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0-004.魚魚魚(うおうおうお)・・・・・

 扉の先でまず目にしたのは大きな滝とその下に広がる広大な滝つぼの湖だった。

 やっぱり見た目魚だけに水辺に暮らしているようだ。

 昨日は周りを見ていなかった。生まれたばかりだったし、転生したことが衝撃過ぎた上に名前のこともあって余裕がなかったのだ。

 そういえば。俺はどのあたりで生まれたんだろうか?


「俺はどのあたりで生まれたんですか?」


 長老に気になったので聞いてみる。


「家があって見えんが後ろに森があっての。その森へと入る入り口のところじゃ」

「森には危険な鳥や動物はいないんですか?」

「おるよ。熊や猪、狼。蛇に鷹とかの野鳥と危険なやつばかりじゃ」

「じゃあなんで森の入り口に卵を集めているんですか?」

「お前は何をいっとるんじゃ?」


 長老が怪訝な顔をする。どうしてだろうか?

 とサマンサさんが長老の腕を引っ張る。


「長老。アッシュはそこで生まれたから、そこに卵の保管場所があると勘違いしてるのよ」

「なるほどそういうことか」


 納得した顔の長老が声を上げる。


「アッシュよ。おぬしが生まれたのは偶然だったんじゃ」

「偶然?」

「そうじゃ。偶然出荷前の卵から生まれたんじゃ。生まれるのが一足遅かったらどうなっていたことか」

「出荷?出荷ってなんですか?」

「ヌンサの卵はこの世界の三大珍味での。高く売れるんじゃよ。わしらの町の特産物であり、収入源の一つというわけじゃ」


 はあ?なんだよそれ。やるせない事実に頭が痛くなってくる。

 あれ?でもそうなるとおかしい。少なくとも長老とサマンサさんとヌンサには雌雄――つまりは男女の性別がある?前世の知識どおりなら。


「ヌンサには性別がありますよね」

「うむ。わしとおぬしは男性。サマンサは女性になるな」

「前世では男女の性別がある種族は男女がそろって子供が生まれていました。ヌンサは卵単体から子供が生まれるんですか?」

「いや、そんなこたあない」

「じゃあ、なんで・・・・・・」


 自分の生まれた事実を知るうちになんかいやな予感だけが大きくなってくる。


「誰かが保管庫にあった卵に酔っ払ってしょんべんでも引っ掛けたんじゃろ」

「ちくしょおおおおおおおおお」


 バッチーンッ

 俺は感情のままに長老の頭を思いっきりはたき飛ばした。

 だめだ。一発殴っても心のわだかまりは収まらない。ふーふーと荒い鼻息をたてながら地面に転がる長老を見下ろす。

 長老が待て、止まれ、と手をかざす。


「アッシュ。長老を殴ってあなたの気がすむのなら、その拳で打ち抜きなさい」


 俺の中では長老よりもサマンサさんが上と順位付けされている。サマンサさんの許可があるなら問題ない。俺は拳をしっかりと握りこむ。


「まあ待て。まあ待て。話せばわかる。話せばわかるじゃないか」


 長老が必死に頭を左右に振っている。どこぞの昭和の政治家のような台詞を吐く。


「問答いらぬ。撃て。撃て」


 サマンサさんのあおりに俺は拳を振り下ろした。地面に横たわる長老に馬乗りに。


「うおおおおおおおおお」


 ドッドッドッドッ・・・・・

 漫画の効果音のような重苦しい長老を殴る音が鳴り響く。

 拳速は徐々に早くリズミカルに。音に合わせて声が出た。


「ウオウオウオウオウオウオウオ・・・・(魚魚魚魚魚魚魚・・・・)」


ドドドドドドドドド・・・・・

 ふ~。やがてスッキリした俺は一息ついて立ち上がる。


「やれやれだぜ」


 その目は見たくないもの(長老)から逃げるように長老のいない明後日の方向へ。


「長老は犠牲になったのだ・・・・・・世にはびこる理不尽・・・・その犠牲に・・・・・・・・」


 サマンサさんの意味深げな台詞。そして続く言葉に。


「なにせ誰かがやったことであって長老自身は犯人じゃないものね」


 さーと血の気が引いた。

 きっといま自分の顔は見事な青魚になっているのではないだろうか?


