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【転生】と【転移】の二足の草鞋  作者: 千羽 鶴
第二章 エルフ国での脅威誕生
36/96

逸話~アヤメの場合~

私は薄暗い地下の鉄格子の中から、僅かに見える空を眺める。


ここが、私が生まれた場所で育った場所…………私の世界の全て。


私は、【魔族】と【獣人】の間に産まれた【半魔半獣】の子供ーーー。


けれど親の顔は知らない。

一度も会った事がないから……。

物心ついた頃には、既にここで『飼われ』ていたから……。


ここは、とある貴族の地下部屋。


広さは四畳程で石造りの壁に囲われ、鉄格子と申し訳程度にある、空気穴の役目もしてる小さな窓が一つ。

その窓にも鉄格子がされていた。

黴臭い匂いにももう慣れた。

端には布団が一式敷かれ、用足し用に桶のような物も置かれている。


私はそっと首に触れてみる。


そこには歪な形の首輪が嵌められていて、まるで『あの男』の所有物であると言われてるように……。

私の右胸辺りには【奴隷紋】が刻まれていて、痛みなどない筈なのに、時折ズクズクと疼く。


私は【奴隷】として生まれた。


同じく奴隷であった両親の【異種間交配】により生まれたのが私らしい。

私は【銀狼】の【先祖返り】と言うものらしいけど、詳しくは知らない。

本来奴隷に布団など用意されないが、先祖返りの私は【特別】らしい。


これが特別と言えるかどうかは分からないけど…………。


私はもう一度、小さな鉄格子の窓から外を見上げた。


私はここ以外の世界を知らない。


いえ、正確には【仕事】で外に出る事は出来るけど、それはいつも『夜』なので、夜の街の世界は知っている。


私の一つ目の仕事は【暗殺】ーー。


本当はそんな事をしたいわけじゃない。

けれど奴隷である私には選択する事なんて出来ない。


私は【半魔半獣】であった為、普通の者達よりも、身体能力は高く【魔力】も使えた。

その為、このまま燻らせておくのは惜しいと言う事で暗殺の技術を身に付けさせられた。


初めて人を殺したのは、多分五歳位の時だろうか……私は自分の歳が分からないから……。

詳しい理由は分からないけど、何でも『あの男』に意見を言った、とある【商家】の家族全員を殺せと言う命令だった。

そんなくだらない理由…………。


私は奴隷……逆らう事も出来ない。


そこで、私は初めて外の世界に出る事が出来た。


その世界はとても静かな世界ーー。


地下から僅かに聞こえていた人の声などはしなく、皆が寝静まっている夜の世界だ。

そんな寂しい世界でも、私は初めて外に出れた事が嬉しくて胸が高鳴り…………けれど次の瞬間、それがすっと冷えていったのを感じた。

【奴隷】にとって【命令】は絶対……自分の意思に反して、身体は命令を遂行しようと動く……。


そして…………私は初めて人を殺した。


その日は眠る事が出来なかった。

私は布団に顔を埋めて、声を殺して泣いた。

『あの男』はとても上機嫌だったみたいだけど、私にはどうでもいい事。


私が初めて見た世界は、【静寂の暗闇】に【紅く染まった】そんな残酷な世界だった――――。


そして、私のもう一つの【仕事】ーー。


「おい。出ろ」


たった一言……それだけで私は理解する。


ああ…………今日も『あの男』にこの体を触られるのね…………。


それを想像するだけで気持ち悪い吐き気に襲われる。

それでも私は表情を変える事もなく、無言でそれに従う。

奴隷の私は、それに逆らえないのだから……。


この世界はとても理不尽で残酷だ。


これが私の世界の全て_______________。


ーーーーーーーーーーー


「ふっざけるな!!あの若造風情がっ!!」

バンッーー。


その日は『あの男』が酷く荒れていた。

コイツが荒れていようがどうだろうが、私にはどうでもいい事だけれど、その次の言葉に、私の心は僅かに揺れる。


「何が【奴隷制度】廃止だ!!この世界の人間でもない奴が知ったふうな口を聞きおってっ!!」


そう……ある【異世界人】が、この世界の【奴隷制度】の廃止を訴えている事だった。


本当にそんな事が可能なのだろうか?


