小さな村 と 冒険者カード
俺達が王都を旅立って一週間程が経った。
王都からエルフ国まで何事もなければ凡そ二週間程で着く。
俺達は特に何のトラブルも無く道中を進めていた。
途中、何度か魔物には遭遇したが、確かに昔よりもランクが上がってたりしたけれど、難なく撃退してしまったので、概ね順調である。
初めて野宿をした時なんかは、エルフ5人に呆れられてしまった。
俺の馬車は、少々特殊仕様になっており、馬車を止めて前後の入口の幌を垂らして塞ぐだけで、簡易テント?の出来上がりである。
しかも、20畳程の広さで、馬なども中で休憩させる事が可能だ。
これは昔、俺が発案し、仲間が面白そうだと言ったので試しに作った為、これまた非売品の魔道具である。
構造は至ってシンプルで、【空間魔法】と【拡張魔法】の【複合魔法】を使用して作られている。
なので、これで快適な旅を続けれるのだった。
エルフ達とも、大分仲良くなれたと思う。
ミシディア以外のエルフを、アレク、ラン、レークス、ジェクスと言う。
それぞれに、1体の【上級精霊】がおり、ミシディアは【中級精霊】ではあるが、既に4体も契約をしているらしい。
そのミシディアだが、案の定と言うかなんと言うか……俺に異常なまでの尊敬の念を抱いているようだった。
何でも、昔俺がエルフ国に赴いた際に、俺の事を見掛けた事があるらしく、親に俺の【武勇伝】なるものを聞かされたとか何とか…………。
クルト同様に熱く語り出してしまい、その場に居たアルテミスやベリアルが腹を抱えて爆笑していた。
アヤメも必死に笑いを堪えてたし、他のエルフ4人は、ミシディアの暴走に慣れているのか、ただ苦笑するばかりだ。
俺はと言うと…………当然頭を抱える始末だ。
ついでに、腹を抱えて爆笑していた馬鹿2人には漏れなく鉄拳をお見舞いするのは忘れてはいない。
そして、俺達はとある小さな村に辿り着いていた。
「今日はこの村で休ませてもらうかな」
いくら快適な旅路と言えども、偶にはふかふかのベッドで寝たいものだ。
流石にテントにはベッドは持ち込んではいない。
【亜空間収納】で持ちこむ事は可能だが、なんと言うか……俺の変な拘り?で、旅にベッドは邪道だと思い、旅の間はベッド禁止なのだった。
俺達が村の入り口付近に近付いていくと、門番らしき人に何故か驚かれた。
「?」
俺が訝しんでいると、門番がバツが悪そうに頭を掻きながら説明をしてくれる。
「あー、すまない。旅人なんて久しぶりだったからな」
「久しぶり?」
ここは確かに街道から少し外れた森の中ではある。
だが、小さいと言っても辺境と言う程でもなく、ちゃんと地図にも載ってる普通の村のように見える。
いくら魔物が活性化してても、全く旅人が居ない訳では無い。
現に、ここまで来るのに何組かの冒険者とはすれ違っているのだ。
そもそも、魔物にはそれぞれ発生区域があり、強い魔物が居る場所さえ把握していれば、容易に回避は出来る。
「途中ボブベアーに会わなかったか?会わなかったんならそりゃ運が良かったな」
「ボブベアー?」
【ボブベアー】とは2m程の大熊だ。
確か昔のランクはB程だったが、今じゃA位の強さがあるのかもな。
確かにここら辺でボブベアーが出没するのは変な話だ。
俺の記憶が正しければ、ボブベアーの出現場所は、もっと山奥の筈である。
そんな事を考えていると、ベリアルが事も無げに言ってきた。
「ああ、それならお前が昼寝してる間に瞬殺しといたぞ。通り道に三体程居たが邪魔だったからな」
「だってさ」
「は?」
俺は特に驚きもせず、当然とばかりにベリアルの話を聞いていたが、門番は口をポカンとして開けていた。
アヤメやアルテミスも俺同様の反応だが、エルフ5人はそれを実際に見ていたらしく、何とも言えない表情をしていた。
「いやいや。お兄さん、いくらなんでも嘘は行けないよ?ボブベアーはランクAだよ?ランクA冒険者でも5人パーティーでやっとこさな相手だぞ?」
門番は有り得ないとばかりにベリアルの言葉を完全否定している。
まあ、信じるも信じないもそれは本人の自由意志だろう。
俺達は特に気にすることもなく、目下の目的を遂行する為、門番に訊ねる。
「そんな事より、中に入っても問題ないのか?」
「あ、ああ。【冒険者カード】か【通行札】があればそれを出してくれ。なければ通常の入市税がかかるからな」
俺は頷いて、布袋に手を入れ【亜空間】から【冒険者カード】を取り出そうとして……ふと気づいた。
そう言えば今更だが、【冒険者カード】の記入欄ってどうなってるんだろ?
【冒険者カード】を登録する際、必要記入を書いた紙を提出するのだが、その記入したものは漏れなく【冒険者カード】にも記入されるのだ。
冒険者カードに【隠蔽】は通用しない。
俺は、気付かれないように恐る恐る【冒険者カード】を覗き…………ホッと胸を撫で下ろした。
ちゃんと名前も【セツナ・ジングウ】になっており、種族も【現人神】とかふざけた事は書いておらず、【人族】になっていた。
流石にあの女神もそこまで悪趣味ではなかったようだ。
「?」
門番が少し不審がっていたので、俺は慌てて門番に冒険者カードを手渡した。
冒険者カードとは、勿論【冒険者ギルド】に登録する際に発行される身分証のようなものだ。
普段は何の変哲もないただの銅板のようなものだが、持ち主の魔力を流し込めば、その波動を感知し、文字が浮かび上がる仕様になっている。
【魔力の波動】とは、指紋みたいなもので、決して同じ波動を持った者は居ないとされ、なので冒険者カードは本人以外が持ったとしても、ただの銅板のままで使用出来ない仕組みとなっているわけだった。
そして、ここでの【入市税】だが、村や街に入る際は必ず税金が取られる。
ただし、さっき門番が言った【冒険者カード】や【通行札】があれば、入市税は半額だ。
冒険者に至っては、場所にもよるが、ランクによっても入市税が変動する事もある。
それにしても、俺の【冒険者カード】を見た門番が、目を見開いたまま何故か硬直してしまっているんだが……。
「…………………………」
何だ……?
他の者達も、その門番の様子に訝しんでいる。
「おい。よく分からんが早くしろ」
ベリアルがイライラしながら催促をした。
そこでハッと門番が漸く我に返り、今度は俺を凝視してきた。
「あ、あんた…………SSSか……?」
「は?まぁ、そうだけど?」
そこにちゃんと記入してる筈だけどな……。
何を態々聞いてくるんだか……。
その俺の返答を聞くやいなや、門番は何故か慌てたように「ちょっと待っててくれ!」と言って、その場を大急ぎで走っていってしまった。
おいおい。門番が持ち場を離れてどうすんだよ……。
などと、心の中でツッコミを入れてしまう。
「何なんでしょうか?」
「さあ?」
アヤメの疑問も尤もである。
ただ一つ言えるのは……………………嫌な予感しかしない。
いよいよここからが楽しい楽しい旅の始まり♪
もう既に、テンプレ起こしそうな匂いがプンプンしますが……まぁ、気にしない!笑
皆さんを飽きさせないように、何とか頑張って行くつもりなので、今後とも宜しくお願いします!!m(_ _)m