08
槍に230cmほどの適当な木を切り出した俺は、膠を煮るために森の入り口まで帰った。
まだ浅いところなのですぐ帰れるのが良かった。
「こういう物作りってわくわくするわよね。特に初期装備を作るみたいなの」
「そうっすねー、できあがったらゾンビの武器にするのがいいっすかね」
鈍くても長物があれば機先を制することが出来るだろう。
しかもフォレストビーの針なら麻痺狙えるはずだ。
そうして森の入り口に付いた俺達は、竈に火をおこし、鍋で膠の一部を煮る。
膠が解けたら削って針が付くように穴を開けた棒に膠でフォレストビーの針を付けていく。
ついでだからビオプラントのツタを巻いて、膠で固めて完成だ。
「槍できたっす!」
「おおー」
試しにしごいて木を突いて見ると、穂先は思いの外丈夫でしっかり繋がっているようだ。木にちゃんと刺さった。
「いけそうっすね!」
「丈夫ねぇ」
早速おいた槍をゾンビになって拾う。
ヒトに戻ると槍はゾンビに伴って消えた。
「もう一度レベリングに行くっすよ」
「おー!」
鍋を片づけ、俺達は歩き出した。
「セイヤァッ!!」
刺突がマンキーを射止め、麻痺にいたらしめる。
飛び来るマンキーは槍を短く持って振る事で弾き飛ばし、麻痺しているマンキーは槍のもう一撃で絶命させた。
「そっちはどうっすか!」
「しとめたわ!」
「後一匹!」
そしてメイの跳び蹴りがはじき飛ばしたマンキーに突き刺さり、死に至らしめる。
「っしゃぁ!」
「これで終わりっすね」
「そうね!」
そして俺とメイはいくつかのソウルを手に入れ、俺がマンキーの毛皮を剥ぐと、俺達は探索を続ける。
ライト ヒト・スピリット
強さ:うまれたて。
身体:運動神経はあるほう。
精神:そこそこ。
魔法:未知数。
所持スピリット
ヒト・スピリット
ゾンビ・スピリット
ジャッカロープ・スピリット
所持ソウル
ソコラビット・ソウル×2
マンキー・ソウル
ボルフ・ソウル×2
フォレストビー・ソウル
こんな感じだ。
「門から離れると巨木が多くなってくるわねぇ」
その代わり木々の間はよりまばらになり、槍を振るうのにそんなに不自由はないのがありがたい。
「そうっすねぇ」
武具材料の調達は森の入り口でしろという事なんだろうな。
「しっかし槍って便利ね。私も作ろうかしら?」
「そうっすねー。短いのを作るといいんじゃないっすかね」
後で作ろうかなぁ。
……ガサリ。
森の置くから濃い気配ともに、草が揺れる音がする。
「なんか来るっす。飛んでも居なければ木の上でもない。別のモンスターっす」
「えっ?何かしら……知られてないレアモンスター?」
そして気配を殺して歩く俺達の向こうに、巨大なイノシシが現れた。
注視すると『ビッグボア』という名前が見える。
「わかんないのが来るっす!イノシシだから多分突進してくるっすよ!」
「解った!回避優先でいくわよ!」
「おっす!」
案の定ビッグボアは蹄を蹴立てて突進してくる。
「よっと!」
「はっ!」
俺達は突進を寸での所で交わす。
早い!
通り過ぎたビッグボアは森の中を駆け回り、もう一度突進してくる時をねらっているようだ。
「槍で迎え撃つっす!」
ゾンビに変身し、槍の後ろを地面に突き立て構える。
そんなことにかまわずビッグボアは突進してきた!
「来い!」
ビッグボアが突進の勢いで槍につっこんでくる!
そして穂先が刺さるがビッグボアの勢いは止まらない!
「うわぁっ!!」
バキン!
槍が折れて突進を体で受け止める。
重い!
体が押したおされ、蹄が体を蹂躙していく!
「ギャーッ!!」
体が、四肢が吹き飛ばされ、俺は意識を失った。
気が付くとはじまりの町の噴水前に俺は立っていた。
体がだるい。死に戻りしてステータスペナルティを受けたらしい。
「負けたっすねー……」
ちょっとした寂寞感はあり、つい出来を取り直してメイを待つ。
あのイノシシは強すぎる。じきに死に戻ってくると思われた。
と思ってる内にメイが死に戻って噴水の前に現れた。
「うわだるっ」
「やっぱり負けたっすか」
「反撃を試みたら轢かれて終わりよ。そっちとほとんど同じ感じ。すっごい痛いっていうか熱かった」
「うわー……俺はゾンビで良かったっす」
「アレってレアモンスターじゃなくて、林のボルフみたいに別のフィールドから流れてきた奴なのかもね」
「あーなるほど」
とりあえず俺達はステータス低下が切れるまで、一休みしようと言うことになった。
槍は低下が切れてから作りに行こうと思った。
「ねぇ、だるいけど町をちょっと探索しない?雑貨屋以外にどんな店があるか調べてみたいの」
「ああ、それも良いっすね。ちょっと行くっす」
そして俺達は町の探索に出ることにした。
「結構屋台とか露店とかあるのねぇ」
雑貨屋でマンキーの皮をいくらか売った俺達は、町を西に貫く通り来ていた。
通りには串焼きの屋台や、飴売りの屋台などが軒を連ね、露店には雑貨や宝飾品などが売られている。
「ちょっと串焼きでも勝ってみるっすか」
「そうねー、このゲームおなかは減らないけど、ちょっと食べたいわ」
そして俺達は串焼きの店に足を運んだ。
「いらっしゃい。串焼き一本1Gだよ」
「二本くださいっす」