私はそんな事を考える。

ぬるま湯にずっぽり浸かっている貴族連中にとって、奴隷を失う事はただの損失でしかない。


【奴隷】は替えの効く、使い捨ての駒……。


汚い仕事もさせられるし、夜の相手もさせられる……命令一つで何でも自分の思うがままで、【奴隷】を所有してる者は総じて『楽』が出来る。

壊れたら処分して、また新しい【奴隷】を手に入れればいいだけなのだから……。

そんな人達、主に貴族連中が、そう簡単に奴隷を手放すとは思えなかった。


そう、今目の前にいるこの男のように……。


「だと言うのにっ!!他の貴族共は臆病風に吹かれよって!!貴族の風上にもおけんわっ!!!!」


などと、先程から喚き散らしている。


理由は分からないけど、どうやらその【異世界人】に皆逆らえないでいるらしかった。

私は【奴隷制度】廃止など夢のまた夢だと諦めている。

それでも……少しだけ…………ほんの少しだけ、もしかしたら?と、僅かな期待がないわけではなかった。


だけど、私がここに呼ばれた理由…………それは分かりきっていた。


「ああ……私の可愛い仔犬ちゃんや……」


うっとりした顔で私を見て、脂ぎった手で私の頬を撫で回す…………気持ちが悪い。


「私の為に、あの男を始末してくれないかい?」


案の定、この男は私にそう言ってきた。

聞いてくるくせに、それは私には逆らう事の出来ない【命令】だった。

私の魂は、その一言で【軛】に縛られる……。


「承知しました。ご主人様」


私は無表情のままそれに応じる。


それを聞いたこの男は、醜悪な顔に更に醜悪となった笑みを浮かべるのだった_______________。


ーーーーーーーーーーー


例の【異世界人】が今目の前にいる。


たった一人でーーー。


けれど、それを前にして私の本能が【警鐘】を鳴らす。

この男には勝てない……と。


目の前の男は、顔色一つ変えずに私を見ていた。


「やあ。こんばんわ」


最初は私に向って話しかけられているとは思わず「?」となってしまった。

けれどこの場には、私とこの男しかいなかった。


すると、今度は不意に私から目線を外し空を見上げた。


「今日も月が綺麗だよ」


何を言っているのだろうか?この男は……。


罠かとも思ったが、私は警戒は怠らず、導かれるように視線だけを夜空に向けた。


一瞬思考が停止する。


キレイ……………………。


月は今にも手が届きそうな程大きく、星々は月の光に照らされて、より一層キラキラと輝いていた。

私はもしかしたら、こんな空を見るのは初めてかもしれない。

今迄は、そんな余裕など何処にもなかったから……。


暫く私はその幻想的な夜空に心を奪われていた。

けれど、すぐにハッとして、再び目の前の男に意識を戻す。


男は寸分変わらず、そこに立っていた。

その顔には、先程までの無表情はなく、僅かに笑顔が見える。


「…………何を笑っているの?」


馬鹿にされているのだろうか?


そう思ったが、その男は突拍子もない事を口にする。


「いや、月光に反射した君の銀髪がとても綺麗だったから見蕩れてただけだよ」

「…………は?」


意味が分からない。


今私がこの男の目の前に立っている理由を、この男が分からない筈がない。

それなのにこの男は、事も無げに私に『見蕩れて』いたと言うのだ。


それは【強者】としての余裕か、それとも…………ただの馬鹿?


けれど、この男の言った【綺麗】と言う言葉に不快な感じはしなかった。

あの男の夜の相手をさせられる度に、あの男はよく同じ言葉を言っていた……。

それはあまりにおぞましく、私の心に一度も響いた事のない『ただの言葉』……。

けれど、この男の言葉だけは、妙に耳に残った。

そこにあったのは、心からの賛辞に聞こえたから……。


不思議な人ーーー。


それでも私は【奴隷】である。

【契約者】の【命令】は絶対……。


例えこの男にどれだけ興味を抱こうとも、私の身体はそれを許さない。


私は身体を低くして臨戦態勢を取った。

男は、顔に笑みを浮かべながら微動だにしない。

それはとても隙だらけで、けれども私にはこの男に勝てる未来が思い浮かばなかった。


死ぬかもしれない……。


瞬間そう思った。


けれども、私にとってはそれは【絶望】ではなく【希望】ーーー。


やっと、この残酷な自由の無い世界から解放され、私は死んで初めての【自由】を手に入れる事が出来るのだから……。


私は一気に男の前に踏み込んだ。


それは常人には決して目で捉える事が出来ない程の速さ……瞬き程の瞬間に、50メークも離れていた私は男の眼前に居た。


サスペンダーベルトに携帯していたナイフを取り出し、男目掛けて突く。


けれど……男の目は私をしっかりと捉えていた。


先程と変わらず笑顔のままに、左足を後方にズラし、私の攻撃をいとも容易く躱す。


けれど、私はそれには驚かない。

これは予想通りの反応。


私は背後手に死角で見えないように隠していた、反対側のナイフを突き立てる。


男は、半身をズラしたのを、そのまま回転するように、私の二度目の攻撃さえも簡単に躱すと、そのまま私の背後に回り……。


「うっ……!!」


瞬間、首の後ろに衝撃が走る。


私の項に手刀を落とされたと気付いた時には遅く、私はそのまま闇の中に意識を手放した_______________。


ーーーーーーーーーーー


「う……ん……」


私は重たい瞼を開ける。


意識は未だ覚醒してはいないのか、ぼーっと天井を見つめる。

それは見た事も無い知らない天井だった。


ここは……?私は確か………………


霞がかった記憶を手繰り寄せ様と思考を巡らせるが、不意に横から声がかかり驚く。


「やあ、目が覚めた?」


私は首だけを声のする方に向けると、そこには、私が殺そうとした筈の異世界人が、今尚笑顔のまま私を見下ろしていた。


「ッ?!」


私は咄嗟に起きようとして、けれど体が思うように動かず顔を顰める。


「ああ……ダメだよ。まだ無理したら」


男は心底心配してると言わんばかりに、私が起き上がるのを制止してきた。


「な……んで……ここは…………?」


私は男の言う通りに、再びフカフカのベッドに体を預けた。

瞬時に男に自分が敗北したのを悟ったが……状況が今一理解出来ない。


私は生きてるの?

