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【転生】と【転移】の二足の草鞋  作者: 千羽 鶴
第一章 二度目の異世界は十年後?!
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逸話~雛形七鈴菜の場合~

彼を初めて意識し出したのは……そう、忘れもしない中学一年生の時だった。


「それでは今から新歓オリエンテーリングをはじめます」


担任の先生がそう切り出した。

これから4~5人一組となって山登りをし、協力しあい親睦を深めつつ、仲間と一緒に頂上まで登りきるのが目的だと言う。

中学に入学して最初の難関イベント……。

正直私は胃が痛くなる思いがした。

何故なら私は、同性にあまり良く思われていないから……。

いや、理由は明白だ。

私が異性にモテるから……と言う理由らしいのだが、はっきり言ってやっかみもいい所だ。

私は別に異性に色目を使った事も、モテる為に特に何かをした事も無い。

逆にそう言うのもまた女子達の反感を買ってるらしいが……。

それに、寧ろ私は異性に苦手意識があった。

自慢ではないが、私は……その……一部分の……胸の発育が非常にいい……。

自分で言ってて恥ずかしくなるが、小学校の頃から、それは他女子よりも如実に見て明らかであった。

そのせいで、男子からは厭らしい目で見られるし、普通に談笑してるだけでも、視線が胸に集まってるのが分かる。


自意識過剰かもしれないけど……。


それに何より肩も凝るし……。

これは切実な思いだった。


それを同性に言ってみれば、「贅沢な悩みだ!」と一喝されてしまった。

確かにそうかもしれないが、私にとってはあまり喜ばしい事でもないのも事実だ。

そのせいで、異性には嫌悪感を抱いていた私。

同性からは目の敵にされ、異性からは性的対象として見られ……私はあまり友達がいない。

今までこれと言ったイジメはなかったが、仲の良かった友達は別のクラスだし……グループ分けは勿論同じクラスで決めなくてはいけないし……私は頭を悩ませていた。

すると、そこに一人の女子生徒が声をかけてくれた。


「雛形さん。良かったら私達のグループに入らない?」

「え?」


驚いて振り返ると、そこには4人の女子生徒がいた。

私とは別の小学校の人達で、一目でその人たちが目立つグループの類だと言うのが分かる。

そのリーダー格らしき人は確か、自己紹介の時に【黒沢 玲奈】と名乗っていたはずだ。

茶髪の長い髪にウェーブがかかり、スレンダーな体型で、唇には薄ピンクの口紅が塗られており、少し大人っぽいイメージを感じる。

そんな自分とは相容れない存在だと思っていた彼女達から、突然声をかけられ、私はこれからどうするか途方に暮れていたので、2つ返事で了承する。

だが、すぐにその事を後悔する事となった。


ーーーーーーーーーーー


何故こんな事になっているんだろう……。


結論から言うと、私は崖の下で蹲っていた。

最初は、山登りは順調に進んでいた。

それが、中腹辺りまで来た所、黒沢さんが突然、


「あら?あそこに何かいるみたい」


と言い出し、横の森の木々を指さした。

すると、他の3人も、


「え?どこどこ?」

「ほらあそこ。何かがこちらをみているような……」

「あ!本当だ!動物かな?」

「ここからじゃ、何の動物か分からないね~」


と言い出した。


私も気になったので、そちらの方に目をやるが、相も変わらず木ばかりで何も視認する事は出来なかった。


「ほら、雛形さんももう少しこちらにきて。ほら、あそこよ」


黒沢さんの誘導で少し前のめりになりながら、目を凝らしてみたが、やはり何も見えない。

