ガルダ と 強欲の竜
俺達はひたすら坑道を歩き続ける。
ガルダの身が心配だったので、俺は黙々と先に進んだ。
皆も特には何も言わずに着いてきてくれた。
程なくして、坑道の先が何やらキラキラと輝く。
「こ、ここです……」
道案内をしてくれた男が恐々としながらも、その先を指差し目的地だと伝える。
「これは……」
俺達の目の前には広い空間があった。
中央には、あの竜が鎮座していたが、今は瞑目し鳴りを潜めている。
俺達が、洞穴の入り口付近に近付いてるのには気付いている筈だ。
それでもその竜は微動だにしなかった。
おそらくは、ダンジョンボスと同じように、部屋の中に入らなければ攻撃してくる事はないのだろう。
その竜の大きさは、この広大な敷地の三分の二を占めてはいたが、それでも予想してたよりは少し小さめに見えた。
肌は土色で、岩肌のようにゴツゴツした体躯に、何やらハリネズミのような岩の棘があちこちから飛び出している。
その竜の後方の岩壁には、先程目にした煌めく物の正体らしき物が埋まっているが、もしかしたらあれが例の鉱石かもしれない。
そして、少し竜から視線を外した……端の方に目をやると…………。
「チッ……」
俺は無意識に舌打ちをしていた。
その視線の先には、ガルダがうつ伏せの状態で倒れ伏していた。
岩壁を見ると亀裂があり、おそらくは壁に叩き付けられたのだろう事は、容易に想像が出来る。
ガルダはうつ伏せのままピクリとも動かない。
ここからでは、生死を確認する事も不可能だ。
俺は一通り現状を視認してから、改めて竜に視線を戻し【鑑定眼】を発動した。
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【ファーブニル】
ランクSS
財宝の守護竜。
または、強欲の竜とも呼ばれる。
自分の財宝を狙う者には、誰であ
ろうと容赦はしない。
皮膚はダイヤモンド並に強固。
岩の棘には石化の作用がある。
属性は〈土〉
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「……やはりSSランクか」
「「「ッ?!」」」
俺がそう呟くと、後方に居た女性陣三人が息を呑む。
「この洞穴内部に入らなければ問題は無いと思うが、それでも油断せずに皆の事は頼んだよ?サヴリナ」
「え~。勿論よ~」
俺はサヴリナの言葉に頷き、すかさず皆に指示を出す。
「俺とベリアルがあの竜の注意を引きつける。その隙にアルテミスがガルダの回収を、アヤメとミシディアはガルダの回復を頼む」
「了解した」
「うむ。心得た」
「はい!」
「わ、分かりました!!」
それぞれが、俺の指示に答える。
アルテミスは既に〈人化〉をしていた。
「どうやらあの棘には【石化能力】があるみたいだが……まあ、それは問題無いだろう」
俺もベリアルもアルテミスも、状態異常は大して効かない。
「問題は硬度かな……?ダイヤモンド並の硬さらしいし……」
俺はそう言って、亜空間から雷切を取り出す。
雷切を鞘から抜刀してから、皆を一度見渡し…………
「……行くぞ」
その一言だけ呟くと、洞穴に一歩足を踏み入れる。
すると、先程まで静かに瞑目していたファーブニルの瞼がカッ!と開かれ…………瞬間、その瞳が妖しく光るのを俺は見逃さなかった。
「飛べっ!!」
俺の言葉に、二人は寸分違わぬ反応速度で跳躍する。
その直後、先程まで俺達が居た足元の地面から、鋭い針のようなものが突出する。
あのままあそこに居れば串刺しにされていた事は間違いない。
そして、俺は“視えて”いた…………俺達が着地する地点にも、魔力が集中していた事に…………。
俺はすぐ様〈風魔法〉で体を纏い、空中で停止する。
ベリアルもアルテミスもそれに気付き、俺同様に空中に浮いた。
アルテミスは足に風を纏わせ“立ち”、ベリアルは〈部分変身〉で背中に大きな蝙蝠のような羽根を作り上げて飛翔する。
俺は火炎放射のように〈火魔法〉をファーブニルの眼前目掛け放ち、ベリアルは脚に魔力を纏いファーブニルの顔面に一撃を食らわせ、顔の位置をズラせる。
その隙に、すかさずアルテミスがガルダの元に降りてガルダを抱えると、一時戦線を離脱して、アヤメ達の元にガルダを運んだ。
俺は横目でそれを確認すると、再びファーブニルに視線を戻す。
ファーブニルは全くの無傷だった。
だがこれで何の気兼ねもなく戦える。
「ガルダさんは無事です!!」
アヤメの叫び声を聞いて、俺は胸を撫で下ろす。
ファーブニルは、体中にある岩の棘を噴出して、俺達に狙いを定めるように一度空中で停止させ……一斉に放ってくる。
それを、アルテミスが風の膜を岩の棘の周囲に張り巡らし、棘を一箇所に留め覆う。
続いてベリアルが、〈闇魔法〉で形作った【闇の剣】を携えて、ファーブニルの後ろ左足に切り掛る。
「くっ……」
ベリアルが苦痛に声を発する。
ベリアルの【闇の剣】は、ファーブニルの足の中頃で止まってしまったのだ。
だが、次の瞬間俺達は目を瞠る事となる。
「おいおい……マジかよ……」
地面から次々と岩が剥がれ、ファーブニルの傷口を塞ぐ。
「再生能力があるなんて聞いてないんだが?」
〈土属性〉であるファーブニルにとって、ここはまさに打って付けの場所なのだろう。
グルァァァァァァ!!
ファーブニルが一声咆哮を上げると、先程体から放たれた棘の箇所から、再び岩の棘が突出する。
「これは一発で仕留めないと、堂々巡りになりそうだな」
そう言いながら、俺は雷切に〈風〉を纏わせる。
ベリアルも闇の剣に風を、アルテミスは風で十本の【細剣】を形作る。
〈土属性〉には〈風属性〉が最も有効的だ。
アルテミスが、十本の風の細剣でファーブニルの体を貫き、ベリアルが風と闇の剣で、今度こそファーブニルの両足を切り落とし、俺が頭と胴体を両断する。
そこからは目にも止まらぬ速さで、ファーブニルに再生する隙も与えず、ただひたすらに切り刻んで行く。
そうして、ファーブニルの【核】を目の端で捉えた俺は、迷う事無く【核】を風の雷切で一閃し破壊した。
ファーブニルは二度と再生する事無く、後には、辺りに岩の肉塊がゴロゴロと転がっているだけであった。
再生能力のある魔物などは、心臓部分である【核】がある限り何度でも復活してしまう。
欲深い者は、魔石に目が眩み手に入れようとする。
ランク【SS】の魔石なら高額な値段で売却出来るし、何より、最高の武具を作れる事は間違いない。
だが、そんな事は愚か者のする事だ。
必ず痛いしっぺ返しが来る事は目に見えている。
死んでは元も子も無いのだから……。
俺は地に足を着けると、即座にガルダの元に駆け寄る。
アヤメが無事だと言っていたが、心配なものは心配だ。
俺はガルダの傍で膝を折ると、首の横の頸動脈に二本の指を添えて脈を確認し、ガルダの口元に耳を近付けて呼吸音を確認する。
微弱ではあるが、脈拍も呼吸も正常に機能していた。
俺はそれに安堵し、漸くそこで肩の力を抜くのだった。




