表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

07

テブテジュもできあがり、後かたづけもすませた俺は、メイと一緒に森の中を歩いていた。

いわゆるレベリングのための、モンスター狩りの道中である。


「あれだけ手伝ったんだから、こっちも手伝ってくれるわよね?」


紫紺の髪を翻してそういわれれば、そもそも必要なことだ、こちらに反論はない。


「昨日調べたんだけど、ここらのモンスターは猿型のマンキー、動く蔓のビオプラント、大型の蜂のフォレストビー、後は昨日私が追われてたボルフの4種類らしいわ」


ただし、ここでのボルフは隣のフィールドから流れてきた少数だけで滅多に出会う物ではないという。

モンスターがフィールド間移動するのか。気を付けないとな。

昨日のアレとまた再戦する事になったら、と肩に担いだテブテジュを握る手に力が入った。

と、森の中を走る気配を感じた。

とっさにメイの背中に身を寄せて周囲を警戒する。


「ひゃっ!?え?なに!?」


「多分敵っす!木の上を移動しててこっちから……もう来る!」


とっさに構えたテブテジュを殺気の線上に置く。


『ギャッ!』


すると堅い物が当たる音と、黒っぽい猿が弾かれる音を同時に聞いた。

最初の堅い物はおそらく投げた石か何かなのだろう、ならば次の猿が石を投げた攻撃者で……


「マンキーっす!4匹はいる!」


読んだ気配の数を率直に言って剣を八双に構えると、メイもさるものでとっさに俺のカバーに回ってくれた。

森の中を走り回る猿たちは居を一点に構えず、ぐるぐると森の中を俺たちの周りを回っている。

どこから来るか……


「そこッッ!」


『ギャッ!』


飛びかかる猿に対し、カウンターで放った俺の突きは猿の腹部を深くえぐる。

すんでの事で縫い止められる前に飛び出した猿は、しかし腹部からおびただしい出血を伴い地面に落ちた。


『『『ギャギャギャ!!!』』』


打ち込みの隙をねらって3匹の猿が俺に飛びかかるが、うち2匹はメイの一蹴で森の茂みに蹴り返される。

1匹は俺の顔にとりつこうとしたが遅い。

瞬間俺はジャッカロープに変身し、頭上を空振りする猿に剥けて全力で飛びかかった。


『ギィーッ!!』


額の角は猿の胸を貫き、もがく猿が何かするより先にゾンビになった俺は空中をずり落ちてくる猿に蹴りを放った。


『ガフッ……』


木にたたきつけられた猿はそのまま動かなくなり、俺は瞬時にヒトに戻る。


「いけそうっすね」


剣を構え直して俺が言う。


「いけるわね」


メイも姿勢を変えて猿に備える。

残りは2匹と死に体だけだ。


『『ギィーッ!!!』』


破れかぶれになったか、ほぼ直上から2匹の猿が同時に襲いかかってくる。


「ッシャァ!!」


しかし一方の猿はメイの真鍮の脚に絡め取られ、地面にたたきつけられるとともに尖ったつま先を全体重とともにをえぐり込まれた。


「チェェーッ!!」


そしてもう一方の猿は、裂帛の気合いとともに振り下ろされたテブテジュの餌食となり、真っ二つに千切れて命を散らした。


「フゥゥー……」


ついで残心を行っていると、残ってもがいていた猿がばたりと地面に倒れた。

出血多量で事切れたのだ。

そしてこの戦闘は俺たちの勝利に終わった。





「マンキーの皮は剥きにくいっすねぇ」


俺は皮を剥ぎながらぼやく。これも革になれば買値が付くかと考えてのことだ。


「しかし一匹は真っ二つって……」


メイが死体を引きずりながら言う。

そうは言われても切れてしまった物は仕方ない。

どうやらこのテブテジュ、思ったより切れ味が良いらしい。


「そいつは皮にしても小さいんすよねー……」


と、言いながらも一応は剥ぐ。

売れなくても使い道はある。いろいろ調べてきたのだ。


「にしても、さすがに4門で一番きつい北だけのことはあるわね。連携してくるとかすごい差じゃない」


4門とははじまりの町の東西南北4つの門の事だ。

今居る北門前の森が一番きつく、昨日まで居た東門前の草原が一番易しい。

あとは南の湖、西の荒野の順にきつくなるとのこと。

昨日の今日で北はつっこみすぎとも思ったが、メイは大丈夫と請け負う。

事実、多少の驚きはあったものの無傷で勝利しているため、彼女の目算は正しかったことになる。


「まぁ、連携はあっても動きはそこまで鋭くなかったっす。落ち着いて捌いていけば向こうが削れてこっちの勝ちっすよ」


メイはそうねと頷いて周囲に目を配る。

ゲームには慣れているだけあってパーティープレイという物をよくわかっている様だ。


「にしても、これからモンスターを倒していくと体の部位がどんどんたまって来ちゃうっすね」


持てる荷物の量も解体に使う水も足りなくなっていくだろう。

もっと言えば、一人では持ち運べない大きさの戦利品を獲る可能性もある。


「そうねぇ、このゲームってアイテムボックスやインベントリなんて親切な物無いものね」


「あー、大きさとか重さを無視できる荷物入れっすか。ありそうなもんなんすけどねー」


現時点でも鍋に水袋に肩掛け鞄と結構な荷物である。


「って、あ」


そこまで考えてふと思い当たる現象があった。

肩掛け鞄を降ろし、ゾンビに変身する。


「え?どしたの?」


要領得ないメイを置き去りに、俺は肩掛け鞄を掛けてヒトに変身する。

すると……


「ほら、みるっす!」


俺の肩には何もない。鞄はゾンビの変身の中に置き去りになったのだ。


