伝承 と 教訓
「……を!ガルダの旦那を助けて下さいっ!!」
「ッ?!」
その叫びを聞いた俺は、レイバルトを押し退けて男に迫った。
「おい!どう言う事だ?!」
「あ、あんたは……?」
「俺の事は今はどうだっていい!ガルダに何かあったのか?!」
男は一瞬俺の剣幕にたじろぐが、レイバルトをチラリと見て、レイバルトが頷くのを確認してから、男がポツポツと経緯を話し始めた。
男が言うには、先日の地震で坑道のあちこちで落盤があったそうだ。
幸いな事に、それで大怪我を負った者は一人も居なかった。
だが、ある一本の坑道……今俺達の目の前の坑道に、突如新しい坑道を発見する。
見た所、随分古い坑道だったらしく、今迄は岩壁で隠されていて誰も気付かなかったらしい。
そこで、好奇心の強い若者達が、その坑道を探索しようと話し合っていた所を、偶々近くを通りかかったガルダが止めに入った。
けれど、若者達の探究心はその程度で収まらず、仕方無しにガルダもそれに同行する事となる。
そして、入り組んだ道を進みながら、三叉に別れた分岐点で三手に別れ、ガルダとこの男が共に奥に進む事となった。
難無く奥まで進む事ができ、その先の開けた場所に出ると…………。
「竜が……巨大な竜が…………」
男はその時の事を鮮明に思い出しているのか、更に体を震わせた。
「オイラ達が悪いんだ!!オイラ達がガルダの旦那の忠告を無視したから!!ガルダの旦那はオイラを逃がす為に一人で…………っ!!」
男はそこまで喚くと、ボロボロと泣き崩れる。
「私も先程報告を受けたばかりです。ガルダは念の為、他の者に伝令を頼んでいたようで、その話しを聞いてすぐ様こちらに駆け付けたのですが……」
レイバルトは苦渋に顔を歪ませる。
俺はそこまで話しを聞くと、即座に行動に移した。
「アルテミスとベリアルは俺と共に来い。アヤメ、ミシディア、カルミアはここで待機だ」
「?!」
「……え?」
「なっ!!」
ベリアルとアルテミスは頷いて了承するが、女性陣は納得行かないと言った感じだった。
ミシディアがすぐに食ってかかる。
「何故ですか?!」
「……恐らくは相手はSランク以上だからだ」
「「「ッ?!」」」
三人が驚愕に目を見開く。
俺はこの話を聞いた時に、昔聞かされたドワーフ国の伝承をすぐ様思い出していた。
昔々、腕の立つ若い青年がいました。
けれどその青年はとても強欲でした。
ある日青年は、とある鉱山で鉱石を見つけました。
それはとても美しく、青年が今迄見た事の無い輝きを放っていました。
青年は一目でその鉱石の虜になりました。
青年はその鉱石を、自分一人だけの物にしようとしました。
その鉱石を狙って来た者達を次々殺して…………
青年はいつしか、その醜く歪んだ心で竜へと変貌していきました。
それでもその青年竜は、尚も鉱石を守り続けました。
その存在を恐れたドワーフ達は、その青年竜を結界門で封じ込めました。
そして青年竜は長い長い眠りについたのでした。
その話をし終わると、辺りに沈黙が流れる。
この話は、ドワーフの者なら誰でも知っている事だった。
この無鉄砲な青年も、勿論知っている筈であったが、それでもたかが伝承と思い、全く信じて居なかったのであろう。
元々、身に余る欲は自らをも滅ぼす、と言う教訓の意味合いもあるので、気持ちは分からなくはない。
「で、ですけど!それでも私達を置いて行かれるのは納得出来ません!!私も行きます!!」
それでも尚も、自身の主張を繰り返すミシディア。
アヤメとカルミアも、文句こそ言わないが、ミシディアと同じ気持ちだと言うのが伝わってくる。
「駄目だ」
俺はそんな三人に、にべも無く言い放つ。
正直な話、冒険者ランクで言えば、俺が【SSS】、ベリアルとアルテミスは【SS】、アヤメが【A】、ミシディアとカルミアが【B】と言った感じだ。
けれども、魔物のランクと冒険者のランクが、必ずしも比例するものではない。
前回のニーズヘッグの件にしても、あれは、俺は運が良かっただけだと思ってる。
皆の力があったからこそ勝てたようなものだ。
今回も敵の能力が未知数な以上、あまり皆を危険な目に合わせたくないと思うのが本音だった。
俺達がそんなやり取りをしていると、この場には相応しくない程のんびりとした声が聞こえた。
「あら~。あまり過保護過ぎるのもどうかしら~?」
「女王?!」
サヴリナは、いつも通りの調子で笑みを浮かべていた。
「そんなんやり方じゃ~伸びしろを潰すだけよ~」
「サヴリナ……」
「学ぶには~見る事も必要よ~」
サヴリナは一度「うふふ」と笑った後、スっと真面目な顔になり、真剣な瞳を俺に向けて言った。
「この子達は~私が守るわ~」
「「「っ?!」」」
三人が一斉に、サヴリナに期待の眼差しを向ける。
本来ドワーフと言うものは、魔力や精霊力は持ち合わせてはいない。
代わりに、鍛冶に適した手先の器用さと、強固な体や体力が備わっている。
けれど、サヴリナには何故か魔力があり、当然魔法も使える。
しかも、冒険者ランクで言う所の【S】程には…………。
そのサヴリナが「守る」と言ったのだ。
なら俺はそれを信じよう……。
「はぁ~……分かったよ。それじゃ、皆で行こうか」
俺は苦笑しながらもそう決断した。
俺の言葉を聞いて、皆の顔にも漸く笑顔が戻る。
「おい!お前」
「え?」
俺は未だに地面に座り込んでいる男に声を掛けた。
「道案内をしてもらうぞ?後は…………俺達が何とかする」
そうして俺達は、全員で坑道に足を踏み入れたのだった。
ガルダ…………無事でいろよ…………。
主人公はこう言ってますが、ニーズヘッグの時も主人公多分勝てますよ?
なんせ無双ですから!!
無双………………………………なんて良い響きだろうか 笑
ただ、ニーズヘッグは新生種だけあって、情報があまりに少なかった為、必要以上に力を出し切ってしまっただけです。




