冒険者ギルド と 村長
程なくして、例の門番が誰かを連れて戻ってきたようだ。
それを見て、ベリアルが門番に食ってかかろうとした。
「おい!これは一体どう言う……」
「やあやあ。冒険者一行の皆々様。よくぞこんな小さな村に起こし下さいました!」
ベリアルの怒号を遮るように、門番が伴ってやってきた、少々身なりの良い中年の男が手を揉み合わせながら、如何にも胡散臭そうに近寄って来た。
「………………」
流石のベリアルも、そのあからさまな態度に毒気を抜かれ、開いた口を閉じてしまう。
「あ~……俺達はただ、今晩の宿を借りようと立ち寄っただけなんだが……?」
俺は顔を引き攣りそうなのを我慢して、その男に愛想笑いを浮かべて言った。
「え~、勿論ですとも。何でしたら、宿も食事も全て無料とさせていただきますよ?」
「いや。結構です」
俺は間髪入れずにそれを拒否する。
別段お金に困ってるわけでもなしに、もう完全に厄介事の臭いがプンプンである。
門番と中年の男は「え?」と言う顔をしたが、すぐに持ち直し尚も食い下がってきた。
「そ、それでは、その他の物も!何でしたら、この村の全ての店舗での利用をタダにする事も出来ますよ!!」
「いえ。必要ないです」
何度も言うが、金には困ってないし、厄介事は御免である。
俺達は差ほど急いで旅をしているわけではない。
俺の勘では、魔物の襲撃は兎も角【帝国】自体が今すぐ動くとは思えなかった。
けれど、急いでおらずとも、無駄な時間を費やすのは毛頭無かった。
テンプレよろしく、一々問題事に首を突っ込むつもりはない。
俺の取り付く島もない態度に、とうとう中年男がその場で両膝を折って土下座をしだした。
「どうかこの村を救って下さい!!お願いします~!!」
「うわっ!」
俺は思わず声を出してしまう。
今度こそ俺の顔が引き攣る。
俺だけでなく、他の者達も勿論その行動にドン引きであった。
村の人間達もその様子に何事かと集まり出していた。
無駄な注目を集めてしまい、俺は頭を抱える。
それにどうしたものかと悩んでいると、皆は俺の方を見て、俺の指示に従うと暗に語ってくる。
俺は大きな溜め息をついて、その土下座している中年男に言った。
「はぁ~……分かりました。取り敢えず話だけは聞くので、顔を上げてもらえませんかね?」
それを聞くと、中年男はあからさまに顔を輝かせ、いそいそと俺達を案内しようとする。
やっと村に入る事が出来たのは嬉しいが、村に入るだけでこれ程疲れてしまうとは思わなかった。
俺は気付かれないように、もう一度溜め息を吐くのだった。
先程の様子を見ていた野次馬が、サッと道を開けていく。
何とも気まずい……。
すると、その中から人相の悪そうな男五人組が前に出てきた。
「おい!ちょっと待ちな!村長さんよ~」
「まさかそんな弱っちい奴なんかに例の依頼を頼むんじゃないだろうな?」
やはり、思った通りこの中年男は村長であったようだ。
それにしても、これは更にテンプレ発動か?
