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※-001.プロローグ

プロローグは第零と第一章の1話目になります。


第零章-主人公アッシュが生まれてからの一ヶ月

第一章-ヌンサ村の外へ


第零章は気まぐれの次第で話数が増える予定です。

 息が荒い。

 はあはあ、なんて擬音っぽい息遣いが聞こえる。

 咽が熱く。息を吸うと肺も痛い。

 俺たち走る仲間みんながそうだった。

 石造り建物の多いこの町は建物間の道も石畳が敷かれている。硬質的なものだから土や草と違って足の裏に衝撃ががんがん反響してくる。走るのをやめたときにはきっと腫れあがってとてつもなく痛むに違いない。

 でも止まれない。


 天敵が。やつらが迫ってくる。


 鋭い爪を持ち、獰猛な牙を光らせて、やつらはすばやい身のこなしで背迫ってくる。


 狩が楽しいと雄たけびを上げて。


 その天敵の名は――


『にゃ~♪』


――猫っ!

 

 別に虎並みのでかい猫に追いかけられてるわけじゃない。大きくても平均的な成人男性の肩幅くらいのいたって普通の大きさの猫たちだ。

 人種にとってはそれほど脅威というわけではない。

 しかし、人種でも亜人種の俺たちヌンサ族にとっては違う。


「もっと速度を上げるんじゃ」


 叫び声とともに速度を上げた長老が俺の前へ出てその特徴的な姿が視界に入る。

 魚の体に胸鰭から腕が生え、腹びれ付け根の両端から足が生えている半漁人(・・・)とも呼ばれるヌンサ族。ホントに半分人?と疑いさえ持ってしまうその姿は両手両足をとったら人と大差ない大きさの巨大な魚にしか見えない。

 まして猫にはえさの魚にしか見えないわけで・・・・・


「つかまったら食われるぞ」


 俺たちヌンサ五人?五匹?は必死に端って逃げていた。


「なぜこんなことに・・・」

「いやお前(長老)のせいだろ」


 まったくわけが分からないという顔をする長老に俺はツッコミを入れた。


「あんたが猫にちょっかい出したからだろ!」


 この町には猫たちを取り仕切る賢い猫目妖精(ケットシー)がいる。理知的な猫目妖精(ケットッシー)のボスは『知性のあるもの同士仲良くしましょう』と俺らヌンサが人の街を気がねなく歩けるように気を使っていてくれおり、町の猫社会にルールまで作ってくれている。

つまり本来なら襲われる心配が無いのだ。


 ならなぜ襲われているのか?


 そんなのは簡単だ。

 このバカ。いや間違えた。長老が自分たちを襲ってこないのをいいことに猫にちょっかいをかけたのだ。


「わし悪くないもん」


 顔を背けると同時に白いヒゲが揺れる。白い生魚が頬を膨らませて子供っぽくそっぽを向いても気持ち悪いだけだ。その口調もムカつくし。

 こんなのでも数千年も生きるヌンサ族の長老という権力者なのだからたちが悪い。この国の王族に対してもこの態度だし。長老のような実害のある老人ほど困るものは無い。

 長老がしたことを思い出してみる。


 日向ぼっこしている猫に近づき、シャーッ、と奇声を発しながら威嚇して濡れた尾びれでぺちぺちと叩く。そしていきなり仰け反りながら、シャチホコッシャチホコッ、と叫びながら飛び跳ねる。

「さあ、襲えるものなら襲ってみるがいい。古き盟約を破ったそのときこそ貴様の最期だ」


 うん。どう考えても俺でも切れるわ。安らいでいたところをわけもわからず急に威嚇され、濡れた尾びれでぺちぺちと頭をびちゃびちゃにされたんだ。頭にこないはずがない。というか最期のシャチホコ行動になんの意味があったのかが分からない。

 魚か?魚だからか?

 だめだ。深く考えたら逆におれ自身がダメになる気がする。


 といった経緯で俺たち残り四匹は長老のせいで起こった猫に終われる羽目になった。走り続けていく内に面白がってどんどん猫が増えていまじゃ三〇匹近い猫が集まっている。

みんな息も途切れ途切れで限界が近い。


「はっ。わしいま重要なことに気がついた」

 

 原因のバカが叫ぶ。

 まったく。なんだよ。こんな状況でよく叫べるもんだ。


「口で呼吸するのが苦しいならエラ呼吸すればいいんじゃね?」


 またバカなことを口にしたもんだ。

お前ホントに魚か。いや半漁人だから半分魚?水中で暮らすヌンサだっているんだ。空気中でエラ呼吸ができないことぐらいヌンサならわかるだろ。


『それだ!』

「アホか!」


 残念。他のやつらもバカだった。

 くそう。なんてこった。全員納得顔で賛同しやがった。

 非常識に現実逃避しすぎて忘れていた。ヌンサという種族はバカばっかりなのだ。まともな人種を求める俺にとってヌンサ=バカは夢も希望もありゃしない。

 ため息さえ出せないつらい状況なのに涙が出てきた。

 俺の否定に何でなんてくびかしげた顔してるやつもいる。


「エラ呼吸は水中じゃないとできない」

『なっ!なんだって!』

「お前ら何年生きてるんだよ!」

 生まれてまだ一ヶ月の俺よりも生きてるヌンサが知らないのかよ。まあ、俺の場合は特別なな事情があって知っていたわけだけど。

 しかしこいつらホントに仲良くはハモるな。


「・・・・・つまりエラ呼吸ができない=呼吸ができない、ということか」

「大変だ長老。呼吸ができない」


 どうしてそうなるっ!

