表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/87

84 最後にあえて、良かった

 不死の王は串刺しになって、息絶えていた。

 地面に固定された不死の王は、枯れ果てたミイラの様になっていた。


 あれが千年活動したとい結果なら、当然だろうという感想だった。


 後ろからは歓声が上がり、不死族に勝利したことを喜んでいた。


 治った右手と左腕を見た。

 ちゃんと動く。

 

 俺は、不死の力を手に入れた。




 

 一週間以上かけて王都へ帰った。

 その間、騎士団はお祭り騒ぎだった。

 

 自分の武勇伝を語り、少ない酒を飲んで酔っ払う。


 どの騎士も俺と不死の王の戦いに興味があるらしかった。


 どんなやつだったか。

 どうやって勝ったのか。

 いろんなことを聞かれた。

 

 言いにくい事は言わず、適当に話をしておいた。

 俺も不死の王に勝って、悪い気分ではなかった。


 道中さまざまな奴と話した。

 行きは誰とも喋らなかったのに、帰りは喋りっぱなしだった。


 アイカたちも勇者の仲間という事で、鼻が高いようだ。

 あんまり活躍してないけどな。


 それでも勇気が出たのは確かだ。

 

 そして王都に付くと、多くの国民が迎え入れてくれた。

 こんなに人がいたのかと思うほど、人に出迎えられた。


 感謝の言葉を投げかけられ、照れくさくて下を向く。


 人間臭い行動だ。

 もはや俺は永遠を生きる悪魔だというのに。


 多くの歓迎を受けながら、若干名と共に王城に入った。

 すぐに大広間に呼ばれた。


 王やその家族。貴族が待ち構えていた。ドワーフの女王も居た。

 エルフやそのほか種族も勢揃いしていた。


 王の前まで行って、跪いた。

 これが礼らしいから、一応やっておいた。


 アイカたちも二回目だから慣れたものだった。


 王が立ち上がって、壇上から降りてくる。立ち上がってくれ、と言われたので、全員立った。


「先に伝令からすべてを聞いている。よくやってくれたユウキ。こんなにうれしい事はない」


 王は涙を流し、心から喜んでくれていた。

 他の貴族は拍手をして、勇者の凱旋を喜んでくれていた。


 ひとしきり感謝の言葉を受けて、他の貴族からもその場で色々な言葉を貰った。

 だいたいは良くやってくれた。嬉しい。とかそんなものだ。

 

 最初の方は嬉しかったが、あとの方になるとどうでもよくなっていた。

 何故なら、当初の予定を思い出したからだ。


 王に俺の復讐対象者を見つけてほしいとお願いする。 

 それがわざわざ不死の王を殺しに行った理由なのだから。


 俺が何か言おうとした瞬間に、王が不穏当な言葉を発した。


「ユウキに比べ、召喚した奴は真に使えない奴であったな」


 首が勝手に動いた。

 王は妻と話している様子だった。


「えぇ、本当に。わざわざ国宝まで使って呼び出したにもかかわらず、どこかへ逃げたのでしょう? 使えないったらありません」

「何人も呼び出せればよかったのだが、国宝は一つ。失敗したときは、国が終わるかと思った」


 体中が震えた。

 まさか。まさかまさかまさか。


「お、王……? その、話は……?」


 一人、ゆっくりと王に近づいた。

 王とその妻が俺に気付いたようで、こちらを振り返った。


「おぉ、ユウキ。何。異世界から不死の王を殺すための勇者を召喚したのだがな。これがてんで使えない奴で。己が使命を忘れ、どこかへ消え去りおったのだ。ユウキ、どう思う? こやつ。ユウキとは比べるべくもないが、真つまらない人間であろうな」


 指先が、全身が!!

 こいつを殺せと!!


