同級生 と 観察眼
アリアは、一通りステータスを記録玉に映し終えると、王がおられる謁見の間へ生徒達を誘導する。
それにしても、あのステータスを見られたのかと思うと、恥ずかしさのあまり悶絶したい気持ちになってくるな……。
【召喚の間】である地下ホールを出て、石造りの螺旋階段を登る
俺はその最後尾で生徒達の様子を窺っていたが、彼等もやはり王に会うとなると緊張を隠しきれないようだ。
この謁見の間に続く通路もとても懐かしく、何十年も前(アルガナリアではまだ10年前だが)の事を思い出す。
俺が初めて召喚された時は、少々事情があり、使用人が先導して謁見の間へ連れていかれた。
その時の俺は………………うん。特に緊張してなかった。
自分の神経の図太さに、自分の事ながら苦笑してしまう。
通路の窓から外を覗くと、俺達の世界ではまだ昼間だったが、こっちでは今は夜らしかった。
地球の都会とは違い、ここでは星の煌めきが夜空を覆い、月は手が届くのではないかと錯覚しそうになる程大きく見える。
生メイドを見て、何人かの男子が「おぉ~」と声を出すと、女子が冷ややかな目を向けていた。
その中で、先程からチラチラとこちらを見てくる女子生徒が一人居るのに気付く。
どうやら俺に話しかけるべきかどうか悩んでるようだ。
俺、そんなに話しかけにくいオーラでも出してるのかな?
自分ではそんなつもりはなかったが、過去に思いを馳せてた為、もしかしたら知らず知らずの内にそんなオーラを出してたのかもしれない。
そう思い立って、俺は自分から話しかける事にした。
「こんにちわ。七鈴菜さん」
「あ!こ、こんにちわ!刹那くん!」
彼女の名はーー雛形七鈴菜ーー。
俺とは小・中・高と同じ学校ではあったが、別段家が近所だとか、幼馴染みだとか、そんな主人公補正のかかった関係ではなかったし、特によく話す間柄でもなかった。
けれど、ある日を境に、彼女はよく俺に話かけてくるようになり、今では下の名で呼び合う程度の仲にはなっている。
そんな彼女は、これはまさにヒロイン設定の似合う美少女だった。
肩より少し長めの黒髪で頭に白いカチューシャを付け、目鼻立ちがしっかりしており、和風なイメージだ。
男子生徒には勿論人気があるが、中学の頃は兎も角、今では女子生徒とも上手くやれてるらしい。
そんなわけで、俺が話し掛けるだけで、何人かの男子生徒が睨んできたが俺は気にしない。
その中でも、凄い形相で睥睨してきた一人と、何故かニヤニヤしながらこちらを見てくる者が一人いるが……それも漏れなく無視する事にした。
「それにしても何か大変な事になっちゃったね~」
「ん?うん。そうだね。でもこうなった以上は成るようにしかならないからね」
「はー……刹那くんは相変わらずだね。普通はもっと動揺すると思うんだけど?」
「そうかな?でも実際焦った所で今の状況が好転するとは思えないしな」
俺は正直に答えた。
何せ二度目の召喚だしな……。
「ふふふ。刹那くんは本当に変わらないね」
「うん?そう?」
そう言われても、自分だとあまり実感は湧かないだけど……。
俺は首を傾げて頭を掻く。
「刹那くんのそう言う所いいと思うけどね……」
「え?」
七鈴菜さんが、ポツリと言った言葉が聞き取れなかったので聞き返したが、「何でもない」と言って首を振られたので深くは追求しないでおく事にした。
「それでね。気になってたんだけど……一つ聞いてもいいかな?」
「ん?何?」
七鈴菜さんはそう聞いてくる割には、何故か聞くのを躊躇っているのか、少し迷った素振りを見せている。
けれど意を決したように息を吸ってから、俺の目を見て口を開いた。
「無いとは思うんだけど、その……彼女、アリアさんだっけ?知り合いだったりするのかな?」
「…………え?」
まさかそんな質問がくるとは思っていなかったので、俺は目を見開いて彼女を凝視する。
「あ!いや、二人が一瞬だけ見つめ合った時に、何か雰囲気?に違和感があったから……。最初は、アリアさんに見蕩れてるのかな~?って思ったんだけど……」
最後の方は徐々に声が萎んでいき、何故か彼女は少し伏し目がちにそう言ってきた。
けれど俺は別の事を考えていて、そんな彼女に気付かない。
驚いたな……あんな一瞬の表情の変化を見過ごさなかったのか……。
俺は正直彼女の洞察力に舌を巻いた。
そこでふと、失礼だと思いつつも、俺は彼女の【ステータス】を覗き見る事にした。
スキル【鑑定眼】を発動する。
【鑑定眼】とは、言わば物や人の情報、即ちここでは【ステータス】を視る事が出来る能力だ。
勿論、これにも階級があるので、上級スキルを持ち合わせている俺にとっては、容易な事だった。
通常の人の【鑑定眼】なら、せいぜい名前やレベルを見る事が出来るのが関の山だろうが俺は違う。
ただ俺の場合、これには少々欠点?があり、制限をかけないと、余計な情報まで閲覧出来てしまうのが難点だった。
勿論俺は、そんなプライバシーの侵害にかかわる事はするつもりはないので、ちゃんと能力を制限して【鑑定眼】を発動したわけだが……。
案の定、彼女のスキルに【観察眼】と記されていた。
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【観察眼】
相手を視る事で、相手の表情の変
化や、癖や弱点を見抜く事が出来
る能力。
後方支援タイプ。
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成程……これで合点がいった。
と言っても、本来【ステータス】と言うものは、本人の潜在能力を模したものであって、必ずしも本人の見合った以上の能力が付与されるものではない。
この事から見ても、これは元々彼女に備わっていた能力と言っても過言ではないだろう。
しかも【固有スキル】と来たもんだ。
【スキル】には三種類あり、まず通常の【スキル】だが、これは誰でも取得しようと思えば取得出来る為、大多数の人が持ってるスキルである。
そして、アリアが使用してた【精霊眼】は【特殊スキル】の部類に入り、これは数こそ少ないまでも、頑張って特殊な条件さえクリアすれば手に入る代物だった。
そして、七鈴菜さんの【固有スキル】は、先程も言った通り『本人の潜在能力』に左右される為、一般的には唯一無二の能力とされている。
たまに例外はあるが…………俺みたいな奴とか…………
だがしかし、これは磨けばそれなりの戦力になるのではないか?
