修行 と 完成
翌朝目を覚ますと、隣には安らかな寝息をたてて眠るベルナデッタがおり、それを目にして、俺の中に温かなものが広がるのを感じる。
これは幸福感だーーー。
ベルナデッタは、どちらかと言えば精霊と似たようなもので、触れる事は出来るが【精神体】である。
たが俺と……こう言う行為をする時は、こうやって【実体】になってくれる。
【精神体】には感覚と言うものは存在しない。
痛みも、寒さも熱さも……何も感じない。
だから直に俺を感じる為に【実体】になるのだと、恥ずかしながらも説明してくれたのを思い出す。
そんな彼女を、俺は可愛らしく思い……そして、愛おしく思うのだった。
アヤメ同様に、彼女もまた俺が前世で帰還する時、「待っている」と言ってくれた。
俺の勝手な言い分では、俺の事なんかさっさと忘れて、二人には……皆には幸せになって欲しかったのだが、嬉しい事に、俺の恋人達は皆、俺を想い続けると言ってくれるのだ。
まさに男冥利に尽きる。
俺は、幸せそうに眠るベルナデッタの頭を、起こさぬように出来るだけ優しく撫でる。
けれど、ベルナデッタの瞳は僅かに揺れ、そしてゆっくりと開けられた。
「ごめん。起こしちゃた?」
ベルナデッタと目が合い、俺は謝罪を口にする。
けれど、それとは裏腹に、顔が笑ってしまうのは止められない。
ベルナデッタはそんな俺に、僅かに頬を染めながらも首を降る。
「平気です。お早うございます、セツナ」
「うん。お早う、ベル」
俺は、二人だけの愛称でベルナデッタの名を呼び、軽く朝の口付けを交わす。
そうして俺達は服を整えてから、二人一緒に部屋を出たのだった。
それから数日が過ぎ、着々と【転移魔法陣】が完成に近付き残り僅かとなった頃…………とうとう俺がキレた。
「だーーーーーーー!!ストレスが溜まる!!ベリアル!!ちょっと付き合え!!」
「はぁー……そろそろだと思っていたが、疲れたなら休めばいいだろうが」
「違う!『疲れた』のと『ストレスが溜まる』のはまた別問題なんだよ!!」
これは俺の自論である。
ベリアルは、俺の我侭にやれやれと呆れながらも、特に断って来ない。
『なれば、偶には我ともどうだ?我も腕を磨きたいのでな』
「お!アルテミスもやる気か!んー……そうだな……それならいっそ二人纏めて、ってのはどうだ?」
俺は二人を挑発するように、ニヤリと不敵に笑う。
そんな俺に、二人もまた悪い笑みを向けてくる。
「ほぉ?それは面白いな。吠え面かくなよ」
『ふむ。負け惜しみの言葉でも考えておく事だな』
そう言って俺達は外に出て森に向かう。
そんな俺達に、他の者達が呆れた視線を向けて来たのは見なかった事にする。
人気の無い森の中に入り、そこに【空間魔法】で作り上げた即席の結界を張る。
俺達がこれからやろうとしているのは、『修行』とは名ばかりの、ただのストレス発散である。
ルールは至って簡単。
魔法もスキルも使用しない…………言わばただの殴り合いだ。
ストレスも発散出来て、修行にも打って付けなので、俺はこれを結構楽しみにしていたりする。
しかも今回二人同時だ…………さて、どうなる事やら。
「んじゃ、始めますか!」
俺達は結界内に足を踏み入れ、俺の言葉を合図に殴り合いが始まったーーー。
そして翌日、漸く【転移魔法陣】が完成した。
「よっしゃ!これで後は【精霊】に配置に就いてもらうだけだ。ベルナデッタ、頼むよ」
『ええ。心得てます』
俺はその場にだらし無く寝転びながら、ベルナデッタに後の事を任せた。
ベルナデッタが、傍に居た【上級精霊】二体にお願いをしてくれている。
【精霊魔法師】は【精霊】にこよなく愛される。