「……それに、ついて。王は、どのように……?」

「どのようにと言われてもな。つまらぬことに国宝を使ってしまったと、後悔しているくらいかの」

「31人が犠牲になった事については?」

「ぬ? 人数の事を入ってないはずだが……?」

「いいから答えろ!!」


 怒号が大広間をつんざいた。


「……なにをそんなに」

「いいから、答えてください……」


 下を向いた。

 武器を持っていて良かった。

 

「なんとも。異世界に住民など知った事ではないわ」


 もう限界だった。


「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 黒剣を抜いて、王に向かって駆け出した。

 王は驚いた表情をして、固まっていた。


 俺と不死の領まで同行していた騎士も、突然の事で動けていない。


「死ねぇぇぇえええええ!!」


 縮地突きで距離を詰めた。

 王はあっさりと腹を貫かれた。


 そのまま上に覆いかぶさり、両こぶしで殴り続ける。


「死ね! 死ね、死ね、死んでしまえ!! 俺たちの命を何だと思ってる!? お前らに命を蔑ろにされるいわれなんてない!」 

 

 王の顔面を殴る。殴り続ける。


「うおぉらぁああああああああああああああ!!」


 拳を握りかため、乾坤一擲の正拳を王の顔面に叩きこんだ。

 拳の威力で、王の頭は熟れたトマトのように潰れた。床には放射状のひびが入った。


 静寂が大広間を包んだ。

 砕けた拳が即座に治る。これが細胞新生。


 ゆらりと幽鬼のように立ち上がった。

 王の腹に突き刺さる黒剣を抜き取った。

 次に目に入ったのは、王の妻だった。


「遠当て」


 ズバンと音を立てて、妻の体が真っ二つになった。

 ぬめり気のある音がした。ドチャリ。

 妻の真っ二つになった体から、遅れて血が湧き上がった。


 もはや、俺の復讐対象は、この世界だった。


「お前ら全員殺してやる!!」


 黒剣をしまってエストックを取り出した。

 爆発(エクスプロージョン)を辺り構わず、撃った。撃ちまくった。

 王城の壁が崩落し、床が破壊される。


 凄まじい爆発爆炎。

 どいつもこいつも、死んでいた。


 まだ息のある貴族たちに止めを刺していると、ふと視線を感じた。


 アイカたちだ。


 しまった。我を忘れて、あいつらの事を忘れていた。


 俺はどうするべきなのだろうか。

 あいつらも殺すべきだろうか。


 何をするにも一緒にやってきた仲間だ。


 わざわざ不死の王を殺すのも手伝ってもらった。

 そいつらを殺す? 仮に復讐の対象が世界になっても?


「ぐっ……!」


 頭が痛い。

 考え過ぎだ。


 ドタドタと足音がする。騎士たちがすぐにここに来る。

 どうするか迷っている。そして、アイカたちにも同じことが言えた。


「ユウキさん……」


 絞り出したような声で、アイカが喋った。

 ルイちゃんも俺の名を呼ぶ。イズモもシノノメもだ。


 無理だ。

 殺せない。

 こいつらだけは。


 騎士が風通しのよくなった大広間の惨状を見て、絶句している。


爆発(エクスプロージョン)


 入口に爆発(エクスプロージョン)を入れ込んだ。

 ひと塊になっていた騎士が一瞬で肉塊になった。


 王城もそろそろ延焼が酷くなってきた。


「じゃあな。お前ら。今までありがとう」


 俺は崩れた壁から飛び出した。

 あいつらもどうにかして脱出するだろう。


 騎士団に囲まれる前に、ここを出る必要がある。


 全力で駆け抜けた。

 狙いは一つだった。


「王族、貴族は全員殺す!!」





 俺の生活は激変した。

 今までなーなーで生きていたが、目標も持つという事は重要なことだ。


「た、助けてくれ、頼――」


 黒剣で止めを刺す。

 これで全員。


 最後の王族の血縁関係者を殺した。


 俺の生活はだいたいこんな感じだった。


 情報を収集し、貴族関係者の自宅を襲撃する。

 全員を抹殺し、次の貴族へと。


 世界を転々とした。

 何年が経過したかもわからない。


 そんな生活をしているせいか、俺の悪名は全世界に轟いていた。

 最悪の勇者、落ちた勇者。王族殺し。


 色々な名前で呼ばれた。

 街を歩けば、そこらじゅうに俺の似顔絵が貼ってある。

 

 常にフードをかぶって、ことに当たる必要があった。

 食べ物を食うのにも苦労した。

 店に行っても売ってくれる訳が無い。


 石を投げられる方がましだ

 道行くだけで、殺し屋や騎士団が俺に襲い掛かってくる。


 住人にも俺の評判は悪かった。


 折角、不死の王を殺したというのに、そっちが歓迎されたことなどない。

 いつも人殺しとなじられ、何かを投げられる。


 その程度では死なないから、どうでもいいのだが。


 しかし心は死んでいく。


 殺した貴族を見た。

 

