隷属魔法 と 名前
「さて、と……」
今の目の前には元奴隷の少女がいる。
この少女は……………………人間だ。
奴隷で厄介なのが、誰にでも……人間にもそれが適用されてしまうと言う事である。
今迄は魔族や獣人が主立って目立っていた為、あまり知られては居ないが……。
そして、現在奴隷制度廃止とはなっているが、それは所詮表面上の問題だ。
【隷属魔法】と言うのは、一般的には【特殊スキル】となる為、努力次第で手に入れる事も可能なのである。
或いは、元々の奴隷を他人から譲り受け、その相手に自分を契約者にするように書き換える事も……。
あの馬鹿がどちらであったにしろ、そう言った理由で奴隷を所有しててもおかしくはない。
俺はなるべく、少女に警戒心を抱かせないように優しく話しかけた。
「改めて、俺の名前はセツナ。君は、名前は……ある?」
少女は軽く首を降る。
「隣の子は君の友達?」
少女が頷く。
「そか。これからどうしたいか……何か希望はあるかな?」
少女は少し目を見開き、考えた素振りをしてから首を降った。
「俺達はね、ちょっと用があって、今からドワーフ国に行かなきゃならないんだ。もし良かったら一緒に来る?」
「な……んで…………」
「ん?」
少女はそこで初めて口を開いた。
「なん、で……そんな事聞く……んですか…………?」
少女は本当に分からないのか、ジッと俺を見てきた。
元とは言え、奴隷の自分に何故そんな事を聞くのか…………と。
「……それは、君が一人の……普通の女の子だから」
「ッ?!」
少女の大きな瞳が更に見開かれる。
「さっきも言ったけど、俺達はその子に呼ばれてきた」
俺はそう言って、少女の隣の妖精を指差す。
少女も妖精も驚いた顔をした。
「本来、その子の力では【念話】どころか、普通に言葉を発する事も出来ない筈。それでもその子は、必死に助けを求めてきた。それは単に…………君を助けたい一心でだよ?」
「!!」
少女が勢い良く妖精を振り向く。
「その子がそこまでするのは、君の事が大好きだからだ。妖精は、人を見る目が誰よりも越えてるからね。それだけで、君の心が……魂が……とても澄んでるのだと言う事が良くわかる」
俺は一言一言、少女の心に語りかけるように話す。
【精霊力】を持ち合わせている者は、精霊や妖精に好意を持たれる。
けれど、精霊達曰く、その力には【色】のようなものがあり、それは千差万別だそうだ。
その色は、精霊達にもよってそれぞれ輝きが違って見えるらしい。
精霊達の、人によって【相性】が決まるのは、まさにそこにある。
自分達の好みの色であるなら力を貸すし、そうでないなら力を貸さない……ただそれだけである。
故に、この妖精にとって、少女の【色の輝き】は、それこそ自分好みなのだろう。
精霊達は、とても純粋で一途だ。
一度好意を持った相手には、とことん尽くす。
例えそれが人道を外れた行為であったとしても…………。
少女は、ただ黙って俺の言葉に耳を傾けていた。
だから俺は、少女に手を差し伸べる。
「一緒に行こう。君のやりたい事が見つかるまで俺が傍に居るよ」
少女は躊躇いながらも、おずおずと俺の差し伸べた手を取るのだった。
「う~ん…………」
俺は悩んでいた。
これでもかってくらい悩んでいた。
「はぁ~……いつまで考えてるつもりだ?」
ベリアルが呆れたように言ってくる。
「そんな事言ってもな……名前って意外と大事なものなんだぞ?」
そう、俺は名前を悩んでいるのだ。
アヤメが少女に、自分の名前は俺に付けてもらったのだと嬉しそうに話した所、躊躇いながらも、少女が初めて俺にお願いをしてきたのだ。
そんなお願いをされて断れる筈もない。
「ふふふ。私の時も、必死に考えて下さいましたものね」
そう言って笑うアヤメを、俺はジッと見た。
「えっと……何でしょう?」
アヤメが少し頬を赤らめる。
そんなアヤメを見て、俺はポンと手を合わせて言った。
「…………よし!決めた!君の名は【カルミア】だ!!」
「カル……ミア?」
「そう。意味は、俺の世界の花言葉で【大きな希望】、アヤメの名前が【希望】って意味だから、その妹っつー事で!!」
「い……もうと?私がアヤメお姉ちゃんの……?」
「まあ!素敵です!!流石はセツナ様です!!これから宜しくお願いしますね?カルミア」
カルミアは、何度も自分の名前を口にして、無表情ではあったがどこか嬉しそうに見えた。
これで少女の名前も決まって、俺もやっと肩の荷がおりたと言うものだ。