何で?


死ぬつもりだった……。

殺して欲しかった……。

この世界から……解放して欲しかった……。


そんな私の心中を知ってか知らずか、男はいきなり爆弾発言を投下してきたのだ。


「君はもう【奴隷】じゃないよ。【奴隷紋】は消えてる筈だから、もう安心して」

「……………………は?」


私は一瞬何を言われたのか理解出来ず、つい間抜けな声を出してしまう。


だが次の瞬間、私は体の怠さも忘れ、ベッドから飛び起きて胸元を肌蹴た。


「なっ?!」


男の驚愕する声が聞こえたが、私はそんな事を気にする余裕もなく、自分の右胸を凝視する。


「………………ない」


そこには、先程まで確かにあった筈の、あの忌々しい【奴隷紋】がなかったのだ。


私は混乱する。

状況に着いていけない。


「何で……?」


ただ一言、それを口にするだけで一杯一杯だった。

男はそんな私に、慌てながら言ってきた。


「と、取り敢えず、服を直して!!今から説明するからっ!!!!」


顔は耳まで真っ赤で、こちらを見ないように視線をあらぬ方向に向けて、男はまるで懇願するように言ってくる。


「え……?あ……」


私はその時初めて【羞恥】と言うものを知った。

男に言われた通りに、私は慌てて衣服を正す。


私の顔もきっと真っ赤になっているだろう……。


そこで男は安心した顔をして、漸く私に視線を戻し、私の意識がない間の経緯を教えてくれた。


何でも、男は最近自分の回りを嗅ぎ回ってる者達がいる事は既に気付いていたらしく、なので、私が目の前に現れても差ほど驚かなかったらしい。

私を見た瞬間、私が【奴隷】である事もすぐに察したらしく、なので殺さなかったと言う話だった。

そして、私を気絶させた後、すぐに自分の仲間に、私の【契約者】の裏付けを取るように頼み、程なくしてそれは取られた。


何とも迅速な事か……。


そして、すぐに私を連れてあの男の元に赴き、頼んで【契約】を破棄させたらいい……のだけど…………。


『頼んで』……?


有り得なかった。

あの男がその程度で私を手放すとは思えなかったから……。


それを聞いてみたが、何故かはぐらかされてしまった。


そして最後に彼はこう聞いてきた。


「それで?君はこれからどうするの?」

「え……?」


どうする?

何が?


そんな事を聞かれたのは初めてだった。


「君はもう【奴隷】じゃない。自由の身だ。これからは好きな所に行き、好きなように生きられるんだよ?」


男は、まるで自分の事のように嬉しそうに話してくる。


私は目を瞬かせた。


自由?私が?


自由とは【死】以外の何物でもないと思っていた……。

それが【生きて】自由を手にするなど考えも及ばなかった事態だ。


私はこれからどうしたい?

これからどう生きたい?


私は初めて自分に自問自答してみた。


そんな私を、男は笑いながら黙って私の答えが出るのを待ってくれていた。


私は_______________。


ーーーーーーーーーーー


私は、今も彼……セツナ様のお傍にいました。

他に行く所も、どうすれば良いかも分からないと正直に話た所、


「なら、見つかるまで俺達と旅をすればいいよ」


と、セツナ様は事も無げに提案してきたのです。


最初は躊躇いました。


だってそうでしょ?