もうどうにでもしてくれ……。
俺は半ば諦めながら男達を見ていた。
「その依頼はたった今俺達が請け負ったばかりなんだぜぃ」
「ギルドも通さないで勝手な事してんなよ!」
こくこく……
これだけで大体の予測は出来た。
説明感謝である……。
俺はこのガラの悪い五人組に心の中で合掌をする。
つまりは、この村のギルメンでも対処出来ない(もしかしたら先程言っていたボブベアーかもしれないが)そんな依頼を、村長自ら俺達に依頼したい、とそんな話だろう。
ただ、それ自体は差したる問題でもない。
問題なのは、それを【冒険者ギルド】に話が通っていない事である。
確かに【冒険者ギルド】は一種の【治外法権】のようなもので【独立】されたものとしているが、危険な依頼などを請け負ってくれる為、大体の国や街では【冒険者ギルド】を通さず依頼するのは御法度である。
もし【冒険者ギルド】を軽視すれば、依頼を拒否される事もあるのだ。
【冒険者ギルド】同士は仲間意識が強い為、一度でもそんな事になれば、どこのギルドでも相手にされなくなってしまう。
それがこの世界にとっての、暗黙の了解であった。
けれどこの村長は、よっぽど切羽詰まっているのか、そんなルールなどお構いなしのようだった。
「うるさい!お前達ギルドが頼りないから、この方達に頼む事にしたんだろうが!!」
唾を撒き散らしながら五人を怒鳴りつけた。
うわー……
酷い言われようである。
それを聞いたガラの悪い5人組だけでなく、外で事の成り行きを見ていた他のギルメン達も、額に青筋を立てて村長を睥睨していた。
「な、なんだ!その眼は!」
流石に先程のは失言だったと気付いたのか、村長は狼狽しながらも撤回するつもりはないらしい。
俺の方を見遣り、信じられない事を口にしてきた。
「ささ、先生方。あんな連中懲らしめてやっちゃって下さい」
「は?何で?」
もうこの男、お手上げである。
どこの時代劇の雑魚キャラなのか……。
しかも勝手に『先生』になってるし……。
終いには俺に助けを乞う始末だった。
自分で巻いた種は自分で刈り取ってもらいたいものだ。
「え?何でって……」
「俺は同じ【冒険者】として、彼らの意見に賛成だ。まずは【ギルマス】と話すのがスジと言うものだろ?俺はスジの通らない事が大嫌いなんだよ」
別に依頼自体はどうでもいい。
ガラの悪い五人組の話だと、最初はちゃんとギルドに依頼をしていたのだろうとは思う。
それでも、二進も三進も行かず、門番から俺が【SSS】だと聞かされ、もう俺に頼るしか無いと判断したのかもしれない。
ただそれでも、ギルドを介さず個人的に勝手な行動をすれば、そこに生まれるのは信頼ではなく疑心だ。
この男も本当はそれを分かっているのではないだろうか?
けれど、よっぽどの理由があるのか、俺には何か焦っているように見えた。
故に、俺はこの場を収める為、少しだけ【威圧】を放って村長を睥睨する。
俺の仲間はただ黙って見守っているだけだ。
【威圧】をしただけで、その村長だけでなく、他の【ギルメン】達も息を呑むのが分かる。
「【ギルマス】が直に俺に依頼をするなら、この男達だって、渋々とは言え納得はするだろう。なあ?」
そう言って、ガラの悪い五人組に目線を向ける。
男達は、若干狼狽しながらもそれに応えた。
「あ、ああ。勿論だ。ちゃんとギルマスに通して、俺達でなくあんたらに正式に依頼されるなら、俺達だって文句はないさ」
「だってさ」
村長は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「ならば、正式にこちらから依頼をしましょう」
そんな俺達のやり取りに、突如静かな声が降り注ぐ。
そこには水色の髪をした、耳が僅かに尖った【ハーフエルフ】の姿があったーーー。
「……シーマス?」
「ご無沙汰しております。セツナ様」
俺に優雅にお辞儀をして見せたのは、懐かしの旧友の【シーマス】と言う男であった。
補足
この世界では、人間の村は数多く存在します。
人族以外の種族は国王が治める国土のみですが、人族は、王都を初め他の貴族達はそれぞれ領土を持っています。
その貴族達が居る所を都市部、それ以外に住んでいる者達は全て村になります。
それぞれの貴族の領土内に住んでいれば、それはその貴族の管轄区域になるので、税金もそちらに徴収されます。
そして、村人の偉い人と言えば、勿論村長ですね 笑
何故こんな説明をするかと言うと……他の異世界小説であまり【村長】とか聞かないような……?
ちょっと不安になったので、他は他!!ここはここ!!と言う事で、なるべくハッキリさせとこうと思って説明させていただきました 笑笑