 もう何人も殺した。

 罪のない住人も殺した。

 何かした奴は殺した。

 俺にかかわった奴は全員殺した。


 もう、何も気力がわかない。


 何のためにこんな場所にいるのか。

 苦労して不死の王を殺して、それで復讐を果たせば、大罪人。


 全員殺した家を出た。

 外はもう真っ暗だった。


 この家でも何人もの奴に、俺の事を陥れるような発言をされた。

 そんな事を何度言われると、本当にそうではないのだろうかと疑うようになる。


 全員を殺してやりたいとは思うが、現実的に無理だった。

 いつも邪魔が入るし、これ以上俺の心が持たない。


 俺は全ての人に愛されず、罵られる運命にあった。


 ここを最後に選んだのも、あながち偶然ではないかもしれない。


 細胞新生には弱点がある。

 俺は騎士団や殺し屋から逃げているとき、息を止める事がある。

 そのあと、ちゃんと皆殺しにするのだから隠れる必要はないのだが。


 問題は、息を止めた時の感覚だ。


 苦しい。

 とても苦しいのだ。


 そんなことを数回繰り返したときに気付いた。

 不死の力は、本当の意味で不死ではない事を。


「もう疲れた……」


 断崖絶壁に建っているこの貴族の家を最後に選んだ。

 心残りはまだ残っているであろう貴族たち。


 俺一人では探し出すことはできない。


 だが、もう十分だった。


 この国の機能は完全に失われたのだから。

 王族、貴族をこれだけ殺して、機能するほどこの国は強くなかった。


 それにまだ迷宮がある。

 

 そこかしこの迷宮から魔物が氾濫し、近くの町を滅ぼしていてた。


 不死族を殺しても、まだ迷宮がある。


 人類の敵はまだ居るのだ。

 そして国を防衛するための機関は、俺が壊滅させた。


 これ以上ない復讐だ。


 その内、全員が死ぬ。


 大満足だった。


「もうやる事も無い……」


 断崖絶壁から真下の海を見る。

 真っ暗だ。

 吸い込まれるような黒が、俺を誘っている。


 あと一歩の所まで進むと、後ろから声が駆けられた。


「ユウキさん」


 まだ誰かいたのかと、剣を構えた。

 しかし剣を下ろすことになった。


「……お前らか。何でここが分かった」


 そこにはアイカたちが、少し成長した姿で立っていた。


「だって、ここが最後だし……」


 アイカが申し訳なさそうに、言葉を繰り出す。


「それもそうか」


 そう考えると、ここにいた奴は偽物だったのかもしれない。

 まぁいい。

 もう真偽を確認する気力も無い。


 シノノメが一歩前に出た。


「死ぬ気なんですか……」


 言葉は出さない。

 世話になったエストックと黒剣を外した。


 地面にそっと置き、別れを告げる。

 ルイちゃんとイズモは黙ったままだ。

 しかし表情は険しい。


「そんな顔すんなって。俺は満足してる」

「ユウキ様……! どうか考え直していただけませんか?」

「シノノメ……。すまない……」

「そんな……」


 頭を下げる。

 シノノメは口に手を当てて、涙を流していた。


「お別れなのね」


 ルイちゃんも涙していた。

 イズモは鼻をすすって、目元を隠している。


「細胞新生は弱い。死ぬことなんて容易い事だ」

「でも苦しいでしょ……?」


 アイカが俺の死に方に予想を付けていたようだ。


「それがこれだけ殺した俺の報いかもしれない」


 人を殺して最初は何も思わなかったわけじゃない。

 後悔すると確信しながら、復讐した。

 31人を犠牲にした奴らをどうしても許せなかった。


 この世界が憎くて、仕方なくて。

 でもどうしようもなくて。


 流れる涙を無視して、一人一人の顔を網膜に焼き付ける。


 アイカ。ルイーズ。イズモ。シノノメ。


「最後にあえて、良かった」


 それを遺言に、俺は一歩踏み出した。

twitterのアカウント作りました。

よろしくです。


http://twitter.com/tempester08

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで数日で読破しました。読ませる文章です。物語も終盤ですね。最後まで読みます。
[一言] 面白かったです。
[良い点] 最近楽しく読ませてもらいました〜 とても面白かったです〜 最後バットエンド系はやっぱり悲しいですね... ユウキには報われて欲しかった〜... [一言] 初めて、感想書いた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