「大丈夫よアッシュ。だって相手はあの長老だもの」


 その言葉にほっと息をなでおろす。って。ほっとしちゃダメだ。

 ぶんぶんぶんと風を切る音をたてて頭を左右に振る。

 でも。不思議と罪悪感がない。脳裏を掠めるのはたった二日間の長老の行い。二日で尊厳を無くせる長老は悪い意味ですごい。本当に日々の行いは大事だと前世が訴える。人からの印象が自分の居場所を形作るからこそ。今世でも気をつけようと思う。


「あ~。物思いにふけっとるところわるいんじゃがそろそろいいかの?」


 うおっ!と長老の声に驚いて声を上げる。

 みれば長老は五体満足。あれだけ殴ったのについたほこりを払う程度の変化しかない。


「どうしよう・・・・・また殴らなきゃ」

「落ち着け!」


 長老が慌てふためく。


「道具が必要なら用意するけど鈍器でいい?」

「煽るな!そしてメイスはやめろ」


 ちっ。サマンサさんの舌打ちにびくりと体が震える。おかげで頭が冷えた。棘の着いたメイスなんてどっからだしたんだ。


「すみません。アッシュに早くヌンサという(理不尽な)存在に慣れてほしくて・・・・・」


 心なしかヌンサを別の言葉で表していたように聞こえたけど。サマンサさんは自分の世界と近い異世界が前世だったといっていた。同じ元人間として思うところがあるのかもしれない。


「やれやれ。いくらわしらヌンサの頭部が身体の中で一番頑丈にできておるといっても限度があるじゃろ」


 悪態をつくが長老は自業自得な気がしてならない。


「ちなみにヌンサは頭部が大きく、身体の前面のほとんどが頭骨じゃ」


 まあ、ヌンサの容姿は魚に人間の手足が付いているだけだしな。


「しかし頭は生物の弱点にあたる部分でもある。ゆえに守るために丈夫にできとるんじゃ」

「つまり長老の顔は猪の鼻みたいなものよ」


本来生物の弱点になる頭部に丈夫な鼻がある猪を思い出す。


「その分かりにくい微妙な例えやめてくれんかな。というか、おぬしだってヌンサじゃろうが・・・・・ああ、うんその歯を食いしばって込み上げる悔しさを堪えなら仇を見るような顔はやめてくれんかな」


 同じ前世人間だけにサマンサさんの気持ちがよくわかる。


「とまあ、これがお前の生まれた真実じゃ」


 いやな真実だった。はあ~と諦めとともにため息が出る。


「でもおかしいのよね」

「おかしいというと?」

「ヌンサはこの世界に一〇〇人しか存在しないの」


 単位が『匹』ではなく『人』であることが気になったが聞き流す。


「正しくは一〇〇匹しか存在できん。新たなヌンサが生まれるときは必ず一人が死んで一人が生まれる。三十年前サマンサが生まれたときもそうじゃった」

「確かヌンサの勇者アレルさんでしたか?」

「うむ。やつが魔王に敗れたんじゃ。やつの死亡で残りの勇者は討伐を諦めたらしい」

「魔王?それって大丈夫なんですか?」

「いまの魔王は穏健派じゃからの。むしろ勇者一行のことはた迷惑な嫌がらせでしかない」

「本当に死んだのがヌンサでよかったわ」

「うむ。これが他の人や獣人、森人(エルフ)の三勇者じゃったら、誇りがどうのこうのといって外交問題になるからの。無駄に戦争がはじまったかもしれん。魔王もうっかり勇者を皆殺しにするわけにもいかんし。災難じゃったの」


