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02


先輩と別れた後、草原に帰ってきた俺は能力の検証…というか体感に時間を費やした。

とにかくゾンビというのは鈍い。

馬力があるだろうというのは理解できるが、動きの鈍さの方が鼻に付く。

これは普段の生活で人間の動く速度に慣れているせいだろう。

だがやはり力はたいした物で、そこらの岩を持ち上げてみると生身では持ち上がらないだろうサイズの岩でもしっかり持ち上がる。

それにいろいろやっていて気づいたことだが、とても重い物を持ち上げたとしても手が痛くなったりはしない。

そういえば胴を突かれたときも痛くはなかった。たぶんゾンビだから痛覚がないのだろう。

この分だと火に弱い、みたいなゲームのお約束の通りの体なんだろうな。

そういや魔法のステがよわいだったか。あれは魔法への防御力も示してるんだろうか?


と、石を弄りながらぶらぶらしていると、視界の端にうごく白い陰が見えた。

よく見るとソコラビットがこちらを警戒して立ち止まっている。

そこまでアクティブなモンスターではないのだろう。

ちょうどいいや、俺の初戦闘の相手になってもらおう。


「せいっ!」


放物線を描く石は地面に命中して砕けた。

ソコラビットは素早く横に飛んで避けたのだ。

そして横に飛んだソコラビットは俺に向かって突進してくる。

まずは真正面から受け止めてみるかな。

決してモフモフを味わいたい訳じゃないぞ!


「おっ」


ドチッ、と鈍い音がして俺の体が少しずれる。

思ったより威力があるようだ。HPバーも1割は減っている。

でも痛みや行動を阻害される感じはない。さすがのゾンビだ。

ついで俺はもう一度突進してきたウサギを両手を広げて迎え入れる。


『ギャン!』


瞬間、白羽取りといった感じでウサギの胴体が俺の手に挟まれた。

そのまま軽く腕を閉じると、ウサギの体からメキメキと音が鳴り、もがく勢いが無くなっていく。

ああ、モフモフでも敵なんだよなあ。別に殺ることに忌避はないけど。

そしてベキッと音がしてソコラビットは動かなくなり、体からはふわりと光球が浮かんだ。

吸い込まれるように俺の体に消えていく光球に、俺はステータスを開いた。




ライト ゾンビ・スピリット

強さ:うまれたてに毛が生えだした。


身体:鈍いが馬力はある。

精神:いまいちだが一部は無敵。

魔法:よわい。


所持スピリット

ヒト・スピリット

ゾンビ・スピリット


所持ソウル

ソコラビット・ソウル




おお、ちゃんとソウルが入ってる。

しかしほんとざっくりさっぱりしたステータス画面だこと。

このウサギの死体はどうしようかな。ちょっとグロいな。

とりあえずそこらに捨てておこう。先輩も言ってたし大丈夫だよね。

そしてとりあえずの俺はウサギ狩りを開始したのだった。





「おうっ」


胴体でソコラビットを受け止め、捕まえては潰す。

ここ1時間ほどウサギ狩りをしてたどり着いたのは、初対面と同じ戦い方だった。

ヘタに追いかけようとしたらおいて行かれるし、殴っても速度が無いし相手が軽いから効きが悪いんだよね。

と、次のウサギを見つけた。

それでもなんか工夫してみよう。……そういやこの俺が口から出してる液って毒とか在るのかな。


『ギャギャギャ!!』


ということで捕まえたウサギに液を吐きかけてみた。

ウサギはうめき声を上げて暴れている。

表面が軽く腐食してる感じだが、粘膜以外にたいしたダメージは無い感じだ。

しかしこれ、なんかこー特有の感覚で喉の奥から生産する感じだ。

これが固有の能力を使ってる感じなのだろう。

なんか不思議だなー。


『ギャウッ!』


と、足下からなにかの衝撃を受けてウサギが手から滑り落ちた。

何事かと下を向くと、足を角のような物が貫通していた。


「うわっ!」


俺がびっくりして飛び退くと、地面からは角の生えた大きなモグラのような物が頭を覗かせてすぐに土中に消えたのが解った。


「っとと」


土中からもう一発角が飛び出してくるのをとっさに避ける。

すると勢いづいて空振りしたモグラが宙を舞った。


「そこ!」


俺は腕を振り回してモグラを弾くと、地面に転がったその上に圧しかかり締め潰そうと力を入れる。


「チェェェッ!!」


『ギュィィィ!!』


思わずいつものかけ声が出るくらい力が強い。

必死に押さえ込んでも俺をはじき飛ばしそうな勢いで暴れている。


「だぁぁもう!!」


そして俺は全身でモグラを抱きかかえ、渾身の力で締め付けた。


『ギッ!ギュゥ……』


やっとの事でモグラはつぶれ、ソウルが浮いて俺の中に入ってきた。

この調子だと初めて戦う相手だと確実にソウルが手に入ったりするのかな?