「変身がインベントリの代わりになるのね!」


考えてみれば、ウサギに変身したときに荷物に押しつぶされる事も無かったし、ゾンビになったときは剣が無かった。

つまり変身の内荷物持ちになるものがあれば荷物問題はある程度解決する。


「それ以上に……」


それ以上に、強くなるには変身ごとに装備が必要なのだろう。

ゾンビにはゾンビを生かす装備が、ジャッカロープにはジャッカロープを生かす装備が、だ。

メイもその辺りを理解したらしく、これは生産必須ね、と興奮した面持ちでいる。

それに対して俺はというと……そこまでテンションが上がらない。


「ゾンビも結局使うんすよねぇ」


そう、自分はどの変身でもそれなりに使う。空いている変身など無いのだ。

ゾンビになって鞄を降ろし、ヒトに戻って掛け直すと思わずため息が一つ出た。


「あっ、私はあるわよ!」


「ほんとっすか!?でも何を……」


と、言うが早いかメイの輪郭が一瞬ぼやける。


「ふふふー、私はヒトを使ってない!」


そこにいたのは……ほとんど変わらないメイだった。


「……あんまり差ないっすね」


角や羽、脚の真鍮のブーツなどは無くなり、服装は幾分厚着になったが、髪や薄い胸、それに比べると立派な臀部などは元と全く変わらない。


「うるせぇー!そんなことより荷物持ちだろ!私が持つから寄越せ!」


などと叫んでメイは俺から荷物をひったくる。

鍋、鞄、水袋を渡すと、それを次々と装備して薄い胸を張った。


「フフフ、どうよ!」


「あー……気は進まないすけどお願いするっす」


「なによー、テンション低いわねぇ」


メイはエンプーサに戻りながらぶーたれる。


「言うほどアゲる理由が見つからないっす」


確かに新発見だけど、それだけだし。

それ以上に女の子に荷物持ちさせるのが気が引けている。


「ちぇー、しゃーないわねー。レベリングの続き行きましょ」


「おっす!」




「アレがビオプラントっすかね」


視界の向こう側で木に絡まったツタがうねうねと動いている。


「多分そうね。普通のツタに擬態するような奴じゃなくて良かったわ。行きましょ」


「ちょっと待つっす。他に気配があるっすよ。木の上っすね」


「またマンキーかしら」


「いや、色が違うっす。蜂の巣みたいな……多分フォレストビーっすね」


「二種類連携してくるってわけね。手分けして当たりましょう」


「うっす」


そして俺達は森の中を忍び足で移動する。

しかしおそらく匂いか何かでこちらを感知しているのか、蜂の巣から20cmほどの蜂が三匹飛び出してきた。


「気付かれた!一気に殺るっす!」


言うが早いか、メイはストライドを全力で取って走りだす。


「多分フォレストビーは脆いんで頼むっす!」


俺も遅れること無くその横を併走してビオプラントに向かう。

のこぎり状のテブテジュは植物を切断するのに効果的だろうからだ。


「チェイ!」


「やぁぁっ!」


剣を振るのと同じタイミングでビオプラントがツタを鞭のようにしならせこちらを攻撃してくる。

俺はそれをしのぎで弾き、ツタの先端に突きですり切る用に一撃を入れた。

堅い!先端は硬質でテブテジュの刃はほとんど食い込まないままお互いが弾かれる。

隣ではメイが飛び来る蜂に向かって蹴りを放っていた。


「チェヤァッ!」


再度振るわれる鞭を避けて根元に向かって突きを入れる。

当たった!こちらは手応え十分、太いツタに一定の切り傷が入る。


「行ける!」


「こっちもよ!」


メイは精密な動きで蜂を蹴落とすと、そのつま先ですかさず蜂を踏む。


「まずは一匹!」


その瞬間にも蜂はメイを刺そうと行動する。しかし大振りな蹴りを自在に放つメイに近づけない様だ。

その様に業を煮やしたのか、一匹の蜂が俺の方に向かってきた。

避けきれない!連続して振るわれるツタを弾くのに手一杯で回避行動がとれず。右腕に蜂の一撃を受けてしまう。

痛いじゃないか!って右腕が痺れる!麻痺持ちだ!


「刺されると部位が麻痺するっす!気を付けて!」


「解ったわ!」


その間にもメイは飛び来る蜂に一撃を入れ、木に蹴り付けて動きを止めさせた。


「ええい!」


俺はゾンビに変身し、振るわれるツタに打たれるのも無視して無理矢理つかまえた。


「チェヤァァッ!!」


ツタを力任せに引っ張ると、切り傷の所からツタが引きちぎれる。

そしてビオプラントは動かなくなった。

その間にも蜂はこっちを刺して来るが、ゾンビに痛みはない。

瞬間、俺はヒトに戻り左手でテブテジュを振るう。

一撃が蜂に食い込み、蜂は胴と腹を切り裂かれて死んだ。 

残心 の内で俺はもう一匹の蜂に注意を配るが、蜂は体液を漏らしてもう動かなくなっていた。

勝った様だ。


「終わりっすね」


「みたいね」


片腕が痺れる。これは自然回復するまで動かせそうにない。


「痺れがとれるまで休むっす」


「そうね。刺されなくて良かったわ」


そうして俺はしびれがとれるまで休み、ビオプラントのツタと、フォレストビーの甲殻、針を手に入れた。

針は5cmほどで思ったより長く、そして結構太かった。


「何かに使えそうっすねー」


「そうね、針は鏃とか槍の穂先に良いんじゃない?」


「そうっすね、槍でも作ってみるっすか」


そうして俺は適当な木を切り出すのだった。

あと、メイはビオプラントのソウルを手に入れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