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【転生】と【転移】の二足の草鞋  作者: 千羽 鶴
第三章 新メンバーとドワーフ国で魔女との再会
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集落 と 盗賊

俺は小さな集落のある、入り口の前に音もなく降り立った。


こう言う【集落】にはギルド所か衛兵も居ない。


実は、この世界には【スラム】と言うものは存在しない。

都市部などでは、徹底して犯罪者などを中に入れないようにしているからだ。

そう言うスラム落ちしそうな奴は、大体が野盗や盗賊に身を投じる。


そして、どの世界でも必ず貧富の差と言うのがあるものだ。

何らかの理由で税金などが払えなくなり、都から逃げるように出て行く者達…………そう言った人達が寄り集まって出来たのが【集落】だ。


基本、集落を作る場所は、魔物の発生が極力少ない場所や、弱い魔物の居る場所などを厳選して住居を構える。


けれど、そう言った集落は、盗賊共の格好の餌食とされる事が多い。


都から逃げては勝手に居住区を建てた彼らには、当たり前だが都からの援助は望めないし、此処にはギルドも存在しない。

よって、自分達の身は自分達で守る他なく、盗賊に襲われても自業自得だと割り切るしかないのだ。


入り口からでもハッキリと聞こえる怒号や叫び声…………


「きゃぁぁぁぁっ!!!!」

「おらおらっ!!逃げろ逃げろー!!!!ぎゃはははははは!!」

「金目や食料はちゃんと袋に詰めろよ!!勝手に懐に入れんじゃねーぞ!!」

「見た目のいい女子供はなるべく無傷で手に入れろ!!物好きな貴族連中が喜んで買ってくれるからな!!」

「お、お願いします……どうか……娘だけ…………ぐっ」

「うっせーよ。ばーーーーか」


俺はそれを不快に思いながらも、そのまま集落の中に入っていた。


入り口からは既に、鉄の錆びたような臭いが鼻を突き、あちこちには死体が転がっていた。


「かあちゃん……かあ、ちゃん…………」


入り口のすぐ側では、少年が息のない母親の体を揺さぶりながら、必死に起こそうとしている。


俺はその傍にゆっくりと近付いた。


少年が俺の存在に気付くと、一瞬ビクッと体を強ばらせたが、すぐに涙でぐしゃぐしゃになった顔で、憎しみの篭った瞳で俺を睨んできた。


俺はそんな少年の前で膝を折り、少年の瞳を見つめて笑顔を向けた。


「もう大丈夫だから。後でゆっくりお母さんを埋葬してあげよう」


俺の言葉を聞くと、最初何を言われたのか分からなかったのか、大きく目を見開いて、それから再び滂沱の涙を流しながら何度も頷く。


俺は一度少年の頭を一撫でしてからゆっくりと立ち上がり、馬鹿共の居る方へと歩いていった。


「は?何だお前」


俺を一人が気付き、そんな声を掛けてきた。

その声に気付いた他の馬鹿共も、一斉に俺の方に振り向く。


「誰だか知んねーけど、運が悪かった、なっ!!」


一人の男の言葉が合図となって、数人の男達が俺に向かって鉄剣を振り下ろしてきた。

俺は顔色一つ変えずに…………ただ普通に男達の間を歩いていった。


「「「「「……へ?」」」」」


それを見ていた他の馬鹿共が間抜けな声を出す。

俺の右手には、既に【三日月】が握りしめられている。


瞬間ーーー。


「ぎゃーーーーーーーーー!!!!」

「いでーーよーーー!!!!」

「お、俺の腕がーーーーー!!!!」

「ひ、ひぃーーーー!!!!」


男達の阿鼻叫喚が響き渡った。


ある者は片腕を切り落とされ……。

ある者は片脚を切り落とされ……。

ある者は腹部を押さえ蹲り……。

ある者は……もしかしたら絶命していたのかもしれない……。


「「「「「なっ?!」」」」」


それを見た他の男達は、その異様な光景に驚愕する。


俺はそんな男達を一瞥し、ふと『ある者』に目が止まった。


「………………ねぇ」

「ひっ!!」


俺が静かに……けれど怒気を孕んだ声を発すると、男が小さく情けない声を出した。


「その子…………【奴隷】だよね?」


そう、俺の目に留まったのは、一人の男の傍らにいた少女だった。


「こんにちは。その隣に居る子は君の友達?」

「……え?」


俺はその少女に、この場には相応しくない笑顔を向けた。