経緯はどうあれ、一度は自分の命を狙った相手を、そんな簡単に傍に置くなど、普通の方ならしません。


けれで、セツナ様は全く気にも止めていないかのように、私の目の前でも無防備に平気で寝るは、隙だらけの背中を見せるわで…………本当に変なお方。


けれど、とても私の心は不思議と満たされておりました。


私には名前がありませんでした。


『あの男』は、私を常に【仔犬ちゃん】と呼んでいたから……。


それを話すと、セツナ様は私に【アヤメ】と名を下さりました。

セツナ様の【地球】と言う世界の花言葉で【希望】を意味するそうです。


私は、生まれて初めて、心に光が灯る感覚を味わいました。


その後、セツナ様のお仲間を紹介されました。


【サリファム王国】第一王女ーーアリア・ウィル・サリファムーー。


この方は、セツナ様の事を心底信頼しているのか、私の事情を知っても嫌な顔一つせずに私を受け入れてくださりました。

けれど、紹介された【諜報部隊】と呼ばれる数名の方々は、私の事を未だに警戒しています。


当然の事です。

と言うか、二人が変わっているだけかと思うのですが……。


なので、【諜報部隊】の方々の態度には特に気にしてません。

私はもう二度とセツナ様に刃を向ける事はないのですから……。


先日、私はセツナ様にあるお願いをしました。


私の【契約者】になって欲しいとーーー。


セツナ様は一瞬驚いた顔をして、けれどすぐに困った顔をしながら……断固拒否されてしまいました。


本当に……本当に!!ショックでした。


私が自ら【奴隷】に落ちるなど、昔の自分からは想像すら出来ませんが、それでもセツナ様になら……と思ったのですが、セツナ様には受け入れられませんでした。


けれどもその筈……。

セツナ様は【奴隷制度】を廃止する為に動いているのに、その本人が【奴隷】を囲っているなど全くの論外です。


私は自らの浅はかさに落ち込むばかりです……。


アリア様は私に色々な事を教えてくれました。


字の書き方読み方。

最低限の礼法。

この世界の地理や歴史まで……。


よく二人で紅茶を飲みながらお喋りもしました。

アリア様は私を本当の【友人】のように接してくれます。

私には【友人】と言うものが、あまり理解出来ませんでしたが、アリア様が私を友人だと言って下さったので、私とアリア様はきっと【友人】なのでしょう。


そんな事をして過ごす事半年ーーー。


「【獣人国】……にですか?」

「ああ、【ディーダ】に会って、今後の【雇用制度】についての提案と話し合いをしに会いに、ね」


ディーダ様とは、セツナ様のご友人で、【獣人国】の【獣王】らしいです。


流石セツナ様です。

そん方ともお知り合いだなんて……。


けれど、その次の言葉に、私は我が耳を疑いました。


「それに、獣人国に行けば、アヤメのやりたい事も見つかるかもしれないしさ」

「…………え?」


セツナ様は今何と仰ったのでしょうか?


「アヤメにとっては、獣人国は故郷とは言えないかもしれないけど、獣人の血が流れてるなら懐かしさを感じるかもしれないし」


そんな事をセツナ様はツラツラと話しています。

けれど、私の耳には、もう何も聞こえてはおりませんでした。


私はその日の晩、拠点としている宿屋の一室に一人でベッドに仰向けに横になっていました。

いつもならアリア様がいらっしゃいますが、今日は用事で【王都】に出向いておられます。


私は昼間のセツナ様の言葉を思い出していました。


セツナ様は私を邪魔に思われたのでしょうか?

もう私は必要ない?

いえ、そもそも自分を殺そうとした者を置く事が異常なのです。

だからセツナ様の選択は正しくて…………。


そこまで考えて、私の目尻に涙が溜まっていくのに気付きました。

私は目元を服の袖でキツく拭い、頭を振りました。


セツナ様はそんな方ではありません!!


セツナ様は本気で私の将来の事を案じて下さっている。

だから、こんな提案をして下さっているのです。

それは理解しています。


それでも……私は……私は………………!!


私は気付いたら、セツナ様の部屋の前に立っていました。


何がしたいのか。

どうしたいのか。


以前にした自問自答のようなものをしながら、結局答えが見つからず、私は答えを求めるようにセツナ様の顔を見に来たのです。


そうすれば、何か見つかるような気がしたから…………。


私は躊躇いながらも扉をノックしました。


「はい。どうぞ」


間髪入れずに入室の許可がおります。

恐らく、気配で私が来たことは分かっていたのでしょう。

私は扉のノブに手を掛け、一度大きく深呼吸してから扉を開けました。


開けた先のセツナ様は、机に広げた何枚もの書類と睨めっこをして、私の入室に気付くと、視線を向けていつもと変わらない笑顔を向けてくれます。


「ん?どうした?」


私は咄嗟に言葉が出てきませんでした。


「あ……の…………」


喉が渇いたように張り付き、やっとの思いで絞り出した声は掠れて言葉になりません。

そんな私を訝しんだのか、セツナ様は手に持っていた書類を机に置き、ゆっくりと私の元に近付いてきます。


私はそれを視界に捉えながら、やっとたった一言を紡ぎました。


「私を抱いて下さいっ!!」

「は?」


セツナ様は進めていた足を止め、ポカンと口を開けて停止してしまいました。


私も自分が発した言葉に驚き、次に恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして俯きます。

けれど同時に気付いてしまったのです。


ああ……私はこの方に【恋】をしている…………。


生まれて初めての感情でした。

いつからそんな感情を抱いていたのか……もしかしたら初めてセツナ様と対面した時かもしれません。


私は自分の気持ちに気付くと、今度は真っ直ぐセツナ様の瞳を見つめ、はっきりと口にしました。


「私を抱いて下さい」


セツナ様が動揺しているのが見て取れます。

それでも私は言葉を続けます。


「私を抱いて下さい。こんな汚れた私ではセツナ様は満足されないかもしれないけれど、どんな事もします!どんな要望にも答えてみせます!!セツナ様が望む事ならなんだって!!だから「ちょっと待って!!」っ?!」


