本来なら【S】ランク以上の魔物であったかもしれないが…………俺がキレていたのだからしょうがないだろう。
自業自得と言うやつだ。
俺は地底に足を着くと、未だ呆然となっているセフィナの元にゆっくりと近付く。
「……セフィナ」
俺が優しく名を呼ぶと、セフィナの大きな瞳が更に見開かれ、次の瞬間、大粒の涙が流れ落ちる。
「っ!!セツナ!!」
セフィナが俺の名を叫ぶと、そのまま勢い良く俺の胸に飛び込んできた。
俺はそれを優しく、けれども力強く受け止めるのだった。
「遅くなってゴメン。それから……ただ今」
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「くっ!!いったい何が起こったと言うのだ?!」
海の大王は、何が起こったのか全く理解出来ていなかった。
それだけ一瞬の出来事だったのだ。
「後もう少しで、あの娘を我が手に出来ると思ったのに……!!」
海の大王は肩を震わせ、怒りを露わにする。
「やっとそれだけの力を手に入れた…………なのに!!何故俺の物にならない?!何故もう戻りもしない、あのような薄情な男に未だ貞操を守る必要がある?!解せぬわっ!!!!」
ガチャンーー。
海の大王は、卓上にあった物を手当り次第壁に叩きつけて、一人喚き散らす。
そして、窓から人魚国の方角を見つめると、うっとりとして呟く。
「ああ……そうか。そうだな…………どうせ手に入らないなら、別に生きたままでなくても良い。そうだ……そうだ…………くくく、あははははははは」
薄暗い部屋の中、海の大王の高笑いだけが不気味に響いた。
八首大蛇…………これ一応ヤマタノオロチがモデルです。
最初はSSランクにしたんですが、あまりに簡単に殺られちゃったんでSランクにしたんですよね 笑笑