その時私は、完全に注意が足下に向いておらず……不意に後ろから何かに押される感覚があったが、振り返る余裕もなくそのまま崖の下を滑り落ちた。


「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


そして私は、ドシンっと言う音と共に尻餅をついた状態で崖の下に落下した。


「イっ……!!」

「「「「きゃはははははは!」」」」


バッと上を見上げると、そこには仲良し4人組の姿がお腹を抱えて笑っていた……。


「調子に乗ってるからだよ!ばーーーーーか!」

「ちょっとカワイイからっていい気になんな!」

「そこで少し反省しててねー。後で気が向いたら迎えにきてあげるから♪」

「バイバ~イ」


ヒラヒラと手を振りながら、4人組がその場を離れていく。


「ちょ!!まっ!!ッ!!!!」


私は制止の言葉をかけようと、立ち上がろうとしたが、左足首に激痛が走り、言葉を中断せざるおえなかった。

軽く触れてみると、少し熱を帯びている感じがする。

どうやら捻挫をしてしまったようだ。


「はぁ~」


私は軽く溜息を吐く。

幸いにして、崖はそれ程高くは無く、足首以外は、腕に軽い擦り傷が出来た位だ。

それでも気が重くなるのは隠せない。

今までこれ程の悪質な嫌がらせをされた事はなかった。

小学校の頃は、せいぜい無視されるかして、グループ分け等に困る程度であったが、やはり中学ではレベルが上がるのだろうか?

などと、他人事のようにそんな事を思う。


「さて……これからどうしようかな……」


足が快調だったなら、頑張って崖を登るか、迂回路を見つけて下山するかなんなり出来るのだが……。

ここはやはり遭難の鉄則で大人しく待機して、先生方が捜索に来てくれるのを待つのが得策だろう。

私は答えが返ってこない独り言を洩らし、そう結論付けてこの場で大人しくする事にした。


ーーーーーーーーーーー


それからどれだけの時間が過ぎただろうか?

1時間?2時間?私は携帯も時計も持っていなかったので、時間が正確には分からない。

もっと長い時間が経過している気もする。


もう皆は頂上に着いてる頃かな?

私がいない事に気付いてるかな?


彼女達が私の事を何て説明しているかは分からないが、きっと私1人が真実を言っても信じてもらえないように、ない事ない事を吹聴している事だろう。

私は、捻挫した左足首にそっと触れてみた。

何だか先程よりも熱を持ってるような気がする。

それに腫れ上がってる気も……。

まさか、骨が折れてたりしないよね?


「うっ……」


そう思ったら、自然と悔しさで涙が溢れてきた。

本当は泣きたくなんてない。

泣いてしまえば、彼女達に負けた気になるから……。

私は顔を上げ、必死に涙を堪えようとした。


ポツ。ポツ_______________。


すると、涙とは別に、空からは大粒の雫が落ちてきた。


「もう……最悪だな……」


山の天気は変わりやすいとは言うが、まるで私の心情を現しているかのように、曇天の空からは、次から次へと雨が降り注ぐ。


自分はもう助からないかもしれない。

雨のせいで、一気に気温は下がり、もし発見されたとしても、低体温症等でもしかしたら死……。


そこまで考えて、私は自分の身体を強く抱きしめる。

震えているのが自分でも分かった。


嫌だな……死にたくないな……。


もう私の中は、諦めにも似た感情で埋もれていた。

すると、どこからともなくガサガサと草を掻き分けてくるような音が聞こえた。

私は咄嗟にバッと顔を上げ、音の方を見やる。


誰か助けに来てくれたのだろうか?


淡い期待もあったが、もう一つ懸念すべき事があった。


もしも動物だったら……しかも何かの肉食獣とかだったら……?