セツナ様が私の言葉を遮ります。

頭を抱えて、必死に何かを考えてるようです。


困らせている事は分かっています。

それでも、もう私は自分の気持ちに気付いてしまったから……それを抑える事は出来ません。

例え拒絶されようとも、私はきっと諦める事は出来ないでしょう。


暫くセツナ様は考える姿勢をしていましたが、それから持ち直したかのようで私の目を見据えて聞いてきました。


「えっと……何でそうなるのかな?もしかして昼間言った事気にしてる?勘違いしないで欲しいんだけど、あれは別にアヤメを邪魔に思ってるわけじゃなくて……」

「違います!」


今度は私がセツナ様の言葉を遮りました。


「セツナ様の気持ちは分かってるつもりです。私の事を思って言ってくださったんですよね?」

「分かってるなら何で……」


セツナ様が困惑顔で私に聞いてきます。


私は一瞬躊躇います。


こんな事を言ったら、きっと益々セツナ様を困らせてしまう……セツナ様はお優しい方だから……。


それでも私は、頭よりも先に口が勝手に動いてしまいました。


「セツナ様が好きです」

「ッ?!」


セツナ様は驚愕に目を見開きました。

こんな答えは、全く予想だにしていなかったのでしょう。


だからもう一度私は、迷う事なくセツナ様の瞳を見つめて言いました。


「セツナ様が好きです」


セツナ様は何も言いません。


どれ位時間が経ったのか分かりません。

おそらくは、実際には数分と言った所でしょうが、体感的には何時間も経過している気さえしてしまいます。


すると、セツナ様は徐に私の傍まで近付き、右手を挙げました。


殴られるっ?!!!


一瞬そう思い、私は固く瞳を閉じました。


けれど、次の瞬間、私の頭にはセツナ様の手が添えられ……。

私の頭を撫でながら、私の目線に合わせるように少し屈んで瞳を覗き込んで言いました。


「有難う。素直に嬉しいよ」


その言葉を聞いた瞬間、私の双眸から大粒の涙が流れました。


これ程泣いたのはいつ振りだったでしょうか……セツナ様はそんな私に嫌な顔一つせずに、ずっと頭を撫で続けてくれました。


その後の事は今でも忘れません。


初めてセツナ様に抱かれた日ーーー。


セツナ様はまるで宝物を扱うように私に触れて下さりました。


また一つ知った感情……想い人に抱かれると言うのが、これ程気持ちの良いものだとは知りませんでした。

セツナ様は私の知らない感情ばかりを教えて下さります。


それはとても幸福な日々ーーー。


私にこんな日が来るとは夢にも思っていませんでした。


セツナ様が好きです。

セツナ様を愛しています。


例えこの先何が起ころうとも、私の心は永遠に貴方だけのものです_______________。


ーーーーーーーーーーー


それから私達は、セツナ様の宣言通りに【獣人国】にも赴きましたが、セツナ様は私の気持ちを汲んでくださり、私は今もセツナ様のお傍にお仕えさせて頂いております。


【奴隷制度】廃止も、多少の混乱や揉め事もありましたが概ね好調で、今はそれなりに落ち着いて、セツナ様が王から下賜されたと言うお屋敷に私も住まわせて貰っています。


この屋敷には、私とセツナ様、それに【ユニコーン】の【アルテミス】様と【元魔王】の【ベリアル】様四人が住まわれています。

セツナ様が、皆さんの事を家族だと言った時、御二方が照れていたのを思い出すと、今でも微笑ましく思います。


勿論、あれからも私とセツナ様の関係は良好です♪


本当に毎日が幸せで、楽しくて、私はとても心が満たされておりました。


ですから気付かなかったのです。

セツナ様が何を悩み、何を苦しんでおられたのかをーーー。


ある日、私達三人はセツナ様の呼びかけでリビングに集められました。

アルテミス様は、スキル【人化】を使って、今は人の姿でソファーに座られております。


私達三人の前には、セツナ様が今迄見た事ない神妙な面持ちで座しておりました。


辺りには静寂が落ちています。


珍しく、中々話を切り出さないセツナ様に痺れを切らしたのか、アルテミス様が口火を切りました。


「で?話とはなんだ?セツナ」


それを聞いて、セツナ様は一瞬逡巡した後、意を決したように真剣な眼差しをして口を開きます。


「単刀直入に言う…………俺は近々【地球】に帰ろうと考えている」

「……え?」

「「……………………」」


驚きの声を出したのは私だけ。

他の御二方はただ黙って、セツナ様の続きを待つ姿勢のようでした。


「勝手な事を言っているのは分かってる。皆も色々俺に文句もあるだろう……それでも、この数ヶ月考え抜いた結論だ」


セツナ様の話では、【地球】に残してきたご両親を案じての事らしいです。

けれど私にはその意味が理解出来ませんでした。


いえ……理解はしています。

お優しいセツナ様は、きっと私達とご両親を天秤にかけて、沢山悩んで下さったのでしょう。


それなのに、私の胸中は別の事ばかりを考えます。


何故?