 なんてこった。俺の発言がとんでもない勘違いへと発展。はっ。いけない。ヌンサは思い込みも激しいのだ。このままでは本当に呼吸ができなくて死ぬやつが現れる。


「お前らさっきまで普通に肺呼吸してただろ!」

『それだ!』


 間に合った・・・・っていうか。もうやだ。このバカたちの相手するの・・・・・ん?

 長老?いつの間にか真横に?

無機質な生魚の目。なぜか不穏なオーラが全体から放射されている気がする。

 にやっと長老が笑った。


「きさま何かたくらんでいるな!」


 俺が叫ぶとすっと長老が身を寄せてきて、


「イエスイエスイエス・・・・・」


 小さくそう囁いて離れた。

怖ええええええええええ

 と思ったのもつかの間。急に体が前へと傾いた。思わず長老を仰ぎ見る。グットラックと立てられた親指と悪辣な笑みに一瞬で理解する。

 こいつ足を引っ掛けやがったな。

 気づいた時にはもう手遅れだった。なによりもヌンサの体形で姿勢を立て直すのは難しい。


 ズザザザザーーーーー


 漫画に出そうな見事な擬音を立てて俺は転んだ。

「尊い犠牲を無駄にするな」


 長老の声とともに遠のいていく足音。


 あ・・・終わった・・・・・・・・


 せっかく生まれ変わったのにな。

 ヌンサなんていう半漁人だったけど。

 実は俺は転生者で前世はルツリウムと呼ばれるこの世界とは違う世界の日本と呼ばれる国で生きた人間だった。エラ呼吸について知っていたのもそれが理由だ。

 病気で死んで一ヵ月前にルツリウムで転生。ヌンサとして生を受けて・・・・・・まだ生後一ヵ月しか経っていないのに俺もう死ぬんだな。

 別にいいか。こだわりがあるわけじゃないし。できれば虫とかに転生してもいいように来世は前世の記憶無か、前世の記憶があるのならそのチートを生かせるような人種がいい。

 そんな希望的観測を思いながら目を閉じる。

 でもまだ終わりじゃない。ここから死ねるまでの地獄が待っている。猫に生きながら食われるっていうのは文字通り生き地獄の痛みを感じるのだろうな。

 怖くないといえばうそになるけど。一度死んで生まれ変わって。

 次があるんだと知っていたからかな。来世に期待なんてしてしまって。

 纏わり憑く死の恐怖は来世よりも弱かった。


 ・・・・あれ?


 しかし、心して待てども倒れ伏した俺の体にあるのは転んでの痛みがあるのみ。

 むしろむにむにとした柔らかい弾力のある感触を複数感じる。

 開いた俺の目に映ったのは猫が片方の前足を俺の体乗せている姿で――


「にゃ~(強く生きろよ)」


 ――聞こえたのは励ましの言葉だった。


 なにこれ。思わぬ優しさに目から涙が溢れてくる。

 中にはよしよしなんて撫でてくれる猫もいる。

 だめだ。涙が止まらない。


「にゃ~(大変だねえ)」

「にゃにゃにゃにゃ(怖い思いさせてごめんね)」

「にゃ~にゃ?にゃ?(怪我とかしてない?大丈夫?)」


「長老。あいつ猫に懐柔されてやがるぜ」

「裏切り者ですぜ」

「恐ろしい子」


 謀女優漫画に出てきそうな台詞を長老がはく。心なしか一瞬だけ長老の輪郭が劇画タッチのごとく太くなったように見えたが気のせいだろ。


「うるせえよ!お前らのほうが裏切り者じゃねえか」


 遠くで立ち止まりこちらの様子をうかがっていたヌンサたちへ俺は切れた。

 周りで俺を心配して立ち止まってくれていた猫たちの視線が長老たちへ向く。みんな身震いして逃げろとばかりにまた走り出そうとする。

 が、それを遮る者がいた。


「あなたたち覚悟はできてるんでしょうね」


 ボブカット状の金髪にちょこんと乗った魔女の帽子。赤い口紅が塗られた厚い唇。長いまつげをしたピンク色のヌンサ。裏地紫の黒のローブをはためかせながらヌンサ族の女傑魔女のサマンサさんが立っていた。