 なるほどそういうことか。長老の言葉に納得する。しかし勇者がはた迷惑な存在とかやるせないな。勇者存在意義がないじゃない。そして、匹か人どちらかに統一しろ。

さて。それはさておき。気になったことを聞いてみる。


「この世界には獣人やエルフがいるんですか?」

「うむ。ちなみにこの世界を占める大半は人と獣人、魔人の三人種じゃ。わしらヌンサや森人は亜人種に当たる。亜人種は固体数が少ないが種族の種類が多い」


 獣人にエルフ。なんか前世で読んだファンタジー小説やゲームの世界を思い出す。せっかくこの世界に生まれ変わったのだからぜひともいつかお目にかかりたいものだ。


「なぜか我々ヌンサは森人に嫌われておるがの」

「仕方がないわよね。エルフは美しいものを好むから」

「ふむ。美的センスの差じゃしかたないかの。サマンサのような美人がわからんとは」


 サマンサさんがものすごく複雑な表情をしている。美人だと褒められて悪い気はしないんだろうけど。ヌンサでの美人だからな。前世人間だけに複雑だ。しかも長老は褒めているわけだから悪気がない分殴るわけにもいかないし・・・


「さてそろそろ話を戻すかの。わしらヌンサが一〇〇人しか存在できんのには理由がある。前世の記憶もある聡いお主のことじゃ。もう気づいとるんじゃないかの」


そういわれて考えてみるがなにも思い浮かばない。


「そう。わしらヌンサはこの世界でも上位種族。ドラゴンつまり竜人種なんじゃ」

「うっそだ~~~~~」

「あまりにもとてつもない力を秘めているがゆえにこの世界が創造された際、人口一〇〇匹の制限が設けられたんじゃ」


ないない。頭をふって全力否定する。


「おぬしはわしらヌンサの強さを知らんから――「大変だ。森から暴れ猪が!」――ぐほああ」


 突如現れた猪に長老が引かれた。そのまま三回転して地面を転がり、直進する猪に追撃を受ける。ぴくぴくと痙攣する長老に猪が近づき・・・・・・がぶ。あ、長老食われた。


「ヌンサが竜人。そう言っているのは長老ぐらいなのよね。見て分かると思うけど。ヌンサはとてつもなく弱いわ。私みたいに魔法が使えるとかの例外もいるけど。アッシュも石に蹴躓いたりしてうっかり死にかけないように注意してね」

「そこまでですか・・・」

「そこまで弱いわ。ただね。矛盾してヌンサは簡単には死なない。生命力が半端ない。自分でも体験しているからよく分かるわ。ある意味化け物よ。見てて」


 くいくいとサマンサさんの口が動いて長老と猪に雷が落ちた。

 両者とも真っ黒焦げ。炭化するまで焦げた臭い。魚と猪肉の焼ける食欲をそそる匂い。臭いと匂いが辺りに漂う。猪の口から上がる煙。内部まで焼けている証が雷の強さを物語る。いくらなんでもやりすぎ。あんなのくらったら即死だ。


『わ~い。ごはんだ~』


 匂いにつられて他のヌンサ集まってきた!

 のんきな声を上げて他のさまざまなヌンサが集まってくる。鋼っぽい鱗。岩のような鱗。大中小。魚に人の手足という共通はあるものの。大きさも格好もさまざま。色も青、黄、碧、白灰といろいろだ。近しい色はあっても同じ色のヌンサはいない。

 というかこいつら発言と行動からいっても知能も低そうだ。このまま長老が食われたどうしよう。まだあって二日目だけど。この世界で最初に会ったヌンサだ。


「わ~い。今日は豚肉じゃ~」


 ・・・・・・ん?

 あれ?

 気のせいかな?いま幻聴が聞こえたような・・・・・

 ヌンサの集団の中に長老の姿が・・・ある・・・・・・な?

 さっきまので焦げ痕はきれいさっぱりなくなっていた。どう見ても健康体にしか見えない。


「不思議でしょ。まるで前世でみた猫とネズミのアニメーションみたい」


 その言葉に俺はハッとする。まさか。そんな。でも。と言葉が口から漏れる。


「アッシュも心当たりがあるみたいね。やっぱり前世が似た並行世界だからかしら」

「・・・・・ギャグキャラは死なない」


 それは前世のギャグ漫画やアニメに見られたギャグ世界ルール。ギャグ補正。どんなに酷い目にあおうともギャグキャラは死なない。

 この世界ではヌンサにギャグ補正がかかっているというのか?