私達を家族と言ってくださったのに!!

嘘だったのですか?!

何故【地球】なんかに帰られるのですか?!

私の事を好きだと、愛してると言ってくださったのに!!

セツナ様が【異世界人】じゃなければ良かった!!

ご両親が居なければ……っ?!


何て身勝手で自己中心的な考えなんでしょう。

こんな事を考えてしまう私を、セツナ様はきっと軽蔑してしまう。


けれど、黒い感情を止める事は出来ず…………。


セツナ様は、御二方を見ながら話を続けていました。


「二人には折角【従魔】になってくれたのに申し訳ないと思っている。だから今から【従魔契約】を破棄……」

「何故だ?」

「……へ?何故って……だから俺は地球に帰るからで……」

「だからそれが何故契約破棄に繋がるのかと聞いているんだが?」

「ベリアルまで……何言ってるんだよ?」


御二方の言っている意味が理解できないとばかりに、セツナ様は困惑していました。


「あちらに戻ったとしても、理論上は契約は持続出来る筈だ」

「確かにな。【魔法陣】の中は【空間魔法】で出来てるからな。可能性としてはアリだろう」

「ちょ!ちょっと待ってよ!!二人とも!!」


御二方の考えを聞いて、セツナ様はソファーから勢い良く立ち上がりました。


「確かに、理論上としては可能性が無くもない。けれど、もしそうだとしても、地球で【魔力】や【精霊力】は使えないだろうし、二人はずっと【異次元空間】に隔絶されたままになるんだぞ!!それがどう言う事か分かってるのか?!」


今迄にない戸惑いを露わにして、凄い剣幕で御二方に怒鳴るセツナ様ーーー。


そんな御三方のやり取りを、私はただ他人事のように見つめていました。


「だからどうした?」

「お前がずっと何かに悩んでいたのは気付いていた。俺達はお前の【従魔】だぞ?」

「それは……!!でもそれとこれとは話は別だろ?!」

「別?何がだ?我らがその様な軽い気持ちで貴様の従魔になったと……貴様はそう言うのか?」

「俺達も随分舐められたものだな」

「………………」


セツナ様が呆然としてその場に立ち尽くしてしまいました。


必死に御二方を説得しようと何度も口を開閉して、それでも御二方の意志が固いのを見て取り、最後には何かを諦めた様に大きな溜め息を吐いてソファーに持たれかかってしまいました。


