アレク王 と 危険区域
開かれた扉の先は、豪華絢爛とまでは行かずとも、先程の【召喚の間】同様に白一色ではあったが、荘厳な雰囲気のある部屋である。
広さは東京ドーム程で、床にはレッドカーペットが敷かれており、玉座まで続いていた。
天井にはシャンデリアのような物が吊るされている。
当たり前だが、ここは【異世界】であるので、電気と言うものは存在しない。
これは確か、【燐光石】と言う鉱石で、昼間の太陽の光を取り込み、夜になると淡白く発光するのだそうだ。
ソーラーパネルのような仕組みだと言えば分かり易いだろうか。
それが幾つも連なり、謁見の間を優しく包んでいた。
左手には黒を基調とし、背中に金の刺繍が縫われたローブに身を包んだ【魔導士】らしき人達が横二列に20人程、右手には重たそうな甲冑を着込んだ【騎士】が同じく横二列に20人、そして前方には五段程の階段があり、その階段下には、【聖騎士四天王】と呼ばれる者達が、左右に別れてこちら側を向いて立っていた。
聖騎士四天王が一人ーーアルフォート・ディグマーー。
二つ名を『特攻の猛獣』
聖騎士四天王が一人ーーシルバール・ミネファスーー。
二つ名を『攻防の砦』
聖騎士四天王が一人ーーケイト・シェヌヴァーー。
二つ名を『樹林の令嬢』
聖騎士四天王が一人ーーシーナ・アンシェルトーー。
二つ名を『癒しの聖母』
その階段上には、三つの大小の豪華な椅子が置かれ、勿論その椅子の中央、大きな玉座に座しておられるたのがこの国の王その人である。
少し窶れたようにも見えるが、昔と変わらぬ姿に俺は目を細める。
そして、王の右隣には、金髪碧眼の美少年が座していた。
あれはまさか……クルト王子……?
俺が彼を最後に見たのは4歳の時だったので、今は14歳位だろうか?
その堂々とした姿に、俺は微笑ましく思った。
そして、王の後ろには宰相が眼鏡を光らせながら、まるで値踏みをするように生徒達を見ていた。
あの人も変わらないな……。
俺が初めて【勇者召喚】した時も、同じようにじっと俺を舐め回すように見てきたのを思い出す。
そんな彼に苦笑する。
そんな宰相の名はーートマルス・ヴインセントーー。
俺達は中央付近まで歩き、アリアがその場で膝をおり頭を垂れる。
他の生徒達も、戸惑いながらではあったが、アリアに倣い膝を折った。
「陛下。勇者達をお連れしました」
アリアが王に報告する。
チラリと王を見上げると、生徒達を見て若干引き攣りながら王が一言呟いた。
「……ちと多過ぎないか?」
おーい。聞こえてるぞー?
文句ならあの、人をからかって楽しむ性悪女神に言って欲しい。
すると、トマルスが眼鏡を光らせ、それに気付いた王が一つ咳払いをして、持ち直してから荘厳に口を開く。
「よくぞ参られた【勇者】達よ。我が名は【アレク・ウィル・サリファム】、この【サリファム王国】の現国王である!」
生徒が息を飲むのが聞こえた。
その姿は威厳に満ち溢れており、その声は凛として、張り上げたわけでもないのに部屋中に響き渡るものだった。
けれどアレク王は、次の瞬間には、生徒達に向かって頭を下げたのだ。
「まずは急な【召喚】をした事に心からの謝罪を」
それに倣って、クルト王子やトマルスや他の臣下達、アリアもこちらに向きを変え、一斉に頭を下げる。
生徒達は急な王達のそんな態度に驚愕し、どうすれば良いのか困惑するばかりであった。
全くこの人達は……。
俺は変わらない旧友達に、嬉しさと呆れさが入り混じった複雑な感情を抱く。
良くも悪くも、皆実直過ぎるのだ。
本当は良い事なのだが、それでも【王族】と言う立場で、例え勇者と言えどもまだ一般人と変わらない者に、そう簡単に頭を下げて良いものではない。
王族の矜持にも関わる事だろう。
それでもこの国の王は、自分に非があると思うなら、素直に頭を下げるのは人としての道理だと、真顔で言って退ける方なのだ。
けれどそんな王だからこそ、俺は自分の力の及ぶ範囲で手を貸したいと心から思えるのだから。
王は数秒程頭を下げてからゆっくりと頭を上げ、今一度生徒達を見回した。
「皆が色々思う所もあるだろう。それでもまずはこちらの話を聞いてもらいたい。その上で、各々の意思で判断してくれ」
それから王は語り出した。
ここから西の方にある【死の砂漠】と呼ばれる、魔物はおろか、生物さえ寄り付かず、木々も生えない場所があるのだとか……。
そこは瘴気に満ちており、【危険区域】とされ、赤子でも知らない者は居ないと言う。
その場所に、5年前に突如都市が建てられ、それと同時期に、活性化した魔物が各国を襲撃するようになったそうだ。
俺は詳しい事を女神本人から聞かされていた為、特に驚きもせずに、冷静に女神との相違点などを気にしながら聞いていた。
まぁ、相手はあんなんでも、一応は女神様なのだから相違などそうそうなかったが……。
一通り、今のこの世界の現状を伝え終えた王は、一度言葉を切り、再び生徒達に頭を下げた。
「我々の世界の事に、年端の行かぬ其方達を巻き込んだ事は申し訳ないと思う。けれども、勝手ながら力を貸してもらえぬか?この通りだ!」
謁見の間に静寂が走る。
暫く無言で話を聞いていた生徒達は、楠木を皮切りに、それぞれの思いを口にした。
「……俺は手伝ってもいいと思うな」
「……私も……どこまで出来るか分からないけど」
「そうだ!俺達は【勇者】なんだぜ!!」
「こんなに困ってるんだし、私達の力が必要なら……」
生徒達の言葉を聞いてアレク王は安堵した顔をし、皆に何度も何度も礼をした。
それからは、一先ずは部屋で休息を取るようにと、一人一人を部屋に案内する。
割り当てられた部屋は、簡素ではあるが、六畳程のスペースがあった。
隅にはベッドと小さな小窓が一つ、中央には丸テーブルと二脚の椅子、小さいながらもキャビネットや洋服入れなども備え付けられていた。
俺はベッドに横になり、【亜空間】から本を一冊取り出して寛ぐ態勢になる。
後は、あちらから接触してくるまでのんびり読書でもして過ごしてようかーーー。
ここまで読んで下さりありがとうございますm(_ _)m
微調整は時間があれば時折やります。
前半は大体こんな感じで、平和にまったりと旧友達と再会をしていく感じですかね?
旅に出だしたら戦闘もちゃっかりしますよ? 笑
ではまた次回お会いしましょう♪