惑いの森 と ドリュアス
俺達は早朝に村を出た。
薄情だと思われるかもしれないが、村長や村人達には何も言っていない。
また囲まれて色々質問攻めにされるなど真っ平御免だった。
それでもシーマスには先読みされていたみたいで……。
「お世話になりました、セツナ様。また近くまでいらしたら是非お寄り下さい」
「ああ。気が向いたらな。シーマスも元気で」
「ええ、貴方様も。何やらまた厄介事に巻き込まれているようですが、もし私の力が必要でしたらお声がけ下さい。貴方の為ならどんな助力もおしみませんから」
「はは。それは心強いな。勿論頼りにせてもらうさ」
そう言って、俺達は固い握手を交わすのだった。
俺は皆を見渡す。
「さて、と。ちょいとばかし、予想外な寄り道になっちまったが、ここからは真っ直ぐエルフ国に向かうぞ!お前ら!」
俺の言葉に、皆が迷う事なく頷く。
そこからは、本当に宣言通り、寄り道もせずに真っ直ぐエルフ国へ進んだ。
途中何度か魔物の襲撃にあったが、そこは相変わらずに俺の仲間はチートな連中が揃っているので、難無く瞬殺である。
道中の食事は、専ら熊料理だった。
大半は売却したが、それにしても量が多過ぎたので、残りは未だに俺の【亜空間】の中である。
ベリアルが「暫くは熊はいらん」と愚痴っていたが、俺も同感だ。
そして、俺達は今エルフ国最初の関門?の前に来ていた。
【惑いの森】ーーー。
この森に踏み込んだ者は、エルフ以外は誰であろうと、漏れなく森の番人に振るいにかけられる。
ここで、エルフ国に入国出来る者を選別しているのである。
「さて、では行きますか」
俺達は迷わずに【惑いの森】へと足を進めた。
暫くすると異変に気付く。
本来なら一時間弱で森を抜ける事が出来る筈なのだが……。
「セツナ」
「んー?」
「どうやら惑わされたみたいだぞ?」
「え?」
それに強く反応したのはミシディアだった。
そう、俺達はかれこれ二時間以上も森をさ迷っていたのだ。
「あー……やっぱな~」
「そんな!ここには私達がいるんですよ?!」
俺は落ち着いていたが、ミシディアを初め、他のエルフ達は動揺を露わにしていた。
気持ちは分かる。
俺達は兎も角、エルフであるミシディア達が【惑いの森】に惑わされるなど、本来は有り得ないのだから……。
「ちょっと止まってくれる?アルテミス」
『承知した』
俺はアルテミスに停止を頼むと、ひらりと馬車から飛び降りた。
そして徐に、まるで目の前の友人に話すように口を開く。
「どうせ視てるんだろ?いい加減出てきたらどうだ?【ドリュアス】」
すると、まるで森全体に反響するように笑い声が辺りに響く。
〝うふふふふふ〟
「「「「「?!」」」」」
エルフ組はそれに驚愕して、瞬時に身構える。
けれど俺達は特に驚く事も無く、いつも通り自然体で、木々しかない筈の森を見詰めるだけだった。
すると次の瞬間、すーっとその木々から、あたかも最初から居たかのように、一人の少女が宙に浮いてそこに現れた。
半透明で濃い緑の髪に、色とりどりの花冠を頭に乗せた少女は、音もなく俺に近付き、俺の首に腕を回してくる。
「少しイタズラが過ぎるんじゃないか?ドリュアス」
彼女こそが、この【惑いの森】の番人であり、この『森そのもの』である。
〝あら、そうかしら?私に挨拶も無しに、誰かさんが素通りしようとするからじゃないの?〟
そう言って、少し拗ねた素振りを見せるドリュアス。
俺はそんな彼女に苦笑しつつも、素直に謝罪の言葉を口にする。
「すまなかったよ。そんなつもりは無かったんだが……機嫌を直してくれないか?」
それだけで彼女のご機嫌は直り、笑いながらクルクルと俺の周りを浮遊する。
「……お前ら何してるんだ?」
何やら呆れたような口調のベリアスに俺は振り向くと……………………俺もベリアル同様の反応になってしまった。
何故かエルフ組が、額を地面につけて平伏しているのだ。
先日の、とある村の村長にも負けず劣らずの土下座である。
すると、ミシディアが代表して、緊張しながらも、から廻った口上をする。