今日はセツナ様の意外な一面ばかり見ますね……。


「はぁ~……もう好きにしてくれ。本当にどうなっても知らないからな」

「無論。最初からそのつもりだ」

「当たり前だな。そうでなければお前の従魔などやってられるか」


御三方はお互い顔を見合わせて笑い出しました。


いいな~……


私はその光景を、どこか遠くで見てるような感覚で見詰めていました。

けれど、不意にセツナ様が私の方に顔を向け、私は無意識にビクッと体が強ばるのを感じました。


「アヤ……」

「嫌です」


セツナ様が私の名前を呼ぼうとしました。

その後のかけられるであろう言葉も予測出来ます。

ですから私は、セツナ様が発するであろう言葉を先手で遮りました。


セツナ様は困ったような、悲しい顔をしておりました。

けれど私は、それには気付かない振りをします。


「嫌です嫌です嫌です嫌です!!こんなのは絶対イヤっ!!!!」


私はただ駄々っ子のように「イヤ」を繰り返し、頭を振り続けます。


呆れられてるかもしれない。

けれども自分の感情を止める事は出来ませんでした。


過去の私からは想像出来ない事……こんな我侭を言ってしまうなんて……。


私はそのままの勢いでリビングを飛び出し、二階の自室へと駆け込みました。

後ろで、私の名を叫ぶセツナ様の声がしましたが、無視をしました。


私はベッドに顔を埋め、子供のように泣きじゃくります。

すると、少し経ってから、私の部屋の扉を控えめにノックするのが聞こえてきました。


けれど私は返事をしません。


それでも扉は無常にも開け放たれてしまいました。


「アヤメ……」


私の大好きな優しい声で、セツナ様は私の名を呼んでくださります。


やめて欲しいです…………。

私が今欲しいのは優しさなんかじゃない……。

どうせ居なくなるくせに……こんな時でも優しくあろうとするセツナ様は狡いです。


私がベッドに顔を埋めたままでいると、セツナ様がゆっくり近付いてくるのを感じました。


そして私の頭に手を乗せようとして……。


「イヤ!!」


私はその手を振り払いました。

初めてセツナ様を拒絶したのです。


セツナ様はそんな私に怒る事もなく、ただ変わらずに優しい眼差しを向けて来るだけでした。

私はそんなセツナ様に苛立ちを募らせ、初めてセツナ様に怒鳴り散らかしました。


「私の事好きじゃないんですか?!」

「好きだよ」

「私の事愛してると言ってくれました!!」

「愛してるよ」

「だったら傍に居てくださいよ?!」

「………………」

「何で……何で何も言ってくれないんです?!何で傍に居ると言っては下さらないのですか?!」

「…………ごめんね」


セツナ様は悲しい顔をしながら、ただ「ごめん」と繰り返すばかりです。


分かっていました。

セツナ様の意志が固い事は……。


それでも私はどうしてもそれを認めたくなかった。


私はセツナ様の胸に顔を埋めてわんわんと泣き続けました。


その晩は、激しくお互いを求めました。


私がそれをお願いしたからです。


はしたないとは思いつつも、私はこの体に魂に……セツナ様を刻みつけて置きたかったから……。


セツナ様はそんな私の我侭すらも優しく受け止めて下さりました。


そして翌日、セツナ様は私に改めて言いました。


「自由に生きて欲しい」とーーー。


ですから私は、今度は迷う事なくセツナ様に告げます。


「ならば、私はずっとここでセツナ様のお帰りをお待ちしております。例え二度とお会いする事叶わずとも、アヤメの魂はこれから先もセツナ様のお側に」


そう言うと、セツナ様は少し困った顔をしながらも、特には何も言いませんでした。


その晩に、私はセツナ様から素敵なプレゼントを頂きました。


それは【ラピスラズリ】が嵌められた指輪ーーー。


ああ、私はこれだけで充分この人の事を想って生きていける……例えもう二度と会えなかったとしても…………。


それからは、また慌ただしい日々が始まりました。


私達は各国に赴き、今迄にお世話になった方々への挨拶回りに奔走しました。

アルテミス様とベリアル様の故郷である【魔都】や【幻獣世界】へも行って、セツナ様は頭を下げて回りました。


セツナ様曰く、ケジメらしいです。


御二方はそんな事はしなくて良いと呆れていましたが……。


それから、他のセツナ様の【恋人】の方々とも一時の逢瀬を楽しまれました。


当然です。

私のセツナ様は皆に愛されているのですから!

私一人が独占してしまうなど、そんな勿体無い事は出来ません。

それこそバチが当たると言うものです。


そうこうしてる内に、あっと言う間に時間は流れ、セツナ様がこの世界を旅立つ前日の晩ーーー。


「んっ……」


セツナ様は私に優しく啄むような口付けをしてくれています。

けれど、私の方がそれに耐えられず、セツナ様の首に手を回し、舌を唇の間に挿入して深く求めてしまいました。


「……ん」


そんな私にも、セツナ様はただ優しく受け入れてくれます。


唇を離され、私が名残惜しそうな顔をすると、セツナ様が苦笑されました。


「アヤメ。愛してる」

「はい……私もです。セツナ様」


そして、私達は再び唇を重ねます。


私は明日、王城に共に行きません。


着いていってしまえば、きっとまた取り乱して、セツナ様を困らせてしまうから……。


それに……アリア様の事もありますし……。


セツナ様はまだ気付いておられないみたいですが、アリア様の気持ちは同じ女として分かります。


とは言うものの、あれだけ分かりやすい態度を取られているのに、気付かないセツナ様もどうかと思いますが……。


まぁ、それもセツナ様の良い所かもしれませんね。


けれど、今日だけはセツナ様は私だけのものです。


私達は、もう何十回としたか分からない一夜を共に過ごしました。


そして早朝ーーー。


シーツの擦れる音が聞こえました。


けれど私は、うつ伏せのまま目を閉じてじっとしています。

セツナ様が衣服を身に付けているのか、衣擦れの音がいやに耳に響いてきます。


そしてセツナ様は、最後に私の頭を一撫でして……。


「……行ってきます」


そう一言だけ言って、部屋を出ていかれました。


『さようなら』ではなく『行ってきます』……。


何ともセツナ様らしいのでしょうか。


最後まで私の心を持って離さないお方……。


私は心の中で「行ってらっしゃいませ。セツナ様」と言って、一粒の涙が頬を伝うのでした。


ーーーーーーーーーーー


あれから十年の歳月が過ぎました。


今ではすっかり広くなってしまったお屋敷に、私は今も一人ここに居ます。

寂しくないと言えば嘘になりますけど、その度に、左薬指にある【ラピスラズリの指輪】を見ては、心を満たしております。

それに、定期的にアリア様がこのお屋敷に足を運んでは、色々な話をしてくれて、楽しい毎日を過ごさせていただいておりますし……。


けれど、この日はいつもと違い、アリア様は深刻な顔をして訪問されたのです。


「え?【勇者召喚】……ですか?」

「ええ……最近また情勢が悪化しましたでしょ?昨日会議で決定したばかりなんですけどね……」


そんな事を言ってきたのです。


私も話程度なら知っています。

セツナ様もそれで【こちら側】に来られたのですから……。


けれども、それがとても危険なものだとも聞いております。


私がよっぽど難しい顔をしていたのでしょうか?

