旅立ち と 期待
それから深夜……日付けは替わり、皆が寝静まった頃に、俺は正門に向かう為に城下町を一人歩いていた。
明かりが付いているのは、深夜の営業をしている店のみで、殆どの明かりは落とされていた。
けれど月明かりにより、街は仄かな明かりに包まれ、苦もなく歩く事が出来る。
昨日の内に、やるべき事はやったし、挨拶するべき人達にはちゃんと今日経つ旨も伝えてある。
なので、俺は足取りも軽く、他の者達が既に待っているだろう正門に歩を進める。
程なくして、正面にいくつかの人影を見つける。
俺は足早にその人影に近付いていった。
「ごめん。待った?」
「いや、俺達も今来た所だ」
などと、まるで恋人達のデートの待ち合わせの定番の会話をする。
俺の言葉に返事をしたのはベリアルだ。
決して蜜月な恋人同士ではない!
そこに居たのは、アヤメとアルテミスとベリアル、それに5人の人達だ。
俺はベリアルをじっと見た。
「?何だ?」
ベリアルが不審そうに眉根を寄せた。
「いや……やっぱ何か違和感があると思って」
「ああ、これか?それを言うならお前もだろ?」
「まあ、そうなんだけど、ね」
俺はベリアルの指摘に苦笑する。
ベリアルの髪は、俺同様に、薄いピンク色に変色している。
俺もベリアルも、この世界において、髪の色はとても目立つのだ。
この世界にとって【濃厚色】は、とても【魔力】などが高い事を示す……しかも化け物クラスで。
歩くだけでも『自分は強者です』と言ってるようなもので、実に恥ずかしい。
魔族であっても、ベリアルのように濃厚色の色をしているのは数が少なく、それだけで【元魔王】の力は想像に値しない。
俺も青系とは言っても薄めているから、どちらかと言えば水色に近い色合いをしている。
けれど、知り合いの普段とは違う雰囲気に違和感は拭えないのも事実だ。
俺はベリアルの綺麗な真紅の髪は好きだし、見慣れてしまっている為もあるだろうが。
ベリアルも同様に、俺の髪色に違和感を感じているらしい。
そんな俺達のやり取りを黙って聞いていた一人の少女が、おずおずと俺達に話し掛けてきた。
「あ、あの!この度は同行させていただき光栄です!道中足を引っ張らないように頑張りますので宜しくお願いします!!」
緊張しながら、彼女は勢い良く頭を下げてきた。
後ろの4人も彼女に倣い頭を下げる。
俺は若干引き気味になりながらも、少女達に笑いかけた。
「こちらこそ宜しく」
少女は俺の一言だけで、顔を赤らめ嬉しそうにはにかんだ。
ここには【エルフ】が5人居た。
この【エルフ】達は、今回の【勇者召喚】で助力をしてくれた者達だ。
本来なら、【勇者召喚】が成功しても自国に戻る事は諦めて、王都に留まるつもりだったらしい。
何せ、今のこの世界は、魔物の活性化により、以前よりも気軽に旅が出来る状態ではないのだから。
ここに来るまでも、かなり危険な道中だと聞かされていた。
それでも、一抹の希望を託し、【勇者召喚】をする為だけに、彼女らは遥々王都に出向いてくれたのである。
それは魔族の者達も同様で、この場にエルフしか居ないのは、これから向かう先が【エルフ国】だからである。
だが、10人居たエルフ達は5人残り、その後も王都の為に力を貸してくれるらしい。
魔族の者達にも、【魔都】にも寄るつもりだったので、同行を提案してみたが、元々全員王都の為に助力する心積りで来たので、魔族は王都に留まる意思を示してくれた。
何とも心強く有難い事か……。
なので、この場に居るのは、俺を含めた総勢9人である。
俺に話し掛けてきた少女の名は【ミシディア】と言った。
彼女はなんと、16歳と言う若さで、既に【精霊魔法師】の資格を取得しているらしい。
正に天才と言われている程の実力があるそうだ。
エルフとは、俺達の世界で語られている種族そのままで長命な種族だ。
大体20代前後で一度成長は止まり、後は緩やかに成長して、800~1000歳まで生きながらえ、寿命が近付くと徐々に年を老いていくのだ。
なので、エルフは見た目通りとは行かず、仮に俺と同い歳に見えたとしても、かなり年上だったりもする。
けれど、ミシディアは見た目通りの少女だった。
しかも、幾ら【精霊力】に長けたエルフであったとしても、16歳で【精霊魔法師】になるなど前代未聞らしい。
それこそ、かの【大聖人】さえも唸らせるとか……。
そんな彼女を見ていると、どうしても昨日のクルトの事を思い出してしまい、俺は苦笑してしまう。
彼女もきっと、俺のある事ない事の武勇伝なるものを聞かされたに違いない。
「それじゃ、皆揃った所で行きますか!」
俺は、このままこの場に留まっていては埒があかないと、出発の号令を掛けた。
皆も一様に頷き、それぞれの馬車に乗り込む。
俺とアヤメはアルテミス(魔道具で馬の姿)が引いてくれる馬車に、ベリアルが御者を買って出てくれたのでベリアルは御者台に、エルフ達5人は別の馬車に乗り込む。
そうして俺達は門兵に見送られて王都を後にしたのだった。
すると、アヤメが正座をして、ニコニコしながら自分の太腿を叩いてるのに気付いた。
俺はその意図を察し、当然のようにアヤメの太腿に頭を乗せる。
後方を走らせていた馬車から息を呑む声が聞こえる。
ベリアルとアルテミスはいつもの事なので、特に何も言ってこない。
俺は、この新たな旅立ちに、不謹慎にも浮き足立っているのを隠せないでいた。
さあ、今回の旅は何が待っているのかな?
とても楽しみである_______________。
やっとここまで来ました!
漸く主人公達が王都を出発します!
出発までの道程が長く険しかった……
一度閑話を挟みますが、これからは多くのヒロイン達との再会と、戦闘(あるといいな~)が待っております!!
今後も期待(してないと思うけど)して見てやって下さいまし!!m(_ _)m