【鑑定眼】の進化版と言った所かな?
MPも多い所を見ると、彼女が後方支援タイプだと言うのも頷ける。
だがHPも思いの外多いので、上手くすれば前衛でもやっていけるかもしれないな……。
少なくともパーティーでは重宝される事間違いないだろう。
『アレ』とか『アレ』のスキルを手に入れて…………。
俺が彼女の戦略を勝手に組み立てながら、じっと彼女を見ていると、七鈴菜さんが何故か顔を真っ赤にして、慌てだした。
「な、何何?!わわわわわ、私の顔に何か付いてる?!」
「ん?あー、ごめん。何でもないんだ」
勝手に戦略を立ててたなんて言えるわけもない。
なので、俺ははぐらかす事にした。
彼女だけではなく、正直な所、他の生徒達にも出来れば戦場には立ってほしくはないと俺は思っている。
甘い考えかもしれないが……。
けれど、ここまで来てしまった以上は、生徒達は嫌が応にも戦うハメになるのだろう。
俺は後で、直接王に出来るだけ生徒達の気持ちを汲んでもらおうと願い出るつもりだった。
あの王なら、きっと生徒達を悪いようには扱わないであろうと信頼しての事だ。
そんなやり取りをしていると、先程まで凄い形相でこちらを睥睨してきていた男子生徒の一人が、痺れを切らしたのか、俺達に近付き声を掛けてきた。
「七。ちょっといいかな?」
「あ、疾風くん。」
『七』とは勿論七鈴菜さんの事だ。
俺の事は完全無視であった。
まぁ、別に気にしないが……。
彼はーー楠木 疾風ーー。
彼もまた、主人公設定の似合いそうなイケメンである。
身長は170cmで、成績優秀・スポーツ万能と言った高スペックの、まさに王子様と言った感じで、学校でも一・二を争う程のモテ男だった。
生徒会役員で、本来なら近く『生徒会長総選挙』なるものがあり、一番生徒会長に近い男と言われている程だ。
下級生から上級生まで幅広い人気があるらしい。
俺とは正反対の人種だよな……。
別に自分を卑下するつもりはないが、ネクラとまでは行かなくても、俺は地味な方だろう。
分かり易い位に、俺と七鈴菜さんの間に入ってくる楠木だが、その瞬間俺に一瞥するのを忘れない。
たかだか男友達と話してただけでこれだと、この先大変そうだな…………主に七鈴菜さんが。
などと楠木の睨みも気にも止めず、俺は俺でそんな事を思うのだった。
「所で七は大丈夫?」
「え?何が?」
「いや、急にこんな訳の分からない事に巻き込まれたしさ」
「ん~……でもこうなった以上は成るようにしかならないしね」
などと、七鈴菜さんがどこかで聞いたような台詞を口にする。
俺の視線に気付いた七鈴菜さんが、こっそり舌を出しておどけて見せた。
けれど、そんな七鈴菜さんに、どう解釈したらそうなるのか、楠木は言った。
「そか。でも俺の前だけは無理しなくて良いからね。俺が七を絶対守るから!」
歯の浮くような台詞を真顔で言う楠木。
…………何言ってんだ?こいつ?
何故か殊更『だけ』を強調する楠木に、俺は心の中ですかさずツッコミを入れる。
七鈴菜さんも若干引き気味に曖昧に返事をしていた。
俺から見れば、七鈴菜さんは芯がしっかりして強い女性に見える。
それは内面的なもので、【守る】と言う部分は否定はしないが、【守られる】だけの存在を良しとしない強さを彼女は持ってると俺は思う。
さっきの台詞も、俺の言葉を引用してはいたが、あれは彼女の本心からの言葉だろう。
けれど、楠木の中では七鈴菜さんは【強がって無理をしている守ってあげるべき存在】と、勝手なイメージを作り上げてるようだった。
まぁ、主観は人それぞれだしな。
普通の女子ならきっと顔を真っ赤にして喜ぶんだろう。
こう言う所が女子に受けるのかもしれない。
それでも見習いたいとは思わないが……。
そうこうしてる内に、俺達は謁見の間の扉の前に到着した。
扉の両端には騎士が立っていて、一礼する素振りをする。
「これより、王に謁見します。皆様あまり緊張なさらず、普通にして下さって結構ですよ」
そうアリアが笑顔を向けるだけで、何人かの男子はそれに惚けた顔をした。
そして勿論何人かの女子は、それに呆れた顔をしていたが……。
そして、謁見の間の扉がゆっくりと、しかし重々しく開かれた。
ここまで読んで下さった方々に心からの感謝を○┓ペコッ
二人目のヒロインが登場です。
しかし主人公は気付かない……彼女の気持ちを……王道の鈍さですね 笑笑
そしてヒロインに片想い中のこれまた王道なライバル?まで出てくるし……何処まで王道をいくつもりなのやら 苦笑
まぁ、序盤は結構王道に重点を置いて行くつもりなので、出来れば今後も飽きずに見てやってくださいな 笑