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01

俺の名前は早瀬明雄、高校生。

ゲームしたりバイトしたり部活やったり、そして勉強がおろそかになったり、補習をギリギリ回避したりといった平均的な高校生活を送る一男子だ。


そんな俺だけど、昨今のVRMMOブームの波には乗り遅れていた。

なんでってVR筐体は高い。

今まで貯めたバイト代の半分――といっても結構無駄遣いで減っている――が消し飛ぶほどのお値段だ。

そして筐体と同時に買ったソフトが『モンスタースピリット・オンライン』。

部活の先輩がお前にピッタリだと言って勧めてきた代物だ。

が、なんと言ってもこのゲームの特徴は「自然な曖昧さ」らしい。

どのくらい曖昧かというと――




ライト ヒト・スピリット

強さ:うまれたて。


身体:運動神経はあるほう。

精神:そこそこ。

魔法:未知数。


所持スピリット

ヒト・スピリット




このくらい。

あ、ライトってのは俺のキャラの名前で、これレベルとステータスの表示ね。

ヒト・スピリットっていうのは現在の種族名。

あとHPとMPとスタミナらしきバーが三本あるけど数字表記は無し。

自然ていうかすげぇー雑。


「それが最新鋭のAIによる「ファジィジャッジ機能」だとさ」


と、人通りの多いモニュメントの前で自身のステ表記を見てちょっと引いてた俺に声が被さる。

そこには俺をこのゲームに誘った剣先輩――高校の剣道部の先輩だ――のキャラが立っていた。

髪型は現実と変わらぬ後頭部での一つ縛りで、髪色こそ青く顔もいくらか違うが、雰囲気に口調、それと腰に下げた剣が様になっている所で見分けがついた。

剣道部だけに、というか先輩は特別、剣を差した状態での立ち居振る舞いや隙の無さが違うのだ。


「要は人間並の知恵を持ったAIが文字でテキトーな評価をぶっ込んでくれるだけだ。気にしねー方が良いぞ。ヘタすると見るたび変わっからな」


整っているのにどこか伸びたような印象がある顔を組んだ手で支える様は髪型と相まって浪人っぽい。

この人の場合は髪型のことを総髪髷って呼んだ方が良いかもとか思う。自称武士とかいってたし。ていうか着物だし。


「んで、このキャラの名前はケンな。由来はそのまんま。で、お前は……」


「ライトっす。安直さはあんまり変わらないっすね」


髪の毛を赤に染めて、ちょっと弄って顔の印象を変える程度にした相変わらずの普通顔なキャラがたははと後頭部を掻く。

体格とかは変えない方が楽だしこんな物で良いだろう。俺にネカマ願望や体格への不満はない。このゲームの場合叶えられるみたいだけど。

すると先輩はそっか、と言ってつかつか歩き出す。

いつものことだと後ろをついて行くと、ヨーロッパとも言えないファンタジーな町並みが広がっていく。遠くには城壁も見えた。

ちなみにさっきまでいた場所はここ、『はじまりの町』の中央広場である。要はスポーン地点ってことだな。

他にもプレイヤーとおぼしき人たちもちらほら居た。

町は全体がセーフティゾーンでもあるので、どこででもログアウトが出来る。


