刀職人 と 救世主特権
「がっはっはっはっは。そうかそうか!それは随分世話になったな!」
翌日に目を覚ましたガルダに、今回の経緯を言って聞かせた所、豪快に笑い出した。
「笑い事じゃないよ……全く。皆にどれだけ心配かけさせたと思ってるんだ?」
俺は半ば呆れながら、ガルダに文句を言った。
ここは王城の一室だ。
あのままガルダを、あんなゴチャゴチャした自宅に帰すのが心配だった俺は、サヴリナに頼んで、暫くは王城で療養させるつもりである。
正直、翌日に目を覚ます驚異の回復力には舌を巻くばかりだが、笑って済ませるものではない。
こっちはもう駄目かと思ったんだぞ…………。
「いやー、それはすまんかった」
人の気持ちを知ってか知らずか、ガルダは頭をペシっと叩いて謝罪する。
何故だろう…………反省してるようには見えないんだが…………。
実は、このガルダと言う人物は、俺が持つ愛刀【三日月】と【雷切】の刀工である。
そして、この世界では初の【刀】を作り上げた人物でもあった。
ある時、スランプに陥ったガルダは、何を作っても満足行かず自暴自棄になり、何でもかんでも混ぜ合わせたりしたら……偶然の産物で刀が完成した……らしい。
そもそも、そんな事で刀が出来るのか?と思わずにはいられなかったが、実際出来てしまったのだから何も言えない。
ガルダはその美しさに魅せられ、それ以降は刀一筋で武器を作る。
そのせいで、周囲からは変人扱いされたが、本人は全く気にもとめていなかった。
けれど、本当に偶然に偶然が重なって出来た為に、最初の一振り以外はまともな物が作れず、相当荒れていた。
そんな折りに、俺がガルダと出会う事となる。
刀の事で意気投合した俺達は、それじゃあ二人で刀を作ってみようと言う話になり、共同と言う形で刀の制作に取り掛かった。
俺も前世を辿ってみても刀を作った事などなかったが、それでも多少の知識を持ち合わせていた為、その知識をガルダに惜しみ無く提供した。
そうして、試行錯誤を繰り返しながら、漸く出来たのが【三日月】、そして【雷切】であった。
因みに、当時は【刀】なんて呼び名でなく、【細剣】の一つとして見られ、それ迄は世に知れ渡る事は無かったわけだが……。
「そういや、お前さんのお陰で、最近じゃ刀もちょくちょく売れるようになったぞ?」
「ん?そうなのか?それは良かったよ。でも俺のお陰って……」
「そりゃ、お前さんはこの世界の【救世主様】だからな。その救世主様の愛用している武器ってなると、皆欲しがるもんだろ?」
「あ、あはは」
どうしよう……………………あんま嬉しくない!!
ガルダはニヤニヤしていた。
「はぁ~……所で、やっぱまだ刀一筋で打ってるのか?」
「うん?いや、最近じゃ普通の武器も作るようにしている」
「そうなのか?」
「ああ、刀は勿論今でも作ってるし、俺としては今でも【刀職人】を自称はしているが、昔程躍起になってるわけじゃないからな」
「へぇー……」
俺は少し関心した。
人は変われば変わるものだ。
俺達がそんな会話をしていると、不意に扉がノックされ、サヴリナが入ってきた。
ガルダは慌てて起き上がり、サヴリナに膝を折り礼を取ろうとしたが、それをサヴリナが手で制した。
「どうかしたのか?サヴリナ」
「ん~、あのね~……あの例の鉱石をどうしようか聞こうと思って~」
「は?どうするって何がだ?」
例の鉱石と言うのは、きっとあのファーブニルが守っていた鉱石の事だろう。
それを何故態々聞きに来る必要があるのだろうか?