所持ソウル

ソコラビット・ソウル×4

ツノモグラ・ソウル



所持ソウルを見ると、新しいソウルが追加されていた。

あいつツノモグラって言うのか。倒すのに忙しくって名前なんて見てなかった。

で、ヒトに戻って一息つきがてらにぼんやりと所持ソウル欄を出していると、不意にある言葉が脳裏に浮かび上がった。


「……ソウルの、合成?」


頭の中にジワっと沸いてくる感じのその言葉をつぶやくと、スキル欄に新たな文字が追加された。


『合成』


もしかしてこれでソウルを合成してスピリットを作れるのだろうか。

にしても非常に曖昧な発生というか、脳に直接入力されるにしても穏やかすぎるというか、気づかなかったらどうするつもりなんだろう。


「えーっと、合成……っと」


そんな思考を画面に戻して入力すると、『合成可能』という表示とともに、下にレシピ表のような物が浮き上がってくる。



『合成可能』


ソコラビット・ソウル×4=ソコラビット・スピリット


ソコラビット・ソウル×2+ツノモグラ・ソウル=ジャッカロープ・スピリット



ふむ。

ソコラビットのソウルからソコラビットのスピリットが出来るのは解るけど、下のはなんだ。

ジャッカロープ……聞いたことはないな……合成で新たに出来るスピリットなのか。

まあツノモグラもソコラビットもこのゲーム特有の名前だしそんなモンスターも出るのだろう。


「んじゃ、ジャッカロープ・スピリットを合成!」


ならば変身まで見たことのあるソコラビットより、知らないモンスターの方が面白いだろう。

合成に思考を持って行くと、その場で体から三つの光球が飛び出した。


「おぉ……」


目の前をぐるぐる回る光球は少し幻想的だ。

だがその動きはすぐに止まり、中央にあつまってぱぁんと音を立て大きな光球になる。

そしてそれは即座に俺に吸い込まれていき、確認した俺のステータスがこうなっていた。




ライト ヒト・スピリット

強さ:毛が生えた程度。


身体:運動神経はあるほう。

精神:そこそこ。

魔法:未知数。


所持スピリット

ヒト・スピリット

ゾンビ・スピリット

ジャッカロープ・スピリット


所持ソウル

ソコラビット・ソウル×2




これで変身が増えたのだろう。そういやスピリットの所持上限とかあるのかな?聞いてなかった。

もしかするとヒト・スピリットを捨てるときが来るかもしれない。

でも逆にヒトの方が有利な場合もあるかもしれないな。


「っし、変身っ」


そんな事を考えつつ俺は試しにジャッカロープになってみた。

全身が一瞬ぼやけ、視界が低くなる。

見た感じ目線は膝より上だろうか。そんなに大きくない。

というかやたら視界が広いのに苦も無くをそれを理解できている自分がいる。

体にはうずくまっているような感覚があるが、同時にそれを苦にしない間接や体構造をしているのが感じ取れる。

のは良いのだが……


……困った。自分の姿が確認できない。


おおざっぱにどんな動きをするかは解るのだが、体の各部を自分で見るのが難しい。

試しに体をばたつかせて見ると、ペタっとした物が視界の端を横切った。

体制感覚でわかる。あれは耳だ。

少なくともこいつは長い耳をしているらしい。

そして手を挙げて顔をたたくと、モフモフした肉球のない白い足先が見えた。

……ウサギじゃね!?


「まぁ、だいたいウサギのソウルから出来てるけど…ただのでっかいウサギかぁ」


しゃーないか、とポフポフ自分の顔をたたいていると、なにか堅い物に突き当たる。


「ってなんかあるな」


それは両手で挟んでも先端が解らない位に長い角だ。

このウサギ、角が一本生えている。


「頭に角の生えたウサギなのか」


それならツノモグラ要素も理解できる。ウサギに角を追加したモンスターなんだな。

しかしこの角なら……


「なんか、頭で突きが出来そうだな」


そういえば剣と魔法の、ってゲームじゃないからすっぽ抜けてたが、俺、剣道部なのに棒の一つも使ってこなかったな。

こいつの突きも期待できるが、適当な木の棒でも見繕って振り回してみるのも良いかもしれない。

そういや昔は木刀なんかを自分で削り出して遊んだなぁ…


と、思い出にふけるのはさておいて。

次はこのスピリットの性能を試そう、とぴょんぴょん跳ねて移動を開始する。

視界が草むらをかき分け上下に跳ね回るがどうということはない。

しかしよくもまぁこんな体になっても違和感が出ないもんだ。

小脳代理演算プログラム、だっけか。あれがよっぽど優れているんだろうなぁ。


…で、ソコラビットを見つけた…ので突進に合わせて角を突き出したら…


グロかった。


ぐさっ、って。


自分の力で串刺しになって中身まき散らしたウサギが頭にべったりとですね。


閑話休題。

俺が頭に張り付いたウサギを落としにヒトに戻ると、返り血は自然と消えていた。

ゾンビの時に吐いて体に付いた粘液も消えるし、変身ごとに消えるか持ち越すかするのだろう。

……持ち越しだったら次にジャッカロープに変身するのが何となく嫌だなぁ。

そして俺は気持ちを切り替え、適当な棒、武器を探すべく移動するのだった。




ライト ジャッカロープ・スピリット

強さ:毛が生えた程度。


身体:すばやいいきもの。

精神:べつに。

魔法:何を期待しているの?


所持スピリット

ヒト・スピリット

ゾンビ・スピリット

ジャッカロープ・スピリット


所持ソウル

ソコラビット・ソウル×2


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