俺は2Gを取り出して言う。
「はい確かに」
そして串焼きが手渡され、俺達は熱い串焼きをはふはふ言いながら食べ出した」
串焼きの味は何となく牛に似ているが、微妙に違う味だった。
「旨いっすね、ソースの味が良いっす」
「そうねー、グルメ巡りもそんなに悪くないかもね」
「そうっすね。でも次はあっちのアクセサリーの露店見ないっすか?」
「そうね、このゲームって装備の効果が曖昧だけど、ステータスや耐性に関する物があるかもしれないしね」
「そっすねぇ」
で、俺達は露店に向かう。
「いらっしゃい」
露店には銀で出来た指輪やトルマリンの様な物がはまった指輪、真珠がはまった髪飾りやネペンダント、腕輪などが並んでいる。
「このアクセサリーって何か効果があったりするんすか?」
「ああ、いくらかはあるよ。錬金術でソウルを込めたりしてるからね」
錬金術があるとは初耳だ。町を探索して見るもんである。
「へー、錬金術みたいな生産技能はやっぱりあるのねぇ」
「特定のスピリットに変身して魔法を込めたりもするんだ、いろいろ出来るよ」
「どんなスピリットなんすか?」
「この辺のだとアクアフィッシュ・スピリットなんかが出来るね」
「へー」
アクアフィッシュか、取りに行ってもいいかもしれない。
「どの辺に居るんすか?」
「南門から出ると湖があるんだ。その辺に棲息してるよ」
「なるほど。行ってみるっす」
「でも行くのは後にしない?大分だるさは抜けてきたし、一度西のフィールドも見てみたいわ」
「うーん、そっすね。せっかく近いんだから行ってみるっす」
「おや、そうなのかい。じゃああっちのサンドストーンゴーレムには気をつけてね、石を投げてくるんだ」
「わかった、ありがとうっす。ところでこの腕輪なんかはなんの効果があるっすか?」
腕輪は銀製で、黄色い貴石がはめ込まれた物だった。
「ああ、それは毒耐性が少しつくよ。こっちの指輪は水耐性。アクアフィッシュのソウル入りさ。このペンダントは少し防御力アップだね」
腕輪は20G、指輪は30G、ペンダントは15Gとのこと。
「うーん、結構な値段っすねぇ」
「ねぇ、ペンダント、負けてくださらない?」
メイは甘い息を吐いて店主に近寄る。
きゅっと手を重ねて耳元に息を吹きかけた。
「そ、そうだな、14Gにしてあげよう」
「もう一声お願いできません?お・に・い・さ・ま」
「ひゃっ!うわぁ……そうだな…13でどうだい」
「そう……それでいいの?……ね?」
「こ、これ以上は負からん!」
「そうなの?本当に?」
甘い吐息が甘い声とともに耳朶に届く。
店主はごくりと生唾を飲んだ。
「う、うむ……じゃあ……12で」
「買いますわ♪」
「……12Gっす」
「ま、まいど」
えげつないことするなぁ。と、俺はメイの色仕掛けをみて思った。
しかしつくづくこのげーむのNPCはリアルだなぁ。
「じゃあこれ、メイが装備するといいっす」
「あら、いいの?」
「メイの方が痛覚無しの変身がないっすからね」
「ああそうね、ありがと」
首にかけたペンダントは青い石が小さく輝いている。
正直似合っていた。
そして俺達は西門へ向かったのだった。
西門から出た荒野は一面真っ赤な岩石が転がり砂も真っ赤な地形だった。
鉄でも混じっているのだろうか?
「正直、サンドストーンゴーレムって言うくらいだからテブテジュは効きにくいと思うんすよねー」
「そうねえ、衝撃を与える様な武器があれば良いんだけど……」
「いっそ石で殴るっすかね。砂岩だろうからそう丈夫じゃないだろうし」
「そうねー、対抗して投石とかいいかもね」
相談をしながら俺達は西門を出る。
通る頃には体のだるさはほとんど消えていた。
そして歩いていると、視界の向こうに人間大の石像が立っているのが見えた。
「あれがサンドストーンゴーレムっすかね」
「多分そうね、一匹だけで良かったわ」
「じゃあ石を投げられる前に急いで近づくっす」
で、俺達は全速力で駆け出した。
『ゴッ!』
そこに石が飛んでくる!
「避けるっす!」
「解ってる!」
近くに寄ると顔があるざっくりした造形の石像が動いていた。
「チェリャァッ!」
「やぁっ!」
俺達は同時に石像を攻撃する。
俺はテブテジュを裏返して棒として殴打した。
メイのつま先が石像の表面を削り、体重の乗った一撃は耐性を崩させる。
「こいつ鈍いわ!」
「よし!メェェェン!」
バシーンと棒が頭を打つ。
よろけたゴーレムはそのまま後ろに倒れた。
「殴れ殴れ!」
俺はゾンビに変身してゴーレムを押さえ込む。力が強い!
その隙にメイは全力で顔面に向かってストンピングを掛けた。
ゴーレムの顔面が崩れていくと、その中に黒い宝石の様な物が見えてくる。
多分弱点だ!
俺は手を伸ばして黒い石を掴み剥がす。
するとゴーレムから抵抗が消えて、動かなくなった。
「勝ったっす!」
「そうみたいね」
割合鈍いのでいがいとあっさり倒せたが、不意打ちなどを食らうとまずい相手だろう。
頑丈なので連携して盾役なんかされたら大変だ。気を付けなくては。
「ところでこの石、何かに使えるかもしれないっすね」
「そうね。錬金術とかに使えるんじゃない?」
「あー、なるほど」
そして俺達は荒野の探索を続けるのだった。