そもそも、肉食獣なんかいる場所に、学校が生徒を連れてくるとは思わかったが、それも絶対とは言いきれない。

私は、身構えながらも、音のする方を見据えていた。


「あ、いた」


すると、何とも間の抜けたような声で、一人の男子生徒が木の陰から出て来た。


彼は確か神宮刹那くんーーー。


同じ小学校ではあったけど、一度も話た事はない。

挨拶位はした事があるかもしれないけど、見知っている程度の男の子がそこにはいた。

あまり目立つような子では無い印象ではあったが、私は彼に何故か違和感があった。

友達と普通に話しているのに、まるでそこにいるのにいない?感じがしたり、時折一瞬だけ大人びて見えたり……

特に彼は、窓から空を見上げている時、どこか……ここではないどこかを見ているような、そんな気がしてならなかった。


まぁ、きっと考え過ぎだとは思うんだけど……。


そんな事を思っていると彼は私に近付くと、徐に私の左足首に触れてきた。

私は思わずビクッと身体を強ばらせたが、彼は気にする素振りも見せず、後ろを向き、背中を見せてきた。


「乗って」

「……え?」


最初何を言っているのか分からず、私はキョトンと首を傾げて聞き返した。


「もう痛みは殆ど無いとは思うけど、念には念を入れて、ね」

「え?」


私は言葉の意味が分からず、そっと左足首に触れてみた。

すると、先程まで腫れて熱を持っていた足首は、もう殆ど痛みもなく、もしかしたら治っているのではないかと思わせる程だった。

「何で?」と聞く前に、彼から早く背中に乗るようにと催促される。

私は躊躇っていた。

色々聞きたい事はあるが、何よりも背中に負ぶさると言うことは……つまり……その、嫌がおうにも胸が押し当たると言う事で……。

男の人をそう言う意味で意識した事がない私でも、流石にそれは恥ずかしく、顔に熱が集まるのを気にせずにはいられなかった。


「どうかしたの?」


流石に黙っている私を不審に思ったのか、彼がこちらを振り返って聞いてくる。

私も、このままこうしても埒が明かないし、何よりも態々探しに来てくれた彼に申し訳なく思い、意を決して彼の背中に寄りかかった。

すると、彼はしっかりと私の膝裏を抱え込むと、立ち上がって歩き出した。


「お、重くない?」

「ん?全然。寧ろ軽い方だと思うよ?」


私は気恥ずかしさの為、そんな事を聞いてみたが、彼は至って普通に返してきた。

顔は前方に向いたままなので、今彼がどんな顔をしているのかは分からなかったが、何故か他の男子達とは違い、邪な感情がないのだと信じる事が出来た。

それからは、ここまでの経緯を簡潔に話してくれた。

彼がここに来たのは独断で、あの仲良し4人組が、何やら興奮気味でヒソヒソ話しているのをたまたま聞いてしまい、探しに来てくれたのだと言う事。


何故私の場所が分かったのかははぐらかされてしまったが……。


教師達が捜索するのを待つのも考えたが、空を見上げると、一雨きそうな予感がした為、教師達より先に自分が動いた方が早く見つかるだろうと思い、ここまで来た事。

その事にも疑問に思ったが、きっと聞いてもまたはぐらかされると思い、私は口を噤んだ。

最後にダメもとで私は聞いてみた。


「さっきの捻挫……神宮くんがなにかしてくれた……の?」

「ん~……それも企業秘密」


やはり、内緒のようだ。

だけど私は悪い気はしていなかった。

その後は、何を話すでもなく、黙々と歩き続けた。

気付いたら雨は止んでいた。

もしかしたら、随分前に止んでいたのを、私が気付かなかっただけなのかもしれない。

何故なら、あれだけ濡れていたジャージが今はもう殆ど乾いていたから……。

私は先程まで遠慮がちに回していた腕を、今は彼にしっかりと絡ませていた。

異性と一緒にいて、これ程まで安心していられたのはいつぶりだっただろうか?

願わくば、もう少しこのままでいたいとさえ思えてくる程に……。

けれど、現実はそんな願いなどどこ吹く風で、神宮くんが口を開く。


「それじゃ、俺はここまで」

「……え?」

「このまま俺が出ていったら色々聞かれそうだし。俺もあまり注目されるのは好きじゃないしね」

「そ、そっか!うん!ここまでで大丈夫だよ!!どうも有難う!!」


彼はそう言って、そっと私を地面に降ろしてくれた。

私は努めて普通に礼を言ったつもりだが、彼には不安そうに見えたのだろうか?