 でもそれはおかしい。なぜなら――


「でも気をつけて。勇者アレスが死んで私が生まれたように。決して死なないわけじゃない」


 そう。サマンサさんが生まれると気にヌンサが死んでいる。補正は絶対ではない?もしくは寿命。死ぬ運命のときが決まっているとか?

 色々と考えてみるが答えは見つからない。こんなのヌンサにギャグ補正を与えた存在。この世界を作った神様でもなければ分かりはしない。というか神様自体いるのだろうか?創造だけの架空の神様はいるだけかもしれない。なぞは謎のままだ。


「アッシュ。あたしや長老が言ったこと覚えてる?」


―――あなたもいずれ分かるわ。私たちヌンサがこの世界でどんな存在なのか

―――生まれたばかりのあなたにはたくさんの知らないことがある。たくさんなんでと言いなさい。たくさんどうしてと聞きなさい。これから見て聞いて触れてたくさん学ぶんだから。

 生まれたときにサマンサさんが俺にいった言葉。

―――おぬしの答えが本当かどうかをおぬしが追求するといい。ヌンサであることはあるべき事実じゃが、ヌンサがなんであるかは誰も知らん。同じく木が木であることも。空が空であることも。物事の本質は誰も知らんのじゃ。ただあるべきことを観測者が認識し意味を設けるだけ。我々が知りえたるはその意味のみ。

 それは今朝長老が言った言葉。


 分からなくて聞いて。そして自分で見てヌンサにギャグ補正という理不尽さを知った。


「まだまだこれから大変よ」


 サマンサさんが人差し指を立ててウィンクする。

 ただそれもまだ表面上をさらっただけで真実と深遠には到達していない。サマンサさんの言うとおりこれからだ。

 そうですね。とその大変さを思い浮かべたら複雑で少し困った気持ちのこもった笑いを返す。


「この世界の理を破った。あなたという一〇一人目のヌンサのなぞもあるしね」

「そういえばそんな話もありましたね」


 会話の最中に長老が猪に弾かれた後のインパクトが強すぎていまの今まで忘れていた。


「分かってると思うけど。誰も分かるヌンサなんていないから」

「本当に一〇一人目なんですか?」

「村にすべてのヌンサがいるわけじゃないし。ヌンサはみんなどこかつながっているらしいの。誰か一人が死ねば本能でわかるらしいわ」


 そういえば今朝の話だと三十年前にサマンサさんが生まれてからは誰も死んでいないし、生まれてもいないらしい。それじゃあ本当かどうかも分からない。


「疑ってるみたいね。無理もないわ」

「いえ、そんなわけじゃ」

「でもね。実は新しい命が生まれる場合も本能が伝えてくれるの。昨日あの時私は確かにあなたが生まれるのが分かったわ。不思議な感覚だった。いまから生まれるんだって。まるで前世で子供をはじめて生んだときのようだった」


 サマンサさんがとても優しい顔をしていた。それでいてどこか遠くを懐かしんだようにも見える。きっと前世のことを思い出したんだと思う。俺なんかと違って天寿を全うして子供に見守られて死んだんだろうな。


「だから逆も然り。一〇〇人のヌンサが生きていることは確か」

「そっか。じゃあ、一〇一人目の俺は当事者としてその理由を探さなければいけないのかもしれませんね」

「そうね。きっとそれがあなたがこの世界に生まれた意味につながるはずだから」

「でもそうなると俺はどうすればいいんでしょうかね?旅に出るとか?」

「必要ないわ。運命なんてものは本人が望まずとも勝手に訪れるものよ。あなたは生まれたばかりだもの。それよりも今はまずこの世界になれなさい。特にヌンサにね」


 ヌンサになれる。

 あれ?それが一番大変な気がする。


ヌンサって何だろう(;-_-)

思いつきだからよくわからない

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