「知ってるだろうがこのゲームはモンスターに変身して戦うゲームだ。変身はスピリットの切り替えでできる。まーお前はヒト以外持っちゃいないだろうがな」


うっす、と俺は歩きながらで先輩の話を聞きつつ、町並みをお上りさんのごとく観察する。

石畳の上には煉瓦の家が建ち並び、水汲み場にはNPCらしきおばちゃんたちがたむろしている。

肌に感じる風といい、青い空からの陽光の暖かさといい、まるで現実みたいだ。


「つーか設定上?この世界に居る奴らはみんなスピリットなんだと。そこらのNPCはネイティブ・スピリットって種族らしいぜ」


となるとあのおばちゃんたちもネイティブ・スピリットなのか。何で種族が違うんだろ。

市を遠目に見れば飴売りに群がる子供が居る、焼き鳥をかじりながら呑んでるおっさん達がいる。

……ヒトと何も変わらないように見える。


「前にNPCに聞いたら外来人って意味があるらしくってな。要は現実の話をしてトンチンカンな事になっても、外来人だから、で済ますためのシステムらしい」


なるほど、NPCとPCの文化の違いをそれらしい物言いでごまかしてるってわけか。

こんなファンタジーな町並みで「あなたはPCですね」とか言われたら確かに興ざめだ。


「……あと、NPCは死んだら終わりだ。気ぃつけろよ」


と、その瞬間、俺は殺気を感じて半歩後ろに飛びすさった。

鳥が一斉に飛び立ち、俺は先輩の後ろで思わず身構える。

そして先輩は振り向くことなく殺気を鎮めてから、振り返ってニカッと笑った。





さほど大きくない町を抜け、城壁の門番に会釈すると、俺たちは草原に出た。

真ん中に街道のある草原は穏やかで、これがモンスターの出る世界かと思う。

俺たちと同じように草原を歩くヒトがそこここにいるが、戦っている様子はパッとは見えない。

するといくらか歩いたところで、一匹のウサギが道ばたで寝ていた。

……撫でれるかな。


「そいつは「ソコラビット」だ。一応アクティブモンスターだぞ」


はっ、と一瞬ウサギに向いた意識が引き戻される。アクティブと言うことは自主的に襲ってくるモンスターだ。

思わず伸ばしかけていた手をごまかすように振ると、先輩が何も気にしない風にざくざくと草原に踏み入っていく。

よく見ればウサギの上に「ソコラビット」と言う名前が表示された。


「ちょうど良い、スピリット切り替えるとどうなるかちょっとだけ見せてやる」


そう言うや否や先輩の体は一瞬ぼやけたようになり、次の瞬間には一匹の青みがかった大きなトカゲになっていた。

驚いたのは寝ていたウサギである。トカゲが四肢を着いた衝撃で飛び起き、訳もわからぬままトカゲに突進していった。


「鈍っ」


バン、と音がして、トカゲの足の下では奇妙につぶれたウサギがぴくぴくと痙攣している。


「悪ぃ、弱すぎて見本にならなかった」


と、次の瞬間には喋るトカゲの姿がぼやけ、片膝を着いた先輩がウサギの死体をぶら下げていた。

そしてしばらくすると、ウサギからふわりと光の球が立ち昇る。


「ああ、これが『ソウル』な。モンスターを倒すと必ず出る。『ソウル』は合成して『スピリット』にしたり、まぁいろいろ出来るもんだ。取得に成功すればこのまま俺に吸い込まれるんだが……消えたな」