「お、お初にお目見え致します!【番人様】!ほ、ほほほほ本日もご機嫌うるわ……」
〝それよりもセツナ。今回はどう言った要件で来たの?〟
ドリュアスは、ミシディア達を眼中に無いと言わんばかりに、完全無視をする。
まぁ、確かに、緊張し過ぎて何を言ってるか分からなかったが……。
それでも、流石に同情してしまうので、俺がドリュアスに口添えをしてやろうと思う事にした。
「うん。まぁでもその前に、彼女達の話を先に聞いてやってくれないかな?」
〝興味がないわ〟
一刀両断である。
俺は苦笑するしかなかった。
ドリュアスとは、エルフ達にとっては、かの【大聖人】と並ぶ雲の上の存在で、正しく【神】に等しい存在とされているのだ。
その上、彼女は【大聖人】と違い、よっぽどのことがない限り、その姿を人前に晒す事は無い。
ミシディア達の反応を見るに、間違いなくドリュアスの姿を初めて目にしたのであろう。
そんな至高とも呼べる者が今目の前に居るのだから、緊張して然るべきかもしれなかった。
そうは思うものの、ドリュアス本人が興味が無いと言うのだから、俺がこれ以上何かを言う事は無い。
ドリュアスがエルフを無条件で通すのはただのお役目だ。
特に何かを思ってやっている訳では無い。
ドリュアスにとっては、興味があるかないかの二択しか存在しないのだ。
そのドリュアスが、エルフの中で興味の対象とするのは、恐らく【大聖人】と【エルフ王】くらいではないだろうか?
俺は彼女に、事の経緯を大まかに説明する事にした。
話を聞き終えたドリュアスは、少し悲しそうにしながら言う。
〝そう……じゃあ、今回もあまり長くは居ないのね〟
「うん……ごめん。でも出来るだけ時間を作ってまた会いに来るよ。その時にでもゆっくり話をしよう」
〝……分かったわ。貴方は決して嘘をつかないから信じるわ〟
「ありがとう。ドリュアス」
そう言うと、ドリュアスは俺の頬に軽く口付けを落とす。
〝では貴方達を出口まで案内してあげる〟
その一言だけで、俺達の目の前に、出口らしき道が現出する。
〝それじゃ、必ずまた来てね〟
「ああ、必ず来るよ」
俺の言葉に満足したのか、ドリュアスは最初に現れた時同様に、すーっと消えていった。
「おい!いつまで呆けてるつもりだ!」
ミシディア達は、まだ正座をしながら呆然とその場で硬直したままだったので、俺は一喝した。
何やかんやしながらも、俺達は【惑いの森】から漸く出る事が出来た。
森の先は少し開けた場所になっており、守備兵らしき軽装のエルフが数名と、休憩所の役目をするテントが一つあるだけだった。
その内の守備兵2人が俺達に近付いてきた。
「【番人様】に認められし者達よ。よくぞ参られた。念の為に荷物を改めさせてもらうぞ。決まり故許せ」
そんな守備兵に俺は苦笑する。
何度聞いても、この口上だけは慣れなかった。
何でも、この台詞は、この場所の守備兵に任命された時に最初に覚える口上らしい。
いつからだとかは誰にも分からず、気付いたらこれに決まってたとか何とか……。
う~ん…………謎だ。
とは言え、別段断る理由も無いので、俺は了承しようと口を開きかけ……閉じた。
『その方達は良いのですよ』
その声に守備兵達は眉間に皺を寄せ振り返り、そして固まった。
俺はその姿を見て目を細める。
『お久し振りですね。セツナ』
俺の最愛の人の一人【ベルナデッタ】が微笑を浮かべて立っていた。
気付いた方も多いかと思いますが【ドリュアス】とは………………はい!正解です!【ドライアド】の事ですね~。
木の精霊さんです。
そのドライアドさんが、この惑いの森を守っておられます。
ドリュアスさんは意外にドライな方なのです。
…………あ、別にダジャレじゃないよ? 笑笑
興味のある者と無いものがハッキリしているので、興味の無い者にはかなりどぎついです。
と言うか、全く眼中に無いです 笑笑
そこはやはり主人公!!
木の妖精さんにもめっちゃ愛されてますね~♪
さて、次回は漸く【あの方】が登場ですよ。
お楽しみに~ヾ(o゜ω゜o)ノ゛




