血の匂い と SOS
短いので、二話連続投稿します。
エルフ国が自然豊かな森とするならば、ドワーフ国はゴツゴツした岩ばかりの山だ。
と言うわけで、俺達は今岩山を走行中である。
右側は切りだった崖になっており、馬車がギリギリ通れる道を、ガタゴト揺らしながら進んでいた。
ミシディアが時折、崖の方をチラリと見ては「ひっ!」と小さく悲鳴をあげている。
そんなに怖いなら見なきゃいいのに……。
そんな時、アヤメが鼻を引くつかせて眉間に皺を寄せる。
「ん?どうした?」
「…………血の匂いがします」
「……そうか」
俺はそれだけを答えた。
魔物か盗賊かは知らないが、近くで人が殺されているのかもしれない。
俺は聖人ではない。
目の前でそう言う事が行われたなら助けに入るかもしれないが、どこかも分からない場所で、態々自分から首を突っ込むつもりはない。
アヤメは狼の血が濃い故に、鼻が良く利く為気付いたに過ぎない。
ミシディアがチラチラと俺を見てきているのには気付いてる。
先日勝手な行動をして、魔物を多く引き連れて来た事があった。
その時にアヤメに酷く怒られてしまい、アヤメに言われたのだ。
「ここでは、セツナ様の言葉は絶対です。セツナ様の言う事は必ず守って下さい」
俺としてはそれもどうなんだ?と思う所であるが……。
そんな事があったので、ミシディアは仮に助けに行きたいと思っていても、俺の指示が出るまでは動くつもりはないのだろう。
さて、どうしたものか……。
俺が寝転びながらそんな事を考えていると、不意に“何か”が耳に届く。
〝た…………け………………て……〟
「ん?」
「これは……?」
「?どうかしましたか?」
俺達の反応を不審に思ったアヤメが聞いてくる。
〝た……す…………て………………〟
おそらく、俺とミシディアとアルテミス以外は聞こえていないのだろう。
何故ならこれは……。
『ふむ。これは妖精だな。無差別に【念話】を送っておるのだろう』
やはりそうか…………。
精霊や妖精の声を聞き、見る事が出来るのは【精霊力】の適正があるものだけだ。
精霊なら、意図的に適正の無いものにも見せる事や会話をする事は可能だが、基本精霊や妖精を普通の者が見る事はない。
「アヤメ。血の匂いがどこからするか分かるか?」
「……あちらの方角です」
俺はアヤメが指差した方を見遣る。
ちょうどその時、前方の崖の下にある林の方角から、狼煙のようなものが上がっているのを目に止める。
「しゃーない。行ってみますか」
俺はそう言うが早いか、馬車から飛び降りて〈風魔法〉を体の回りに纏わせて宙に浮く。
「お前達はのんびり来ればいいよ」
「……え?」
ミシディアだけは驚いた声を出す。
俺はそのまま、狼煙のある方角へと飛び去って行った。