それは【精霊力】の適正を持ってるだけでも、精霊は好ましく見えるらしいが、それの比ではない。
それ故に、精霊魔法師はいつでも精霊の力を借りる事は出来るが、実は別に【契約】する必要はないのだ。
ただ、契約する事で絆も生まれるし、何よりも精霊の力が増す。
契約しなくても、近くの精霊に【力】を貸してもらえる事も出来るが、お互い【相性】と言うのもあるので、必ずしも力を貸し与えられる保証は何処にも無い。
そこら辺は、人間同士と同じだ。
そして、ベルナデッタはそのどちらも当てはまらない。
精霊はベルナデッタの願いを断る事はしないし、契約をしていなくても、ベルナデッタ自信が精霊達に力を貸し与える事が出来るので、問題無く事が運ぶのだった。
『終わりました』
ベルナデッタが、寝転がっている俺を覗き込むように、極上の笑顔を向けてくる。
「ん。ありがとう」
礼を言って、俺が手を伸ばしてベルナデッタの頬を撫でると、彼女は少し擽ったそうに目を細めた。
けれどすぐに、哀しみを耐えるように瞳を揺らす。
『けれども、もう行かれてしまうのでしょう?』
「うん……多分問題は無いとは思うけど、念の為に、ちゃんと機能してるか俺自身が確かめたいからね。ついでに、王都に一泊してくるよ」
『そう……ですか』
それだけ言うと、ベルナデッタは俯いてしまった。
俺は苦笑しつつも、彼女に申し訳ない気持ちで一杯になる。
ベルナデッタは、このエルフ国から出る事が出来ない。
それでなくとも、俺はいつも慌しくて、彼女にあまり時間を作ってあげる事が出来ないのだから。
だから、少なくともこの国に居る間は、出来る限り彼女の我侭を聞いてあげたいとも思う。
とは言うものの、ベルナデッタは滅多に俺に我侭は言ってくれないんだけどね……。
俺は上半身を起こし、ベルナデッタに顔を近付けた。
それだけで、ベルナデッタは理解して、態々【実体】になってからそっと瞼を閉じる。
俺は少し顔を傾けて、ベルナデッタに口付けをする。
軽いのではなく、最初から深く……舌を絡ませ、ベルナデッタの舌を蹂躙していく。
「!!んっ……」
ベルナデッタが少し苦しそうに声を漏らし、身をよじろうとするが、俺はそれを許さず頭を手で固定する。
「んっ!ふ……ん」
少し強引だとも思ったが、俺がどれだけベルナデッタを想っているのか、言葉だけでなく、ちゃんと体でも知ってもらいたかったのだ。
ベルナデッタも今では俺に身を委ねている。
俺達はそうやってお互いを深く求め合った。
そうして俺達が二人の時間を堪能していると……。
カチャーーー。
「おい。セツナ、そろそろ……」
「「…………あ」」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「……邪魔したな」
「ちょ?!待て!!」
ベリアルが、そっと扉を閉めようとするのを、俺は慌てて止めた。
何て間の悪い……。
いや、俺が悪いんですけどね……。
ベルナデッタも顔を真っ赤にしていた。
少し反省してます……。
少々バタバタしてしまったが、最後に【鍵】として、ベルナデッタとカーゼノスの波長を魔法陣に登録する。
これにより、この【転移魔法陣】を使用するには、二人のどちらかの許可が降りない限り、魔法陣が起動しないのだ。
そして、約一ヶ月ぶりに、俺達は王都に帰還するのだった。
全く…………結局ラブラブかよ!!(爆)
しかも最後の定番のシーン……彼女を家に連れてきて、いい雰囲気の所に母親が介入……みたいな? 笑
母親でなくてベリアルだけどね 笑笑
まあ、程々にな!って事ですよ!(´∀`*)ケラケラ