 彼女の怒りを表すように背後炎の壁の幻影が見える。


「待つんじゃサマンサ」

「問答無用!」


 クイクイとサマンサさんの口が動いた。それは無詠唱で魔法を使うときの彼女の癖だ。

 次の瞬間には雷が四人に落ちた。

 ぴくぴくと痙攣している。

 心なしか煙とともに香ばしいにおいがしているような・・・・

 前世日本人としては塩か醤油がほしいところだ。


「君大丈夫かい?」


 急にかけられた声に振り返ると一匹の猫が立っていた。

 緑色のつば広帽。赤い服とマントに黒い長靴。腰にレイピアを挿した猫の麗猫には見覚えがあった。三時間前この町を訪れたときにサマンサさんに紹介してもらったこの町の猫たちを仕切っている猫目妖精(ケットシー)のジュネさんだ。ヨーロッパの童話にある長靴を履いた猫のイメージにぴったりのネコだ。

 ずっと寝っ転がったままだったことを思い出す。大丈夫ですと示すように立ち上がった。


「心配していただいてありがとうございます」

「そうかい?」

「そして、なんというかすみませんでした」


 追いかけられていた原因。長老が猫にちょっかいを出したことについて謝る。


「まったく、猫をからかったあんたらが悪いよ」

 怒りを素直に口にしたけれども、

「だけどもあんたは被害者だ。謝ることはないさ」

 ふっと笑ってそう言ってくれた。


「でも猫から見たら好物の魚にしか見えないヌンサが襲われないのは、ジュネさんが町の猫たちを取り仕切ってくれているおかげだと思っています。そしてそれに背いた行為をしたのは曲がりなりにもヌンサの長を務める長老です。ヌンサのことなら俺にも非があります」


 そういうとジュネさんが驚いたように目を見開いた。なんだろうか?自分の発言を思い帰してみるが思い当たる節がない。


「あんた日本人?」


 何で分かったのだろうか?むしろ予想外の言葉が返ってきて驚かされた。


「ああ、その顔は図星のようだね」


 我的を得たり。ジュネさんはそんな顔をしていた。


「いやね。あたしも日本人の転生者なんだよ。まあ、世界はたくさんあるから同じ日本かは分からないけどね」


 思わぬところで日本の転生者に出会ったことに驚く。アメリカとか他国や別世界の転生者ならヌンサの中にもいて何人かあったのだが、同じ日本人ははじめて会う。

 しかしどうして日本人だと分かったのだろうか?


「どうして私が日本人だと?」

「猫は魚が大好きだっていったじゃないか?」

「それがどうして日本につながるんですか?」

「猫が魚好きだと思っているのはさ。日本人特有の思い込みなんだよ。本来猫は肉食でね。ねずみとか鳥をとって食べるもんさ。ねえみんな。魚とお肉どっちがすきだい?」

『にゃ~(肉~)』

「というわけさ」


 なんてこった。猫が魚好きは万国共通ではなかったのか。子供のころに謀アニメで植えつけられたイメージが原因かもしれない。お魚咥えて逃げるドラ猫が脳裏を掠める。


「ただ日本人がそう思うようになってしまったのも無理もないことなんだよ。猫ってやつは好奇心旺盛でね。グルメなのさ。人がうまそうに食べるものを同じように食べたがる。そんな猫が魚をよく食べる日本人の側にいたらどうなる?」

「まねして魚を食べるようになる?」

「正解」


 帽子のつばをきざったらしくクイッと持ち上げる。


「欧米人はよく肉を食べるから、日本とは違って猫は肉好きのイメージが定着しているようだよ。転生してこの世界に来たいまじゃどうでもいい豆知識だがね」


 ジュネさんの話に感心した俺はいつの間にか手にしたへ~と鳴るボタンを連打していた。ひとしきり押し終えるとボタンが手のひらから消える。きっとヤマダくんが回収していったのだろう。さすがはヤマダくん。仕事が速い。ヤマダくんはヌンサ空間から必要に応じて必要なものを渡して回収していく仕事をしているヌンサだ。以前長老にボケをかましてのノリツッコミしたときには座布団を二枚渡されたことがある。


「でも久しぶりに日本の話ができてよかったよ」

「こちらこそ。同郷に会えてよかったです」


 ふふふ。うれしくて互いに笑いあう。


「話は済んだかしら?」

「はい」

「じゃあ、帰りましょうか」

 サマンサさんが後ろを振り返る。

「みんな。帰るわよ」

『は~い』


 元気いっぱいの返事とともに一瞬で焼き魚から生魚に戻るヌンサたち。ヌンサは前世の世界のギャグマンがのキャラクター並に丈夫だ。焦げ痕一つ見当たらない。まあ、ヌンサだから(理不尽さ)で猫たちも気にしていない。


「よければまたあいに来てくれないかい?」

「はい。ぜひまたうかがわせていただきます」

「申し訳ないんだけれども最期に名前を教えてくれないかい?恥ずかしい話。サマンサに紹介されたとき、またやっかいなヌンサが増えたのかとあきれてしまってね。おぼえる気にもなれなかったんだ」

「わかります。バカはいくら増えても結局同じですから」

「君も苦労しているようだね」


「俺の名前はヌンサ・アッシュです」


 姓は種族名のヌンサ。名はアッシュ。と姓名並びの日本風。


 俺はアッシュ。


 このルツリウムで半漁人に転生したヌンサだ。


さて、思いつきとノリでどこまでかけるかな・・・・・


山田くん⇒ヤマダくんに修正_20180105

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