そっと私の頭に手を置いて、優しく撫でる。


「大丈夫。色々聞かれるかもしれないけど、雛形さんは被害者なんだから堂々としてればいいよ」


まるで子供に言い聞かせるように言ってくれた。

私は恥ずかしくはあったが、その手の温もりに安心して目を細める。


「それじゃ、俺はもう行くね?」


そう言うが早いか、彼は踵を返してこの場を離れようとする。


「あ!あの!今日は本当に有難う!!」


私は離れゆく背中に、もう1度お礼の言葉を投げ掛ける。


「気にしないで」と背後手で振りながら言ったかと思ったら、何かを思い出したように不意に振り返り、


「俺の事は出来れば内緒にしててね」


と言って、まるでイタズラっ子のように人差し指を口に当てながらニッと笑った。


その後の事は、まるで夢現のようにはっきりとは覚えてないが、私はフワフワした感じで集合場所に向かった。

すると、そこで例の4人組が、泣きながら私に土下座をしてきた。

あまりに先程との豹変ぶりに私が戸惑っていると、どうやら私を心配してたと言うより、まるで何かに怯えるように、ただ謝ってる感じに見えてしかたなかった。

その様子に、少し引いてしまったのは秘密だ。

今思えば、彼が私の代わりに仕返しをしてくれていたのかもしれない。

今度機会があれば、改めて聞いてみるのもいいかもしれないなと私は思った。


その次に大変だったのは先生方で、大丈夫だと言っているにも関わらず、病院に連行されてしまった事だった。

後から聞いた話だと、どうもこの時の私は、自分自身も気付かなかったのだけど、茹で蛸みたいに顔を真っ赤にしてたらしく、雨のせいで肺炎を拗らせてるだとか、森の寄生虫に感染してしまっただとか、酷く先生方には心配さてれいたみたいだった。


は、恥ずかしい…………。


それからと言うもの、これが【初恋】だと気付くのにそれ程時間が掛かる事もなかった。

気付いたら彼を目で追ってたし、目が合えばそれだけで動悸が速くなり、顔に熱が集まるは、その一日は幸福感に包まれていった。

【恋】だと気付いた私の行動は迅速だった。

兎に角、私は事あるごとに彼に話掛けたり、自分をアピールしまくった。

正直自分でも驚いていた。

自分がこんなにも積極的になれるなんて……。

けれど、彼はどうやら『超』が付くほどの『鈍感』だったようだ。


他の事には聡いのに、どうして気付いてくれないかなー……。


などと諦めかけた事もあったけれど、結局諦め切れずに頑張って、やっと下の名前で呼び合える事に成功する。

次は高校受験だ……私はさり気なーく彼にどこの高校を受けるのか聞いて、私もそこに受験する事を決めた。

後から、これじゃまるでストーカーだと自己嫌悪にも陥ったりもしたのだが、まー、好きなのだから仕方がない 笑

高校生になったら絶対に告白する!と意気込んでみたものの、結局はズルズルと友達以上恋人未満の関係が続き、今後どうするか悩んでいた所、急な【勇者召喚】で【異世界】へ喚ばれてしまった。


これは急接近するチャンスだと思ったよ!

神様からの贈り物だね!


けれど、どうやら刹那くんはこの世界を知ってるようで……?


でもそんな事は関係ないよ。

彼にどんな秘密があろうとも、ちゃんと約束したしね。


いつかちゃんと話してくれるって!!

だからそれまで私はもっと力をつけなくちゃ!!


彼に振り向いてもらえる程にもっともっと強く_______________。

ヒロインの過去編で、七鈴菜が一番短いかな~?と思う今日この頃 笑


まぁ、その内微修正するかもしれませんが、取り敢えず今はこのままでいいや! 笑

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