「あれはね~【オリハルコン】【ダマスカス】【アダマンチウム】【ミスリル】……どれも~文献でしかない貴重な鉱石なの~」
「へぇ~?そうなのか?」
「うん。多分~今の所はあの場所にしか手に入らないと思うの~あの洞穴がどこの鉱山か調べるのは簡単だけど~……」
そこで一度サヴリナは言葉を切る。
「そんな貴重な鉱石を~簡単に世に出回したら~すぐに簡単に食い尽くされちゃうと思うのよね~」
ふむ……。
サヴリナの言ってる事は最もだ。
ドワーフと言えど、全ての山を知り尽くしているわけではない。
もしかしたら、他の山にもそのオリハルコンとかが眠っている場所があるかもしれない。
それでも、今現在ではあの洞穴以外は確認出来ていないわけだから、その場所を皆が知れば、こぞってそこに大挙してくる危険性もある。
一応は、全ての鉱山をサヴリナが管理していて、鉱山に出向く時は、どの鉱山に行くのか、どの鉱石が欲しくてどれくらいの鉱石を持ち出すのかを申請する必要がある。
でなければ、他の鉱山でも同様にすぐ鉱石が無くなってしまうからだ。
けれど、他の鉱石はその鉱山にしか無い訳では無い。
もし仮に鉱石が無くなったとしても、他の鉱山で採掘する事は可能だろう。
しかし、オリハルコンなどがあるあの鉱山は別だ。
もし鉱石が無くなったら他の所で……なんて簡単に出来ないのだろう。
だからと言って、この人は採掘しても良くて、この人は採掘したら駄目などと、選別していったら、皆が不満に思わない筈がない。
今の所は、サヴリナの女王特権で、あの鉱石の事は伏せているらしい。
けれど、それもいつまで持つかは分からない。
もし噂が広まれば、ドワーフ達が皆王城に詰め寄り、真偽の程を確かめに来る可能性も危惧される。
そこまで考えて、俺はふと軽い気持ちで独り言を呟く。
俺としては、本当に軽い気持ちだったのだが…………。
「そっか……でも残念だな。そんな貴重な物なら、またいい刀とか作れるかな~?とも思ったんだけど……」
その俺の呟きに、何故か二人の眉がピクりと動く。
「そうね~……なら【救世主特権】でどうかしら~?」
「…………は?」
そんな突拍子もない事をサヴリナが言い出した。
「うむ。それはいいですな。それではあの場所は、正式に俺が所有権を貰っても?」
「え~勿論よ~。ただし分かってるとは思うけど~……」
「はい、大丈夫ですよ。【初代勇者】以外の武具は決して作りませんから」
何故か二人は、俺を蚊帳の外に放り出して話を進めだした。
「ちょ!ちょっと待て!!さっきから一体何の話をしてるんだ?!」
俺は慌てて、二人の間に割って入った。
「ん~?だから~あの鉱山はガルダが発見したのだから~ガルダの所有物として登録して~……」
「いや!そうじゃなくて!!」
それは分かる。
新しく鉱山が発見された場合、その鉱山は発見者が所有権を得られる。
所有権と言っても、優先的に鉱石を採掘出来ると言うだけで、別に鉱山を独占出来るわけではない。
鉱石を採掘する時は、ちゃんと女王の許可が必要となる為、手続きなどは他の者達と同様にする必要がある。
少しばかり優位に立てると言うだけで、結局はサヴリナの許可が降りない事には話にならないのだ。
だが、俺が聞きたいのはそんな事ではない。
「だから……【救世主特権】とか……何か不穏な単語が聞こえたんだが…………?」
「うん?それは、俺がお前さん専用の武器職人として、新たにお前さんの刀を作ると言う事だな」
「おい……お前がいつ俺専用の武器職人になったんだよ……」
何かまた訳の分からない単語が増えたぞ?
「何だ?俺以外にお前さんの武器を作れる奴がいるのか?」
「ぐっ………それは…………」
否定出来ない……。
ガルダの言う通り、ガルダの作る武器は、何故かどれも俺の手にしっくり来るのだ。
俺が言葉に詰まると、ガルダがニヤニヤしている。
………………………………ムカつく。
「で、でも!【救世主特権】なんてそんなの誰も納得する筈が……」
「あら~?それは何の問題も無いと思うわよ~?貴方が思うよりも~【救世主】の効力は絶大なのよ~?」
「んな………………」
俺は開いた口が塞がらなかった。
二人は、さも当然だと言わんばかりに頷いている。
俺は、またもや一人頭を抱えるハメになるのだった。
救世主様パネェ 笑笑
それにしても、伝説の鉱石をどうするか迷った。
有名なファンタジー鉱石を調べてみたけど、あまり良い鉱石を伝説に持ってくると、今度は主人公の愛刀がどんな鉱石を使用したのか?と聞かれると説明がつかなくなるので……汗
相当良い鉱石を使わないと、あんな斬れ味の良い刀は出来上がらないでしょ……
まあ……その時はその時で考えればいいだろう!!(爆)