少女は一瞬何を言われたのか分からず、キョトンとしていたが、すぐに自分の隣の…………妖精に目を向ける。


「……この子が…………見えるの?」

「うん。その子に頼まれて、俺は君を助けに来たんだよ?」


俺が優しくそう口にすると、少女だけでなく、妖精までもが驚いたように目を見開く。


そんな俺達のやり取りを、先程まで放心状態だった男が我に返り、額に青筋を立てて怒声を浴びせてきた。


「さっきから訳のわかんねー事言ってんじゃ、ねーーーーーぞーーーーーーー!!!!」


そう言うと、大剣を握りしめて俺に襲いかかってくる。


「……邪魔」


俺はその一言だけを発し、男の大剣をまるで紙でも切るかのように、スーと真っ二つにした。


「……は?え…………ひ、ひぃ!!!!」


男は一瞬呆けて、それから腰を抜かせてその場に座り込む。

俺はその男の首筋に三日月を宛てがえて言った。


「お前が彼女の【契約者】か?今すぐに彼女の契約を破棄しろ。さもなくば………………殺す」


俺は【威圧】を男に放つ。

男が失神しない程度に調整する。


男には、最早矜恃などありはしない。

股間からは、生暖かい湯気が立ち込めていた。






それからすぐに、アヤメ達も俺の元にやってきた。


集落から逃げ出そうとしていた盗賊どもも取り押さえてくれたらしい。

この盗賊共の処分は、この集落の者達が決めるのがスジだろう。


俺の傍には、少女が無表情で、けれどもどうすれば良いのか分からずに呆然と立ち竦んでいた。


俺がアヤメ達に簡潔に少女の事を話すと、アヤメが徐に少女の前に立ち、目線を合わせて口を開く。


「こんにちは。初めまして。私はアヤメ、私もアナタと同じ……元奴隷なんだよ?」

「「え?」」


それに驚いたのは少女だけでなく、ミシディアもだった。


あれ?俺ミシディアにアヤメの事話してなかったっけ?


言われてみれば話してなかった気がする。

そもそも、態々「自分は元奴隷です」なんて話す事でもないだろう……。


すると、俺達を遠巻きに見ていた集落の人達が、おずおずと俺達の周りに集まり出してきた。


「あ、あの、今回は助けていただき有難う御座いました」


そう言って、一人の若い青年が代表して頭を下げる。

他の集落の者達も、その青年に倣って頭を下げた。


「別に気にしなくていいですよ。偶々近くを通っただけですから。それより…………一つお願いがあるんですが?」

「な、何でしょうか…………?」


青年が恐る恐る聞いてくる。


無理もない。

こんな怖い思いをしたのにも関わらず、俺が「お願い」なんて言えば、何かしらの不当な要求を強いられるのではないかと危惧しているのだろう。


それでも俺は、それには気付かないふりをする。


「この少女を……俺達に預けてくれませんか?」

「え?」


少女は俺の言葉に目を見開く。


「そ、それは……」


青年が言い淀む。


「お気持ちは分かります。けれど、見ての通り彼女は【奴隷】で、あの男達には逆らえなかった。勿論、だからと言って、彼女の犯した過ちは許されるべきではない。貴方方にも色々思う所もあるでしょう。それでもどうか……お願いします」

「ッ?!」


俺はそう言って、深々と頭を下げた。


周囲にどよめきが走る。

少女が息を呑むのが分かる。


すると、ある人垣から一人の老人が前に出る。


「……良いではないかの?この方々は我らの恩人。そんな方がここまでするのじゃ。その少女の事は、この方々に任せようぞ?」

「……長」

「長がそう言うのなら……」

「ああ……俺も異論はねぇよ」


長と呼ばれた老人がそう言うと、他の者達も口々に賛同をしてくれる。


「……有難うございます」


俺はもう一度頭を下げるのだった。


そうして、俺達に新たな旅の仲間が加わる事となる。


集落を出る時に、入り口付近で声を掛けた少年が、俺に手を振りながらお礼を言ってきた。


「お兄ちゃん!ありがとう!!」


俺はその少年に、笑顔で手を振り返すのだった。

補足


【村】

領土内での管轄区域

税金あり

援助あり

ギルドあり

地図に載ってる


【集落】

領土内での不正居住

税金なし

援助なし

ギルドなし

地図にも載ってない

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