王都襲撃③
《善文くん!その魔物は上段がガラ空きだよ!》
《疾風くん!前に出過ぎ!もっと下がって!》
《世莉香先輩!そいつは硬そうに見えるけど足の付け根が脆いからそこを狙って下さい!》
七鈴菜は後方で戦場をくまなく見渡しながら、【観察眼】で魔物達の弱点や急所を的確に見抜き、それを【念話】で皆に指示を伝えていた。
このやり方は、前回刹那が王都に戻ってきた時に教えてくれた戦法だった。
【観察眼】は指揮官向きのスキルだ。
実戦でこそ、その能力が遺憾無く発揮される。
必要なのは広い視野を持つ事だ。
高い洞察力、冷静な判断力と決断力を持って戦況を見極め、仲間をサポートする。
だが、それでも限界はある。
けれど、七鈴菜の戦い方はこれだけではなかった。
「火の精霊【フレア】我が呼び掛けに応じよ〈召喚〉」
七鈴菜の詠唱により、一体の精霊が応じて現出する。
精霊との契約は、従魔契約とは異なり、空間内に隔離される事は無い。
精神体である精霊にとっては、空間など意味をなさないからだ。
けれども、一度契約した者には絶対の忠誠を誓い、呼ばれれば即座にそれに応じる。
それ以外は従魔召喚と何ら変わらない。
七鈴菜は、この短期間で【中級精霊】を使役する事に成功していた。
きっかけは勿論刹那である。
けれど、いくら刹那と言えど精霊との契約を簡単に精霊が了承するわけはない。
精霊と契約を交わすには、本人との【相性】と【絆】が最も重要なのだ。
故に、刹那がしたのは、七鈴菜と相性が合いそうな者を何体か七鈴菜に紹介するだけだった。
それを、七鈴菜が何度も通いつめて、何とか契約にまでこぎつけたのである。
つまりは、七鈴菜は既に【精霊魔法師】の資格を得ていたのだ。
「お願い!フレア!皆の援護をしてあげて!」
〝まっかせてー〟
フレアは、七鈴菜の願いに素直に従い、前線に立つ生徒達の為にその力を振るう。
【念話】で指示を出すにも限界はある。
【念話】には範囲があり、それから外れれば【念話】は通じないし、対応が遅れる場合もある。
それになにより、七鈴菜自身がただ後方で待機すると言うのが性にあわなかったのだ。
フレアが皆のサポートに回ったのを確認すると、七鈴菜は今一度戦場を見渡す。
(これで心置き無く皆を視る事が出来る。誰も死なせない。そんな事になったら、刹那くんが悲しむもの)
七鈴菜はただ、この戦場を【視る】事に、全神経を研ぎ澄ませた。
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「我が呼び掛けに応え顕現せよ〈召喚〉クー・シー」
龍二の召喚に応じて、魔方陣からクー・シーが顕現する。
近くに居た何人かの生徒が、それに驚き目を見開く。
実は、龍二は他の生徒達の前でクー・シーを召喚するのは初めてであった。
クー・シーを見世物のように扱うのは嫌だったし、奥の手はいざと言う時まで取っときたいと変な拘りを持っていたのだ。
その変わり、人知れずクー・シーの召喚をスムーズに出来るように練習していたり、クー・シーに頼んで特訓に付き合ってもらったりするなど、意外と陰で努力するタイプなのだった。
『漸く俺の出番か』
クー・シーは、獰猛に犬歯を覗かせて笑う。
「はい!お願いします、クーさん。俺も微力ながら戦うっす!」
龍二は拳を突き出す。
その拳にはグローブが嵌められていた。
これは刹那が龍二に渡した物だ。
龍二の性格上、クー・シーだけに戦わせて、自分は後方で待機……などとする筈もない事を見越しての事である。
このグローブには、装着者の攻撃力を上げてくれる術式が組み込まれていた。
それを見てクー・シーは目を細める。
『あまり無理はするでないぞ?リュウよ』
「ああ、分かってるっすよ。けど、俺も戦わなきゃ……あいつに会わせる顔がねぇーよ」
若干顔が引き攣るのを、龍二は自覚していた。
それでも、ここで引く気はなかった。
クー・シーは、そんな龍二の心意気を汲み取り一つ頷く。
『そうか……それならば、俺は全力で貴様を守ろう。思う存分に暴れてくれようぞ!リュウよ!』
「うっす!」
そうして、一匹と一人もまた戦場に身を投じるのであった。
王都襲撃の回は、本当は一気に投稿して主人公をさっさと出してあげたいんですが…………ちょっとストックが減ってきているので、それが溜まるまで一話ずつで勘弁して下さい 汗汗