アリア様は慌てて、取り繕ったように言葉を続けました。


「あ!違うの違うの!別に【勇者召喚】が不安だからって話じゃないですからね!確かに、昔は色々あって厳しい条件下での【勇者召喚】でしたが、今回は【エルフ】や【魔族】も協力してくれて、かなり安全な筈ですから!!」

「それじゃあ何で……」


先程までの深刻な顔を思い出すと、今回の【勇者召喚】が危険極まりないと思っていましたが、どうやら違うようです。


ではどうしてそんな難しい顔をするのでしょう?


私の質問に、アリア様は一瞬迷った素振りをしましたが、すぐに意を決したように私の目を見詰めて言いました。


「賭けてみたいと思ってるの……」

「賭け?ですか……?」

「ええ……極めて低い……いえ、ほぼゼロに近いような賭け……ですわ」

「?」


アリア様が何を仰りたいのか、私には理解出来ませんでした。

けれど、アリア様は真剣な顔で、とんでもない事を言い出したのです。


「セツナ様を【再召喚】します」

「………………は?」


私はつい間抜けな声を出してしまいます。


だってしょうがないですよね?

いきなり何を言い出すのでしょうか?この王女様は……。


そんな事…………


「不可能に近いと思います」


まるで私の心を読んだかのように、アリア様は言いました。


「ですから迷いました。アヤメさんに私の考えを伝えるべきかどうか……普通ならまず間違いなく有り得ない事ですから」

「なら何故……?」

「………………「またね」と言ってくださったから」

「え?」

「セツナ様は別れ際に「またね」と言ってくださったんです。ですから私はそれを現実のものとしたいんです」


それは、セツナ様が私に向けた「行ってきます」と同じで、アリア様にも同様の事を言ったのだろう事は明白でした。


あぁ……本当にあの方は…………


「セツナ様はいつも不可能を可能にして下さりました。【魔王】然り、【奴隷制度】然り。ですから私も可能性を信じてみたいのです。仮に今回がダメでも、また次の機会がありますし……王女である私がこのような私情で召喚を行うなど呆れられるかもしれませんが……」

「いいえ。そんな事はありません」


私は首を横に振ります。


確かに【王女】であるアリア様が私情で【勇者召喚】を行うなど言語道断でしょう。

他の方々が知れば非難の的になるのは確実……けれど私はそれが【悪】だとは決して思いません。


何故なら同じお方を想う者同士なのですから……。


「私は何も力をお貸しする事は出来ませんが、無事に【勇者召喚】が成功し、あの方……セツナ様に再び相見える事を心から願っております」


それを聞いたアリア様は、心底安堵した顔になり、その日はそのまま王城にお戻りになりました。


そして【勇者召喚の儀】当日ーーー。


そろそろ【勇者召喚】が始まった頃でしょうか?


前の時は三日程掛かったようですが、今回は成功すれば恐らく一日で済むと言う話でしたが……。


私はそわそわしておりました。


アリア様も仰ったように、可能性は限りなくゼロに近いのです。

それでもやはり期待せずにはおられません。


そして翌日ーーー。


「連絡……来ませんね」


やはり無理だったのでしょうか?


それとも思いの外、召喚に手間取っているとか?

それとも、まさかアリア様の身に何か……?!


私はそんな不穏な考えに、勢い良く頭を振りました。


そんな事をしていると、不意に【結界】内に誰かが侵入したのを感知しました。


「アリア様……?」


そう思い、私は玄関に近付き、けれどそこでピタリと足が止まってしまいました。


この気配はアリア様じゃない?

え……?でもこれって?


有り得ない事でした。

確かに期待してなかったわけではありません。


けれど……まさか……そんな…………


次の瞬間、カチャリと家門の鍵が解錠される音が耳に届きました。

【結界】内に入る事は、【許可】された者なら誰でも入る事は出来ます。

けれど門を開く事が出来るのは私を含めたこの家の住人【四人】だけで…………。


私はそこまで考えると、勢い良く玄関の戸を開け放ちました。


そこに居たのは、姿は違えども、その【魔力】の持ち主は紛れもなく…………。


「ただ今。アヤメ」


その笑顔は間違いなく私の大好きなお方の笑顔でした。


私は勢い良く、セツナ様の胸に飛び込みました。


本当はずっと会いたかった。

寂しかった。

どれだけ強がっていても貴方に会えない日々は本当に地獄でした。


私は散々泣きじゃくった後、彼の顔を見上げ、


「お帰りなさいませ。セツナ様」


満面の笑顔でお出迎えしたのでした。

メーク=メートル


悩みました……めっちゃ悩みました!

初めは、普通にメートルって書いたんですが、異世界だし、地球と同じ単位ってどうなんだろ?て思って、急遽変更しました 笑


ネーミング?センス無さすぎて、これもどうなんだ?とも思いますが……もしかしたらまた変更するかもしれませんが、取り敢えずはこちらでお願いします 汗

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