言うが早いか光球は宙に解けるように消えてしまう。

つまり光球が出るまでモンスターは死んでいないということでもある。覚えておこう。


「あー、そんで死体は残る。扱いは基本ほっとくか」


続いて先輩はウサギの死体を投げ上げると、落ちてきたウサギは瞬時に変わったトカゲの口の中に吸い込まれた。


「こーやって食ったりするか。ま、テキトーにいろいろするもんだ」


ばりばりと音を立てて、ウサギは消えていった。





「で、スピリットの取得の仕方だがよ」


俺たちは草原を抜けて脇道に入り、初心者が来る所ではないんじゃないかなー、という感じの湿原に来ていた。

湿原というより毒の沼地といった感じだろうか、沸々と腐臭が周囲に立ちこめている。人気もない。

しかし先輩は蕩々と説明を続けている。なにか考えがあるのだろうとは思うけど……


「基本はソウルを集めて作る事だが、他にも取得方法がある」


そういうと先輩は立ち止まり、俺も立ち止まって周囲を見渡す。


「一つはなぜかキャラクリエイト時から持ってる場合だ。なんでかはわからんがな」


そして先輩は腰の剣に手を添え、話を続ける。


「もう一つは……

……こんな感じだ」


瞬間、飛び退くより先に先輩の剣が俺の体を深々と切り裂いていた。

俺はよろめき、毒の沼地にどぼんと身を沈めていった。


「袈裟じゃぁ一本はとれねぇなあ」





ごぼごぼ。

なんで斬られたかもわからないがそんなことよりすさまじくくさい。

腐臭に侵されて全てが腐っていくみたいだ。

痛みはもう痛みを通り越しているはずなのに、骨の髄まで腐るように痛む。そして臭い。クサイ。くさい。

ごぼごぼ。

ああ全てが腐って沈んでいく……


「ぶはぁーー!!くっせぇーーー!!!」


勢いよく起きあがりべちゃっと地面にしがみつくと、沼地が案外浅いことに気づいた。


「先輩なんすか!めちゃくちゃ臭いじゃねっすか!くっさいんっすようぐっぇ!!」


勢いづいてわめいた俺の接近を鞘の胴突きが押し返した。

先輩は鼻を押さえてこちらを見、特に顔色を顔色を変えるでもなく言い放つ。


「くせぇのはオメーだっての。で、おめっとさん。スピリット取得だ」


へ?と起きあがった自分の体を見ると、紫色の腐肉が見えた。

袈裟に斬られたはずの傷は見あたらないが、体の所々が欠けて骨やらがチラ見えしている。

これって……


「そいつはゾンビ・スピリット。これが第三の取得方法、環境に適応してモンスターになるっつー手だ」


「お、俺今ゾンビなんすか!?うわっこれっ……なに!?」


開いた口からどろっと粘液がこぼれれ、自分でも引く。


「ヒトの死体が腐った沼に適応してゾンビになる、とかそういう感じらしいぞ。さらにそこから適応して進化することもあるんだとよ」


場合によっちゃ今みたいに死に戻りも回避して復活する事もある、とか。


「なんか他人事みたいな言い方っすね」


「俺は経験ねーからな。ただこの手が解ってからは「初心者はまず殺して沼に沈めてやる」のが親切って事らしいぜ」


「なんすかその狂った親切!」


「実際、ヒトだけで最初のスピリットを獲得するのは普通面倒なんだよ。そんななりでもあると楽らしいぞ、ゾンビ。ステ見てみろよ」


言われてステータスを見るとこんな感じだった。




ライト ゾンビ・スピリット

強さ:うまれたて。


身体:鈍いが馬力はある。

精神:いまいちだが一部は無敵。

魔法:よわい。


所持スピリット

ヒト・スピリット

ゾンビ・スピリット




鈍いが馬力はある、ってのは確かに悪い言い方でもないだろう。

というか最初は生身で戦わされる所だったのか……

と、見ていてふと気づいた。


「そーいや、臭くないっすね」


「そら死んでるからな。そのスピリットに嗅覚と味覚はないらしいぞ」


ごぽ、と口からこぼれ出る粘液も、よく考えれば感じていない。

なるほど、確かにこれは毒沼に適応した存在かもしれない。

そして俺はよっこらっしょと沼から陸に上がった。


「他にもスライムなんかの中には視覚の無い奴なんかもいるらしい。逆になんか別の感覚のある奴もいるんだとさ」


「へー……ところで、これどうやったら戻るんすか?」


「ヒトに切り替えようとすればいい。なんっつーかなー、頭の後ろ隅っこの方でスイッチを押す感じだ。思い切り感覚的な思考入力なんだよ」


こう、と言いながらトカゲになっては戻りされてみても、パッとはわからない。

変身しやすい順位をショートカットで決めれるらしい、と言われて設定をいじったら、ようやくヒトに戻ることが出来た。

でも、油断したらゾンビになりそう。何このゲーム。


「今お前なんだこりゃと思ってただろ。だよなー。ま、人間に超能力でも持たせればこうなるんでないかって感じだからな。慣れりゃ頭の中で持ってるスピリットを瞬時に認識したりできるぜ」


で、こうやって切り替える、と言った時にはトカゲがウサギに変わり、ウサギはヒトに変わった。

ソコラビットのスピリットももってたのか。


「あと、スピリットは使い込むと強くなるみたいだ。適性かなんかの有無でどんだけ強くなれるかは違うみたいだがな」


へー、と答えながら俺はゾンビになったりヒトに戻ったりを繰り返している。

HPなどのバーをみていると、どうやら切り替えで消耗するものは何もないらしい。


「それからまー手早く言っとくが、このゲームでは回復アイテムはあんまり当てにならない。基本自然回復頼りだ。ゾンビはHPの自然回復がねーから気をつけろよ。それにジョブやスキル制なんかもないし初期装備もない。あとギルドなんかは初心者は受け付けてない」


ま、この夜のない世界に、ほどほどに慣れたら一緒にやろうや、と先輩は続ける。

そしてフレンド機能の説明を受けてお互いを登録した。

俺も一緒にやれるようにがんばるか。

そして先輩はやおら居住まいを正して口を開いた。


「じゃあ今日はここまで!以後自由に遊べ!」


「オッス!」


そして、俺の冒険が始まった。

よっし、強くでもなってみっか!


気が向いて書き始めてみました。

勢いに乗って書き進めたいです。


あと何々っすは彼なりの敬語です。

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